七夕の罰の葉須香 読切
<高校1年の七夕>
高校1年の七夕が近づくある日の放課後。繰り返される葉須香の忘れ物
に、ついに担任の笛地が動いた。
「また忘れ物か、葉須香。よし、今年の七夕は願いをこめた罰をやっても
らおうか!」
「え?願いをこめたものって」
何やら楽しげに腕を組みながら言う笛地の顔には、何か良い罰が頭に浮
かんだようだった。
こうして七夕の日、忘れ物をした葉須香に、笛地がクラスの注目を一気
に集めると、机をポンと叩いて宣言した。
「高校生のお前らは短冊を書くだけじゃ面白くないだろ! お前らの願い
を、直接天に届ける……じゃなくて、“身体に貼って伝える”ってのはど
うだ!」
一瞬、静まり返った教室に、男子たちから歓喜の声が漏れた。
「え、まさか……それって……」
「葉須香ちゃんの身体に?」
「そう。七夕の罰の対象は葉須香。お前の身体が笹の葉になる!名付けて
“七夕の罰”だ!」
その瞬間、教室がざわめいた。
「先生、それって制服に貼るってことか?」
「いや、何か本当の罰っぽくて嫌だな」「ああ」
「お前ら何か勘違いしてるな。葉須香にはスクール水着を着てもらう」
「うおお、それなら納得だ!」
「そういう罰なら大賛成だな」
「そういうことで葉須香!更衣室で着替えてこい」
「わ、わかりました」
こうして、短冊をスクール水着に張ることになり、教室を出て更衣室で
着替える葉須香。
10分後、更衣室で着替えてきた葉須香が教室に戻り、場違いなスクー
ル水着で黒板の横に立った。
「こ、これで良いですか」(ぁぁ、ものすごく恥ずかしいよぉぉ)
教室でスクール水着になった恥ずかしさで顔を真っ赤にした葉須香。
そして、笛地の合図で男子たちは一斉に色とりどりの短冊を手に取った。
普段は悪ふざけばかりしている男子たちだが、この時ばかりは真剣その
もの。皆、思い思いの願い事をペンで丁寧に書き込んでいく。
いよいよ、書き終えた短冊を、葉須香の身体に一枚一枚貼っていくこと
になり、貼る場所は自由だった。
「じゃあ貼るぞー!まずは俺からだ!」
そう言って、最初に短冊を貼りに来たのは、サッカー部のエース、菊池
だ。
菊池は葉須香の左肩にそっとオレンジ色の短冊を貼り付けながら、熱の
こもった声で叫んだ。
「俺はこれを左肩に!葉須香ちゃんの忘れ物がなくなるように!」
その言葉に、教室から「あいつらしいな」と小さなくすくす笑いが広が
る。続くように、クラスのムードメーカーである松井が、葉須香のお腹の
あたりにペタリと短冊を貼った。
「じゃあ俺はお腹に貼ります。“テストで赤点回避できますように”」
「おい松井!本当の願いじゃねーか」
切実な願いに、男子たちはどっと沸いた。一枚、また一枚と、葉須香の
身体は瞬く間に短冊で覆われていく。
上から下まで……さらには頭や靴の甲まで、葉須香の紺色のスクール水
着が色鮮やかな願いに染まっていく。
まるで、手作りの装飾が施された飾り人形のようだ。
「背中、空いてるな?“来年も無事に罰がありますように!”……って、
こういう素直な願いでも良いよな?」
ひときわ大きな笑い声が響き渡る。冗談めかしたその願いに、思わず葉
須香も苦笑した。
やがて、葉須香が短冊まみれの七夕人形と化し、男子たちの願いの象徴
そのものになっていった。
短冊には、期末テストの点数アップや部活の勝利といった学校ネタから、
「来年も葉須香ちゃんと同じクラスでありますように」といった個人的な
願望、「昼飯が毎日唐揚げになりますように」といった食いしん坊な願い
まで、バリエーション豊富な文言が並んでいた。
それを読み上げるだけでも、ひとしきり笑いが巻き起こる。
おっぱいの谷間に貼られた短冊には、本当の願望が書いてあった。
「“来年はおっぱいが丸出しとなりますように”……誰だ、これ貼ったや
つ!」
クラス内に爆笑が起こる。
「俺の願い、不謹慎だけど……“笛地が罰をどんどんレベルアップしてく
れますように!”」
「いや、さすがにそこまで忘れ物が続かないだろ!」
また、クラス内が笑いに包まれる中、葉須香はもう絶対に忘れ物をしな
いんだからと固く決意した。
結果、葉須香のスクール水着の上には、希望と欲望と冗談と本音が混在
する無数の願いが重なっていく。
(…みんな、好き勝手書いてるよぉぉ)
