第3話「亜希子、葛藤の末に」(原案・挿絵:g6triglavさん)


※時々CGと文字が重なる場合がありますので、その時は1回再読み込みしますと直ります。

「さま〜ふぇすた三河安嬢2007」いよいよこの日がやって来た。  名古屋化ハウジングの面々も所長の北浜はもちろん、営業マン全員と事 務員の亜希子もスタッフとしてイベントに駆り出されていた。 「そういえば所長、このあいだサンバのダンサーがどうのこうのおっしゃ ってましたけど、あれなんとかなったんですか?」  亜希子はそれとなく聞いてみた。 「うん、あれはまあ、なんとかなったんだ。なんとかな」  北浜はなんだかはっきりしないような素振りだったが、亜希子はまた交 渉されると嫌なので、それ以上は追求しなかった。  周りの雰囲気が怪しくなってきたのは、お昼を廻り、いよいよカーニバ ルパレード開始まで1時間を切ろうか、という時だった。 「至急」ということで、北浜がイベント実行委員会の本部に呼び出され、 慌ただしく飛び出していった、と思ったら、戻ってくるなり亜希子に声を かけた。 「鈴木君、ちょっと」亜希子は嫌な予感がした、普段は馴れ馴れしく「ア キちゃん」と呼ぶ北浜が、苗字に君付けで呼ぶときは、大概ろくなことは 無いのだ。 「実は例のサンバカーニバルの件なんだけど、頼んでおいたはずのフィリ ピン人ダンサーが集団食中毒で殆ど駄目らしい、いや、それでも何人かは 来るみたいなんだけど、人数がまるで足りない。で、こないだの話を蒸し 返すようで悪いんだけど、是非、鈴木君にダンサーの代役を頼みたいんだ。 どうだろう?なんとか引き受けてもらえないだろうか?」 「ええっ!?その話なら先日お断りしたばかりじゃないですか!なんで私 なんです、そんなこと急に言われても困ります!振り付けだって全然頭に 入ってないんですよ?」 (まあ..あの子たちに教えた踊りなら何とかなるけど、それを言ったら おしまいだわ) 「鈴木君、今回の件は全く予想外のネガティブサプライズで、我々として も藁にもすがる思いなんだよ、それにイベントの性格上、女の子だったら 誰でもってワケにはいかないからね、鈴木君だったら是非、って商店会か らの推薦もあるし、なあに踊りのことだったら大丈夫、何人か来ているフ ィリピン人ダンサーを見ながら上手いこと合わせてもらえばいいから。細 かいことはこの際言いっこなしだよ!」 (って言うか、子供たちに教えたサンバの踊りそのものだから問題ないと いいたいが、何故知ってるのと言われたら面倒だから内緒にしよう) 「なあ、頼むよ。鈴木君〜」「いやですったら嫌っ」 「そこを何とかぁ〜」 「ダメです、お断りします。第一、衣装合せだってして無いのに!お客さ んだってすっごいいっぱい集まって来てますよ!?」  すると、そばで見ていた商店会会長が口を挟んだ。 「え〜と、鈴木さん、でしたっけ?私からも何とかお願いします。今年の イベントは見てのとおり近年稀に見るくらいの大盛況です、せっかく集ま ってくれたお客さんを、ここでがっかりさせる訳にはいかない、いや、仮 にもし今回のイベントが失敗するようなことがあれば、新幹線「こだま」 しか止まらないこの三河安嬢駅に「こだま」すら止まらなくなり、商店街 そのものが存亡の危機に!・・」  亜希子は無茶ぁ言うなあこの人も、と思ったが、ここで北浜が追い討ち をかけるように、「鈴木君、頼む!私ら決して、亜希子君のでかいオッパ イがブルンブルン揺れるのを見たいとか、やらしい意味で言ってるわけじ ゃないんだ!スタッフとして運営を任されている以上、なんとかうちの会 社として出来ることは全て協力してあげたい、ここは鈴木君のカラダ、も といチカラが是非とも必要なんだよ!ほら、このとおりっ!」  北浜、ここで部下の亜希子に向かって土下座。商店会会長も土下座。  ライダーダブルキックならぬリーマンダブル土下座だ!大の大人2人に ここまでされては亜希子ももう、折れざるを得なかった。 「わ、分かりました、私でお役に立てるんでしたら、何とかがんばってダ ンサーやってみます・・」  亜希子は強く押されたとは言え、安易に引き受けてしまったことを、す ぐにひどく後悔する事になる。  まさか用意された衣装があんなに過激なものだったとは・・・。 「そうか!引き受けてくれるか!」 「もうあまり時間が無い、早速更衣室で着替えてもらって準備のほうを!」 「えっ..