「crazy rockin' rope」
アーリー・アメリカン調の装飾が施され、カントリー・ミュージックが流れる店内。まるで西部劇のセットのような内装が施された酒場で鷲沢葵は三杯目のミントジュレップのグラスを傾けていた。気晴らしと、幾ばくかの刺激を求めて通う様になったこの店も、所詮内装に凝っただけの安酒場に過ぎない。ふと横に目をやると、店内に設えられたステージでは、この店の雰囲気には似つかわしくないタキシードに身を包んだマジシャンが手品を披露している。壇上のそれは手際こそ良いものの、この店の客を引き付けるには物足りないのか、ステージ前のテーブルの酔客たちはショーを見るともなしに思い思いに談笑を続けている。レザーに身を包んだバイカーや髪を撫で付けたロカビリー風の男達にはシルクハットから何が出ようとハンカチが何に変わろうとどうでもいい事なのだろう。店内の喧騒の中、壇上の奇術師は口上を述べる。なんでも助手を店内の客から募る、と、そのような内容を告げると踵を返し、どこからともなく取り出した薔薇の花を背中越しに放り投げた。
片手にグラス、そしてもう片手には薔薇。奇術師が投げた薔薇は、カウンターの葵の元に舞い落ちた。退屈しのぎにはなるだろう、そう思って花を受け止めた彼女は奇術師の招きに応じ、ステージに上がる。マジックに興味がなかった客も異変に気付いたのかステージに目を向け始める。
鷲沢葵。壇上の奇術師に促されてそう名を名乗り、ステージから一礼すると、退屈していた酔客が沸きあがった。サングラス越しに彼女の姿を捉えた男が思わず口笛を吹き鳴らす。彼女のロングヘアに切れ長の目が印象的な怜悧な美貌に薄手のニットを形よく押し上げる豊かなふくらみ、スカートの裾から延びるストッキングに包まれた脚は退屈なマジックショーとは比べ物にならない程に男達の興味を引き付けた。
「それでは葵さん。このマジックショーの助手を務めるに相応しい格好にお着替え頂きたいのですが、宜しいですか?」
彼女は突然の申し出に訝しがりながらも、それを表に出さずに尋ねる。
「ええ、それは構わないけど……衣装は?店の奥で着替えるの?」
同意を得た奇術師は大仰にうなずくと、
「ご心配には及びません。葵さん、それは――」
どこからともなく大きな布を取り出し、彼女を覆い隠した。
「――今この場にて」
彼女と、そして観客が驚きに静まり返る中、1.2.3.とお決まりのカウントと共に布が勢いよく取り払われると、そこには一瞬の早業で着替えを終えた鷲沢葵が立っていた。
デニムのベストに白いシャツ、ただ、身体にぴったりとフィットしたそれは胸元が大胆に開き、丈も臍が見え隠れするぐらいに短い。露になった腹部の下、ウェストを締め付ける太いベルトで止められているのは同じくデニム製の裾にフリンジをあしらったタイトなミニスカート。そこから延びる脚はストッキングを取り払われて刺繍をあしらった豪奢なウェスタンブーツへと続いている。それに加えて頭にはテンガロンハットを頂いたその姿は、店の内装に相応しいカウガールそのものだった。
着替えた本人すら気付かない電光石火の早業。
「如何ですか?お気に召しましたでしょうか?」
そう尋ねる奇術師に動揺を押し隠して辛うじて頷く葵。それを見て取った彼は改めて彼女を紹介し、ショーの再開を高らかに宣言した。
「それでは葵さん、こちらへ」
促されるままマジシャンの立つ中央へと歩を進める。それだけでもスカート裾のフリンジが揺れ、素脚を衆目に晒している事を意識してしまう。生来の気の強さでそれを頭から振り払うと助手の仕事へと意識を切り替えた。
ショーを再開したマジシャンはタキシードの袖口からロープを引き出し、その先端を葵に手渡した。今までと変わらない手品、だが段違いに華を増したステージを酔客が見守る。
奇術師は左の袖からでたロープを右手で持ち、それを助手の葵に引かせる。彼女がロープを手繰る度に奇術師の右手を通った部分に数センチ置きに結び目が作り出される。結ぶ動作などなくとも次々と送り出される結び目付きのロープに内心舌を巻きながらもロープを手繰り続けると、やがて終端が袖から滑り出た。両腕を広げ、そのロープを差し上げると観客が歓声と拍手でそれを讃える。
両手を差し上げたことで除いた腹部を這う視線。それを受け流しつつ床に垂れたロープを手繰り寄せ、マジシャンに手渡すと、彼はそれを確かめ、満足そうに頷いた。
「さて、葵さん。乗馬の経験はございますか?」
唐突な質問。観客も同様に意図を図りかねて困惑する。
「……ないわ」
否定。だが奇術師は張り付いたような笑みを崩す事無く続ける。
「そうですか、でも大丈夫。葵さんならきっと乗りこなせますよ」
何を、と問うまもなく、奇術師の持つロープが突如として飛び出し、蛇のような素早さで葵の脚の間を走り抜けた。
「きゃっ!」
思わず声を挙げ、股を閉じ合わせようとするより早く床から跳ね上がり
「えっ……あっ」
