真堂 柔紀(しんどう じゅうき)34歳。
トラブルメーカーな親友に振り回されながらも教師になる夢を捨てず、
射撃選手で頑張りながらも教員免許を取得。
その後、オリンピックに選手として選ばれ出場し金メダルを取ったこと
が評価され、とある高校より誘いを受けて念願の教師として採用されるこ
とになった。
しかし..その高校は自分の母校であった。
「ああぁぁ〜、何かすごく嫌な予感がするよぉぉぉぉぉぉーーー」
さて、話は2日前に戻り、彼女が赴任する1年4組ではさっそく新しい
担任の情報を得た1人の女子が思い切り廊下を走っていた。
「ニュース、ニュース、これは大ニュースだぞぉぉぉー」
ダダダッ!ドカァァァーー!ガシャァァーーン!バリバリーン!
勢いあまって思い切りドアにぶつかり、そのままドアをぶち破って教室
の中に転がって入ってきたのだ。
「いたた..教室にも自動ドアをつけろって言いたいぜ」
「蘭っ!なんで毎回ドアを壊して入ってくるのよっ!」
クラス委員長の信谷 美紗里(しんたに みさり)が鋭い目つきをして
ドアを壊して入ってきた女子に文句を言ってきた。
「まあまあ、美紗里。あんまり蘭のこと責めないであげてよ..」
ドアを壊した女子の親友である新宮 沙智菜(しんみや さちな)が美
紗里に大目に見てもらうように頼んできた。
「蘭..高校生になったんだから、いい加減ドアの開け方ぐらい覚えなさ
いよ」
ドアを壊した女子と小学生からの同級生である来崎 凛(らいざき り
ん)が呆れた口調で言ってきた。
「はふはふはふぅ..(今頃になって痛さが頭に及んだ女子)」
「ら・蘭ちゃん、だ・大丈夫なの?」
ひくひくしている女子に駆け寄ってきたのは同じくドアを壊した女子の
友人である古野 悠子(ふるの ゆうこ)であった。
悠子の声を聞いた後に、突然立ち上がって話しの続きを始めた女子。
そう彼女、義岡 蘭(よしおか らん)にとってはこれぐらいの傷は怪
我には入らないようだ。
「一大ニュース、超々ニュースだよっ!実はなぁぁ・・・・・・」
【美紗里】「うそぉぉぉーー、担任の服多先生が辞めたの!?」
【沙智菜】「ちょっと待ってよ。服多先生は3日前に赴任したばっかりで
しょ?阿倍先生が担任放棄したから来た先生なのに..」
【凛】「まあ正確に言えば、その前に古泉先生が辞めたんだけどね..」
【悠子】「3人も辞めるなんて..どういうことなのかしら..」
「ふふっ、あれぐらいの教師イビリで辞めるなんて情けないわね〜」
「さすが〜内川さま。素晴らしいです」「うむ。最高」
「あっはははは〜。もっと褒め称えていいわよぉぉ〜」
中学時代から生徒や教師のイジメを繰り返している問題女子の内川 祐
華(うちかわ ゆうか)が堂々と大声で言ってきた。
そして内川の左右には中学時代からの取り巻きの2人が一生懸命褒め称
えて続けていた。
【蘭】「このままじゃ次も持たないかもな〜」
【美紗里】「いい加減にしなさいよ。内川さんっ」
【内川】「ふんっ、辞める方が悪いのよっ♪んふふふ〜」
「あ・あの..」突然、1人の女子が立ち上がって会話を止めてきた。
【内川】「何か文句でも言いたいの?壱郷さん」
【美紗里】「壱郷さん、何か言いたいの?」
「走ってきていいですか?」「はいっ?」「走るって..」
「走っていいですね」「勝手に肯定になったぞ」「・・・」
「走ってきます」そういって無表情・無感情のままで教室の外に出て行っ
てしまった女子、壱郷 羽詩瑠(いちごう はしる)。
焦点が定まらない大きな瞳で言ってくるせいか、誰も壱郷には文句を言
う事が出来なかった。
【内川】「あの1号(壱郷)と関わると何か疲れる..」
【美紗里】「はぁ〜、どこまで話がいったが分からなくなりそうだわ」
「新しい担任の話じゃろ?」「あっ、越前たぬき!」「たぬき、何の用?」
「校長を狸呼ばわりするでないぞ。越前谷(えちぜんや)校長と呼びなさい」
【凛】「で、校長が何の用なの?」「新しい担任の説明にきたのじゃよ」
【美紗里】「次は長持ちする担任なんでしょうね?」
【蘭】「それよりも次のドアを自動ドアにしてくれぇ〜」
【内川】「次も最短記録を更新しようかしら♪」「さすが、内川さまぁ〜」
【壱郷】「走ってきました..」
【校長】「これじゃ次も持たんかのぉ〜。まあ、とりあえず紹介するか」
校長の言葉を聞いて生徒たちが一斉にドアの方へ視線が言ったのだが..