そして、すべての短冊が貼り終えられると、葉須香の姿はもはや人間と
は言い難い、動く短冊の塊となっていた。
そんな葉須香に笛地が、一本の竹の枝を持ち、こう言った。
「願いが叶うよう、隣に竹を添えて、記念撮影だ!」
その後は男子たちが交代で竹の枝を持ち、葉須香の隣に立たせて記念撮
影が始まった。
フラッシュが焚かれるたび、短冊の隙間から葉須香の顔が覗き、男子た
ちは楽しそうに笑っていた。
その日の夜、クラスのLINEには、「七夕の願い、お届け済みです」とい
う一文とともに、短冊に埋もれた葉須香の写真がアップされた。
翌日、短冊まみれの自分の写真を見た葉須香が顔を真っ赤にして、男子
たちに文句を言ってきた。
「みんな変な願い事書かないで!これ、全部叶ったら…来年の七夕、おっ
ぱい丸出しになるじゃない!さすがにそこまで忘れ物を続けないから!」
すると男子たちは、満場一致で声を合わせて叫んだ。
「葉須香ちゃんなら、意外と叶えられるよ!」
みんながそう言った瞬間、拍手が巻き起こる。
葉須香は目を細め、悔しんだ。この七夕の罰は今年限りと、忘れ物をし
ないことを強く願っていた。
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<高校2年の七夕>
夏の気配が色濃くなってきた高校2年の6月末、職員室では不穏な空気が
漂っていた。担任の笛地が、パソコンの画面に映るカレンダーを眺めなが
ら、ニヤリと笑ったのだ。
「今年も……来るな。七夕の季節が」
その言葉は、まるで何かの儀式を予感させるかのようだった。そして案
の定──。
「あれほど言ったのに、七夕の日に忘れものをしたか、葉須香」
「す、すいません」
翌週の月曜、七夕の日。朝のSHR(ショートホームルーム)での笛地の
言葉に教室が静まり返る。
クラスメイトたちの視線が、一斉に葉須香に突き刺さる。忘れたのは英
語の単語帳。忘れたら七夕の罰をすることを承知で。
いくら「忘れ物防止ノート」を作ったり、前日に持ち物チェックリスト
を書いても、なぜか肝心な時にするりと手元から消えてしまう。もはや、
才能としか言いようがない。
笛地は胸元から、あらかじめ用意してあったとしか思えない、笹の造花
のミニ飾りを取り出した。それを手のひらで弄びながら、にやりと笑った。
「……よし。今年もやろうか、“七夕の罰”。もちろん、去年のスクール
水着からレベルアップだ」
「うわ、懐かし!そっか、去年は更衣室で着替えてのスクール水着だよな」
「それじゃまた短冊貼るのか!?」「あれ、地味に感動したんだけど」
ざわつくクラスの中で、葉須香はため息をつきながらも席を立った。
それは七夕の罰があるのを知って、忘れ物をしてしまった自分の情けな
さを感じていた。
(今年は七夕の罰はやらないと誓ったのに..)
笛地は前に出た葉須香を見て宣言する。
「去年はスクール水着に短冊を貼るだけだった。だが、今年は──」
どん、と机に置かれたのは、脱衣籠とたくさんの短冊。
「今年は、当然だがここで脱いでもらうぞ!」
「分かりました」
「いいぞぉ〜」「ストリップ葉須香ちゃん」
男子たちがざわめく中、葉須香は脱衣籠を受け取り、黒板横で脱いでい
く。制服を脱ぎ、ブラを外した葉須香のパンイチ姿に、クラスが一気に盛
り上がった。
去年、男子がふざけて書いた短冊“来年はおっぱいが丸出しとなります
ように”が見事に叶った。
更衣室で着替えることも出来ず、手で一切隠すことも出来なくなった葉
須香は、おっぱい丸出しで七夕の罰をすることになった。
「じゃあ今年も短冊は、どこでも貼っていいぞ!」
笛地が得意気に言うと、男子たちはすでに列を作って並んでいた。
「まずは去年と同じく肩から張るぞ!“来年は葉須香ちゃんのおっぱいが
Dカップに育ちますように”」
「僕は足首に、“葉須香ちゃんと混浴したい!”」
おっぱいが丸出しになったせいか、願いは、より欲望のままに、そして
より本音がでていた。
「背中の中心に空きがあるぞー!海でこの背中にサンオイル塗らせて!」
「じゃあ俺は……右脇に、“罰が来年も続きますように”」
「ちょっと!?みんな好き勝手書かないでぇぇ〜」
貼り終えた短冊を読み上げる男子も出現し、教室はさながら“短冊リサ
