第一話 私を犯して
(一)
女が羞恥に震える街、葉塚市。
この街は狂っている。
この街では女性に対する羞恥行為が、街のあらゆる場所で平然とおこなわれているのだ。
女性もそれを当然の事と受け止めていて、例え、人通りの多い路上で女性が強姦されていても、誰も異常だと思わない。強姦している男も罪にならず、逮捕されることもない。
「女は、男に犯されるために存在する」という非常識な事がこの街では常識としてまかり通っているのだ。
それもそのはず、この街は謎の組織に支配され、街に住む人間は全員、洗脳されているのだ。もちろん、街の外からやってくる人間も例外ではない。
全ての人間が洗脳を受けているので、自分たちが異常な行動をしていると、疑問に思う奴は誰一人居ない。まともな奴など一人もいないのだ。
今の俺自身も含めて……。
*
俺は高山良平(たかやまりょうへい)。
半年前、俺はこの狂った街に迷い込んでしまった。
その頃の俺は日本全国を歩いて一周するというバカげたことに挑戦していた。いわゆるバックパッカーってやつだ。
旅の行程を三分の一くらい消化したところで、葉塚市内へ入る唯一の交通手段である葉芽手川大橋(はめてがわおおはし)の前にたどり着いた。
地理的に袋小路みたいな街なので遠回りなるなと思いつつも、俺は橋の向こうの街が気になってしまった。
全長約二キロ超の葉芽手川大橋を歩いて渡ると『葉塚市正面ゲート』が見えてきた。ゲートには警備員が常駐していて、入市を厳しく管理していた。
(なんだか、イヤな予感がする)
俺はその時、確かそう思った。
今思えば、この時に引き返せばこんなことにはならなかったのに……。
ゲートに近付くと俺は軽いめまいを覚えた。そして、俺はフラフラと車道へ飛び出してしまった。
ゲートでは葉塚市に入るための基本洗脳が行われていた。洗脳は人間の可聴域から外れた超音波を使用している。その超音波のせいで俺の意識が低迷したのだ。
そこへ運悪くウサギのマークのついた運送会社のトラックが突っ込んできた。
俺はトラックに跳ねられた。
ゲートに入るためトラックが減速していたことと、背負っていた荷物がクッションになったことで衝突の際のケガは無かったが、路面に投げ出されたときに頭をぶつけ、気を失ってしまった。
救急車が呼ばれ、俺は意識を失ったまま市内の病院へと搬送された。
そう、俺は洗脳途中で意識を失い、そのままゲートを通過してしまったことで、この街の「常識」を身につけることなく葉塚市に入ってしまったのだ。
このことが後に俺にとって悪夢のような事態を引き起こしたのだ。
*
俺が意識を取り戻したのは葉塚市中央病院の一室だった。
葉塚市中央病院。後で知ったことだが謎の組織が街を支配するために使っている施設の一つだ。
意識を失っている間に大まかな検査は終わっていて、軽い脳震盪(のうしんとう)と打撲と診断されていた。
確かにぶつけた頭は痛かったが、身体のどこかが痺れて動かないようなことはなかった。
事故を起こしたトラックの運転手は若い女だったが、治療費は全て彼女の会社が持つことで話がついたので、念のため、一泊だけ入院することにした。
その日の夜、消灯後に夜勤の看護婦がやって来た。
ショートカットで少し気の強そうな女だった。
彼女は部屋に入ってくると寝ていた俺の毛布を剥ぎ取った。
突然のことで俺が唖然としていたら、彼女は「あなたをレイプします」と高らかに宣言したのだ。
この日はちょうど、市の条例で施行されたばかりの逆レイプの日だった。
彼女は俺が着ていた作務衣(さむえ)に似た入院着をはだけさせると、手慣れた様子で履いていた俺のパンツを脱がしてしまった。
俺が文句を言おうとすると「あなたは黙ってて」と彼女に怒られた。
彼女は頬を少し赤らめながら、剥き出しになった俺のペニスを咥え、フェラチオを始めた。
病室で看護婦とセックス。男なら一度くらいは妄想したことがあるシチュエーションだったので、俺は彼女のしたいようにさせた。
彼女のフェラテクはなかなかのものだっだので俺はすぐに勃起させられた。
「元気いいわね。もうこんなに硬くなっちゃって……。あたし、硬いの好きよ」
