第六話


「さて、それじゃあテストを始めようか」 「……」  新藤さんがボクの提案したテストを受ける事を了承した後、ボクは部屋に用意していた ビデオカメラを構え、テストの開始を告げた。しかし彼女は服を脱ごうとはせず、ただ俯 き加減でもじもじとするばかりだ。 「どうしたんだい、新藤さん。テストを受けるんだよね? だったら早くして欲しいんだ けど。それとも、やっぱり中止するかい?」 「い、いえ、テストは受けます。でも……その、服を脱いでる所は撮らないでくれません か……?」  なるほど。確かに服を脱ぐという行為を見られるのは、脱いだ後の姿を見られるよりも 恥ずかしいかもしれない。  だが彼女が拒む理由は、それだけではないだろう。  彼女はこのテストを受ける事に抵抗を覚えているであろうが、顔を見ているとボクが準 備している間にある程度の覚悟はできたという事が分かる。下着姿になるとはいえ肌の露 出はビキニと変わらないのだから、テストに集中したり自分が着ているモノはビキニだと 強引に思い込んだりすれば、羞恥心を薄れさせる事ができるかもしれない。だがそういっ たものは、あくまで演技のテストを受ける事を前提としているのだ。  しかし服を脱ぐ過程というのは、それら全てを打ち消してしまう。  普通、服の下に水着を着ている人はいない。それは彼女も当然の事と思っているだろう。 そのため、もし服を脱ぐ所から撮影されてしまったら、もう彼女は水着を着ているとは思 えない。いつも自分が服の下に着ているもの――ブラとショーツを晒してしまっていると いう、はしたない姿のイメージを打ち消せなくなる。  つまり彼女はこれから始めるテストの間、ずっと自分は下着姿を撮影されているという 事実から精神的にも逃げられないという事だ。  でもね、本当は分かってるんでだろう、新藤さん。その願いが叶わない事くらい。 「気持ちは分かるけどね。でも、由香里ちゃんのビデオを何回も見た君だったら覚えてる んだろう、ビデオの始まりがどんなのだったか」 「そ、それは……」 「答えてくれるね、新藤さん」 「……制服姿の秋月さんが服を脱いで、ビキニになりました」  そう。秋月 由香里のビデオの始まりは、まさに今の彼女の状況と同じものである。違う のは、制服の下に着ているものくらいだ。  これは別に今の状況を予想して撮影したからではない。単にボクの趣味を反映しただけ だ。そのため彼女のビデオは、他の女子高生アイドルのビデオに比べて大胆なシーンが多 くなっている。彼女がこのビデオを見て何度もオナニーしたのは、それも理由の一つだろ う。  もっとも、それも水着ならばそれほど問題はないものばかりだ。しかし、彼女はそれを 下着姿で演じなければならないのだ。それがどれほど卑猥なものになるかは、彼女もイヤ というほど理解しているだろう。  まぁだからこそ、ここからの撮影は譲れないんだけどね。このまま放っておいても脱い でくれるとは思うけど、ここは説得しますか。ついでにアメもあげておくかな。 「新藤さん、ボクはアドリブも認めるとは言ったけど、大筋はあのビデオにそってほしい からね。そう考えたら、下着でのテストも良かったんじゃないかな。水着に着替えてたん じゃあできなかった、制服を脱ぐシーンもやれるんだからね。点数高いかもしれないよ」 「っ!」 「……とは言っても、やりたくないんじゃ仕方ないね。カメラを止めるから、その間に脱 いでね」 「ま、待ってください! そ、その、脱ぎますから……」 「うん、だから君が脱いでる間、撮影は止めてあげるよ」 「そうじゃなくって……制服を脱いでる所も撮影してください!」  よっぽど恥ずかしいのだろう。彼女は眼をつぶりながらも、自分が感じている羞恥心を ごまかすかのような大声で撮影を求める。しかしそれくらいの事で、脱衣シーンを撮影し てくれと言った恥ずかしさが消えるはずもない。