「通学バス・番外編(その1)」


はぁ……どうしよう………  朝の六時三十分。  久しぶりに自分の部屋で、それも横に男の人も女の人もいないで寝る事ができた朝だと言うのに、私はベッド から上半身を起こしたまま、着替えるでもなく、ぼ〜〜っとしていた。  誰も見ていない、誰にも見られていないから色っぽいネグリジェじゃなくて以前きていた黄色いパジャマ姿。 髪の毛もあちこち寝癖でピンピンボサボサ……どこからどう見ても――見られてないんだっけ――私は寝起きで すと言ったそのままの格好をしていた。 「……むにゅ………」  窓から差し込み入ってくる光に涙が溢れてくる。また閉じようとしている目蓋を手の甲でごしごし擦りながら、 空いている手でベッドの枕元においていた眼鏡を取り、髪をかきあげて、耳の上に引っ掛ける。  途端に白くかすんでいた視界がくっきりと輪郭のある世界へと代わっていく。  本当はもう少し眠って痛いけど今日はそうもいかない。  首を捻って壁にかけてあるカレンダーに目を向ける。もうすぐ秋になろうかという時期――そして今日を示す 数字の上に赤いペンで丸印がつけてある。  そう……今日は裸通日。衣服を身に着けずに一日をすごさなければいけない日。 「………行きたく…ないな……」  いつもならこの日は一日部屋で過ごす事にしていた。でも今日は学園の授業を受け持ってるし……みんなが待 ってるから休めない…… 「……はぁ………」  このままベッドの中にいるわけにもいかない。お腹に溜まったいろんな悩み事を吐き出すように大きな溜息を 一つ突くと、暖かなベッドの中から抜け出し、パジャマのボタンを一つ一つ外し始めた。  コツ、コツ、コツ――  ヒールの踵が奏でる音がやけに大きく私の中で木霊する。  全裸でいいからと言って、何も自分の姿を気にしなくていいというわけじゃない。特に私は…人に見られるか ら……  寝癖を直して髪を整え、股間の茂りの形も気にし、身体中を一通り姿見に映してどこにも変なところが無い書 きにしなければならない。 「おっ?」 「ひゅ〜〜♪」 「へへへ……」  やっぱり…見られてる……  私は……脱ぐ事はそれほど恥ずかしくは無い。でも…脱ぐ事で人の目が集まる事がものすごく恥ずかしい…… 他の人に見られて、何か変な事を思われてしまうことが…私の中ではものすごく恥ずかしい事だった……  それなのに、手にしたカバンで身体を隠す事も出来ず、背筋を伸ばして道を歩かないといけない……当然、す れ違う男の人たちは、まだ眠たそうにしている人でも目を見開き、一歩歩くごとに上下左右に小さく弾む白い胸 の膨らみや、腰や恥骨から美しいラインを描きながらもたっぷりと柔らかそうなお肉がついているお尻を見つめ ていく……太股をキツく閉じて何とか隠そうとしても隠しきれない股間のデルタに粘着質な視線が通りすぎるた びに、私の心の中に言い知れない感情が降り積もっていく……  逆に私の方はといえば、全裸の男性の股間で揺れるあの部分を見てしまうたびに、眼鏡をかけた顔を大きく逸 らせている……でも今の時間は通勤通学で混む時間だから、どっちを向いてもおじさんや男子学生、杖を突いた おじいさんや黄色い帽子をかぶった幼稚園児のおチ○チンまで……だから結局はずっと俯き、チラチラ前を見て 歩くしかなかった。  それにしても…なんだか……後ろを歩いている人が多くなったような……  私の背後から聞こえてくる話し声が増えた事を不審に思い、チラッとだけ肩越しに後ろを振り返ると、十人以 上の男の人が私から一定の距離を取り、集まって歩いていた。  う…嘘…なんでこんなに人が……!  咄嗟に手に持っていたカバンでお尻を隠そうと思ったけれど、見られていると意識した途端、手は私の意思に 反して腰の横から動かなくて、取っ手の紐を握りめるだけだった……  でも…なんで私なんかで、あんなに大きく……  ちょっと見ただけで分かるほど大きくなっているのが分かる男の人たちのおチ○チン……一目見ただけなのに 脳裏にまで焼きついたかのように、頭の中が男の人の大きくなった肉の性器でいっぱいになってしまう……  わ…私だって、ちょっと前までの私じゃありません! アレから何度もおチ○チンを見せられたり、咥えさせ られたりしました!! でも…でもやっぱり……  もう一度だけ後ろを見る……するとそこには道を塞ぐほどの人が集まり、みんなが恥ずかしくないのか、股間 におチ○チンを…ビンって……  立ち止まって、その光景をしっかり見てしまった私は、男の人たちが近づいてくる前に硬直させたまま顔を前 に回し、ギクシャクと歩き出し始めた……  皮膚の下から次から次に作り出される熱で、頭がのぼせてしまいそうです……ただでさえ、見られて恥ずかし いのに……後ろにあんなにおチ○チンが……  このまま私はあの人たちにエッチな事をされてしまうのか……あれだけの人数は今までで一番多いし…お相手 しきれるかな……  さっきまで意識していた視線のイメージが頭の中で男の人のおチ○チンへと代わっていく……歩くたびに左右 へ揺れる髪の毛に、その下に隠された背中に、分からないぐらいに小さく震える肩に、揉み応えのあるお尻に、 少しでも隠そうと必死で擦れあう太股に、あのたくさんの固くて熱い肉棒が…… 「……んっ…」  耳まで赤く染まり、口から吐き出す息が震えている……授業さえなかったらこの場にしゃがみこんでしまいそ うなほど足が震え、前に進む身体が微妙に左右に揺れてしまう……  おい、見ろよ。