彼女は俺のペニスに頬ずりしながらそう言うと、下着を脱ぎ捨てべッドに上がってきた。そして、俺に跨るとそのまま挿入した。
一人で盛り上がって濡らしていたのか、俺のペニスはすんなり彼女の中に入ってしまった。
彼女は腰を振り、俺のペニスを弄びながら勝手に楽しんでいた。俺は久しぶりのセックスだったので、我慢できずにすぐに射精してしまった。
「えっ、もう出しちゃったの?」
彼女は早すぎると文句を言った。
「ご、ごめん……」
俺はちょっと情けない気分になった。
彼女は身体を入れ替えると、俺にお尻を向けてきた。
「すぐに出しちゃったバツよ。あたしのオマ○コ、舐めて」
俺の意思は全く無視だったが、仕方がなく目の前にある彼女のオマ○コを舐め始めた。舐めていると、愛液と一緒に俺がさっき出したばっかりの精液がトロリとこぼれ出てきた。
彼女が股間を俺の顔にグリグリと押しつけてくるので、愛液と精液は俺の口の中に流れ込んでくる。自分が出したものとはいえ、精液を口にするのはこの上なく気持ち悪いことだった。
これが彼女の言ったバツなのだ。
「あなたが、出したものよ。全部飲みなさい」
俺は自分の精液を飲まされるはめになってしまった。
苦労して飲み込むと、彼女は許してくれた。
「はーい。良くできました。口直しよ」
そう言って、唇を重ねてきた。舌と舌を絡める濃厚なディープキスだった。
それから、俺は彼女が満足するまでセックスに付き合わされた。
(ニ)
翌朝、退院した俺は夜勤明けの彼女に部屋に招待された。俺は彼女に気に入られたらしい。
彼女の運転する車で市内を走っていると道ばたで絡みあう男女の姿を目撃した。
寝不足ぎみだった俺は一気に目が覚めた。
「ちょっと、車止めて」
「何よ、急に」
彼女は慌てて、停車する。
「あ、あれ」
俺は指差した。
制服を着た女子高生がサラリーマン風の男に後ろから犯されていた。スカートが捲り上げらて、丸いお尻が露わになっている。そこを男に貫かれているのだ。
「あら、やだ。路上プレイだわ。こんな朝っぱらから……」
「路上プレイ? なんだそれ? ともかく、変質者なんだな。だったら、急いで警察に通報しなきゃ」
「そんな事しなくてもいいのよ」
「どうして?」
「だって、普通の事じゃないの」
「はぁ?」
俺は一瞬、絶句した。
「なに言ってんだよ。女子高生が襲われてだろ!」
俺が怒鳴ると、今度は彼女がキョトンとした顔をした。
「あなたこそなに言ってるの? 女は男に犯されるために存在しているのよ。小学生でも知っている事よ。当たり前の事言わないで」
狂っている。この女は異常だ。俺はそう思った。
正義感に駆られた俺は、彼女の制止も訊かず車を飛び降りた。そして、そのまま痴態行為を繰り広げている男女の元に走り寄った。
「おい! 止めろ、おっさん!」
「なんだ。お前もやりたいのか? だったらこの娘に咥えてもらえよ」
悪びれた風もない男の言葉に俺の怒りは一気に爆発した。俺はサラリーマン風の男に殴りかかった。
通行人の誰かが通報したのか、すぐに警官がやって来た。
俺は男が逃げないように押さえつけていたが、やって来た警官は逆に俺を押さえつけた。
「羞恥行為妨害罪の現行犯だ。お前を逮捕する」
と警官は言った。
逮捕されたのは女子高生を犯していた男ではなく俺だった。
*
俺は警察署に連行され取調べを受けた。
罪状は「羞恥行為妨害罪」という聞き慣れないものだった。なんのことかさっぱり分からなかったが、正直に話せばすぐに釈放されるものと、俺は高(たか)をくくっていた。
だが、そうはいかなかった。
「高山良平、もう一度聞くぞ。なぜあの男を殴った」
葉芽手川警察署内の取調室。厳つい顔をした刑事は、同じ質問を繰り返した。
「だから、さっきから言ってるじゃないですか、刑事さん。あの男が女子高生を襲っていたからですよ」
「どうしてそれがいけないんだ、普通のことだろう」
「普通のことって……。強姦ですよ、レイプですよ」
俺がそう言うと、厳つい顔の刑事はあきれた顔で、取り調べの記録を取っていたもう一人の刑事に目線を向けた。もう一人の刑事は無言で「くるくるパー」のジェスチャーをした。頭がおかしいという意味だろう。