ロープは彼女の脚の間で一本の棒のように延びたまま宙に浮いていた。
「や、やだっ……なんなのこれっ!?」
棒状に浮き上がったロープの高さは葵のちょうど股下。フリンジ付きのスカートの裾を押し上げられて今にも彼女の――これだけはショー以前から身に着けていた――下着が覗けそうだ。少しでも腰を浮かせ、縄から逃れようと身じろぐ度に尻に張り付いた観客の視線が追う。この短いスカートが捲れ、下着を晒すことになるかもしれないが仕方ない、と意を決し、ロープを跨いで逃れようとしたその時。
奇術師が葵の機先を制すように宙に浮いたロープの先端をポン、と叩くとそれは動き始めた。そのままの体制から垂直に持ち上がり彼女の脚が宙に浮く。
「あっ……ちょっと待っ…・・・」
そして先端が蛇の鎌首の如く、いや、馬の頭の如く持ち上がり、いななく様にその身体を後に傾ける。思わずロープを両の手で掴み、身体を支えるだけが精一杯だ。
「待ってっ!降りるっ降りるからっ」
戸惑う乗り手を意に介す事無く、馬は走り始めた。
カウガール姿の葵を乗せ、酔客の喝采を浴びてステージ狭しと駆け巡る。その背にしがみついたまま彼女は揺られていた。
「おっと忘れていました」
彼は慌てた様子もなくどこからともなく短いロープを二本取り出すと、目の前を通り過ぎようとする彼女に投げ渡す。
「えっ……なっ何っ?」
二本はそれぞれ彼女の手元と腰の前で"馬"に巻き付き
「や、やだっ!」
"馬"の首を通して両端がそれぞれ両手首に絡みついた。言わば手錠で馬上に拘束されるような姿勢。そしてもう一本は"馬"の背から両脇に垂れ下がり、ブーツを履いた爪先に巻き付いた。
「そう、手綱と鐙(あぶみ)です」
馬上への拘束具同然とはいえ、手綱と鐙を得て、なんとか身体を支えることが出来るようになった葵。彼女は奇術師への恨み言は置いておいて、今はこの風変わりな乗馬に専念しようと心に決めた。しかし鐙に脚を突っ張って腰を浮かせているから良いようなものの、ロープ一本の上に腰を下ろすわけにもいかない。どうせなら鞍も用意してくれればいいのに……。
「痛っ!」
そう思った矢先、大きく跳ねた着地の衝撃で"馬"の背が揺れ、ロープが当たる。固くざらついた繊維が合陰部を擦ると思わず声が漏れる。下着越しとはいえ強烈な刺激から逃れようと浮かせた腰を追うように"馬"の背が跳ね上がった。
「んっ……」
数センチ置きに結び目が作られた縄が股を走りぬける刺激にたまらず背筋をのけぞらせる葵。
「やっ……当たってっ……あぁっ」
逃れようとする馬上の騎手を、手綱と鐙が逆にコントロールし、背の上に押し留める。縄がショーツの薄布越しに陰部に喰い込み、結び目が擦り付けられる。
「あ……はぁっ……」
敏感な柔肉を擦られる度、快楽の波が広がり、身体から力を奪っていく。馬上でバランスを崩し、縄に擦られる度に結び目のコブがヤスリのように集中力を削いで行く。
「ふぁっ……やっ……あはぁっ……」
息が乱れ、身体が揺れる。股にロープを挟み込んだ尻がデニム地の下でくねる。酒に酔っていても観衆の男たちは乗馬運動によるそれとは異なる身体の変化を見逃さない。目敏く卑猥な野次を飛ばし、馬上の葵を揶揄すると、ますます彼女自身が置かれた今の状況を意識させられてしまう。
激しい動きと羞恥に汗ばんだ肌がシャツをを張り付かせ、豊かな双丘を浮かび上がらせる。馬が駆けるのに合わせて胸肉が揺れ、シャツの胸元から除く谷間が形を変えていく。
露な手足はしっとりと濡れ、ステージの照明を浴びて照り輝いて、彼女のスタイルを際立たせる。
白い肌を紅潮させ、汗ばんだ項に後れ毛を張り付かせ、涼やかな目を潤ませて形の良い唇から喘ぎを漏らすその表情は舞台に上がったときの取り澄ました顔とは遥かに異なっていた。
「ああんっ!……あんっ……ああぁんっ」
"馬"の走りに翻弄され、最早駆け足のリズムに合わせて声が漏れるのを抑え切れない。縄に押し付けられて陰裂に喰い込んだ下着は、今や淫蜜にぬめり、さらにあふれ出した蜜が縄にまで染み込みつつある。
不可視の蹄がステージの床を蹴る度、デニムのミニスカートの中から湿った音がする。場内の音楽と喧騒に紛れているもののやがては気付かれてしまう、そんな不安を抱いたその瞬間、背筋にぞくりと震えが走った。
ウェスタンブーツを履いた足を踏ん張りきれず、腰が砕けてへたり込んだ葵。馬がジャンプで背の上の彼女を再び跳ね上げると、一際甘い声が漏れる。そのまま加速を付けてステージ中央に走りこむと、立ち上がらんばかりに両前足を振り上げた。
ステージに立つよりもさらに高い視点、そこから彼女を見る観客達。今まで見えなかった顔。異性から好奇の視線と、同姓からの憐れむような、蔑むような視線。
一瞬の後、宙に浮いた身体を手綱に引き戻され、馬の背を滑り降りる。
「あっ!!……あっあっあぁっ!……ああああああ――ッ!!」
十分に濡れ、縄に馴染んだ淫裂をいくつものコブに次々と擦られて葵は絶頂に達した。
<完>