第1話「料理勝負」(挿絵:ぺた@ぺん)


※時々CGと文字が重なる場合がありますので、その時は1回再読み込みしますと直ります。

 午後6時、私は食品会社の社長と役員数名、あと開発部の部長・課長、 そして川坂くんと一緒にある料亭に行った。  それは、ただの会食ではなくライバル会社”木佐下食品会社”との月1 回の料理勝負の為だった。。  崎上と木佐下のこの両会社は共に大手の食品会社であるせいか、ものす ごく仲が悪かった。  その2大食品会社が月1回、いろいろなテーマに沿って料理勝負を行い、 勝負に負けると相手の新製品を少しストップかけることが出来る。  当然、両社は本気で毎回勝負しており、その料理の担当になってしまっ た私と川坂くんも必死であった。  今回のテーマは鍋物であり互いの鍋物が招待客・両社の出席者に並べら れ、それをみんなで審査して勝敗を決める。  今回は川坂くんのアイデアが勝り、私の会社の勝ちが殆ど決まったので あったのだが・・・ 「ふっ。アイデアはいいがこのだしがなってないな・・・」 「な・何だと!!陸永洋蔵!!負け惜しみか!!」  川坂くんはすごい勢いで相手側の会社の料理担当者の陸永に向かって怒 鳴った。

陸永洋蔵(りくなが ようぞう)。
本来ならこんな社どおしの対決には出てこない
大物の美食家であり、天才料理人でもあった。

そう、この人が木佐下との料理勝負に参加して
から、だんだんとすごい勝負になってしまった
のだ。
「・・・隼人。わしが今回使わなかったこのだし
を味わってみろ!!」

