第十話「第二の乙女・風のセイレーン」
「もうダメ。少し休みましょうよ」
水ちゃんが悲痛な声を上げる。私たちは、山を登っていた。空ちゃんの剣が、この山の頂上
を指していたから。
一番初めに根を上げたのはこの水ちゃんだ。運動部に所属しているから体力には自信がある
ようなことを言っていたけど、ちょっと勝手が違ったみたい。私は運動部ではないけど、昔か
らよくハイキングとかに行ってたから、こういうのは得意だった。だから、中腹ぐらいまでは
全然平気だったのだけれど、さすがに結構疲れてきた。この山、高すぎるよ。
「あらあら。先程、お休みになられたばかりですわよ?」
一番けろっとした顔をしているのは、意外にもこの空ちゃん。息も切らしていない。一番体
力なそうに思ってたのに、人は見かけによらない。
「ねえ、空ちゃん。頂上ももう少しだし、ちょっと休もうよ。私も疲れちゃった」
「そうですわね。それでは、少しお休みを・・・。いえ、お二人でお休みになっていて下さい」
「えっ?」
「わたくし、一人で先に行っておりますので」
「もしかして、あれ?」
水ちゃんが尋ねる。それじゃ、あの時と同じ、乙女の導きっていうの?
「ええ。ですからお二人は、後から頂上までいらして下さい」
「う、うん」
私は不安げにうなずく。
「大丈夫よ、望。空、がんばってね」
水ちゃんは特に心配してなさそう。そうだね、大丈夫だよね。
「ええ、いってまいります」
にっこりと笑顔を残して、空ちゃんは歩いて行ってしまった。
光は、道の途中にある大岩を指していました。なにか仕掛けがあるのかと触れてみると、音
を立てて動き、横穴の洞穴が現れました。どうやらここが入り口のようです。てっきり、頂上
にあるかと思っていましたのに、意外ですわね。
わたくしは、中を照らしながら、ゆっくりと入っていきます。中の空気も正常。どうやら、
悪いガスなども溜まってはいないようです。
洞穴に入ったわたくしの耳に、先程聞いたのと同じ声が響いてまいりました。とても、澄ん
だ歌声。何か心惹かれる、全てを忘れて聞き入ってしまいたくなるような、そんな素晴らしい
声でした。
その声に導かれるまま、奥まで進んだ私の前に、大扉が現れます。しかし、わたくしが前に
立つと、その扉はひとりでに中へと開きました。わたくしを、受け入れて下さるようです。
部屋の中は通路とは違って、光で明るく照らされていました。よく見ると、天井が少し開い
ています。そこから、外の光が入ってきているようです。そして、部屋の真ん中に、女の方。
いえ、正確には人間の女性とよく似た姿をした方が立っておられました。
頭や、体のほとんどは裸の人間の女性なのですが、腕と腕の下の部分に羽毛が生えていて、
翼のようになっていました。そして、脚の膝から下の部分も、人ではなく鳥類のそれでした。
つまり、人ではなく鳥人間のようなものなのです。
『ようこそ。羞恥騎士のお嬢さん』
その方は、鈴が鳴るような透き通った声で語りかけてこられました。
「わたくしは歌鳥 空といいます。あなたが、乙女さんなのですね?」
『そうです。私は乙女の一体、セイレーンといいます。よく、ここまで来てくれました』
セイレーンさんの美声は、全ての者を魅了するかのようです。
「どうしたら、あなたのお力を得られますのでしょうか?」
『私の与える試練を克服して下さい。あなたが私を受け入れられる力を持っているかを、知り
たいのです』
この世界で言う力というのは、おそらく羞恥心のことでしょう。それを試されるわけですわ
ね。
「わかりました。その試練、謹んでお受け致します」
『それでは、目を閉じて下さい。試練の舞台へと案内します』
わたくしは言われた通りに、そっと瞳を閉じました。
再び目を開いた時、わたくしは見知らぬ街路に立っておりました。ここで試練を執り行う
ようです。辺りを見渡すと、多くの人が集まっておられるのが目に入りました。なにか、行な
われているのでしょうか? わたくしはそちらへと足を運びました。
人波の中に入っていくと、人垣の真ん中、噴水の淵の所に一人の女性の方が腰掛けていらっ
しゃるのが見えました。しかも、驚いたことにその女性の方は全裸だったのです。わたくしよ
