おまけ
「なあなあ、千里ちゃん」
「何ですか?先輩のクラスメートの大介さん」
「いや〜〜、最近の千里ちゃんの天才ぶりがすごいとおもってさ〜〜。たくやちゃんに付き纏ってた弘二ちゃんが
女になったのも千里ちゃんの発明した薬のせいなんだろ。まさに天才科学者、将来はノーベル賞ものだね、こりゃ」
「ふふん、当然じゃないですか。先輩のクラスメートにしてはよく分かってますね。では特別にあの薬が男性の体内
においてどのように染色体を書きなおし、なおかつどのようにして短時間で不要な器官を消滅させ、新たな器官を
発生させるかを五時間ほどで簡潔に説明してあげましょう!」
「いや……そりゃ遠慮しとくけど……宇宙一の大天才の千里ちゃんにお願いがあるんだけどなぁ〜〜。千里ちゃんに
しかできないことなんだよ」
「ふふん!まかせてください!この天才・河原千里に不可能はありません!!」
「実は女になる薬、俺も欲しいんだけど……」
「四万八千円になります」
「………」
「大介がそんな事言ってきたの?」
「はい。まぁ、先輩のクラスメートということですから四万七千八百円にまけてあげましたけど。三日後に身体中
ボロボロになりながら持ってきましたよ」
まけてないまけてない。しかしボロボロになりながらって……
放課後、部活に来たあたしは千里から大介が今日ここにくることのあらましを聞いていた。
「でも五万円って高くない?」
「四万七千八百円です。天才の発明には多額の資金が必要なのですからこれぐらい当然ですし、それだけの価値も
あるんです。それにいかなる新技術も市場への導入期においては生産体制が整うまで単価が高いのは世の常です。
C○−Rなど今一体いくらだと思ってるんですか?加えて言えばモ○ッコで手術を受ければ数百万円ですよ?
それに比べれば四万七千八百円なんて安いもんでしょう」
「ま…まぁ……確かに……」
あたしは薄い胸を反り返らせて威張る千里に何も言い返すことができなかった。
「そう言えば先輩。工藤先輩はどうしたんですか?いつも相原先輩に擦り寄ってたじゃないですか」
「弘二だったら買えると見せかけて撒いてきたわ。もういいかげんにして欲しいんだけど……」
弘二が女になってから毎日毎日あたしの所にやって来てくっつくもんだから、明日香は学校では機嫌が悪いし、
舞子ちゃんがライバル心燃やすし、大変なんだから。
それと下駄箱に入ってるラブレターの数も倍増した。一時期は明日香が恋人ということが公認になって男からの
ラブレターは減ったんだけど、最近は明日香と舞子ちゃんと美由紀さんに加えて弘二の四人に手を出してると
思われて、今度は男女両方からラブレターがくるようになった。
男子からは「SEXフレンドになろう」「僕の童貞もらってください」という欲望丸出しで直接的なのが多くて、
ひどいのは……とても口にできない。実際引っ張り込まれて輪姦されそうになって……はぁ……
女子のほうはもっとすごい。「お姉様になってください」「「五号でも六号でもかまいません」なんてマシな方。
「私を先輩の奴隷の一人に…」とか「先輩のおマ○コなめさせて…」とか赤面するほど過激な内容が多いのよ。
すごいのは写真入りで「私の処女膜見えますか?」とか「私のタチション見てください」とか「先輩のことを
思って…」とか……鼻血出そう……
特に女子はトイレとかにも入ってくるもんだから、あたしが教員用のトイレにこそこそ入ってるところに
ついてきて「おしっこ飲ませてください」……口付けで直接飲まれましたし、口移しで飲まされましたし、
休み時間内でイかされて「先輩のおしっこ美味しかったです。今度は私のを飲んでくださいね」……ええ、
もう何とでも言って。
「そんなにエッチそうに見えるかな……あたしって……」
「まぁ、見えるかどうかはともかく先輩がエッチなのは確かですね。私もここで押し倒されて処女をもらって
もらいましたし」
「なっ!あれは…その……はい、もらいました…もらいましたよ……しくしくしく……」
あたし、この事で一生千里に頭が上がらないんだろうなぁ……
「見苦しく言い逃れしなかった事は誉めてあげますよ」
そう言ってクスリと千里が笑った。
