第一話
私は薄暗い部屋の中、一人床に座っています。
それだけではそう珍しくない事かもしれませんが、今の私の姿はまともなモノではあり
ません。着ているものは純白のビスチェとショーツだけ、そして両手は後ろ手で縛られて
いるのです。
こんな恥ずかしい姿でこの部屋に放置されてから、かなりの時間が経ったように思えま
す。しかし不安と緊張で満たされた今の私の感覚では、それが正しいとも言い切れません。
そんな一秒が一分にも思えるほどに時間の密度が増した部屋の中、私は無意味に暴れた
りせず、ただその時がくるのを待ち続けました。
そして数分後――とは言っても、もっと長いかもしれないし短いかもしれません――、
部屋に一つだけある扉を開け、彼が部屋の中に入ってきました。
「ふむ、お前が魔女だという女か」
彼は私を一瞥すると、すぐにそのような言葉を投げかけてきました。その言い方は断言
的で、私の言い分など聞いてくれそうにありません。
ですがこのまま黙っていても仕方ありません。私は無駄だと分かりつつ、それでも必死
に弁論しました。
「そっ、そんな……これは何かの間違いです。私、魔女なんかじゃ……」
「黙れ、ソレを調べるのが俺の仕事だ」
「うッ……」
彼の物言いは静かなものでしたが、ソレが返って不気味さを演出します。
すっかり気圧されてしまった私は、一歩一歩ゆっくりと近づいてくる彼から目をそらす
ように俯きますが、目の前まで来た彼にアゴを持ち上げられ、強制的に視線を合わされま
した。
「ほう、なかなか可愛らしい顔をしている。悪魔が好みそうな顔立ちだ」
私の顔をジロジロと観察した彼は、ニヤリと笑いながらそう告げてきます。そしてその
ままもう片方の手を伸ばし、私の身体を触ろうとしてきたのです。
「なっ!? や、やめてください!!」
突然の行為に驚いた私は、身体をひねって彼の手から逃げました。ですが、彼はそんな
行為は予想できたと言わんばかりの冷静さで、とんでもない事を言ってきました。
「ほう、なら自分が魔女だと認めるのか?」
「なっ、なんでそうなるんですか!?」
「俺は今、お前の身体につけられている悪魔との契約の印を探してるんだ。それを拒否す
るという事は、自分の身体に印があると認めるという事だ。違うか?」
「そんな……」
彼の言っている事は暴論にしか聞こえませんが、元より私に拒否権は無いのです。がっ
くりとうなだれるように力を抜いた私に、彼は満足そうに笑いながら再び手を伸ばしてき
ます。
「ふふ。そうだ、それでいい。なぁに、安心するがいい。いきなり乳房や性器を調べたり
はせん。まずは下着から露出した部位からだ。嬉しいだろう?」
「そんな事あり……んぅっ!」
勝手な言い草に反論しようとしましたが、言葉が途中で切れてしまいます。
理由は簡単。自分でも認めたくありませんが、彼に触られて感じてしまったからです。
しかも触られた部位は、普段は性感帯でも何でもない肩です。そこを指先で軽く撫でられ
ただけで、あんな嬌声をあげてしまったのです。
そんなはしたない反応をしてしまった私は、彼の視線から逃げるように顔をそむけます。
ですがそれも叶いません。彼は再び私の顔を強制的に自分の方に向け、好色そうな笑みを
浮かべながら話しかけてきます。
「どうした、まさか肩を触れられただけで感じてしまったのか? くくく、さすがは魔女。
淫乱な肉体な事だ」
「ち、違います! 今のは……くすぐったかっただけです……」
私を辱める彼の言葉を必死に否定しますが、自分でも説得力は感じられません。先ほど
私があげてしまった声は、百人が聞けば百人が感じて出した声だと判断するでしょう。
そしてその事は、他ならぬ声を出してしまった私が一番理解しているのです。
ですから声はだんだんと小さくなり、最後の方など自分に言い聞かせるような小さな声
となってしまいました。それに今私が浮かべているであろう羞恥の表情を合わせれば、さ
っきの私の言葉は、自分が感じてしまった事を自白してしまったようなものです。
ですが、その事を後悔する暇さえありません。彼の指の動きが再開し、私の全身をまさ
ぐり始めたのです。
「やっやぁ! そ、そんな……はぅ、あくぅん!!」
「どうした、そんなに声を出して。せっかく肩では無い場所を触れているのに。それとも
ここもくすぐったいのか?」
「そ、それは……ああぁあ!!」
私をからかっているのでしょう、彼は私の言い訳を真に受けたような事を言いながら指
を動かしてきます。その事を惨めに思いつつも、私は何も言い返せません。彼の愛撫に感
じてしまい、それどころではないからです。
しかも触られているのは、おへそや二の腕、ふくらはぎといった、普段であればここま