【校長】「言い忘れたが、2日後じゃ」
ガッシャァァーーン。ドカドカァァァンン。
【美紗里】「2日後なら、今くるなぁぁー」
【沙智菜】「校長、新しい先生って男性ですか、女性ですか?」
【校長】「今まで男性教諭で3度失敗したから、今度は女教師にしたぞっ」
【凛】「それって、逆にまずいんじゃないのか..」
【校長】「えっと、確か真堂先生と言ったかのぉ〜」
「ぅぐっ!!」ゲホゲホゲホゲホ!真堂という名を聞いて、1人の女子が
突然、派手にむせこんできた。
【校長】「どうした?真堂。もしかして知り合いかね?」「い・いえ..」
【内川】「ゆ・勇衣萌さま?御身体の調子でもお悪いのですか?」
突然、人が変わったかのように内川がむせこんだ女子に優しい言葉をか
けてきた。
「だ・大丈夫だよ。僕のこと、心配してくれてありがと」キラリッ。
白い歯が光りそうなくらい爽やかな表情をしてくる女子に内川の顔が一
瞬でボンッ!と赤くなった。
【内川】「も・も・もったいないお言葉です。勇衣萌さまらしくないですわ」
「内川様、もじもじしてる姿、似合いませんよ」「うむ」
【内川】「黙れっ、2人!」ボカッ!
この内川を虜にしてしまう女子の名は真堂 勇衣萌(しんどう ゆいも)。
女子の割には何故かスカートを穿かずに男子の制服を着て登校している
男装女子であり、多くの女子生徒から学園のオスカルさまと呼ばれてるほ
ど、女子憧れの的になっていた。
【勇衣萌】(ま・参ったな..本当に母さんがくる感じだな..)
そう、今度くる担任はこの勇衣萌の母親であるのは間違いないらしい。
【校長】「そうじゃ、真堂先生の写真があったのを忘れてたわい」
【蘭】「おおっ、超々見たいぜっ」「見たぁーい」「見せろみせろぉー」
【校長】「では、写真を出すとしよう。これが真堂 柔紀先生じゃ!」
ドンッ!校長が出した写真には何故か2人写っており、母と娘が仲良く
一緒に写っていたのであった。
【勇衣萌】「ぉぐっ!!」ゲホゲホゲホゲホ!
【校長】「えっと、隣に移っている真堂くんは学校では他人行儀の間柄に
して欲しいそうじゃ!」
【勇衣萌】「て・てめぇぇーー、わざとだろ!」
【内川】こほんっ「教師イジメはもうそろそろ飽きたわね。別に勇衣萌さ
まの母親だからってわけじゃないですわ」「内川さま..わざとらしいです..」
【内川】「う・うるさいぃ」ボカッ!
【美紗里】「ところで..その人、本当に母親?どちらかというと妹のよ
うな?」
【沙智菜】「っていうか、何で金髪で青い目なの?日本人じゃないの?」
【蘭】「超々可愛いぜ!金髪少女先生、バンザイだぜ」
写真に写っている真堂 柔紀は勇衣萌の妹といってもおかしくないほど
の童顔で背も140cmと、180cmある勇衣萌と並ぶとかなり幼く見えてしまう
感じであった。
【勇衣萌】「実は髪は金髪に染めていて、カラーコンタクトでわざと青い
目をしてるんだよ。まあ、いろいろあってな」
【美紗里】「いろいろって何かあったの?」
【勇衣萌】「よく分からないけど、学生の頃に2人の女子にひどい目に遭
わされ続けたみたいで、それから自分を強く見せるために髪を染めたみた
いなんだ」
【沙智菜】「それはひどい話よね..そういう女子の娘にはなりたくない
わね。ねえ、美紗里?」
【美紗里】「そうね。そういう母親を持った娘がどんな風になってるか見
てみたいわ」チラッ。
【内川】「何よっ、何か言いたいことでもあるの?」「別に..」
その頃..真堂 柔紀は校長からもらったクラス名簿を見て大声をあげ
て喚いていた。
「なんでなんでなんでぇぇぇぇーー!何であの2人の娘が私の娘と同じク
ラスなのよぉぉぉーーー。これって悪魔の所業なのぉぉーー!でもでもで
も大丈夫。娘は男のように強く育てたんですものっ!この私が担任になっ
た以上、2度と同じ不幸を繰り返してたまるものですかっ!ファイトよ、
柔紀っ。早知華と魅由梨の娘なんかに負けてたまるかぁぁぁー!」
と言う割には家庭訪問がないことに安堵の息をつく柔紀であった。
ちなみに別にいじめられていたとかではなく、2人とは今でも一緒に旅
行に行くほどの親友である。ただ2人が起こすトラブルに巻き込まれて毎
回、ひどい目に遭うだけのことだ。
そして2日後、ついに柔紀が1年4組にやってくると、教室中は手のつ
けられない大騒ぎとなった。
【柔紀】おどおど..「あ・あの、きょ・きょっから担任をつとめること
になりました真堂 柔紀です。よ・よろしく、おにぇがいしまふ」
【蘭】「超々可愛いっ!今までの担任の中で最高だぜ」
【内川】こほんっ「あんな童顔な教師をいじめたら、ちびっ子をいじめて
る風になるから止めるしかないわね」「内川さま、またそんな嘘を...」
【内川】「うるさいっ!」ボカッ!
