第一話


 揺れる篝火の中、唄うような声が響く。どことは知れぬ洞窟。広間のように開けたその中心には地底湖のように水を湛えている、しかしそれは緩く波打ってる事と漂う磯の香りから、外部に通じる海水湖と知れる。
 薄闇の中、波打つ水面を囲む男達。田舎の中高年風から今時の学生風まで背格好はまちまちだが、いずれも唄う様な声を上げながら"湖"の中心に岬のように突き出した先を見つめている。
 視線の先。岬の突端には人の手によるものと思われる石柱。そしてその柱には

 ――ん、んん……

 歌声の中、レイチェル・ウィリアムスは朦朧とした頭を振り、目を覚ました。

わたし……あれ、なんで……。

 柱に縛り付けられた若い女性。項垂れた顔に掛かる束ねた金髪と日に焼けた肌の色合いから彼女が外国人であることが知れる。半袖のパーカーとショートパンツからすらりと伸びた手足がそれぞれ柱の後ろに回された縄に縛り付けられている。
「……えっ!?」
 地面に跪いた姿勢のまま手足を拘束されている事に気付く。グループに分かれて、この漁村を回って、旅館に戻ってそれから……。闇に目が慣れると自分を遠巻きに見つめる人々がうっすらと見えてくる。
 この人たちが私をここに……?石の柱に?誰なの?目的は……?混乱する彼女に男の一人が語り掛ける。

「気が付いたかい?レイチェル・ウィリアムス君」
「教……授……?」
 篝火に照らされた聞き慣れた声の主は、間違いなく彼女が大学で師事し、ゼミ旅行としてこの地に同行した迫水教授だった。

「教授、どうしてっ!どういうことなんですかっ!?それよりこれを解いてくださいっ!」
 流暢な日本語で捲くし立てる彼女を意に介さず、教授と呼ばれた男は問い掛ける。
「ウィリアムス君。今回のゼミ旅行の目的は学生間の親睦を深める事ともう一つ、何だったかね?」
 場違いかつ唐突な質問。
「な……何を……」
 答に窮したレイチェルに、先を続ける教授。
「水産資源の保護の観点からこの漁村を一例として漁業が各地の風土に与えた影響を調査し、そこから持続可能な海洋開発の可能性を探る。そうではなかったかな」
「……」
「これはその一環だよ。この地の奇祭さ。多少強引な形になってしまったが我々一同、君も含め参加させてもらう事にした」
「なっ……!それってどういう――」
「安心したまえ、こんな形になったが、怪我の心配はないだろう。おぉ、そろそろ始まるぞ」
「そういう問題じゃっ……え……」

 男達の読経とも祝詞ともつかぬ声が一層激しさを増すと岬の周囲の海面がにわかに泡立ち始め
「な、何……?」
 おおおおおおぉ
 うねる声と共に海面から飛び出したそれがレイチェルに襲い掛かった。

「きゃああああああぁ――っ!!」

 それは水中から飛び出し、彼女の四肢を絡め取る。紐状の、ぬめぬめとした感触は蛇を思わせ、何かは分らなくとも不快な感触が身体をすくませる。

「や、やだっ……何?なんなのっ!?」
「神さ」

 教授は彼女に絡みついたそれを満足そうに眺めながら続ける。

「外国人の君には特に理解しかねるだろうが、我が国の現在の宗教体系のどこにも組み入れられる事のない異端がこの地には存在する。そういう事だよ。元々は航海や漁の安全を祈願する――まぁその辺は後々帰ってからでいいだろう」

 気がつけばとうに唄を止めた男達――地元の漁師だろうか――が教授の周りに立ち、絡みつくそれに視線を注いでいる。

 海面から飛び出した赤黒い触手は縛られたレイチェルの四肢を絡めとり、末端から根元に向けて這い登って来る。
 表面はぬるぬるとした粘液のようなものに覆われているにもかかわらず、それは滑ることなく手足にしっかりと巻き付いている。

「いや、あぁ……」

 手首から前腕へ、足首からふくらはぎへと螺旋を描きながら這い登る触手、そのおぞましさに身体が震える。

「……ひっ!?」

 ふくらはぎから更に進んだ触手が跪いた腿の裏側に触れた。反射的に身体を浮かせて伸び上がってしまい、パーカーの裾からちらりと白い腹部が覗く。
 暴れだそうとする彼女を戒めるように触手が手足を締め付ける。始めは全体を強く、その後は部分ごとに変化を付けて揉む様に。ぬるりと這われるだけだった感触に変化を付けられレイチェルは狼狽する。
 今は気持ち悪いだけだけど、これからどうなるんだろ……とにかく耐えなきゃ……
 整った顔をひそめて歯を噛みしめた。

「ひゃあっ!」

 肘や膝までを触手に覆われ、身体を強張らせていたレイチェルが再び身を震わせる。死角から忍び寄った新手が首筋を撫で上げたのだ。更に跳ね上がった顎を撫で、パーカの襟元に忍び込む。手足に絡んだ触手に更に倍する新手が海中から顔を出し、獲物を求めて集まって来たのだ。それらが徐々に囲う輪を狭め……
 ショートパンツ越しに尻を撫で、剥き出しの太腿を撫で下ろし、知らず知らずの内に握り締めていた拳の甲に触れ、耳朶をなぞり、その度にかみ締めた歯の隙間から声が漏れる。