りも少し上、おそらく10代後半くらいの方でしょうか。さすがに、性器は足を揃えて隠され
ておられますが、その若い乳房は全て晒されておられました。
「お嬢さんも、どうですか?」
わたくしの前に座っていたご老人が声を掛けてこられます。そのことで、わたくしはこの状
況を理解する事ができました。そのご老人は、スケッチブックを持っていらしたのです。いえ、
彼だけではなく、周りの方のほとんどがそれを持っておられました。ここで、彼女の姿を写生
しておられたのです。
「ですが、わたくし、ここに来たばかりですが」
「別に構いませんよ。誰だって自由に参加できるのですから。ほら、これを」
そう言われて、そのご老人はわたくしにスケッチブックと羽根ペンを渡してくださいました。
わたくしはそれを手にして、ご老人の横に座ります。
それにしても、このような開けた場所でヌードデッサンを行なっておられるなんて意外でし
た。普通こういうものは、室内のような限られた場所で、限られた人間で行なうと思っており
ましたから。これも、この世界の風習なのでしょうか? それにしても、このような大勢の前
で肌を晒し続けておられるなんて、モデルの方も大変ですわ。
わたくしは、目の前の女性の方の体を、スケッチブックに写生し始めました。女性らしい滑
らかな線を描き始めます。一応、美術部に所属しておりますので、デッサンの心得はあります
が、裸婦像を描くのはこれが初めての経験でした。体の柔らかい線をなぞる度に、何故かこち
らまで恥ずかしくなってきてしまいます。芸術のためとはいえ、裸を見せていらっしゃるモデ
ルの方の心中は、いかなものなのでしょうか?
「ほう。お嬢さん、なかなかお上手ですな」
隣のご老人が、わたくしのデッサンを褒めてくださいました。
「絵を、少し習っておりますので」
「なるほど、道理で。胸など、その柔らかさが伝わってくるようです」
胸の部分を褒められて、わたくしは赤面してしまいます。
「みなさん書き終わられたようなので、次のポーズを頼みます」
どうやら、この方が主催者のようです。ご老人の声に、モデルの女性はうなずき、新しい姿
勢をとられました。
「あ、あら・・・」
わたくしはその新しいポーズを見て、思わず声を洩らしてしまいました。モデルの方がとっ
たポーズ、それはこちらに背中を向け脚を広げられ、手が床に付くほどに体を前に倒されて、
開いた脚の間からこちらに顔を向けていらっしゃるというものでした。もちろん、脚の間の器
官は全てわたくしたちに見えてしまっております。
「こんな、はしたない・・・」
「確かに、はしたないポーズですな」
独り言のように呟いた言葉を、横のご老人は聞いておられました。
「ですが、全てを晒した女性の姿は、とても美しくもあるのですよ」
「美しい、ですか?」
「そう。古きより多くの芸術家は女性の裸体に魅せられてきました。それは、普段隠されてい
るものをさらけ出す女性の姿に、美があるからなのです。隠された秘密を見せるその姿には、
魂の揺さぶりすらも感じます。ほら、あの少女は我々のために、我々に描かれるために、その
全てを晒しています。その姿は、とても美しいとは思いませんか?」
わたくしは、再びモデルの方へ目を向けます。性器や排泄器官さえも惜しみなく晒されたそ
の姿からは、確かに何か特別なオーラのようなものが感じられます。おっしゃられた通り、全
てを覆い隠さずにさらけだしたその姿は、何かとても尊いもののように感じられました。
「おっと、少々理屈くさくなってしまいましたな。年寄りの悪い癖だ。さあ、彼女を描いてあ
げましょうか。それが、彼女のためですから」
「は、はい・・・」
わたくしは、全てを見せていらっしゃる女性の姿を、紙上に写し取っていきました。さらけ
だされた陰部を描く時には、やはり心が昂ぶってしまいます。うっすらと開いた二枚の大陰唇、
その中にあるもう一対の唇、そして更に奥より覗く女性の秘めたる部分・・・。本来は隠して
おかれるべきその器官を、こうやって描かれることなどないはずの部分を描きとっていくのに
従いまして、わたくし自身も興奮してきてしまいました。