いつもの威張って偉そうな笑いとは違う、ちょっとした微笑み。
……いつもはひどい後輩だけど、かわいいところもあるんだから。
ガラッ
「や、お待たせ。あれ、たくやちゃん。何でここにいるの?」
いきなりやってきてそれかい……
ノックもなしにいきなり科学室に入ってきた大介は、いると思わなかったんだろうか、千里の顔を眺めていた
あたしに向かって疑問の声を掛ける。
「あたしは科学部の部長よ。いて当然でしょうが。それよりもどうしてここにいるか聞きたいのはあたしの方よ。
女になる薬なんか千里に頼んで一体どうするつもりよ?」
訝しげな目で大介を見つめる。そんなあたしの視線を受けてもこの男は堂々と――
「決まってるだろ。女になってエッチしまくるんだよ」
……この男は……何考えてるんだか……
「最近のたくやちゃんを見てると、もうウハウハのゲハゲハで入れ食い状態じゃないか。だから俺も」
「やめときなさい。そんなんじゃないんだから。絶対に後悔するわよ」
「いいって。それに男に戻る薬ももうすぐできるんだろ?だったらノープロブレム。それで千里ちゃん、薬の方は……」
「完成してますよ。これです」
う……相変わらず変な色。今度は真っ青か……あたしも何度か試作品を飲んでるけど、この色だけは何とか
ならないかなぁ……
「おおっ!これか!これで俺の夢がかなうのか!」
大介は千里が出したどう見てもまずそうな赤色の液体を迷うことなく一気飲みした!
「それじゃあ隣の準備室借りるぜ。出てきたときは美しい俺をイの一番に見せるぞ」
そう言うと大介は紙袋片手にスキップしながら準備室に入っていった。
「あ…あれを躊躇無く飲むか……」
「その点は私も同感ですね。色だけはどうにもならなかったんですが……オレンジ味が効を奏したようですね」
うわ……あの真っ青の液体がオレンジ味?少し胸焼けしそう……
「うう……で、千里。薬の効果は何分ぐらいで出てくるの?」
「今回は身体に負担を掛けないように時間を掛けて効果が現れるように設定しましたから一時間ほどです」
「じゃあその間なにしよう……暇だな」
「だったらちょうどいい機会ですから先輩の身体のデータを取らせてください。早速服を脱いで」
「い…いきなり何言ってるのよ。別に裸にならなくたって……それに隣には大介がいるのよ。見られるじゃない」
「その点だったらご心配なく。ポチッと」
千里が何やら机の下に隠されたスイッチを押すと準備室側と廊下側の扉で音を立てて鍵がかかり、続いて天井から
下りてきたシャッターで窓と扉がふさがれた。
「ふっふっふっ…こんなこともあろうかと準備していた甲斐がありました。これでこの科学室は完全に閉鎖されました。
シャッターにはチョバムプレートを使ってますから爆弾でもこの中には被害が及びません。加えて音はもちろん、
いかなる電波も遮断されます。さぁ、これで何の心配も無く裸になってくれますね」
「ち…千里……あんた一体何部屋を改造してるのよ」
「脱いでくれますね?」
千里はあたしの言うことに耳を傾けず、あたしに服を脱ぐように言いつづける。
うう……本物のマッドサイエンティストだぁ……怖いよう……
「分かったわよ…脱げばいいんでしょ、脱げば……」
あたしは観念して、千里がじっと見詰める前でブレザーから順に脱ぎ始めた……
一時間経過(なにがあったかはご想像にお任せします)
ガラガラガラ……
音を立ててシャッターが上がると、窓からまぶしいほどの太陽の光が一時間ぶりに科学室に差し込んできた。
「はぁ……やっぱり先輩はエッチですね」
千里がいつものようにきちんと制服に白衣を着た格好であたしに文句を言う。
「な…何言ってるのよ!千里があんな…ゴニョゴニョ…をあたしの中に入れたからじゃない!それに千里なんて一回
だけじゃない!あたし、何回イかされたと……」
少し乱れた衣服を直しながら、あたしは顔を赤くしながら千里の言葉に反論しようとした。
「いいんですか?大きな声を出すと隣に聞こえるかもしれませんよ」
「う…この……」
その余裕の態度はあたしに主導権を握られたお返しか?じゃあ、あたしのこのやり場のない怒りはどこにぶつければ
いいんだ?