ちょっとぉ..」  亜希子は半ば強引に、準備室の片隅にある更衣室に連れて行かれた。  部屋に入ると、他に誰もおらず、どうやらフィリピン人ダンサーとやら はすでに準備を済ませ、会場に向かっているらしい。 「サンバの衣装ってどんなのを着るの?」  亜希子はちょっとドキドキしながら、指示されたとおりロッカーを開け た、そして中を見た瞬間、思わず絶句してしまう。 「な、なにこれ?」  サンバといっても、地方の商店街イベントのこと、本場と違ってそれほ ど過激な衣装は着ないだろう、亜希子はそう高をくくっていた、が、それ はとんでもない甘い認識だった。  そこにあったのは「衣装」とは名ばかりの殆ど裸同然の、常軌を逸した 超絶エロビキニだったのだ。  まずビキニの下のほうだが、これはもうもろにTバックであった、お尻 が完全に丸出しになるのだ。前の方もかなり切れ込みがキツく布地も少な い、ムダ毛の処理をしないと、とても着れたものではない。  着れたものではないがこれは許そう、100歩譲って許そう。問題はビキ ニの上だ、なんと布地が無い!アンダーバストのラインに沿って派手なラ メのワイヤが廻っており、それをチェーンみたいなブラ紐で吊るす構造に なっているのだが、布地は全く無かった、ではどうやってオッパイを隠す のか?よくよく見るとロッカー内にダサい星マークの模様と、先っぽに銀 のヒラヒラがついた、丸いシールみたいなものが2個転がっており、どう やらこれはニップレスで、申し訳程度にこれで隠せというのだ。 「これ、無理!むりよぉぉ」  AカップやBカップの女の子ならともかく、亜希子のGカップ巨パイが こんなもので隠しきれるワケがない、これではほとんどオッパイ丸出しで はないか!!  亜希子はやっぱり断ろうと、更衣室のドアを開けた、そしてそこで異様 な光景を見た。 「♪ジャジャジャーン!ジャジャジャジャ〜〜!」その瞬間、頭の中で、 「吉宗評判記 暴れん坊将軍」のテーマが聞こえたような気がした。亜希 子がそこで見たのは、イベント実行委員会総勢10数名のオッサン連中が更 衣室の前で全員土下座している姿だった。 「ワタシは水戸の御老公様か!?」  やはり中年は1枚も2枚も上手だ、断ってくるのを予測して、予め更衣室 の前で待ち伏せしていたのだ。もう、とてもじゃないが今更断れるなんて 雰囲気ではない、そうはっきり悟った亜希子は更衣室のドアを黙って閉め た。  けれど、再びサンバの衣装を見ると腹が立ってきて「土下座してようが 関係ないわよ!」と更衣室の出口へ向かう。  相変わらず、オッサン連中が全員土下座を続けていたが今度は大声で「 公然の面前であんな裸同然になれるわけないでしょ!私は露出狂じゃない んだからねっ」とはっきり言って本部の方へ戻っていった。  一時は土下座パワーに負けそうになった亜希子だったが何とか抜け出て ホッとした。 (危なかった..あんなの着て踊るなんて絶対無理なんだからっ) 「このままコンビニに行って時間つぶしたほうがいいわね」  そう言って近くのコンビニに行く亜希子。時間をつぶすために雑誌コー ナーでファッション雑誌を立ち読み。すぐ近くには成人雑誌コーナーがあ り、表紙に載っていた露出プレイの写真が目に入り、私も最悪あれに近い 姿されたんだわと思う。けれど、このままイベントを台無しにしていいの だろうか。いや別に私のせいじゃないでしょ。どうせ、私を何とかダンサ ーにしようと企んでいたのかも知れないし.. 「あああ〜、ここに居たら何かいろいろ考えちゃう」  どうしても全員土下座を続けてる映像が頭にチラついてしまうので本部 に戻る。もしかして私が我がままなだけと何か自分の方が悪く感じてしま う。  本部に戻った亜希子はそっと更衣室近くの様子を伺うと「うそぉぉぉ〜」 と思わず声を出したくなる光景が映る。  まだオッサン連中が全員土下座を継続していた。どうやら相手の方も亜 希子に断れたら後がないらしい。  ―――こんな手に..負けてたまるものですかぁぁぁ!  北浜たちにばれないように本部へ戻る亜希子。  だが、またすぐに更衣室の近くまで戻り溜息を吐く。今度はさっきのサ ンバの衣装が頭に浮かんでしまい、何か身体の中で変な感覚が湧き上がっ てきているようだ。 (いやいやいや〜、あ・あんなの着たいとは思わないわぁぁ!!)  気がつくと亜希子の中でサンバの衣装をつけたいと思い始めており、そ んなの気の迷いなんだからと頭を左右に振って否定を続けていた。  