前編「プール開きと俺」

プール開き、この言葉を俺も含めてクラスの男子どもが待ちに待って
いたのだろうか。
何せ、このクラスには露出宣言をした女子がいる！
その上、水泳は男女一緒ときたもんだ。

ここで露出をしなきゃ、露出女の名が廃るだろう。
この数ヶ月、俺はアミモの恥ずかしい姿を見た記憶は無い。
出し惜しみをしているのか、見せたくないのかわからないが鉄壁なまで
の状況に結構、不満を感じてもいる。
まあ、プールで男女一緒、それに加えて水着指定がないんだから条件
は全て揃ったと言える。
学校側は節度ある水着を着用しろと言っているが、露出狂にそんな常識
を求めてはいけない。
さあ、アミモ！今日こそ俺に、クラスの男子どもを喜ばせることをして
欲しいぞ。

「何よ！私の水着に何か言いたそうね．．」「いや、いい」
アミモが着てきたのは濃いオレンジ色の柄いっぱいのスカート付きの
ワンピース水着でやってきた。
おそらく普通に街中でショッピングしても分からないほど露出度がなく、
よく歳を取った女性が体型隠しに好んで選ぶ水着を堂々と着てきやがった。
他の男子たちもあまりのショックに動揺を隠せないでいやがる。
そりゃそうだろ〜。露出狂ならスケスケの水着とか、恥部ギリギリの水着
をしてくると思うだろ？

俺としては、簡単にほどけてしまう紐水着でもＯＫだぞ。
それでクラスの男子どもが見ている前でぱらっと解けたら露出狂としちゃ
最高の演出だろう。
それなのに露出度がほとんどない水着で来るなんて、これが商品だったら
即返品して金を返して欲しいとこだ。
他の女子を見てみろ。結構、ビキニが多いと思わないか。露出宣言をした
お前が一番地味な水着を着て、どういうつもりなのか説明してもらいたい。
いつものように俺の考えることがわかるなら答えてみろ。アミモ。
「そうだ♪ほどけやすい紐水着ってしゅまぁちゃんに似合いそうよね。
今度の水泳の授業に着させるように言っておこうかしら♪」
う〜ん、これがお前の答えと言っていいのか。あくまでも俺の問いには
答えないつもりなんだな。
しかし、百歩譲ってしゅまぁちゃんの紐水着は賛成かも知れない。
けど、それは俺の前だけで着て欲しいし、ほどけても欲しい。
他の男子が喜ぶさまを見るのは俺としては悔しいとこなのだ。

「あらっ？竜宮さんがおとなしい水着でホッとしたわ」
「うおっ．．こ・国龍さんっ！」しまった。思わず、うおっって言って
しまった。そのあまりにも見事なプロモーションに競泳水着ときちゃ、
男子なら思わず喜びの声を漏らしてしまうだろう。
「やっぱ競泳水着って変かしら？私、中学時代に選手で出ていたのよ」
「いえ、そんなことないですよ。似合ってますよ」「そう♪ありがと」
見事なまでの均整の取れたプロポーションに男子たちの視線が国龍さん
に集中する。これが某派手な料理アニメだったら、全員絶賛をあげて
天高く飛んでいってしまうぐらいに国龍さんの競泳水着姿は素晴らしい。

国龍さん本人は男子たちの視線が釘付けになるのがわかって、この水着
を選んだのだろうか？
いや、真面目な性格で有名な国龍さんは意外にも競泳水着のフェティシ
ズムなどわからないかも知れないな。
アミモと同じぐらい可愛く、いつも微笑がたえない国龍さんはまるで
天使のようだ。
性格もよく、頭も優秀で、クラスの男子・女子からも慕われており、
気がつくと委員長となってクラスのまとめ役になっている国龍　結葉
（こくりゅう　ゆは）さん。
毎回、ぶっ飛んだ行動や言動をとるアミモとは大違いだ。

しかし、今日の国龍さんは実に大胆であり、アミモから受けたダメージ
を回復するには充分の効果が有り得る。
何せ、おっぱいの形はくっきりと浮き出ているし、あそこの方もスジが
少し分かるので、こりゃたまらねぇーと叫びたいぐらいの水着だろう。
まあ、紺色の競泳水着だから、さすがに乳首が透けることはないが、
乳首のポッチが出ていることから生地の薄さが半端じゃない。
競泳用としてはいい水着だが、こんな男子たちがいっぱいいる中で着て
くる水着でないことは確かなだけに、これを着てきた理由を知りたい。

