第三話「儀式」


 係官の案内で、少女達は宿舎へ移動する。  ひかりは、目を真っ赤にし、時折肩を震わせていて、ミリーは、どうにかいつもの気の強さを取り戻し、  まだ潤んでいる目を時折拭いながら、ひかりや綾奈の手を取り、元気づけようとしている。  綾奈は、小さな泣き声をあげながら、ぎゅっとミリーの手を握っている。  やがて、係官と少女達は、エレベーターに乗る。  そして、そのエレベーターを降りると、大きな施設に着く。  そこは、ミエルスの乗組員達専用の施設らしく、レストランや、カフェ、また、様々な買い物を出来る店  などが集まっている。  そして、沢山の乗組員達が、カフェでくつろいでいたり、大きな買い物袋を抱えていたりしている。 「うわぁ・・・、すごい・・・。」  ひかりが思わず呟く。  ミリーや綾奈も、驚いて辺りを見回している。 「みなさん、ここが、ミエルス乗組員宿舎です。ご覧の通り、様々な施設も併設されておりますので、不足の物  などありましたら、後ほどお揃え下さい。では、こちらへ。」  係官の案内で、少女達はまた歩き出す。  すると、通路の左側が、一面のガラス張りになっていて、そこからは、ミエルスの中にある町の様子が一望できる。 「うそぉ・・・、ねえ、ミリー、あやりん、町があるよ。宇宙船の中なのに・・・。」  ひかりが信じられないと言うように二人に言う。 「きゃー、すごい。ねえ、おじさん、どうしてなの?」  綾奈が係官に尋ねる。 「ええ、ミエルスの艦内には、ご覧の通り、一つの都市が造られています。我々乗組員だけでなく、数多くの民間人も、  ミエルスに乗って旅立つのです。彼らは、我々の募集に応じた方々や、十三年前の忌まわしい事件で、愛する人を  さらわれた方々です。ミエルスに乗ることで、我々の支援をして頂きたいと集ってもらったのです。  ミエルスの艦内とはいえ、皆さん普通に生活しておられますし、見てのとおり、擬似的な物ですが、青空もあります。  雨なども降らせるときがあるんですよ。あなた方も、非番の時などは、町へ出てリフレッシュすることが出来ます。  さあ、こちらへ。」  少女達は、係官の説明に関心の溜息をもらし、また歩き出す。 「ここが宿舎になります。こちら側が女性用宿舎で、男性用宿舎は、施設の反対側にあります。中には、専用食堂や、  運動が出来るスペースなどもありますので、希望に応じて利用して下さい。では、私はここで。」  係官は、少女達に説明し、一礼して去っていく。  すると、宿舎から一人の女性が出てくる。 「いらっしゃい、合格おめでとう。」  女性が三人にそう言うと、ひかりが嬉しそうな声を上げる。 「あっ、美咲さん。ありがとうございます。」 「あら、覚えてくれてて嬉しいわ。ミリーさんも、良かったわね。」  美咲はミリーに微笑みかける。 「はい、なんとか合格できました。」  ミリーも微笑んで挨拶する。 「ねえねえ、綾奈にも紹介して?」  綾奈が、ひかりの腕を引っ張って言う。 「あらあら、ごめんなさい。柿里綾奈さん、よろしく。私は、ミエルス艦橋オペレーターをしている、綾瀬美咲よ。」  美咲は、綾奈に微笑む。 「ええ?何で綾奈のこと知ってるのぉ?」  すると、美咲は笑いながら綾奈に言う。 「うふふ、私は何でも知ってるのよ。あなた達はヴィーナス隊配属だから、これから私と接する機会は多くなるわ。  これからもよろしくね。」  美咲は、三人の検査を裏で見ていたことなど微塵も感じさせずに言う。 「あ、はい、よろしくお願いします。」  綾奈は少し赤くなりながら挨拶する。 「さ、じゃあ、あなた達の部屋に案内するわ。部屋割りなんだけど、あなた達は一緒の部屋になるの。  よろしいかしら?」  美咲に言われ、三人は嬉しそうに頷く。 「よかった。みんなと一緒で。」  ひかりが微笑み、ミリーは綾奈に抱きつかれて笑っている。 