ふと、モデルさんの顔を見ますと、その表情は恍惚としておられました。よく見れば、性器
がうっすらと光ってもいます。全てを露わにし、描かれることで興奮されておられるのです。
それを見たわたくしの胸も、何か高鳴ってしまいます。ご老人のおっしゃられる通り、その姿
はとても美しく感じられました。
「お疲れ様です。少し休んでくれて良いですよ」
モデルさんは、全てをわたくしたちに描かせますと、赤い顔のまま脇へと消えていかれまし
た。しかし、この後思いもかけない事態になられたのです。
「おやおや、それは困りましたね」
休憩の最中、一人の男の方に耳打ちされたご老人が、困ったような声を上げました。
「どうかされたのですか?」
わたくしは、気になったので尋ねてみます。
「いやいや。もう一人来るはずでしたモデルが、来られなくなってしまったらしく」
ご老人は力なく、答えます。
「どうやら、今日はここで中止するしかないようですね。同じモデルで続けるわけにもいきま
せんし、それに後半は二人でなければ出来ない構図もありますから・・・」
ご老人は、いたく落胆されたご様子でした。
「あの、もしよろしければわたくしが代わりに、モデルを・・・致しましても・・・」
思わず口走ってしまった言葉に、自分でも驚きました。自分からヌードモデルを志願するな
ど、わたくしはいったい・・・。
「本当に、よろしいのですか?」
「はい・・・」
念を押されてきたご老人に、わたくしは肯定の答えを返しました。そうです。せっかく多く
の方が集まられておられるのですから。中止になどするのは残念ですから。みなさまの、お役
に立てるのでしたら・・・。わたくしは、様々な理由を付けて、自分を納得させようとしてい
ました。
「それでは、お願いしますね」
わたくしは、モデルとなることを承諾し、その舞台へと向かいました。
わたくしは先程女性の方がいらっしゃった場所まで行き、防具を脱ぎ始めます。多くの方が、
わたくしの脱衣の様子を見ておられます。わたくしは、その視線に耐えられず、体を縮こまら
せて服を脱いでいきました。
全てを脱ぎ捨てたわたくしですが、やはり大切な所はさらけだすことができずに、ヴィーナ
スの誕生の絵のように、胸と下腹を両腕で隠したポーズでみなさまの方に向き直りました。
「なるほど。そうやって、恥ずかしそうに隠している姿も、なかなか美しいですな。そうです
ね。初めですし、まずはその姿を描きましょうか」
ご老人の言葉が終わると、みなさまがわたくしを描き始めました。視線がわたくしの体を這
いまわり、紙の上をペンが走り回ります。その紙の上には、わたくしの姿が描き出されている
のでしょう。
「それでは、そろそろ次のポーズをとって下さいますか。あなたがここに来た時に、モデルの
少女がしていたのと同じポーズをとってくださいますかな?」
最初にとっていたポーズ、脚を揃えて座っておられたポーズですね。わたくしはそのまま後
ろに下がり、噴水の淵に腰を下ろしました。そして、下腹を隠していた左腕を体の横に置きま
す。
しかし、胸にまわした腕を下ろす事ができませんでした。両脚をきつく閉じているので、下
は手を外しても直接は見えませんが、こちらを外すと胸がまる見えになってしまうのです。こ
れまでの旅の中で、胸を見られたことも何度かありますが、今までのそれは不可抗力によるも
のばかりです。自らの意思でそれを晒すことには、やはり抵抗がありました。
でも、これを外さなければ先程の方がしておられたポーズにはなりません。それに、この程
度のものは、裸婦像としてはごく普通のもの。むしろ、ソフトな部類に入るものでしょう。それ
ほど気に病むことではないのです。わたくしは、そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと腕を下ろ
していきました。
わたくしの胸が、外気に触れます。そして、再びペンが紙を走る音が聞こえてきました。わ
たくしの思い過ごしかも知れませんが、胸を見ている割合が他の部分よりも多いような気がし
ます。わたくしは、先程胸の描写を褒められたことを思い出します。わたくしの胸も、あのよ
うに丹念に描きとられているのでしょうか?