「ねぇ？人ってさあ〜実際、見えてないのに形が想像できるもので満足
できるわけ？それにただの身体のいち部分にどうしてそこまで興味を
抱けるのかしら〜」何か突然。国龍さんが俺に問いかけてきた。
ちょっと、アミモに似たような変な感じの質問だが、真面目な国龍さん
は本当にフェティシズムというのがわからないで聞いてきていると思っ
ていいのか？
だが、男の俺からこの問いに答えるのはかなり恥ずかしいぞ。
いや、俺が答えなくちゃいけないのか？
「馬鹿ね〜男はなねぇ〜、そうやって乳首やまんスジが浮かぶだけで
たまらないのよぉー！別に見えなくてもいいのよ！これで水に濡れて
勃った乳首が浮かべは完璧よっ！」
堂々と俺が言いたい事を答えてくれたアミモ。
この時ばかりは感謝したいぞ。けど、女のお前が堂々と言う事じゃない
ぞ。それは．．
「そう．．実に興味深いことだけど、くだらないことでもあるわね。
でも、これは注意すべきことよね．．私、注意してくるわ」
そう言って堂々と男子たちが群がる方へ国龍さんが歩いていく。
注意すると言ったけど、言葉ぐらいであの男子の興奮を抑えられると
思ってるのだろうか．．
いや、それは１００％無理であろう。逆に近づいたことによって、男子
たちの興奮を高めるだけだ。
真面目な国龍さんには男の野獣さが理解しきれないのかも知れないが、
向かった以上、俺にはただ傍観するしかあるまい。
きっと男子たちのエロい野次が次々と飛んでくるのは間違いないだろう。

「ねぇ〜、お願いですから女性の水着をじろじろ見るのは止めてくれ
ないかしら？」
微笑みを浮かべた顔で優しく男子たちにお願いする国龍さん。
正直、これで素直に止める男子などいる訳ないだろう。居たら今すぐ
この場で逆立ちをしてやろう。

「何いきなり、逆立ちをしてんのよ？違った視点から楽しみたいってこと？」
俺はあまりの状況に思わず逆立ちをしてしまった。
何故なら、国龍さんの一言で男子たちが素直に引き始めたからだ。これは
おかしいだろう．．国龍さんのあの水着を見て何とも思わなかったのか〜
俺なら集団の野次のどさくさにマンスジ見えてんぜ〜とか言ってみたい
とこだぞ。
結局、あの後はすっかり男子たちが国龍さんや女子の水着を見る事は無く、
真面目に水泳をしていたから驚きだろう。
「何かすっかり欲を抜かれたみたいね。これじゃ私が裸で泳いでも意味ない
じゃない」
と言うよりお前が裸で泳いだとこを見た事ないんだがな．．
「あんたも見てなかったの？せっかくプールの中で脱いであげたのに」
「そーか。そーか。はっきり言よう！見てない」「そう．．」
アミモの言葉に素直に乗る俺ではないぞ。第一、男子たちだってお前を見て
なかった事から裸になってるわけないだろ。

しかし、後で国龍さんが俺に言った言葉で意外な事実を知ってしまった。
「竜宮さん、私が注意しても聞かないからあなたからも言ってあげて。
途中から裸で泳がないでと」
嘘だろ．．俺も男子たちも見逃していたぞ．．いつ裸で泳いでいたんだ？
これは一生の不覚もんだぞ。きっと！

国龍さんのすんばらしい〜水着姿が数日経った今でも俺の頭から消える事なく
熱く焼きついてる。
次の水泳の授業でも是非とも同じ水着を着て、俺を興奮させて欲しい。
まあ、アミモの全裸水泳も見てみたいが、何となく見れない気がするので期待
するつもりはない。
しかし不思議な事にあの国龍さんの水着姿を見た男子たちから、誰1人として
水着の話題が出てこない？
普通なら「うおっ、もう1回あの派手な水着見てみてぇ〜」とか「あの時、乳首
浮かんでたよな」とか見てない奴に自慢そうに話してもいいはずなのだが．．
そんな会話がいっこうに出る気配がない．．何故だ？
いや、根本的なことを言えば国龍さんの水着を見ていた男子たちはあれから
女性に興味を持たなくなっている。
国龍さんは注意されたから真面目になったのか？
いや、注意だけで人が真面目になるのなら警察はいらないだろう。
もしくは国龍さんにそれだけの力があれば各ＴＶ局に出て「犯罪はやめましょう」
と言って欲しいものだ。