あの女、俺達に向かって尻振ってるぜ。ひょっとして誘ってんのか?  恥ずかしくないのかね。全裸だぜ? パンツも履かずにおっぱいもマ○コも放り出してさ。  胸も尻もデカくて、いい身体だなぁ。あ〜〜、他の奴がいなかったらこの場で押し倒してやるのにな。  本当に小声で話しているのか疑いたくなるほど、男の人たちの話し声ははっきりと私の耳に聞こえてくる…… そのほとんどが…私をこんな道の真ん中で…犯してしまおうと言うような意味……  ――ごくっ  いつの間にか口いっぱいに溜まっていた唾液を、カラカラに乾いているのどに流し落とす。  言葉のままにその場を想像すると、冷める事を知らない身体が沸きあがってくる熱でますます赤くなっていく ……俯いた視線の先にある胸の膨らみも、熱さでうっすらと汗をかき、ほんのりと桜色に染まっていた……  ど…どうしよう……このままじゃ……  まるで熱病に浮かされているかのように歩く足が頼りなく、雲の上を歩くようにふらふらと揺れながら、よう やくバス停に到着する……そして、男の人たちは私の後ろに列を作った。  なんだか…さっきより近づいてるような……あ…当たってるし……  バス停の前に列を作って待つのは当然の事……離れすぎず、胸と背中が当たらないようにある程度の距離を開 け、最前列に並んだ私の後ろに男の人が立ったまではよかったんだけど……身体の一部分が大きくなって前に突 き出しているせいで、その部分の先端がさっきまで視線に舐めまわされていたお尻に直接触れてきている……  こ…これも痴漢なのかな……でも、並んでいるだけなんだし、私が慌てるほど異常な事じゃないのかも……で も…でも…… 「んんっ!」  おチ○チンが私のお尻を突き上げてくる。固い棒を突き付けられ、後ろに向かって膨らむお肉を上に押し上げ られているような感覚は、下から上へと滑らかな肌の上を滑り、通り抜けて行くたびにお尻の半球が弾力でプル ンプルンと震えてしまう…… 「く…んっ……」  おチ○チンの先端のすべすべした肌が滑るたびに、まるで大きくて太い舌に舐められているような感触が疼き を伴ってお腹を下から押し上げてきて、閉じた唇の隙間から押し殺した声が漏れてしまうほど感じてしまう……  ブロロロロロロロロロロロ………  ば…バスが着た!  おチ○チンの動きにどうしても敏感に反応してしまう身体を何とか押さえつけていると、思っていたよりも早 く学園に向かうバスが到着した。  これでやっと開放される。バスに乗って座席に座れば、見られはするものの触られる事は無くなるから、おチ ○チンの触れる感触に耐える事も無くなる。  荒い息を吐きながら絶えつづけていた私は、乗車口が開くと同時に急いで乗りこもうとした。  けれど…それが甘い考えだと言う事を思い知らされた。  な…なんなの、この混み様は……ひょっとしてもう乗れないの?  一歩階段を上ったところで、すぐ目の前が裸でできた壁だった。男の人と女の人が肌が触れ合う事もいとわず に互いに密着し合い、バスの中を埋め尽くしていた。 「これじゃあ…え!?きゃ、きゃあ!!」 「何やってるの、さっさと乗りなよ」  目の前のなんとも……肉感的と言うか…情熱的と言うか…絡み合う人たちを見て、頭の上を通ってバスの中か ら聞こえてくる無数の女性の艶のある声を聞いて、本能的に立ち止まってしまった私の背中を、後ろに並んでい た男の人が押してきた。幸い、目の前の男性の身体に手を突いたので、転んで怪我とかはしなかったけど、ねっ とりとした汗の浮かんだ肌に手を置いたということが私の中では何かショック敵な事だったようで、一瞬思考が 停止してしまった…… 「ほら、乗って乗って。俺達は早く通勤したいんだよ」 「んっ……あっ、待ってください、私降ります、降りますぅ〜〜!」  その一瞬の間に男の人たちは身体全体を使って私を押しこみ始めた。慌てて降り様としても遅かった、満員だ と思っていたバスは奥のほうが結構余裕があったみたいで、全裸の男性の人の波に押されてあっという間に中ほ どまで入りこんでしまった。 「お…お願いします、どいてください! 私、降りますから!!」  このままだと、また痴漢をされてしまう……できればあんな恥ずかしい目には遭いたくなかった私は人ごみを 掻き分けようとしたけれど、非力な私じゃ一歩も前に進む事は出来なかった。  そして…バスはゆっくりと動き始めた……


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