「あっ」
わたくしは自分の体の変化を感じ、小さく声を洩らしました。胸の先端に、血が集っていく
のを覚えたのです。おそらく、固く勃立してしまったのでしょう。モデルであるにも関わらず、
このような変化を示すなんて。わたくしは、自らの体の生理に赤面しました。
心なしか、みなさま方は先程までよりも熱心に、わたくしの胸を見ているように感じます。
その変化に、気付かれたのかも知れません。このようなわたくしの姿を見て、みなさま、どう
思われたのでしょうか?
「そろそろ、次を頼めますかな?」
胸に集中するばかりに、時間の経つのを忘れてしまったみたいです。随分と長い間このポー
ズをとっていたようです。みなさま、もうとっくに書き終わられていたようでした。
「今度は、そのままの姿勢で脚を開いてくれませんかな?」
「えっ」
つまり、わたくしの秘部を晒して見せて欲しいということでした。でも、それは予想してい
ないことではありませんでした。先程のモデルさんがしておられたような姿勢をとらせれるで
あろうことは、最初からわかっていたことでした。しかし、いざその時となると、動揺は隠せ
ませんでした。
みなさま、わたくしの方に注目していらっしゃいます。そんな中で、自ら脚を開く事など、
わたくしには出来そうにもありませんでした。
「どうしました?」
わたくしが動かないのを見て、ご老人が声をかけて下さいます。そうです。みなさま、わた
くしが次のポーズをとるのを待っていらっしゃるのです。わたくしのわがままのために、みな
さまを待たせているのです。しかし、わたくしは自ら性器を晒すことなどできません。でした
ら・・・、
「わ、わたくしを縛って下さい。他人の力で開かれ、拘束されたならば、わたくしは全てを見
せる事ができます」
「それは、できませんよ」
「えっ?」
意外な返答に、わたくしは思わず聞き返しました。
「強引に晒され、戒められた姿。確かにそれも一つの美でしょう。けれど、今私が描きたいの
はそういうものではなく、お嬢さんが自らの意思で全てを晒した姿なのです。別に、焦らなく
て構いません。お嬢さんがその気になるまで、いつまででも待たして頂きますから」
わたくしの意思で全てを晒した姿・・・。わたくしたちを守るために、全てを晒すことを選
んだ望さん。わたくしの体を覆い隠すようにして、ご自分は全てを見せつけておられた水さん。
これまでの旅での、お二人の姿が思い浮かびました。わたくしに、お二人の真似が出来るので
しょうか?