「ふふっ、仲が良くて羨ましいわ。私とも仲良くしてね。」  美咲は意味深な微笑みを浮かべて、ひかりの頬を撫でる。 「あ・・・、は・・・、はい・・・。よろしくお願いします。」  ひかりは真っ赤になって美咲にお辞儀をする。  そして、美咲の後ろについて、三人は部屋に移動する。  宿舎といっても、艦内のことなので、特に綺麗な装飾がされているわけではなく、試験を受けた階と同じく、  無機質な廊下が延びている。  美咲が、一つの扉の前に立ち止まり、カードを差し込んでロックを開ける。 「ここがあなた達の部屋よ。荷物はもう運んであるから、それぞれ整理してね。後、これがあなた達の認証カード。  これで部屋の出入りや、各施設の利用をすることになるから、無くさないようにね。」  美咲は三人にカードを手渡す。 「はい、わかりました。」  三人は、頷いて、カードを受け取る。 「部屋には、お風呂とトイレは備え付けてあるから。お風呂も結構広いから、三人で仲良く入っても大丈夫よ。」  美咲がそう言うと、三人は少し赤くなる。 「うふふ、何か足りない物とかがあったら遠慮なく言ってちょうだい。じゃあ、これから、しばらく休憩しててね。  二時間位したら迎えに来るから、その時に、みんなに、ミーティングルームで、ヴィーナス隊の説明があるわ。  じゃあ、ゆっくりしててね。」  美咲は、三人に手を振り去っていく。 「ねえ、ひーちゃん、美咲さんってすごく綺麗な人だね。」  綾奈がひかりに言う。 「そうね、憧れちゃう。あんな綺麗な大人の女性になりたいな。」  ひかりも、うっとりとして言う。  そして、三人はそれぞれ荷物を整理し始める。  二時間後、三人は、美咲に連れられて、ミーティングルームへと移動する。  その部屋は、少し広めの会議室といった感じで、機能的なデザインの机と椅子がずらりと並べられている。  他の少女達も続々と集まってきていて、部屋は少女達独特の熱気に包まれている。  三人は、他の少女達と挨拶を交わし合いながら、美咲に言われた席に座る。  そして、美咲は部屋の前に並んでいる女性達に一礼し、部屋を出ていく。  そこには、ミエルスの制服に身を包んだ十二人の女性が座って並んでいる。  ローラの姿もあり、美咲にウインクをしている。  やがて、少女達が集まったところで、ローラが前に進み出て、少女達に話し始める。 「ようこそ、ミエルスへ。皆さんは、検査の結果、ミエルス艦載機、ヴィーナス隊に配属されました。  そこで、まず、ヴィーナス隊の先輩達を紹介します。」  ローラは、そう言って、後ろに並んだ女性達を紹介していく。  いずれも、美しい女性達で、優雅に少女達に自己紹介をする。  少女達は、その美しさに羨望の眼差しを向けながら、一人が紹介を終わる度に拍手をしている。  そして、最後にローラが自己紹介をする。 「私は、ローレライ・フォックス少佐です。ヴィーナス隊の総隊長をしています。皆さん、よろしく。そして、  これより、皆さんには、少尉の階級が与えられます。ここに並んでいる先輩達が、皆さんの上官になりますので、  私達の言うことをしっかり聞いて、これから一緒に頑張っていきましょう。」  ローラがそう言うと、少女達は一斉に元気な返事をする。 「それでは、あなた達の所属する中隊を発表します。皆さん、一度席を立って後ろに移動して下さい。  呼ばれた順、つまり、中隊毎に席順を並び替えます。中隊は十二の隊があります。ここに並んでいるのが  それぞれの中隊長です。ではまず、ガーネット中隊、これは、私が指揮をする中隊です。一条ひかりさん、  ミリエラ・ジュネスさん、柿里綾奈さん、前に出てきて下さい。」  一番最初に呼ばれ、三人は驚きながら前に出る。 「こんにちは、ガーネット中隊へようこそ。私の言うことを聞いて、しっかりやるのよ。」  ローラは三人に微笑みかける。 