「く、ん、んんっ……」

 柱に縛り付けられた身体を揺らして自分を弄ぶ手に耐えるレイチェル、しかし気丈に観衆を見据えていた瞳は伏せられ、表情にも徐々に陰りが射す。

「ずいぶんねちっこい神様ですね」
「あれは獲物の反応を見てるのだろう」
「左様、云わば味見と言ったところだな」
 教授の言を受け、地元の者と思しき年かさの男が頷く。
「始まるぞ」

 年かさの男の発言に沿ってか、薄手のパーカーに粘液と海水を染み込ませながら胸の膨らみを突付いていた触手がぞろりと這い上がり胸元へと向かう。
「あっ……」

 触手は細まった先端で器用にジッパーの引き手を捉えると、ゆっくりと引き下ろし始めた。
 ジ、ジジ……

「ほぅ……」
「おおっ」

 ジリジリとジッパーが下がるにしたがってパーカーの胸元が開き、ほんのりと日に焼けた肌が露になってゆく。

「や……あっ」

 豊かな双丘が形作る谷間が現れた時点で他方にも動きが起こった。
腰に伸びた触手がショートバンツに手を掛けたのだ。ボタン止めのフロントにややてこずったのか、焦れたようにボタン同士の隙間に先端をねじ込み強引に割り開くと弾ける様な音と共にボタンが外れ、下に身に付けていた水着――濃紺のビキニのボトム――が衆目に晒される。
 下肢に巻き付いていた触手の先端がショートパンツを膝まで引き下ろして完全に露になったボトムは、濃紺の布地を縁取る白いラインが両サイドに結ばれた白い紐に続いているシンプルなもので、それがレイチェルの健康的な適度に焼けた肌と引き締まった肢体を引き立てていた。

「なんだぁ水着着てたのか」
 身勝手な落胆。

「えらく小さいのう」
「れ、レイチェル……」
 好奇の視線。

 大胆な水着のカッティングを恥じるように閉じ合わされたレイチェルの太腿を、触手同様、いやそれ以上に無遠慮に這い回る無数の視線。その視線から逃れようと俯いた顔を顎を捉えた触手が強引に引き起こすと、幻惑するように揺れる篝火に照らされた無数の男達が目に入る。現実味の薄い光景、だが肌に触れる触手とそれを凝視する視線は間違いなく現実だ。

 ぬろ……っ

「ひゃあっ!」

 露になったボトムの上端、腰の裏あたりを撫でられて思わず背筋を伸ばしてしまい、図らずも胸を突き出す格好になってしまう。と、同時に更にジッパーが引き下ろされ、ビキニに包まれた双乳が勢いよく飛び出した。
 そのまま絡んだ触手に腕を後に引かれるようにして胸をそらした姿勢を強要され、衆目に向かって双乳を見せ付けるように突き出させられる。

「おおぉ……」

 ジッパーの中から飛び出して重たげに弾む胸が男たちをどよめかせる。のみならず、その意に反して取らされている姿勢から逃れようとレイチェルが身をよじるたびに、触れたところで到底手には収まりきらないサイズの柔肉が左右にたわみ、目を捕らえて放さない。
 その巨乳を包むのはボトム同様濃紺のビキニトップ。向かって左、右胸にはユニオンジャックが染め抜かれ、左胸には五つの白い星――南十字星――が輝いている。彼女の祖国、オーストラリアの国旗を三角に切り取りブラに仕立てた様なデザインだった。

「こりゃまた大胆な……」
「外人さんの考えるこたぁわからんのう」

 触手に四肢を絡め取られ、衆人環視の中で服を剥ぎ取られ羞恥に項垂れた様子は、とても愛着ある郷土を誇る姿には見えない、が、ずっしりとした量感のある乳房を触手が掬い上げるように揺らし、いやがおうにも衆目を国旗に集めてしまう。
 左のユニオンジャックが震え、右の南十字星が揺れる。たぷんたぷんと波打ちながら薄布一枚下の柔肉が弾むと、それに追従しきれない布が僅かにずれて日に焼けていない彼女本来の白い肌が覗く。

「うはぁ、やっぱレイチェルでけぇ」

 すっかり揺れる胸に轢き付けられた彼女の同期であろう学生が感嘆する。

「如何ですかな?」
「うむ、これならば神も御満足頂けるであろう」
 教授の耳打ちに年かさの男が頷く。

「や、だ……、見ないでぇ……」

 日ごろの快活さを知る者には意外なほどのしおらしい懇願。だが岬の先端に捧げられた彼女を救い出さんとする者はいない。
 パーカーとショートパンツの軽装を剥ぎ取り水着姿を晒しただけに留まらず、触手達はさらなる行動に出た。手足を締め上げた触手が収縮し揉むように律動する。さらに何本かの触手が伸び、乳房を、腿を、尻を、背を、腹を、肩から鎖骨を、首筋をといたるところを撫でる、特に股のビキニラインを中心に水着のラインをしつこくなぞられ、改めて自分が大胆な姿である事を意識させられる。

「くっ……ふうっ……」

 気丈に声を掻痒感や嫌悪感を押さえ込み、声を殺して耐えるのみならず、青く澄んだ瞳で男達を見据える。

「放してっこんなこと……こんなの嫌ぁっ!あぁっ……くぅっ」


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