ご老人や周りの方々は、じっとこちらを見つめていらっしゃいます。けれど、それはけして
脅迫めいたものではなく、とても穏やかな視線でした。本当にわたくしが脚を開くまで待って
いて下さるようです。その視線に、応えませんと。わたくしは、モデルなのですから、描き手
の意思に沿うようになさいませんと。これ以上、みなさまに迷惑はかけられませんから。わた
くしは、ゆっくりと両脚を広げ始めました。
脚が少しずつ広がるのに従って、その間に空気と、そして多くの視線が入り込んでくるのを
感じました。わたくしは、気圧されそうになるのに必死に堪えまして、少しずつ、少しずつと
脚を開いていきました。
「もう少し、広げてくれませんかな? 少し、見にくいですので」
何が見にくいのか、そのようなことは敢えて尋ねなくてもわかります。みなさま、やはりわ
たくしのその部分をご覧になろうとしておられるのです。わたくしは、顔を羞恥に染めつつも、
すでに大きく広げた脚を更に開いていきました。
全ての目線が、わたくしの秘部に集まっています。ほぼ一直線に広げられた脚の間で、わた
くしの羞恥の部分には影さえもできていませんでした。
「み、見られているのですね・・・」
わたくしは、耐え切れずに目をつぶりますが、それで視線が消えるわけでもございません。
暗闇の中で、わたくしの性器が見られている様を、より生々しく想像してしまいました。
「思った通りです。お嬢さん、とても良い表情をしていますね」
ご老人の満足そうな声が聞こえると、三度目となるペンを走らせる音が聞こえてまいりまし
た。それにつられるように、多くの音がそれに続きます。恐る恐る目を開きますと、みなさま
がペンを走らせているのが見えました。
みなさま、真剣にわたくしのことを見ておられます。絡みつくような目線が、体の隅々まで
入ってまいります。しかし、それはしごく当然のことでしょう。わたくしは被写体で、みなさ
まは画家なのですから。そう、わたくしは、ただ見られているのではなく、"観察"されている
のですから。
紙上を筆が滑る度に、わたくしの明確な姿が描き出されているのです。手足のしなりを、体
の線を、胸の曲線を、そして、陰部の繊細な様子さえも描き記されているのでしょう。
全てを晒し描かれている。その事実は、わたくしの心に新たな感情を芽生えさせていきまし
た。思えば、先程女性の方を描き写していた時、わたくしの心があれほど高鳴ったのは、モデ
ルの女性にわたくし自身を重ねていたからなのかも知れません。大勢の方の前で、陰部さえも
被写体としているその姿を、わたくし自身に見立てていたのです。わたくしも、全裸を晒すこ
とを、自らの陰部を描かれることを望んでいたのです。
いえ、あの時だけではありません。もっとずっと昔から、普段静物デッサンをしている時か
ら、いつかわたくしがそこに立って、ヌードモデルとして描かれることを望んでいたのでしょ
う。わたくしの全てを描かれることを・・・。
そして今、まさにその通りになっています。わたくしは膨らみかけた両の乳房や、薄い陰毛
の下に息づく肉の割れ目さえも被写体として提供しているのです。
「それでは、頼みますよ」
視姦に酔うわたくしに、ご老人の声が聞こえてきました。しかし、それはわたくしにではな
く、わたくしの後ろにいる人物に向けて放たれた言葉でした。そして、すぐ後ろから細い腕が
わたくしの体にまわされます。
「心配しないで。わたしに全て任せてくれればいいから」
耳元で囁かれた声は、先程のモデルさんの物でした。
「な、なにを・・・」
なんと、彼女はわたくしの胸を揉み始めたのです。
「ほら、モデルが勝手に動いたらダメでしょ」
「は、はい・・・」
彼女は胸を愛撫し続けます。その表面を撫で回したかと思いますと、今度はそれをパン生地
のように揉み解し、更にすでに尖りきっているその先端を摘み上げました。
「あ・・・」