カチャリ……
あたしが握ったこぶしをプルプル震わせていると、準備室と科学室をつなぐ扉がゆっくりと開き始めた。
……なに、この嫌なオーラは?
こちらに向かって開き出した扉の隙間からのぞく準備室の室内は真っ暗で、漏れ出す空気が足元へと流れていくのが
見えそうなぐらいに不気味だった。
「ふっふっふっふっ……」
不気味な室内から無気味な声が聞こえる……
「だ……大介?」
「ふっふっふっ……もうこの世には大介なるものはいない……」
な…何なの一体?
「じゃあ、あんた一体誰よ?」
「私か?私はこの世に舞い降りた美の化身……」
ババン!!
「ビューチホー大子様よ〜〜!!」
謎の人物が扉を一気に開け、科学室に勢いよく入ってくる!
「………」
「………」
あたしも千里も目の前の人物の姿を見て何も反応できなくなった。
「おおっ!私の美しさに見惚れているのね。見て!もっと私を見て!!」
「大介……あんた何やってんの?」
「違うわ!私は美の化身……」
「それはもういいって。どこからどう見ても大介だし」
「ちぇっ、もうちょっとびっくりするかな〜〜とか思ってたのに」
準備室から飛び出してきたのは紛れもなく大介だった。しかも服まで女子の制服に着替えて………
「どうだ?美人でナイスボディーになっただろう?」
「………うっぷ」
「おい待て。たくやちゃん、なんだよそれ。まさか自分より美しくなったから嫉妬?いや〜〜ね〜〜」
「うっぷ……本気で吐きそう……千里一体これってどう言うことよ。大介ぜんぜん変わってないじゃない」
「へ?」
「う〜〜ん、工藤先輩の時も思いましたが、どうやらクスリの効果には個人差があるようですね」
「個人差って……おい」
「相原先輩のように、うらやましい限りに胸が大きくなる人もいれば、今回のように性別だけ変わる事もあるようです」
「ちょっと待って……なんか嫌〜な予感がするんだけど……俺って……どうなったの?」
「変化無し。顔も元のまんまだし胸も膨らんでない。声だって男の時とそう変わらないし。いつもの大介が女装した
みたいで不気味。こっちこないで」
気分が悪いから手で口を押さえて、もう片方の手で大介に向かってシッシッと手を振る。
「じゃ…じゃあ、俺の入れ食いウハウハ計画は?」
「言ったでしょ、「後悔する」って」
「まぁ、貴重な資金とデータを提供してもらったということで」
あたしと千里の冷淡な声が科学室に響く。
「千里、今日はもう帰ろ。嫌なもの見ちゃった」
「そうですね。今回取れた大介先輩のデータは明日検証すればいいですし。付き合ってもらったお礼に何か奢りますよ。
臨時収入がありましたから」
「あれ、珍しいじゃない。じゃあお言葉に甘えてクリーム白玉ぜんざい」
固まった大介は放っておいて、あたし達は帰る準備をしてさっさと廊下に出るとピシャッと扉を閉めた。
「嘘だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
下駄箱に向かうあたし達の背後から馬鹿の叫び声が聞こえてきたけど、あたし達にはもう関係の無いことだった。
「よっ、たくやちゃん」
「あれ?大介どうしたの?男に戻ってるじゃない」
次の日教室で会った大介はいつもと変わらずスケベそうな顔をしていた。
「なに言ってるんだよ。昨日女になったじゃんか。知ってるだろ?」
「それはそうだけど……ほんとに女なの?」
目の前で男子の制服を着ている大介は、いくら目を細めてみても、どこからどう見てもいつもの大介にしか見えない。
「いや〜〜、昨日の夜は一番中オナニーしててさ。気持ちいいもんだな、女のオナニーって」
「そう言うことを大声で言うか、この馬鹿野郎は」
「悪い悪い。それじゃあまた後でな」
そう言うと大介は自分の席に戻っていった。
結局…あたしと違って、大介は男でも女でも大介のまんまか……
さて、朝のホームルームまであと十分。
あたしも……
「あ〜〜、先輩、ここにいたんですか♪」
もう一人の変わらないやつから逃げるか!
あたしは弘二が顔を覗かせた扉とは逆のほうに走り出した!
<完>