「・・・・・!!こ・これは?」 「どうだ?隼人。お主のだしがどんだけ失敗したかわかったか」 「陸永洋蔵ぉぉーーー!!」 「川坂さん。やめましょう。勝負は私たちが勝ったんだから」 「・・・・・・・・・」  そう、実は川坂くんは陸永洋蔵の実の息子であり、中学の頃に家を飛び 出して絶縁状態になっている間柄だった。 「隼人よ。こんな事だからいつまで経ってもくだらん物しか作れんのだ」 「ーーーーーぐぬっっーー」 「川坂くん。もうやめたまえ。陸永さんも刺激しないで下さいよ」  崎上社長が2人を止め、ようやく川坂くんも落ち着きを取り戻した。  そんな時、相手側の木佐下がやっかいにまたお互いに火をつける様な発 言をしてきた。 「あのー崎上社長。次の勝負はどうします?次はたしかお互い50周年で すよね」 「ええ、そうですが。それがどうかしましたか?」 「せっかくの50周年です。ここは珍しい料理勝負で行きませんか?」 「珍しい?それはどんなものなんですか?」 「そこまで私は考えてませんよ。そちらでも何か考えてくださいよ」 「まあ、うちは構いませんが。どうだい?川坂くん?桜野くん?」 「ああ、いいとも」「私もいいですが」 「じゃあ、決まりだな。あとは負けた時のペナルティだが・・・どうだ、 この際50周年だから向こう半年間の相手と類似する新製品を全て止める という事は?」 「な・なんだとー!?」 「ふふ、こわいのか?崎上?まあうちは陸永先生がいますしね。ひひっ」 「ぐぬー。わかった!その勝負うけて立とうじゃないか!!」 「さすが、崎上。じゃあ後は料理を何にするかだ?そちらの2人何かない かね?」 「・・・珍しいもの?じゃあ例えば今では食べられない料理とか?」 「なるほど。俺もそれを考えてた所だ」 「ふむ。今では食べられないものか。まさに珍品だの。さすが桜野くん、 川坂くん」  崎上社長は私たちの案にえらく気に入って木佐下社長にその案を掲示した。 「ほー。それはいいですね。じゃあ陸永先生もそれでいいですか?」  木佐下社長もその案に納得し、それで決まろうとした瞬間・・・ 「・・・ふふふっはははははははー」陸永は大きく笑った。 「!!何がおかしい。洋蔵!!!」 「隼人よ。所詮は素人の考えるものだな...情けないぞ」 「それなら洋蔵!!あんたは何かあるんかよ!!」 「ふふっ。木佐下さん。たまには下衆なものにしませんか?」 「下衆なもの?なんですか先生。それは?」 「木佐下さん。この間あんたがそっちの課長と食したと言う低俗料亭の下 衆なものですよ」 「!!!せ・先生。ちょ・ちょっとこんな所であの話は?」  木佐下は真っ青になりながら陸永を何とか口止めしようとしていた。 「木佐下?何そんなにあわててる?」 「うるさい!!崎上!!先生ーー悪ふざけはやめて下さいよー」 「悪ふざけではない。わしは真剣だ。だが隼人には無理かも知れんな」 「な・何だとー洋蔵!!何だかしらないが受けてやる!!」 「ふふ、いいだろう。テーマは”女体盛り”だ!!」 「な?」「え?」「何だ?」  そこにいる全員は陸永の言葉に固まってしまった。  まさかこんなすごい美食家が言う言葉ではなかったのであった。 「はっははは、洋蔵!あんたも地に落ちたな。何が女体盛りだ?ばかか?」 「先生ーーー何ばかな事を。ほら私まで恥をかかれてしまってますよ」 「木佐下さん。わしは決して下衆な考えで言ったわけではない。テーマに 沿っていっただけですよ」 「ははははー何がテーマだ。洋蔵、あんたを見損なったよ」 「ふっ。隼人よ。それはわしのセリフだ。お前がイメージするのはただの 芸者遊びで見られる下衆なイメージじゃないか?」 「な?それ以外どうイメージするんだ?所詮は女体盛りだろ?」 「はははは。だから始めから無理だと言ったのだ。そんな低俗な事しか浮 かばないお前にはこのテーマの奥がわかるまい!!」 「!!!なんだとーじゃあ洋蔵。きさまは違うと言うのか?」 「もちろん。お前ごときではせいぜい女性をただ受け皿にするぐらいしか 考えられないだろうな?」 「!!わかった!その勝負、受けてやる!1ヵ月後勝負だ!!!」 「ちょ・ちょっと川坂くん」 「ふふ、お前の料理楽しみにしよう。わしをがっくりさせる様なものは出 してもらいたくないもんだ。ははははっはー」  こうして50周年記念の料理勝負に場違いな女体盛りが決まってしまい とんでもない争いになってしまった。  早速、私たちは社内に戻りこのテーマを恥ずかしいけど検討する事にし た。そんな検討の途中、川坂くんが突然土下座をしてとんでもないお願い をしてきたのであった。 「桜野さん。一生のお願いだ。女体盛りの受け皿になってくれ!!」 「ちょっとなんで私が?」 「この勝負は捨てられないんだ。決していやらしい考えで言ってるんじゃ ない」 「で・でも女体盛りって裸になるんでしょ?」 「もちろんだが、お願いだ!!あの洋蔵には負けたくないんだ!!」 「でも・・・裸になんて・・・・」 「お願いだ。是非この通りだ」  私はものすごく迷った。でも、料理になると突っ走る川坂くんの性格も わかっていた。 「・・・わかったわ。そんなに真剣なら・・・」 「あ・ありがとう。桜野さん」  私は川坂くんのあまりの真剣さに承諾をしてしまった。これが、ただの パートナだったらそんな事はしないのだが実はそれなりの関係はいってた からだ。  でも、関係と言ってもまだ互いの裸を見せた所までで肝心な1線は私が 逃げてしまった為、越える事が出来なかった。  そう将来そういう仲になるからこそ承諾したのであり、そうでなけでは こんな馬鹿な事、やるつもりはなかった。  でも、この承諾が後の羞恥につながるとはこの場では思わなかったので あった。


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どっかの料理ものを思い出させてしまうシチュエーションになってしまい
ましたが、この後の展開は全然異なりますのでお楽しみ。(^o^;)