厳つい顔の刑事はウンウンとうなづいた。
「そうだな。高山良平、お前は精神を病んでいるようだ。精神鑑定を受けてもらう」
警察は俺を精神異常者だと断定した。
しばらくすると、精神科の医者がやって来た。
メガネをかけたいかにも医者という感じの若い男だった。
「高山良平君、君にはまず簡単な質問に答えていただきます」
「……わかったよ」
俺はしぶしぶ返事した。
『君の目の前に可愛らしい女の子がいます。君はどうしますか?』という問いに、俺は『別になにもしない』と答えた。
若い医者の眉間にシワがよった。
俺の答えは間違っていたらしい。スカートを捲って下着を脱がすだの、押し倒して強姦するだの、なんらかのわいせつ行為をすることが正解だったのだ。
その後も、似たような質問を何問か受けたが、すべて不正解。
医者は驚いたような表情で俺を睨みつけていた。そして、医者は気づいたのだ。俺が洗脳をまったく受けていないという事実に。
そのことはこの街を支配している謎の組織にとっては、驚異の出来事であった。この街の存続を脅かすものだったからだ。
取り調べの後、俺は今朝、退院したばかりの葉塚市中央病院に連れて行かれた。
病院の地下にある隔離病棟。病室には窓がなく、内側からはドアが開けられない部屋に入れられた。
屈強な医者が俺を拘束具でベッドに縛り付けた。
そこへ、白髪の混じった40歳すぎの男がやって来た。その風貌からして、医者ではなさそうだった。
「はじめまして、高山良平君」
「あんた、誰だ」
「私は伊締大好(いじめだいすけ)。この街を支配する者だ」
「あんたがこの街を……。それで、俺をどうするつもりだ。殺すのか?」
「殺す? そんなことはせんよ。私は血を見るのが嫌いだからね」
伊締がニヤリと笑った。
「私は君に感謝しておるのだよ。完璧だと思っていた洗脳システムに欠陥があることを教えてくれたのだから」
「そうかい、そりゃ良かったな。だったら、俺を解放してくれよ」
「それはできないな。君を解放したら、この街の秘密が外の世界にばれてしまうだろう」
「当たり前だろう。こんな狂った街」
「それでは私の壮大な実験が出来なくなってしまう」
「実験? 実験って何だ?」
伊締は俺の質問に答えず、「フフフ」と笑っただけだった。
「ところで、高山君。君さえよければ、VIP待遇でこの街に迎え入れようと思うが、どうだね」
「いやだね」
俺は二つ返事で断った。
「そうか、実に残念だね」
しばらく考えてから、伊締は言った。
「ならば、君にはもう少しこの病室にいてもらおう。丁度、新型ナノマシンの実験体を探していたんだよ」
「新型ナノマシン? お前、俺を人体実験するつもりか?」
「失礼な。臨床試験と言いたまえ」
そう言うと伊締は部屋を出て行った。
「どっちでも、同じだろうが! 待てよ、こらぁ! 伊締ーっ」
俺の雄叫びが虚しくこだました。
(三)
それからすぐに、新型ナノマシンの人体実験が強行された。
といっても、新型ナノマシンの入った点滴を投与されただけだった。
拘束具は外され、さすがに病室の外へ出ることは許されなかったが、病室の中だけは自由になった。
俺は少しホッとした。どんなことをされるのか不安だったが、「たいしたことはない」そう思った。だがそれは間違いだった。
その日から俺の身体は徐々に女へと変化していった。
俺に施された実験は美容整形用に開発された新型ナノマシンよる全身整形、性転換実験だった。人間の体を内側から整形して、まったく別の人間に作り変える実験だったのだ。
ナノマシンによる全身整形は顔や胸、外生殖器はもちろん、内臓や骨格にまで及んだ。体内に卵巣らしき物が作られ、子宮も形成された。
さらに、実験開始から三ヵ月後には、生理まで始まった。
自然妊娠こそ出来ないが、受精卵があれば俺は妊娠することができると説明された。
半年後には、俺はすっかり華奢な身体の女の子になってしまったのだ。
もはや俺が男だっだ痕跡は俺の記憶の中にしか残っていなかった。
*
「やあ、久しぶりだね。高山良平君。おっと、今の君には良平なんて野暮な名前は似合わないね」