【蘭】「質問、しつもーん!先生、質問していいですかぁー」「いいわよ」
【蘭】「先生って、どこの国の出身ですかぁー」「はぁ?」
【凛】「昨日の話、聞いてなかったのか..肌の色が日本人だろ」
【沙智菜】「あの〜、先生は何歳なんですか?」
【蘭】「和食はやっぱり苦手ですか〜」
【美紗里】「オリンピックの選手っていうのは本当ですか?」
【蘭】「オリンピックのお弁当って美味しいですか〜」
【壱郷】「走ってきていいですか?」
【悠子】「担当科目は何ですか?」
【蘭】「坦々麺、食べれますか〜」
【壱郷】「走ってきます..」
【勇衣萌】(まずいな.だんだん収拾がつかなくなってきたな..)
どんどんと分けのわからない質問が教室内を飛び交う中、おどおどして
いた柔紀の様子が少しずつおかしくなってきた。
それを見た勇衣萌は急に机の下に大きい身体を丸め込むように身を隠し
たのであった。
【柔紀】「黙れ..だまれ..」「?」「えっ」
【勇衣萌】(うっ、始まった..)
【柔紀】「黙れっ、だまれだまれぇぇーー!この屑どもがぁぁーー!」
突然、どこからがモデルガン2丁を取り出して柔紀が乱れ撃ちを始めた。
バンババンッ!バリーン!ガシャーン!バンッ!バンバンッ!
【美紗里】「ちょっとぉぉーー、あんたの母親、何やってるのよっ!」
【勇衣萌】「怖さが限界を越えると、いつもああなるんだよ..高校時代
にひどい目に遭わされたって言うけど、当時もキレると校内で撃ちまくっ
たそうだ。一番やっかいのはキレた時の記憶が本人に残らないことだな」
【沙智菜】「それって窮鼠猫を噛むって感じ?いつになったら治まるの?」
【勇衣萌】「弾が切れるまでだな。ちなみに身体中に弾丸のストック仕込
んであるから、しばらくは無理そうだ」
【柔紀】「あっははははーー!吾が輩に楯突くなど愚か者なりぃぃ〜!」
バンバンッ!バンババンッ!
【凛】「・・・しょうがないな..モデルガンといっても蜂の巣にはなり
たくないから何とかするか」
そういうと凛が近くにあった教科書をひゅっ!と投げて、柔紀のおでこ
に見事に直撃させたのであった。
ガツンッ!教科書の角が当たった柔紀は一瞬の内にモデルガンをしまっ
て急におどおどし始めた。
【柔紀】「な・何なの、この有様は..貴女たち、こんなに教室を荒らし
ていいと思ってるの?」「・・・・」「・・・・・」
【凛】「あんただろ。この張本人は!こっちが聞きたいよ。あんたにな」
【柔紀】「ひ・ひぃぃっ」凛の鋭い目つきから逃れるように教卓の中の空
洞に潜り込んでしまった。
ガタガタッ..「これが噂の教師いびりなのね。私は教師よぉぉー!日
本の学校はおかしいわぁぁー。おかしいわぁぁーーえ〜ん〜」
【蘭】「凛が先生を泣かしたぞー」「ちょっと、あたしのせいか?」
【柔紀】ガクガクガク「きょうしだもんっ、きょうしだもん..ひどいよ」
【蘭】「凛って極悪人だよ〜」「待てっ!あたしは騒動を止めただけよ」
【取り巻き】「内川さま、先手を打たれましたよ」「今からでも出陣を!」
【内川】「ほえっ?何かしらん〜。机の下に隠れる勇衣萌さま、可愛いわ〜」
【取り巻き】「ダメだこりゃ..」「次へGO!」
【壱郷】「走ってきました..」
【美紗里】「とりあえず何とかしなさいよ。凛」
【凛】「はぁぁ〜、わかったよ。あたしがなだめりゃいいんだろ?ほら、
出ておいで」
【柔紀】ぶるぶるぶる「イジメル?」「いじめないったら..」
【柔紀】「ほんとぉに?」「本当よ」
【柔紀】「じゃあ、出る..」
教卓からぴょっこりと頭を出して、ようやくホームルームが再開した。
先ほどの騒ぎがあったせいか、この後は触らぬ神にたたりなしって感じ
で久々に落ち着いたホームルームとなった。
キンコーン、カンコーン〜♪
【柔紀】「これでHRを終わりにするけど、最後に私の座右の銘を書いと
きますね」
【蘭】「おおっ、座右の銘だって。超ワクワクかも」
【勇衣萌】(あれを書くんだ..いいのかな)
柔紀が黒板に大きく書いた自分の座右の銘とは..
”石橋を叩いても渡らない”であった..
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