「はい、フォックス少佐。」  ひかりが、緊張しながら言うと、ローラは大笑いする。 「あはははは、そんな緊張しないで。堅苦しいことは無しだから、楽しくやっていきましょうね。」  ローラの言葉に、ひかりは恥ずかしそうに微笑みながら頷く。  ミリーと綾奈も、ローラに一礼して席に着く。 「じゃあ、次は、アメジスト中隊、・・・。」  次々に少女達の名が呼ばれ、全十二の中隊が揃う。 「これで、ヴィーナス全隊が揃いました。これから、このメンバーで、ヴィーナスの操縦訓練をすることになります。  そして、これより中隊毎に、中隊長から、ヴィーナス搭乗のための説明が行われます。それぞれの中隊長の指示に  従い、移動して下さい。」  ローラがそう言うと、各中隊長の女性達が立ち上がり、隊員となった少女達に声をかけ、移動していく。  やがて、部屋には、ローラと、ひかり達の三人だけとなる。  ローラは、急にリラックスしたようになり、三人の前に無造作に椅子をおいて腰掛けると、大きな溜息をつく。 「ふうううぅ・・・、ああ、疲れた。さて、あなた達は、明日から、私の下で、ヴィーナスの操縦訓練をしてもらうわ。  明日から、あなた達に、一機ずつヴィーナスを任せることになるんだけど、ヴィーナスには、操縦者を識別する  システムが搭載されているの。これはね、ヴィーナスの悪用を避ける為と、ヴィーナスの能力をより一層引き出す  為なのよ。」  ローラは一旦言葉を切り、ひかり達を見つめる。  三人とも、神妙な顔をして頷く。 「で、その識別方法なんだけど、これを使うの。」  ローラは、三人にそれぞれ箱を渡す。  ひかりが箱を開けると、そこには、金属製の細長い棒が入っていた。  その棒は、太さは三センチくらいで、一方の端は、平らになっていて、もう一方は、丸くなっている。  表面はつるつるしており、真ん中らへんに、白い帯のような模様がついている。  そして、平らになっている面には、ひかりの名前が刻印されている。  ミリーや、綾奈も、同じ物を受け取る。 「これはね、ヴィーナスのコントロールユニットよ。これが無いと、ヴィーナスは起動できないの。  これに、これからあなた達のデータを入れてもらわなきゃいけないんだけど・・・。」  ローラは、そこで言葉を切る。  三人は、箱を持ちながら、ローラの言葉を待つ。  そして、ローラは少し言いにくそうに話し始める。 「あのね、データって言うのは、あなた達の血液なの。」  すると、綾奈が不思議そうに尋ねる。 「血を入れるんですか?お注射するの?」  ローラは、綾奈に困ったような微笑みを向ける。 「うん、ある意味お注射なんだけど・・・、どう言えば良いかな・・・。うーん・・・、よし、はっきり言うわ。  これに入れなければならない血って言うのは、あなた達の処女が破られるときの血なのよ。  つまり、今から、これをあなた達のアソコに入れて、処女膜を破って欲しいの。」  ローラの言葉に、三人は唖然となる。 「そんな!どうして?どうしてですか?何故そんなことをする必要があるんですか?」  ミリーが、信じられないとばかりに言う。 「それはね、ヴィーナスという戦闘機の特殊性にあるのよ。ヴィーナスは、もともと、このミエルスと同じく隕石  から発掘された機体のデータを取って作られたんだけど・・・、ヴィーナスはね、男性では乗ることすら出来ないの。 そして、女性の場合でも、一度でも男の人と経験を持った女性は動かすことが出来ないのよ。パイロットの処女血を  認識しない限り、ヴィーナスはただの模型のような物なの。だから、あなた達がヴィーナスのパイロットに  選ばれた理由の一つがそれなの。辛い検査を受けたでしょう。あの時に調べられたのよ。  でね、これは、女の子にとってすごく大事な物に関わることだから、明日以降、ヴィーナスに乗るかどうかは、  あなた達の意思に任せるわ。