で反応しないようなところばかりです。それなのに私の身体は、まるでこの異様な状況に
興奮してしまったかのように敏感な反応を返してしまいます。
「印は……見つからんな。しかし、もう少し身体の動きを抑えられないのか? 見づらく
て仕方がない」
「そ、そんな……はぁん、や……ダメェ……ぅんっ」
口からは嬌声が絶えず溢れ、身体は激しくくねらせてしまっています。それは一見快楽
に悶えつつも、彼の指から逃げようとしているように写るでしょう。ですが実際は、より
直接的な性感帯を触ってもらえるよう、身体を動かしてしまっているのです。
いくら感じているとはいっても、やはり本当の性感帯ではありません。どうしても太股
や胸、それにアソコが疼いてきてしまいます。既に乳首は硬くなり、アソコはショーツに
染みができそうなほど潤っています。部屋が薄暗いからいいものの、もしも明るかったら
すでに彼にバレていたでしょう。
それほどに淫らな欲求で満たされた私は、拘束され座ったままダンスを続けますが、当
然大きくは動けません。求める快楽は得られず、生殺しのような状態で躍り続けてしまい
ます。
そんな私の反応を楽しんでいた彼が、私の耳に口を近づけ囁きかけてきました。
「どうした、そんなに脚を開いて?」
「え……っ!? い、いやぁっ!!」
彼の言葉で我に返った私は、自分の姿に気付いてしまいました。私は彼の言う通り脚を
開き、股間をさらけ出していたのです。
どうやら彼は、私がより強い快楽を求め、身体を動かしてしまっていた事に気付いてい
たようです。そしてその淫らな想いを利用し、彼は脚を触る指を少しずつ外側へと動かし
ていったのです。敏感な部分に触れられない愛撫に焦らされた私は、そんな彼の思惑に気
付けず、いやらしい本能の命ずるまま彼の指を求め脚を開いていってしまったのです。
自分が快楽に溺れ、しかも貪欲にソレを求めていた事が彼にはバレていたのです。
その事に激しい羞恥を感じつつ、私は急いで脚を閉じようとします。これは単純に開脚
ポーズを見られるのが恥ずかしいという事以上に、脚を開いた事でアソコからエッチな汁
が漏れ出る事が怖かったからです。
しかしそのような事、彼が許すわけありません。私が脚を閉じるより早く、ヒザの裏に
手を当てて、逆に脚を大きく開いてしまったのです。
「いやぁあ! み、見ないでぇ……」
スジが伸びきるほどに脚を開かされた私は、弱々しく頭を振りながら懇願します。今私
の着けているショーツの生地はかなり薄く、こんなに脚を開いていたらアソコの割れ目の
形が浮き出てしまっているでしょう。それにまだショーツに染みこそできていないものの、
それも時間の問題に思えます。何せ今の私は、大きく開かれた股間を凝視されるだけで、
痺れるような快感を得てしまっていたのですから。
「ふふ、いい眺めだ」
「あぁ……」
当然ながら彼は私の脚を離してくれませんが、その事に若干の安心もしてしまいます。
なぜなら早く脚を閉じたいと思う反面、このまま恥ずかしい姿を見ていて欲しいと願う私
がいる事も確かだからです。逆に脚を離されても、視姦で感じてしまっている私が脚を閉
じられるか、不安に思ってしまいます。それほどに私の身体は、羞恥と快楽で熱く燃えて
しまっているのです。
「ぁ……ふぅ……」
「くく、見られているだけで感じているのか。そんな物欲しそうな顔をすると」
「そ、それは……」
私にはもちろん自分の顔は見えませんが、どれほどいやらしい表情を浮かべているかは
分かってしまいます。
上気した頬、潤んだ瞳、半開きの口。それらは全て、私の放つ淫らな想いを彼に伝えて
いるのです。そして私はそれを隠そうともせず、さらなる愛撫を求めるように彼を見つめ
続けます。
ですが、彼の手は動いてくれません。それに視線も股間から顔に移されているため、先
ほどまで味わえていた視姦の快楽も消えています。
私はできるだけ腰を揺すり、惨めに思いつつも彼を誘うような動きをします。しかしそ
れでも彼の視線は私の顔に向いており、はしたなく動く腰を見てもらう事すらできないの
です。
ですが、自ら口に出しておねだりする事もできません。中途半端に残された理性が、全
力で阻止してくるのです。
それをしてしまったら、全てが台無しになってしまう、そんな強迫観念にも似た強い想
いにより、何とか私は踏みとどまっています。ですが身体の方は、そんな事は関係なく貪
欲に快楽を欲しがっています。
結局私は本能に従い快楽を求める事も、理性によって淫らな想いを消す事もできないま
ま、期待に満ちた視線を送るしかできませんでした。
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