敏感な部分に触れられ、わたくしは声を抑えられません。その苦悶の表情を、わたくしたち
がじゃれ合う姿を、描きとられているのです。
充分にわたくしの胸をいたぶった彼女の手が、ゆっくりと下に降りて来ます。新しい玩具を
目指して・・・。わたくしに、それを拒む事は出来ません。モデルが勝手に動く事は許されな
いのですから。
くちゅ
指が目的地に到達した時、淫靡な音が響きます。それは、ほんのささいな音でしたが、わた
くしにはとても大きく感じられました。
「うふ、すごく濡れてるわ。ほら、こんなに糸を引いて・・・」
陰部が淫らな反応を示している事は、すでにわかっていた事でした。しかし、改めてその事
実を突きつけられると、赤面してしまいます。
「エッチね、見られて感じちゃった?」
「・・・」
意地悪にも尋ねてくる彼女に、わたくしは沈黙でのみ答えます。そのような、わたくしの反
応を楽しむかのように、彼女は羞恥の泉に手を伸ばしました。
しばらく、割れ目を指で前後になぞります。そして、今度はその指で両の大陰唇を摘みます
と、わたくしが身構えるよりも早く、それをいっぱいに開いてしまわれました。
「・・・くふぅ」
ついに、わたくしは中まで晒されてしまいました。外気がそこを撫でます。陰核や尿道口、
膣口までも太陽の下に晒しているのです。
みなさまに描かせるため、わたくしはしばらくそのままの状態にされました。やがて、わた
くしの細部までみなが描き終えた事を確認すると、彼女は再びそこに指を這わせてきました。
陰核を摘み上げ、膣口を擦り、そこに軽く指を挿入して来られます。
「あ、ああ・・・」
「うふふ、かわいい声」
わたくしの反応を楽しむように、彼女はわたくしの内部をかき回します。その度に、くちゅ
くちゅという淫らな水音が奏でられました。
「すごく、粘っこい液が出てきたわ。本当に感じているのね」
彼女は指だけではなく、言葉でもわたくしを責めたててこられました。わたくしは、もう息
も絶え絶えで、ただその責めを受け続けました。
「そろそろ、よいですかな?」
ご老人の合図に、彼女はうなずいたようでした。指を動かす速度を速められます。
「ああ、そんな、激しく、なさらないで・・・」
「さあ、イっちゃいなさい。みんなの前で、思いっきり恥をかくのよ」
彼女の声は、わたくしに届いたのでしょうか? わたくしは、指の動きに翻弄され続けてい
ました。快楽の波が激しく押しよせてきます。こんな大勢の方の前で、再び恥をかいてしまい
ます。見られ描かれながら、達してしまいます。ああ、もう駄目です。わたくし、もう・・・。
「あああ・・・!」
自身でも驚く程の大きな声を上げると、わたくしは、そのまま体をぐったりとさせてしまい
ました。それをじっと見つめる多くの人の姿が目に入ってきます。それがしだいにぼやけ、意
識が薄れていきました。
再び目を覚ました時、わたくしはもとの洞穴に戻って来ていました。
『気がつかれたようですね』
セイレーンさんの声が、わたくしに聞こえてきました。
『あなたの純粋な羞恥心、見せてもらいましたよ』
「純粋な、羞恥心ですか?」
わたくしは、街での出来事を思い出し、頬を染めます。
『羞恥というのは、少なからず憎悪や嫌悪、妬みや苦しみといった負の感情を含む物です。そ
して、この世界の魔物はそういう羞恥心に含まれる負の部分が作り出したものなのです』
セイレーンさんは優しく語り続けます。
『でも、あなたの心にはそれがなかった。純粋に羞恥のみを受け入れていました』
「わたくしを、認めて下さったということですか?」
『ええ。あなたは羞恥騎士として相応しい人物です。あなたになら、力をお貸しする事ができ
ます。でも、その前に・・・』
セイレーンさんは何かを持って、わたくしの目の前まで来られました。
『これをお渡ししておきます。あなたが持っているほうが相応しいでしょう』
それは、一冊のスケッチブックでした。それも見覚えのあるものです。
「もしかして、これは・・・」
