第41話「おっぱい女」(挿絵:たーちんさん)


※時々CGと文字が重なる場合がありますので、その時は1回再読み込みしますと直ります。

 最近、私の学年のあるクラスでは”おっぱい女”の噂が男子たちだけの 間で飛び交っていた。  決して女子たちに漏れることのない噂なのに、あの礼璃ん(れいりん) が情報を手に入れて私に教えてくれるのである。  と言うより、あの番台の男子である武北 玄児(たけきた げんじ)が 私のことをばらしてないかを礼璃んに頼んで探ってもらっていたからだ。  まあ、表向きとして番台の男子が好きなタイプということで調べてもら っており、銭湯の露出行為のことは秘密にしていた。 「沙智菜ちんーー♪、またまた追加情報を手に入れたよ〜♪昨日、また” おっぱい女”を堪能できた男子がいたみたいで、これで6人の男子に見ら れたみたいよ〜」 「そうなんだ..けど良くやるわね、その”おっぱい女”も..」 「まあ、見られるのが好きな子だと礼たんは思うね。噂だと女子高生って いう線もあるから、見ることが出来た男子は幸せもんだね♪」 「そうね..けど、玄くんは顔を見ているんでしょ..」 「まあ、そうみたいだけど武北は女の裸に慣れてしまっているせいか、全 然興味がないそうだよ。そんな男子がタイプだなんて礼たんショックだよ ぉぉ〜」 「いや..でもそういう真面目なとこがいいと思うけど..」 「でも、あれは異常だね。これも噂だけど女の裸にアレが勃たないようだ から、ちょっとヤバ過ぎるよね〜まあ、礼たんにとってはそっちの方がい いけどね♪」 「何か嫌な答えね..」 「それよりも”おっぱい女”がこれで通産4回ほど現れたことになるわ。 あの武北が毎回、見逃してるのが少し気になるとこだけどね」 「どんなとこが気になるの?」 「いや..銭湯の信用を第一にする武北がやることじゃないし、不思議に 男子たちが素性を探ろうとしたり、大人数で来る日には絶対こないという 噂もあるのよね..」 「それって玄くんがその”おっぱい女”とやり取りをしてるってこと?」 「そうね..そういうことになるけど、あの武北がそんなことをするメリ ットはないし、大体あいつって本当に女に興味なさそうだし..」 「ずい分、確証がある言い方だね..礼璃ん」 「それはそうよ。ずい分前だけど、この礼たんも武北の銭湯にいってわざ と裸を見せてちょっとからかって見たけど、無反応だったしね..大体、 礼たんのおっぱいを目の前にして雑誌に夢中になる自体、気にいらないの よ!」 「いや..堂々と見せる礼璃んがすごいよ..」 「ともかく今は”おっぱい女”の噂が広がってるから、あんまり近づかな い方がいいわよ。好きなタイプはわかるけど、あいつは問題ありすぎだよ」 「うん、わかった。また何か新しい情報を入れたら教えてね」 「もちろんよ。沙智菜ちんがお願いするなら噂の”おっぱい女”の正体だ って探るわよ♪」 「いや..それはいいわ。とりあえず玄くんのことだけわかればOKだか ら」 (あぁぁ..何か礼璃んに頼んでいるのが正解なのか..間違っているの か..)  本当は礼璃んに頼む必要もない気もするけど、あの銭湯の後もいろいろ あったから念を入れて調べている感じなのだ。  そう、あの時、2度と例の銭湯に行かないと固く決心したのに、その後3 回も入りに行ってる私。  その度に玄くんのクラスメイトの男子に裸を見させてしまい、気づくと ”おっぱい女”というふざけたあだ名で噂される存在になってしまった。  まあ、いつもの私ならここまで噂されるまで、危険なことを繰り返すこ とは絶対にないんだけど、いろんな事情があってすでに6人もの男子に裸 を見せてしまったことになるだろう。 (ああっ..このままじゃ、どんどん私の裸を見た男子が増えていってし まうよぉぉ〜〜玄くんに甘えるのもそろそろやめた方がいいかも..)  実は礼璃んが予想していた事は大体合っており、玄くんの情報を得てか ら銭湯に行って裸を見せていたのであり、私が露出狂であることは完全に ばれてしまっているのだ。  もちろん、これがすごく危険なことだと承知しているから、わざわざ礼 璃んに頼んで玄くんがどんな男性なのか確認してもらっている最中である。 (玄くんには悪いけど..私も正体をばれると困っちゃうから..)  そう、あの番台の男子、玄くんとは絶対に遭わないようにしようと決意 した私だったが皮肉なことに裸を見られた次の日に意外なところで、鉢合 わせになってしまったのだ。  