彼女は眼だけではなく口もぎゅっと閉じ、  まるで泣き出すのを我慢しているような顔となった。 「そうかい。君がそう言うんだったら分かったよ。それじゃあ早く脱いでくれるかな、も う撮影は始めているからね」 「は、はい……」  弱々しい声で答えた彼女は、スカートのホックに手を持っていく。あのビデオは、最初 にスカート、次に上着を脱ぐところから始まる。ちゃんと順番どおりに脱いでくれるみた いだけど、そこで彼女の手が止まってしまった。指先は微かに震え、彼女が味わっている 恥辱を物語っているようだ。 「……」  腰に手を当てたまま固まっていた彼女が、不安そうな視線をこちらに向ける。言葉にこ そ出さないものの、その姿からはこのテストに対する最後の確認とも思える意志が感じら れた。  すなわち、 「本当に脱ぐんですか……?」  と、言ったものだ。  それに対し、ボクもこれが答えだと言わんばかりに無言でカメラを構え続け、彼女がス カートを脱ぐのを待ち構えた。 「……ハァ」  数秒後、彼女は諦めたような色っぽいような吐息をついた。どうやら覚悟を決めたらし い。震える指先を必死に押さえ、ちらちらとこちらを伺いながらスカートのホックを外し 始める。  少し手間取っているようだが、しばらくするとプチっという音を立てホックが外れる。 そしてそのままジッパーも下ろし、彼女のスカートは手で押さえられているだけという状 態になった。 「……っ!」  決心を鈍らせないためだろう、彼女はできるだけ素早くスカートを脱ぎきり、かわいら しいピンクのショーツをあらわにした。  だが、もちろん恥ずかしくないわけがない。彼女は身をよじり、さらには手を使ってで きるだけカメラにショーツが写らないように努力する。しかしその姿はまるでオシッコを 我慢しているようにも見え、羞恥に歪んだ表情と相まってより淫靡な姿になってしまって いる。  う〜ん、このまま撮影を続けてもいいけど、一応その事を教えておいてあげようかな。 「新藤さん。恥ずかしいのはわかるけど、あんまりそういう仕草をしない方がいいよ。こ ういうのって、恥ずかしがった方がエッチな感じになっちゃうからね」 「は、はい……。それは分かるんですが……」 「そんな感じだと、プロモーションビデオっていうよりも、むしろストリップショーみた いだよ」 「そっ、そんな!?」 「あぁ、いや違うか。ストリッパーはそんな恥らったりしないし、君みたいに普段の服装 で脱いだりしないしね。どっちかと言うと、女子校生もののAVって感じかな」 「いやっ、そんな事言わないでください!!」  彼女は頭を大きく振り、ボクの言葉を拒絶する。具体的な例を出された事で、自分のし ている行為がどれほど異常ではしたない事かを再認識してしまったのだろう。しばらくす ると落ち着きを取り戻したようだが、その顔は今にも泣き出してしまいそうなほど歪み、 彼女の動揺が痛いほどに伝わってくる。  コレはちょっといぢめすぎたかな? このままだったらテストの続行は難しそうだし、 ここはもう一度アメをあげるかな。 「大丈夫? 新藤さん」 「うっ……」 「ごめんね、無神経な事言っちゃって。でもね、これは本当の事だから。このまま撮影し てても、エッチなだけのビデオになっちゃうよ。だからさ、もっと堂々としなくちゃ」 「は、はい……」 「う〜ん、難しそうだなぁ。よし! じゃあまずは笑ってみて」 「え?」 「ほら、そんな恥ずかしそうな顔してるから、エッチな感じになっちゃうんだ。だからま ずは笑ってごらん。それにビデオの由香里ちゃんも笑っていただろう?」 「それは……はい」 「ね。こんな状況じゃあ笑うのも難しいかもしれないけど、でも芸能人にとって笑顔って いうのは重要だからね。だからこんな恥ずかしい状況でもいい笑顔ができたら、ポイント は高いと思うよ」 「ほっ、本当ですか?」 「もちろん。ボクもここまでしてくれる娘を落としたくはないしね。