■第一話
夏の早朝。誰も居ないプールで泳ぐのは気持ちいい。
私は杉原夏美 高校3年 水泳部部長。
もうすぐ県大会も近いから、出来るだけ泳きたくて顧問の先生に頼んだけど、
プールの使用は教師が付き添う決まりらしく早朝の練習は許可できないと言われた。
付き添ってくれればいいのに。要するに面倒なんだろう。
それならばと勝手に入って使わせて貰っている。減る物じゃないからいいよね?
鍵は掛かっているけどフェンスを乗り越えれば入るのは簡単。
更衣室も仕えないけど、体育館の陰で着替えてしまえばいい。
部長がこんな事をしているとバレたら問題になるかもしれない。
でも悔いを残さないようにしたい。
もしバレて責任問題になったら退部する覚悟はある。それなら他の部員には迷惑がかからないはず・・・
「おっと、もう6時過ぎてる」
そろそろ誰か学校に来ておかしくない時間。
急いでフェンスを登り、着替えの置いてある体育館裏の茂みに走る。
周囲を確認。
建物と植木の陰でまず見られる事も無い場所だけど油断は禁物。
誰もいないのを確認して急いで着替える。
ガサッ
「ひっ!」
物音がして思わず身構える。丁度水着を脱いで全裸になったところだった。
誰? 見られた?
「くぅ〜ん」
犬だった。首輪もしていないから野良かな?
「脅かさないでよ・・・」
安心して水着をプールバッグに入れる。犬はそれをじっと見ていた。
「オスかしら? えっちぃ犬ね」
動物相手に恥ずかしがる事も無い。
タオルで体を拭いてそれもプールバッグへ。鞄から着替えを・・・
「・・・って、あれ?」
鞄が無い。さっきまであったのに。
周囲を見回すと犯人はすぐにみつかった。さっきの犬がバッグを咥えている。
「コラ、返しなさい」
「ワン!」
犬は威勢のいい返事をすると・・・猛ダッシュで逃げ出した。
「あ、ちょっと!」
鞄には着替えも教科書も財布や携帯も入っているのだ。
持って行かれたら一大事である。
素っ裸のまま犬と追いかけっこするハメになる私。
「勘弁してよもう!」
しかし野生は手ごわかった。どんどん私を突き放して門の外まで出てしまった。
流石に追うのを躊躇う。こんな格好で通行人に出くわしたらエラいことだ。
「そこで待ってなさいよ!」
一旦水着を取りに戻る。水着で走るのも恥ずかしいが裸よりはマシ。
タオルもあるからまあなんとか・・・
しかし、私の目論見は脆くも崩れ去った。
さっき着替えていた辺りに人が居る。確かあの人は用務員さんだ。
(お願い、早く行って・・・)
物陰に隠れて立ち去るのを待つ。
「なんだコレ?」
用務員さんは私のプールバッグを見ていた。
不審物ではあるが女生徒用の物なので、開けて調べるのは躊躇っているようだ。
(中は調べていいからそこに置いておいて・・・)
出て行ってそう言いたかったが、今の私は全裸で人には見せられない。
声だけ出してなんとか渡してもらおうか・・・いや危険過ぎる。祈るしかなかった。
が、そんな私の祈りも空しく、用務員さんはバッグを持っていってしまった。
(どうしよう・・・)
裸のまま取り残される私。もうすぐ他の教師も来るし、部活の朝練も始まる。
(そうだ!体操着!)
教室には体操着が置いてある。まずはそれを着よう。犬が持っていった鞄はそのあと探すしかない。
(誰にも見つかりませんように・・・)
そう祈りつつ、私は3階にある教室に向かった。
■第二話へ