そこは本屋であり、ずっと待っていた好きな作家さんの復古本を買いに 行った時であった。 (うそぉぉ〜何であいつがあんなとこに居るのよぉぉ〜どうしよ..せっ かくの復古本が早く読みたいのにぃぃ〜) 「あれっ、新宮さんも本を買いに来たんだ」「え・ええ..」 「そんなに怯えなくてもいいぜ。あの事は本当に誰にもいうつもりはない し、正直、新宮さんのあの姿に全然、興味がわかないんでね」  カチンッ..「そうしてくれると嬉しいわね..少しどいてくれない.. そこの本を買いに来たんだから..」  何か玄くんの言葉にちょっと頭にきてしまい、無言で本を取ろうとした 時、意外な言葉を出してきたのであった。 「あれっ、新宮さんもその本を買いにきたんだ..意外だな」 「別にいいでしょ..この復古本はすごく待ちに待ってたんだから..」 (あれっ?その本ってことは、まさかこいつも!?) 「新宮さんの口から、そんな言葉が聞けるなんて驚きだな。まあ、俺もこ の復古本は結構、待っていたからな。ちなみに今日買うのは閲覧用で保存 用は先週買ったからな」 「先週って..それってサイン会用の先行発売のもの?あれって地方のサ イン会のはずだったけど..」 「地方でも行くのがファン心理ってもんだぜ。まあ新宮さんにはそこまで はわからないと思うけど..」 「地方じゃなければ私だって行くわよ。今回のはあまりにも遠かったら行 けなかったのよ」 「へぇ〜結構、好きなんだ。この先生の掲載する雑誌は良く廃刊になるか ら集めるには苦労するよな..」 「そうそう、私もとりあえず雑誌から切り取って保存するようにしてるん だけど、昔の作品は手に入らなくて..」 「もしかして、**の作品を探してる?」「そうそう、それ絶対、見たい の」 「俺は古本屋で何とか探して保存してあるぜ。もし良かったら見に来ても いいぜ」 「本当っ♪あっ..でも遠慮しとくわ」 (行けるわけないでしょ..裸を見られた相手の家なんて..) 「うん?もしかして例のことを気にしてるのか?何度もいうけど、俺は新 宮のあの姿に全然、興奮などしないから」  カチンッ「うそうそ..あの**のキャラのように実は内面では興奮し てるんでしょ」 「残念だけど、俺は**の方でな。新宮さんが俺の前で昨日の姿になった としても勃つ事はないな。断言してもいいぜ」 「いいわ。そんなにはっきり言うつもりなら、見にいくわ。けど、ちょっ とでも変な態度を見せたら、すぐに警察を呼ぶからね」 「いいぜ。新宮さんには本当に悪いけど、俺はあいつらの気持ちは全然、 理解できないんでね」  カチン..「そこまで言うなら、絶対に見にいくわよ」 「俺の家は銭湯と一緒になってるから、銭湯に行くことになるけど、それ でも見に来るかい」 「ええ、見に行くわ」  何かとんでもない状況に自分を追い込んでいる気がする私であった。  いつもだったら、こんな挑発に乗ることは危険だとわかっている私なの に何故か自分の好きな作家さんのファンには悪い人がいないという思い込 みから、ついていくことになってしまう。  2度と行かないと決意したばかりの銭湯に再び、訪れることになった私。  まあ、銭湯につかりにきたわけでもないので、目的のものだけ見せても らったら、さっさと帰るつもりであった。  けど、玄くんの部屋に案内された途端に、今誓ったことを忘れてしまい そうな状況になってしまった。 「すごい♪こんなにいっぱいあるんだぁ〜。うあぁっ、サイン色紙もこん なに飾ってあるなんて思わなかったわ..」 「一応、サイン会は毎回行ってるから、すっかり常連さんになってしまっ たんがな」 「これって当選品よね。私も数枚出したんだけど当たらなかったわ..」 「数枚ぐらいじゃ駄目だね。俺は百枚ぐらい出したからな」 「うぁぁっ、それズルイ〜」「それがファン魂ってとこさ」  気がつくと時間がかなり経っており、すぐ帰るはずの私は何故か、玄く んと好きな作品を熱く語り合っていた。  まるでずっと前から大親友であるような仲みたいであり、とても自分の 裸を見られ、性癖までばれたことなど、どこかに消えてる感じであった。  結局、夕方近くになるまで玄くんと和気藹々と会話をしている私。 (ああぁっ..早く帰るつもりだったのに、自分から居座っているよぉぉ〜 知り合ったばかりなのに、どうしてこんなにリラックス出来るの?)  