今晩ゆっくり考えて、もし、ヴィーナスに乗ることを選ぶ場合は、そのユニットで、  自分の処女を破って、明日、私の所に持ってきて。どうしても嫌な場合は、私たちは強制はしないわ。  でも、残念だけど、ミエルスからは降りてもらって、家に帰ってもらわなければならないの。」  ローラの言葉に、三人は俯いてしまう。 「じゃあ、これから部屋に戻ってゆっくり考えて。では、解散。」  ローラがそう言うと、三人は箱を持ってうなだれながら部屋に戻る。  ローラは、少女達を見送り、小さな溜息をつく。 「大丈夫かしら・・・、出来れば残って欲しいわ・・・。でも、まだ処女なら良いわよ・・・。私の時なんて・・・、  お尻だったんだから・・・。」  ローラは、その時のことを思い出して身震いし、部屋を出ていく。  ひかり達は、部屋に戻ると、真ん中にそれぞれの箱をおいて、その周りに座る。  そのまま、かなりの長い間、三人は無言で座っていた。 「ミリー・・・、あやりん・・・。どうするの・・・?」  ひかりは、箱を見つめながら、力無く尋ねる。 「どうしよう・・・。まさかこんな事になるなんて・・・。」  ミリーも、小さな声で呟く。 「ひーちゃん・・・、ミリー・・・、私・・・、やるよ・・・。だって、せっかくここまで来たんだもん・・・。  辛いけど・・・、綾奈・・・、ぐすっ・・・、ひっく・・・。」  綾奈は、泣きながら二人に言う。 「綾奈・・・。私も・・・、私もやる・・・。宇宙に上がりたいから・・・、ミエルスに乗っていたいから・・・。」  ミリーも、目を潤ませながら言う。 「あやりん・・・、ミリー・・・、そうよね・・・、夢だったんだもん・・・、ずっと小さい頃からの夢・・・。  ようやく宇宙に手が届くところまで来れたんだもん・・・。私もやる・・・。みんなで、ヴィーナスに乗ろう・・・。」  ひかりがそう言い、三人の少女は、涙に濡れた目で頷きあう。 「でも、どうやるの・・・?初めての時って、すごく痛いんでしょ?」  綾奈が不安そうに言う。 「ああ、そうらしい。友達が言ってたよ。」  ミリーも俯きながら言う。 「ねえ、みんなで順番にやろう。それまでに、お互いに・・・、少しでも楽になるように・・・。その・・・。」  ひかりが、恥ずかしそうに提案する。  ミリーは、ひかりの意図を理解し、顔を赤くしながら頷く。 「そうだね、そうしよう。そんな事したこと無いけど、みんなで頑張ってみよう。」  それを聞いていた綾奈が不思議そうな声を上げる。 「ねえ、何をするの・・・?綾奈にも教えて?」  すると、ミリーが真っ赤になりながら説明しようとする。 「あのね、綾奈。その・・・、初めての時の痛みを楽にするには・・・、少しでも・・・、ア・・・、アソコを  濡らさなきゃいけないだろ。だから、これから・・・、お互いに・・・、その・・・。」  ミリーの言葉を聞き、綾奈は真っ赤になる。 「あ・・・、そう言う事・・・。やだ・・・、恥ずかしい・・・。でも・・・、綾奈・・・、ひーちゃんやミリーと  一緒なら・・・、我慢できる。」  綾奈は、恥ずかしそうに微笑んで言う。 「あやりん・・・、ミリー・・・。じゃあ、まずお風呂入ろう。綺麗にしてから・・・、みんなで・・・、しよう・・・。」  ひかりは、明るく提案しようとするが、恥ずかしさで声を小さくしてしまう。  ミリーと綾奈も頷き、三人は風呂場へ向かう。  少女達の長い夜が、今、始まる・・・。  予告!  喜びに浸る間もなく、少女達に告げられた衝撃の事実  ひかり達は、考えた末、ヴィーナスに乗ることを決断する。  少女達が、大切な物を失う夜が、今、始まろうとしていた・・・。  次回!超羞恥要塞ミエルス 第四話  「喪失」  お楽しみに!


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