三時限目
三時間目:人物設定・後編 「全にして個。されど同一の個は存在せず」
いって〜〜。鶴じゃなかったら死んでるぞ。
「金属製ってのは厄介ね。まだ斬鉄はできないし……。で、あたしの格好は結局セーラー服?」
鶴は服装では萌えないから安心しろ(性格も変えたかった……)。でも何で刀を持ってるんだ?
「最初から持ってるじゃない」
あれってマジだったのか。危険なヤツ……
「でもさ、こうやってあたしの設定ができあがっていくと嬉しいよね」
そう言うものかもな。かわいい女子高生が片手に日本刀……面白いかも……
「でしょでしょ?」
でも、まだまだ甘いな。
「何ですって?」
コラ!鯉口を切るな!刀抜いてどうしようってんだ!
「これ以上変な事するなら……」
しないしない!絶対しない!天地神明に誓っていたしません!
「なによ!そんなにあたしに魅力が無いって言いたいの!!」
だったら一体どうしろってんだ!!
「ちょっとは未練がましそうにするとか、返事を言いごもるとか、いろいろあるでしょ!!」
刀突き付けられてどうしろってんだよ!?そんな無茶ばっかり言うな!!
「うるさ〜い!!」
だから刀を抜くなって!!
ぴんぽんぱんぽ〜ん(しばらくお待ち下さい)
「結局服を変えるんじゃない。ぶつぶつ……」
そこ、うるさいぞ。鶴だって刀で斬られて痛かったんだから、それぐらい我慢しろ。
「傷がついただけのくせに……でもセーターにスカート、サンダルは分かるけど、なんで箒とエプロン?」
その格好でおまえに足らない部分を教えてやろうというのだ。ありがたく思え。
「なによ、偉そうに。で、あたしに足らないのって何なのよ?」
それは……
「それは?」
「裏」設定だ!!
「やっぱり変な事するんだ!このスケベ!!」
違う!「裏」違いだ!!この場合はあまり書かれない設定って言う事だ!!
STEP3−1 裏設定とは? 上級者向け
裏設定とはさっき述べたように、「物語中であまり語られる事の無い設定」の事です。
舞台設定でも「世界の秘密」という感じで裏設定を付ける事ができますが、今回は人物でやってみます。
裏設定に関しては実習でやるから準備してくれ。
「分かったけど……なに?この台本」
今からおまえに「優しい奥さん」を演じてもらう。
「でも台本には「子供に朝の挨拶をする」としか書いてないじゃない。それだけでいいの?」
それだけのはずが無いだろう。今からおまえに一時的な裏設定を加えるから、それを使ってやってみるんだ。
「ふ〜ん……ま、やってみましょうか。ようやくアシスタントらしい仕事だもんね♪」
STEP3−2 裏設定ってこんな感じ・実演
例:スケット・「優しい奥さん」バージョン
設定その1:30過ぎだけど女性としての脂の乗った美人の奥さん。
日々の生活に不満は無いけど、旦那さんが淡白なせいか子供はまだいない。
そのため近所に住んでる遙くんを自分の子供のように可愛がっている。
「あ、おはよう遙くん。朝から元気がいいわね。ふふふ。さぁ、今日も頑張って行ってらっしゃい♪」
設定その2:まだ25歳の新妻。しかし、事故で夫と赤ん坊を同時に亡くしている。
小さな子供を見ると我が子の事を思い出すのか、笑顔の中に影が見える。
近所に住む遙くんを見かけるたびに胸が痛むけど、それ故にどこまでも優しくなれる。
「あ……遙くん、おはよう。元気なのはいいけど車には気をつけてね。それじゃ……」
「……ちょっと無理がない?」
あるな。こういう設定は慣れてないから。でもこれで少しは裏設定というものが分かってもらえると思う。
「優しい」という性格設定でも、そのキャラの過去の経験によって同じ場面でも台詞が変わってくる。
本来なら台詞の後に笑顔や動きの描写とかを書き加えてもうちょっと差が出るんだけど、面倒だからパス。
人の性格とは産まれてから今現在までのさまざまな経験によって形成されるものである以上、
キャラの性格の成り立ちや過去、又は目的、目標、夢、環境、思考パターン、等などの裏設定によって、
キャラの行動や台詞も微妙に変化する事になる。
この違いがキャラの性格や行動に深みを与えて、個性的なキャラとなっていく。
ある小説では人間の大元を「起源」と表現してあったけど、この言い方は鶴は好きだな。
「へぇ〜〜〜」
……なんだ、口をぽかんと開けて。おまえには恥じらいが無いのか。
「だって鶴が内容はともかく真面目っぽい事言ってるから……」
アシスタントのくせに鶴のことをなんだと思ってたんだ!?
「鳥」
シクシクシク………
「………ねぇ、一つ聞いていい?」
なんだ……これ以上ブルーになる事なら答えないぞ………
「何で裏設定を小説の中で言わないの?言っちゃえば面倒くさい描写なんかしなくてもいいんじゃないの?」
いい所に気付いたね、明智君。
「名前が違うって」
最初に書いたように裏設定は「あまり」語られない設定だ。逆に取れば少しは書いてもいいって事だ。
「そうなの?全部秘密にしとかなくていいの?」
いいと思うよ。書かなきゃまったく分からないもん。人物紹介なんかで先に書いちゃう作家さんもいるし。
細かく裏設定を知る事で感情移入しやすくなるのも確か。鶴も悪いとは思いません。
「だったら……」
でもその一方で想像する楽しみが減るのも確か。少数意見かもしれないけど。
鶴が書くとしたら設定その1なら子供がいないって事まで。設定その2なら夫と子供を亡くしたって事まで。
しかも物語を進める上で少しずつ明らかにしていきたいな。
もともと人の心の中は見る事じゃ分からない。
そこでその人の表情や仕草、言葉を視て、そして徐々に明らかになる裏設定とでその人の気持ちを理解する。
こうするとキャラの性格の底が見えないから読者を引き込む事ができる……と思う。
「あらら。最後はちょっと気弱ね」
だって駆け出し小説書きの鶴が偉そうにこんなの書く事自体おこがましいんだもん……
「身の程は知ってるわけね。で、つまりあたしには裏設定がまだ無いってわけね。じゃあ作って」
あるじゃないか。
「うそっ!もう作ってくれたの!?」
鶴の所有物。
「………殺っ!!」
だから冗談だって!!
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