正直、男子の家にあまり遊びにいかない私がここまで落ち着いていられ るのが不思議であり、ましてや全てを見られた相手なのに、ここまで心を 許してしまうなんてあり得ない事である。 「新宮さん、もうそろそろ帰らないと不味いんじゃないか」 「!そうね。ちょっと携帯で家に連絡するわね」  もう辺りは暗くなっており、玄くんの部屋から急いで家に連絡を入れる ことにしたのだが、変な嘘をつく必要性もなかったので、素直にそのまま の経緯をお母さんに話すと、耳を疑うような言葉が返ってきたのだ。 「それなら、ついでにお風呂に入って帰って来なさい」「えっ..」 「夜ご飯はちゃんと作って置いとくから、湯冷めしないように少し間を取 って帰ってきなさいよ」「ちょっとぉ〜待って..」  まさか銭湯に入ってから帰れなんて言われるとは思ってなかったから唖 然としてしまい、玄くんにどう言っていいかわからなかった。 「もしかして怒られたのかい?まあ、こんな夜近くまで男の部屋にいるの は不味かったかも知れないな。俺からフォローの電話いれるか?」 「ううん、怒られてはないから..逆にお風呂に入ってから帰れと..」  私の言葉を聞いて、腹を抱えて笑い出す玄くん。 「そ・そんなに笑うことないでしょ..まあ、おかしな答えだけど..」 「ははは..いやぁ..そこまで信頼してるのがすごい事だよ。もし本当 に入って帰るなら、もう少し待って入ってみるか?」  ドキッ..「それって、どういうこと」 「俺のとこは閉めるのが早いから、貸切状態で入れてやるぜ。タオルなど も貸してやるから、ゆっくり浸かって帰っていいぜ」 「貸切か..何か気持ち良さそうだけど、その間そっちは番台でも座って いるの?」 「そんな暇なことはしねーよ。俺は男湯の掃除をしているから、何かあっ たら声を出してくれればいいよ」 「そうなんだ..」 (ううぅ..どうしよう..貸切のお風呂に入るのは気持ち良さそうだけ ど、よく考えれば銭湯に2人っきりだし..それって危険すぎるような..)  いろいろと困惑している私を見て、玄くんはこちらの心を読んだかのよ うな答えを出してきた。 「別に2人っきりだろうが、何にもしねーから安心しな。新宮さんが男湯 に入っていたとしても俺は全然、気にすることもないから」  カチンッ「何か、そういうこと言われると頭にくる感じなんだけど.. 実際に男湯に私が入っていたらドキドキして掃除なんか出来ないんじゃな い?」 「全然っ!悪いけど俺の視界に入ったとしても普通に掃除をするだけだ。 正直、新宮さんの裸には何の興味を抱かないだろうな..」  むかっ..「そ・そう、なら男湯に入れてちょうだい!それでも普通に 掃除が出来るんでしょ」 (ああぁっ..私ったら何、馬鹿な事を口走っているのよぉぉぉぉ〜〜)  相手の言葉に頭にきて、何と自分から男湯に入ることを言ってしまった 私。  そして、それを真に受けた玄くんが平然と言い返してきたのであった。 「俺は別に構わないけど、ただ掃除が終わったとこの洗い場は使わないで くれよ。あと俺はいつも風呂場を洗うときはパンイチだから変な勘違いは するなよな」 「パンイチって..パンツ一丁ってこと」「ああ、服なんて着たらすぐに びしょびしょになるからな」「そ・そうよね..」 「じゃあ、そろそろ閉まる時間だから入りに行くとするか。言っとくけど、 今のを本気にして男湯に来る必要はねーから。素直に女湯に浸かっていい からな」 「そ・そんなこと言って、パンイチの姿じゃ興奮を隠せる自信がないから 言ってるんじゃないかな」 (ああぁ..私ったら何、火に油を注ぐことをしてるのよ) 「まあ、新宮さんがどうしても入るなら止めはしないけど、俺の掃除の邪 魔はしないでくれよ」  カチンッ「邪魔なんてしないわよ。それじゃ、男湯に入らせてもらうか らね」(いやいや〜、それは不味いのにぃぃぃ〜」 「・・・まあ、新宮さんの好きにすればいいさ」  かるく呆れたため息をついた玄くんの態度に、ますます私はむきになっ てしまい、この後で本当にバカなことをしてしまいましたぁぁ〜。  言葉のあやでは済まなくなって、気づいたら玄くんと一緒に男湯へ。  それも2人っきりの銭湯で男湯にきてしまったのであった。


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