一方、土下座を続ける10数名のオッサン連中もそろそろ限界なのか北浜 に話しかけてきた。 「北浜さん、いつまでこんなことを続けるつもりで..」 「もう時間もないのに大丈夫なのか?」 「皆さん、ここは辛抱です。アキちゃんはこのまま逃げる子じゃありませ んっ。我々は諦めずに土下座を続けてましょう」 「・・・北浜さんがそこまでいうなら..」 「まあ、もう打つ手がないしな..」  この土下座に効果があるか実際のところ、北浜にも自信がない。  けれど、亜希子が何回かこちらの様子をチラチラ伺っていたのは気づい ていた。もしかすると自分の想像を超えたことをしそうな気もしたのだ。  そんな時、曲がり角の方から亜希子の声が響いてきた。 「・・・まだ、土下座を続けてたんですね」「アキちゃん!」 「分かりました。今回だけ!今回だけですからねっ!」「アキちゃん?」  さっきから声だけが聞こえる状況に北浜が問いだした。 「アキちゃん、何でいつまでも隠れているんだい?」「・・・・・・覚悟だから」 「はあ?覚悟って..アキちゃん、何を言ってるんだい」 「・・・また逃げてしまいそうだから!そ・そういうわけで..覚悟を決め ました。他意はないんですからね!勘違いしないでよ!」とようやく曲が り角から出た姿にオッサン連中はポカンと口を開けた。  何と誰もが想像出来なかった素っ裸で現れたのだ。気でもおかしくなっ たのだろうか?  どうやら、これは亜希子なりに退路を断った手なのだろう。  いや、これから裸同然の姿に耐え切れるかを確かめたかったのかも知れ ない..  まあ、それは建て前で実際はサンバの衣装を着けてみたい衝動が強くな ったのだろう。ただ理性で必死に我慢していたに過ぎない。  それが逆に亜希子の奥に潜む性癖を高めていき、強引に理由を考えてか ら服を脱いでしまったらしい。  そして我に戻った時はすでに遅く、もう素っ裸で更衣室の前に立ってい る有様だった。 (あ〜ん、何でこんな馬鹿なことしちゃったのよぉぉぉ〜!絶対、変な風 に思われてるぅぅ〜)  一応、胸や股間には手を当てて隠しているけど、全てを隠せてるわけじ ゃない。亜希子は北浜たちに何て言われるか不安でドキドキしていた。  もちろん北浜たちも、ここで失敗するわけにもいかない。亜希子の理性 を戻すような発言は控えて、全員でひたすら褒め称え攻撃。  褒める!褒める!褒めまくった!「少しもおかしくなんてない」「こう いう度胸試しは必要だよ!」と亜希子が取った行動が大正解のように持っ て行く。  すると亜希子の方も「結局、私の裸が見たいだけなんでしょ」とムッと した表情を見せてくるが恥部を隠してるガードが甘くなってるところを見 ると満更でもない感じだ。 「絶対!絶対似合うって。なあ、みんな」「ああ!当然」「似合うよ」  北浜がこれでもかというぐらいに亜希子を褒め称えると、亜希子のガー ドが完全に外れた。  腰に手を当てて照れながら「んもぉ〜!わかったわよぉ〜。着ればいい んでしょ!そんなに褒めなくてもいいわよっ」と上機嫌。 「アキちゃん、ありがとう」 「じゃあ、着替えるから所長たちは他の準備を進めておいて」 「ああ、わかったよ」  亜希子が更衣室に入ったことで全員ようやく土下座から解放。  そして、北浜たちは脱兎のごとく急いでその場から撤収。それは数分後 の行動を予知してのことだった。  2分も経たないうちに更衣室のドアが開き、「やっぱ、こんなの着れな いわよぉぉ〜。さっきの言葉は無し!撤回させてぇぇ〜」と顔を真っ赤に した亜希子が叫んできた。  が、オッサン連中はとっくに逃亡し、曲がり角に脱ぎ捨てていた亜希子 の服も下着も綺麗さっぱり回収していたのだ。 「あ〜ん、何であんなことしちゃったのよぉぉ〜!服や下着まで持ってい かれてるわぁぁ〜。嵌められたぁぁぁぁ〜」  まさに退路を断たれてしまい、よく見るとドアの前に何か小物みたいの が置かれてるのに気づいた。 「これって何かしら?」  それは亜希子の股間を見て何かに気づいた北浜が置いたものだった。 「!女性用シェービングじゃない..って剃れってことぉぉ〜」    どうやら、用意したサンバの衣装だと亜希子のアンダーヘアが飛び出て しまう様であった。


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