イタル”のようだった。
「“来年の葉須香ちゃんは全裸でしますように”……おい、誰だよこれ!」
「“3学期までに葉須香ちゃんのあそこを見たい!”……切実!」
「“素っ裸で校庭走る罰して欲しい”……そこまで忘れないだろう!」
とんでもない短冊を貼られ続ける葉須香は、心の中では去年以上に忘れ
物をした後悔と、2度と忘れ物をしない決意をしていた。
やがて葉須香の姿は、もはや“動く七夕飾り”そのものになった。
腕をゆっくりと広げると、貼られた短冊たちが風を受けて揺れる様子が
七夕らしく、男子たちが歓喜した。
「……やべぇ、この七夕一生忘れねぇ」
「ああ、今年もいい七夕となったぜ」
そこへ、笛地が竹を片手に登場した。
「よし、今年も記念撮影だー!」
去年よりも明らかに長い列ができ、男子も女子も順番に葉須香の隣に立
って写真を撮っていった。
クラスLINEには、「七夕の願い、完全配信済」と書かれたメッセージと
共に、短冊で満たされたおっぱい丸出しの葉須香の画像が次々とアップさ
れていった。
全ての短冊が貼り終わったあと、葉須香が文句を言ってきた。
「……こんなの全部叶ったら、私は来年、全校生徒の前で全裸で七夕罰す
る流れなんだけどぉぉ〜!ここまでレベルアップしないんだからぁぁ!」
それに対し、クラス中がほぼ同時に応えた。
「いや葉須香ちゃんなら、あり得るかも!」
「ああ実現してそう!」
「絶対にしないからっ!」
思わず叫んだ葉須香はおっぱいと短冊を揺らしていた。この七夕の罰は
今度こそ今年で終わりと、忘れ物をしないことを強く願っていた。
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<高校3年の七夕>
※注 ここでは担任は笛地がやっていることにしています。
高校3年、7月初旬、進路という現実が目の前に迫り、誰もが期末試験
という重圧に押しつぶされそうになっていた。
そんな、ピリピリとした緊張感が漂う教室で、その乾いた声は響いた。
「……葉須香。また、忘れ物か。このままだとまた七夕の罰をしてもらう
ぞ」「は、はい」
担任の笛地の声だった。静まり返る教室に、葉須香の小さく呟く後悔の
声が聞こえる。
忘れたのは、英語の単語帳。3年生になってから何度目だろうか。もは
や数えるのも馬鹿らしくなっていた。
そして、少しの間を置いて、教室に小さなざわめきが広がった。
それは、わすれんぼの罰が始まることへの期待。そう、七夕の季節のあ
れかという、男子たちの興奮した空気が教室を満たしていく。
「今年はどんな感じだ?」「まあ、全裸は確定か」
「去年願った全裸短冊、まさか叶うとはな」
クラスメイトたちのひそひそ話が聞こえる。笛地は、そんな声を意に介
することなく、黒板に向かって静かにチョークを走らせた。
カリカリと、耳に心地よい音が響く。
《今年の七夕の罰は全校版で実施決定》
黒板に文字が書き終わるや否や、教室がどよめいた。ざわめきは瞬く間
に大きくなり、教室全体が騒然となる。
笛地は、チョークを置くと、葉須香の方に振り返り、いつものようにニ
ヤリと笑った。
「今年は最後の年だ。高校生活の集大成として、全校生徒の願いを背負っ
てもらおうか、葉須香」
「え?全校生徒って……?」
半ばあきらめ顔の葉須香が苦笑する。去年までは4組だけの罰だった。
まさか、全校生徒の願いを背負うことになるなんて。
「お前はもうこの三年間、“七夕の罰”のしたんだから!これはもう運命
と思って逃げられん」
こうして、3年連続で忘れ物を続けた葉須香の罰は、“全校生徒の願い
を一身に背負う”という壮大なスケールでの実施が決定した。
もちろん、忘れ物をしなければ中止になるだけなので、回避はそれほど
難しくないはずだ。
今度こそ葉須香は固く誓った。
「七夕の日だけは絶対に忘れ物しないんだからぁぁ!絶対に!」
七夕当日。放課後、体育館のステージ上は、いつもとは違う熱気に包ま
れていた。開かれるのは、校長も許可した「全校七夕祭」。
体育館の天井には、七夕飾りが吊るされ、いつもは殺風景な空間が、幻
想的な雰囲気に変わっていた。
主役はもちろん、あれほど忘れないと誓ったのに忘れ物をした葉須香。
誰もが裸で登場するかと思いきや、白く輝く特製衣装に身を包んだ姿に、