俺なりの勝手な論理で言わせて貰うなら、究極で至高な料理を食べてしまって普通
の料理が不味すぎて食えなくなったと言うことだろう。
正直、あの身体を魅せられたらアイドルの写真集など色あせて見えるぐらいだ。
だが、しゅまぁちゃんの紐水着を出してくるなら話は別だ。
これなら希代のエロも涙を流して歓喜するはずだが、こればかりはしゅまぁちゃん
も着ることを拒否している。
この話を聞いてからは、水泳の授業の手前で姿をくらますそうだ。
その気持ち、よく分かるけど．．そこまで逃げなくてもいいような気がするぞ。

今日もしゅまぁちゃんのクラスで水泳の授業があるらしく、アミモが向かう前に
どっか知らないところに雲隠れしたらしい。
しゅまぁちゃんを探している大声が校舎中に響くから一目瞭然なのだ。
ただ、この大声の主はアミモではない。しゅまぁちゃんのクラスメイトの親友で
ある穂村　緋乃（ほむら　ひの）さんの声であった。
「おっすっ！ここに雪雀のしゅまぁちゃんが逃げ込んでますかぁ〜？」
「ここには居ませんけど、もう少し声のトーンを低くしてくれないでしょうか？」
穂村さんのあまりの大声ぶりに国龍さんが軽いお願いをしてきた。
「うんっと．．コクリュウさんで良かったかしら？」
「はい、あってますわ。ホムラさん」
「この声は地声でねっ。熱いことがめっちゃっ好きな私には不可欠なもんでっ」
「それでもトーンを下げてくれると嬉しいのですか」
国龍さんの真面目ぶりに健康的な白い歯を見せつけながら大きな口を開けて明るく
受け答えする穂村さん。
元気さで比べるとアミモと同じぐらいあるだろうか。
しゅまぁちゃんとは性格が逆のような気がするこの2人が親友というから、一体
どういう経緯で仲良くなったが聞きたいぐらいだ。

「そういやっ。このクラスの男子は真面目だねっ。真面目なコクリュウさんが
欲をとりあげちゃったみたいっ」
「そんなことは、あなたには関係ないはずよ。ホムラさん」
「そうねっ、そうねっ。しゅまぁちゃんを探してる私には関係ないことでっ。
じゃあ、ここにはいないってことでこれにてっ」しゅたたたっ
「ちょっと．．待ちなさい」
言いたい事だけ言って走り去っていく穂村さん。
走り去った後でも穂村さんの大声だけが響いて聞こえてくるから、国龍さんが注意
する気持ちはよく分かる気がする。
とりあえず、毎回これを繰り返されると当のしゅまぁちゃんも迷惑かも知れない。
ここは俺がアミモを説得するという形で、しゅまぁちゃんには逃げずに水泳の授業
を受けて欲しい。
その為にも、まずはしゅまぁちゃんを探すしかないと言う事か．．

当然、探すあてがない俺は露出部の部室を最初に探すしかないだろう。
灯台下暗しって言うことわざもあるぐらいだ。
案外と部室にこっそりと隠れているのかも知れない。
そう思い、部室へ行くと何故かきゆちゃんがカメラを必死に磨いている。
これはどう捉えていいのだろうか．．
休み時間にわざわざここに来てカメラを磨いているのか．．それとも授業を受けず
にここでカメラを磨いているのか．．後者の方ならとんでもない子かも知れない。
「なあ、いつからそのカメラを磨いていたんだ？」
「今よりも前．．」きゅきゅっ
駄目だ．．きゆちゃんにまともな答えを期待した俺が悪かった。
ここは前者と言う事で自分の中で答えを出した事にしよう。

「ところでさぁ〜しゅまぁちゃんを見かけなかったか？」
「見かけてないが．．どこにいるかは分かる．．」きゅきゅっ
「本当か？どこにいるんだ」
「言っても見つけることはできない．．」きゅきゅっ
「それはどういう事だ？俺に分かるように言ってくれないか」
「机の引き出しに逃げたド●えもんは見つからない．．」きゅきゅっ
えっと．．それのどこが分かる風に言ってるんだ．．
大体、その意味のわからない例えは何なんだ．．あの青型まん丸ロボットと
しゅまぁちゃんと一体何の関係があるのか．．説明して欲しいところだ。

「いずれ．．理解出来る時がくる．．」きゅきゅっ
ああぁぁ〜そんなの分かる時が来るわけねーーー！やはり聞いた相手が悪か
ったかも知れない。
それにしても本当にしゅまぁちゃん、どこに行ったんだよぉぉ〜

結局のところ、俺には見つける事が出来ずに次の授業で遅刻する羽目になって
しまった。