女への性転換がほぼ完了したころ伊締大好がやって来た。相変わらずのニヒルな白髪男だった。
「君には、またまた感謝しなくちゃならないね。死にもせず、無事実験を乗り切って、さらにはとびっきりの美少女に変身してくれた。そのおかげで全身整形に関する貴重なデータが取れたよ」
「伊締大好! お前……」
俺は伊締をにらみつけた。
「そこでだ。君にプレゼントをあげよう」
「……」
「市内にマンションを用意した。今日からそこに住みたまえ」
「今度は何を企んでいるだ」
「企む? 私は何も企んではおらんよ。フフフッ」
「こんな体にしといて、これからどうやって生きてゆけと言うんだ」
「君は生まれ変わったんだ。新しい人生を楽しみたまえ」
そんなことで、納得できるわけはなかったが、他に選択する道はなかった。
*
『パレス葉鷹山』それが伊締大好が用意したマンションの名前だった。
部屋は3LDK。暮らしていくために必要な家具は一通りそろっていた。
リビングのテーブルの上には、組織の人間が置いていったマンションの鍵。当面の生活費が入ったキャッシュカード。それと俺の新しい身分証明書がある。
俺はソファーに腰を下ろし、身分証を手に取った。
名前は「高山良子」と記載されたいた。性別も女性となっている。おまけに女になった俺の全身写真が貼り付けられていた。
「ふっ、なんで、裸の写真が貼ってあるんだ」
俺は身分証をテーブルに投げつけ、ソファーに寝転んだ。
「んっ、なんだあれ」
天井の四隅に半球の物がついていた。
「スプリンクラーじゃないし……。監視カメラ!」
監視カメラはリビングだけじゃなく、各部屋にも取り付けられていた。トイレ、風呂場。ベランダにも仕掛けてあった。
「くそ、まだ監視せれているのか!」
俺は憤(いきどお)った。
しかし、当然といえば当然のことだった。俺はこの街の秘密を知りすぎている。街一つ洗脳支配している連中だ、秘密の漏洩を防ぐためなら、殺人も躊躇わないだろう。なのに俺は殺されもせず、監視付きとはいえ、部屋を与えられ生かされている。ということは……
「俺にはまだ、利用価値があるということか?」
俺の推測はあながち間違ってはいなかった。
女に性転換された俺には特別な洗脳が施されていた。一日に数回「男に犯されたい」という精神的な発作を起こすというものだ。これは伊締大好の考えた新たな洗脳実験だった。
俺の頭の中に突然、卑猥な考えがわきあがり「男に犯されたい」と思い始める。そうなるともう止まらない。身体の奥が勝手にジンジンとうずき始め、愛液をだらだらと溢れさせるのだ。
俺は男に犯されたくて、犯されたくて、たまらなくなるのだ。
バイブレーター等で自分を慰めようとしても無駄だった。本物のペニスでなければ身体の疼きは止まらない。精液の臭いを嗅がなければ発作は治まらないのだ。「男に犯される」という行為だけが、発作を止めることが出来るのだ。
発作に耐え続ければどうなるのか? 一度だけ試したことがある。その時は、意識が朦朧(もうろう)となり、気がつけば俺は男に犯されていた。
発作が起きる度に俺は「男に犯される」ために男を探さなくてはならなかったが、男探しはたいした苦労しなかった。男達にとって女になった俺の身体はとても魅力的に映るらしい。
街を歩けば必ず男に声を掛けられた。
自分で言うのもなんだが、女になった俺は美人の部類に入るらしい。その女が頬を上気させて誘っているのだから、男にほっとかれる訳がない。
この街の男達は、女を辱めるため、やたらと路上で女を犯したがる。路上だろうと部屋の中だろうと男に要求されるまま、俺はフェラチオ、パイズリ、アナルファック、何でもやらされた。そして、今までに数え切れないほどたくさんの男達に犯された。
身体中、精液まみれにされ、男が満足する頃には身体の疼きも治まり、まともな精神状態が戻ってくる。
今の俺は男なしでは生きていけない身体になってしまったのだ。
「ああっ。また……発作が始まる……誰か、私を犯して」
終
つづく
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