体育館は大きなざわめきに包まれた。
今年の衣装は、学校の美術部と被服部が総出で、この日のために用意し
てくれたという、渾身の一着だ。
全体は白を基調に、織姫をモチーフにした流れるような和洋折衷のドレ
ス。スカート部分は幾重にも重なったチュールが広がり、まるで雲海を思
わせる。
袖は薄く透ける布で作られ、風が吹くとまるで天女のようにひらめいて
いた。
「おい!裸じゃないぞ!」「あれは完全に織姫だよな」
「さすか葉須香ちゃん、すげー綺麗で可愛いっ!」
「ん?何かイントロが流れてきたぞ」
生徒たちが何をするか気にしてる中、ステージ上の葉須香がシンプルな
ポーズをとると高テンポなK-POPのメロディーが響き渡った。
そして音楽が流れ始めると、葉須香が踊りだした。今回の罰は特別な演
出が加えられていた。
曲に合わせて葉須香が布を舞い上げた。衣装の布が次々とステージの上
で舞い散り、葉須香の肌が露わとなっていく。
鮮やかに照明に照らされている脱衣ショーに生徒たちの感嘆の声が響い
た。
空を舞う布が流れるように見え、それは豪華なストリップ、自然に裸と
なっていく雰囲気を演出した。
曲が終わると同時に、身にまとっていた布がゆっくりと床に降り積もり、
葉須香は生まれたままの姿になった。
「これはエロというよりすごい……」
「いやもう、アートだよね」
全校生徒が見守るなか、ステージ中央で静かに立つ全裸の葉須香。
その表情には、もう恥ずかしさよりも、受け入れる覚悟があった。
「みんなの短冊は私が全部、受け止めます」
そう言って、そっと目を閉じた。
こうして、貼り始められる短冊は、まずは1年生から張っていった。
「“次の体育祭でも葉須香先輩の罰を見れますように!”」
「“葉須香先輩と夏コミに行けますように…”」
そのひとつひとつが、葉須香の胸、背、腕、頭、股間、足先へと、順番
に埋め尽くしていった。
続いて2年生が短冊を張っていく。
「“罰が2年生でも始まるように”」
「“葉須香先輩と海にいきたいです”」
「“昔の葉須香先輩の写真が貰えますように”」
どれもくだらなくて、でもどこか真剣で、愛しい願いだった。
そして3年生たちは、欲望、本音丸出しだった。
「“葉須香ちゃんと同じ大学に受かりますように”」
「“大学でも、わすれんぼの罰が続きますように”」
「“卒業式は、もっと過激になりますように”」
(何か、みんなとんでもない願いを書いてるよぉぉ〜)
短冊は葉須香の全身に溢れるように増えていき、全裸でエロかったのに
何かミノムシみたいになってきて、それでもみんなの短冊を支え続けた。
ステージから見下ろす体育館の全校生徒が、目を細め、手を叩き、そし
て、願いを送る中で、笛地がマイクを握った。
「さあ、生徒諸君。今年の“願い”は、すべて葉須香に託された。葉須香、
これに懲りたらもう忘れ物をするんじゃないぞ!」
これを聞いた葉須香がマイクを受け取る。
「こんな恥ずかしいこと、今日限りにするんだからぁぁぁ!明日は絶対に
忘れ物しないんだからっ!」
会場が静かになった。何か思い切り葉須香にツッコミたい雰囲気だった。
「ほ、本当に!忘れ物しないんだからっ!」
その夜、学校の公式SNSに1枚の写真が投稿された。
ステージの中央に立つ、短冊で埋め尽くされた全裸の葉須香。
笛地が上手く張り直したのが、恥部が見えるように色とりどりの短冊が
風に揺れている感じだった。
《七夕の願い、全校分、確かに届きました。》
その投稿には、在校生だけでなく、卒業生たちからも数百のコメントが
寄せられた。
「うわ、今年もやったんだ!」「懐かしすぎる!」「それにしても今年は
全裸なんだ」
そして翌日。強い決意をした葉須香はどうなったかと言うと..
「……で、葉須香。今日の小テストのプリント、持ってきたか?」
「…………あっ!わ、忘れました」
その言葉に男子たちが一斉に立ち上がり、叫んだ。
「来年もここに来て、七夕の罰やってくれえええええ!」
その時、葉須香は天を仰いでひとこと。
「……ぅぅ、どうかどれも叶いませんように」
ちなみに、葉須香の“七夕の罰”は、3年間の記録として、生徒会資料
室の特別行事ファイルに、正式に記録されたという。
<完>
「七夕の罰の葉須香」完