『あなたの思っている通りですよ。さあ、そろそろ私の力を与えましょう』
セイレーンさんは緑色の光の玉となって、わたくしの胸の宝石に吸い込まれました。それと
同時に、わたくしの防具が成長致します。
『必要な時はお呼び下さい。いつでも、あなたの力となりましょう』
セイレーンさんの声が、再び聞こえます。
『それともう一つ』
セイレーンさんの言葉を続けようとします。その言わんとなさっていることは、わたくしに
は想像がつきました。
「このことは、望さんには秘密にしておいて欲しい、ということですね?」
水さんも、試練の事は全くおっしゃろうとはなさいませんでしたから。
『ええ。もう一人の方にも、公正な条件で試練を受けて頂きたいので』
「了解しました。お約束致します」
『よろしくお願いします』
そして、セイレーンさんの声は聞こえて来なくなりました。わたくしは、渡されたスケッチ
ブックをめくってみます。
そこには、わたくしの様々な姿が描き出されていました。直立して胸と股間を隠したものか
ら始まり、胸を晒して横座りになったもの、そして脚を広げて全てを晒したものと続きます。
モデルの女性の方の指で陰部を広げられた絵などは、暴き出された細部までも明確に描かれて
いました。
わたくしは、胸を熱くさせながらページを進めていきます。最後に描かれているのは、性器
を嬲られ絶頂に達する時のものでした。意識を失う寸前のわたくしの姿が描き出されています。
その艶かしい、そして美しい表情は、まるで自分のものとは思えません。
わたくしはページを閉じると、その宝物を胸の宝石へとそっとしまい込みました。さあ、そ
ろそろ帰りませんと。望さんたちが待ちわびていらっしゃいますわ。
防具がいきなり光り始める。そして、その姿を変えていった。
「防具が、成長した!」
「空、上手くいったみたいね」
そう、この防具の変化は、空ちゃんが乙女を復活させるのに成功した証なんだ。
でも、これでまた防具の面積が小さくなってしまった。上はブラというよりも、もう細い帯
になってしまっている。それも、乳首がやっと隠れるくらいの細さだ。下も、紐をT字型に結
んだだけのもの。はっきり言って、これじゃただの褌だよ。こっちもかなり細くて、辛うじて
割れ目を隠しているだけ。もちろん、ヘアなんかほとんどははみ出してしまっている。服を着
ていると言うよりは、ただの紐を身に付けていると言った方が正しかった。
とにかく、すごい格好。どう考えても、年頃の女の子がする格好じゃないよ。
「この格好じゃ、ちょっと人前には出られないよね」
私は、笑いながら水ちゃんに同意を求める。
「えっ? う、うん。そうよね」
水ちゃんは、何故かしどろもどろに答える。どうしたんだろう。いつもの水ちゃんらしくな
い。
「ほ、ほら。そろそろ空が戻ってくるはずだから」
まあ、いいか。とりあえず空ちゃんを待たなきゃ。
しばらく経って、空ちゃんが帰ってきた。でも、意外な事に私たちが登ってきた山道から現
れたんだ。
「やはり、頂上まで来ていらしてましたか」
「えっ、だってここに入り口があると思ったから・・・」
「入り口は、ここに来る途中の岩の後ろにあったのですわ」
そうだったんだ。全然気が付かなかった。
「やはり、普通の方にはおわかりにならない所のようですわね」
普通には発見できないから。だから、この剣が必要なんだ。
「空、お疲れ様」
水ちゃんが、横から声をかける。
「はい。なんとか、上手くいきましたわ」
はにかみながら微笑む空ちゃん。水ちゃんもそれを見て恥ずかしそうな顔をした。
「これで、残る乙女もあと一体だけですわね」
「そうね。あとは望だけね」
そう、遂にここまで来たんだ。私は剣を真上に掲げる。そこから放たれる光は、私たちの希
望の光であり、この世界の未来を開く光なんだ。
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