だからできるだけア ドバイスや指示もしていくから、ガンバっていこう。ね?」 「は、はい。わかりました」  ボクの言葉に食いついた彼女は、一瞬顔を引き締めた後、なんとか笑顔を浮かべていっ た。  だがそれは最初の頃のにっこりとしたものではなく、どこかぎこちない微笑みのような ものだ。それを羞恥に頬を染め、さらにはショーツを手で隠し続けている姿で浮かべるの だからたまらない。まるで初体験を迎えるに当たり、恥じらいと嬉しさで胸がいっぱいに なっている少女のように見える。 「うん、よくなったよ。さっきまでとは全然違う」 「本当ですか!?」 「あぁ、とてもかわいく見えるよ。じゃあそのまま下着を隠している手もどけようか」 「あ、はい」  ボクの言葉をそのままの意味で受け取った彼女は、ゆっくりと股間を隠していた手をど けていく。もちろん、顔にはあの羞恥の笑みを浮かべたままだ。そしてまるで焦らすよう に時間をかけて、ゆっくりと手をわきによせショーツを丸出しにしてくれた。しかし、当 然ながら本当は手で隠しておきたいのだろう。所在無さげに動く手がソレを物語っている。 「うん、かわいい下着だね。君によく似合っているよ」 「あ、ありがとうございます」  今自分がつけている下着の感想を言われた彼女はより一層羞恥を濃くしたが、同時に笑 顔のぎこちなさも薄れたように見える。どうやら下着を褒められた事が純粋にうれしかっ たようだ。  通常見せてはいけないモノを見せている事への恥じらいと、それを褒められているとい う事への喜び。その相反する感情からくる笑みは子供がする照れた様なものにも見え、幼 く見える彼女には似合っていると言える。  しかしソレも上半身は制服、下半身はショーツのみという、はしたない姿の少女が浮か べていては、無邪気さなどは一切ない。ただいやらしさのみが強調されている。  ボクのそんな考えを知る由もない彼女は、ショーツを丸見えにした為により頬を染めつ つ、破壊力バツグンの笑みのまま動きを止めている。どうやら先ほどボクが言った、指示 を待っているらしい。それじゃあ、っと。 「さて、次は上着を脱いで、ブラも見せてくれるかな。スカートを脱いでショーツを見せ てくれたんだから、これもできるだろう?」 「あ、はい。分かりました」  ボクの指示に対し彼女は笑顔で頷き返し、そのまま上着のボタンを外していく。やはり ショーツに比べれば見られる事への抵抗が少ないのか、よどみなく肌を露出させていく。 そして開いた胸元からは、ショーツとおそろいなのであろう、ピンクのブラがのぞき始め た。 「ブラもピンクなんだね、ピンクが好きなのかい?」 「あ、いえ。特に好きというわけじゃありませんが、この下着はお気に入りです」  新藤さんはそう言って微笑みながら上着を脱ぎきり、完全な下着姿となった。どうやら 彼女、このテストにも慣れてきたらしく、どこか余裕も見えるようになっている。さらけ 出したブラも隠したりせず、ランジェリーモデルのようにたたずんでいる。  だが当然羞恥心は消えたりしない。いくらテストに集中しようとも服を脱いだという事 実は消えないし、それに先ほどからボクは下着やショーツといった言葉を連呼している。 それも彼女に今の自分の姿を忘れさせないためだ。  結果、彼女は一見堂々とした姿であるが、よく見てみると微妙に身体をくねらせ、カメ ラを避けるような動きをしている。多分無意識のうちにしてしまっていて自分でも気付い ていないんだろうけど、動きが小さい分より色っぽく感じられる。  そして表情も変化した。隠しきれない羞恥と心の中に生まれた余裕が絶妙に混じりあい、 まるで男を誘うような笑みとなっている。それに先ほどまでの初々しさも残っているため、 今の彼女はプロのAV女優よりも男を興奮させるだろう。  さて、このカメラテストもここからが本番。ここから彼女、どんな演技を魅せてくれる のかな。


つづく