第3話「大当たりの糸は..」
大先生たちによる恥辱な恥毛くじが続いている。
どうやら、大先生に対しても先輩OLたちの巧みなマジシャンズセレク
トが行われており、次々とハズレのクジを引いていく。
もう、大先生のほとんどはクジを引き終わっており、残りはこの接待に
参加している社員か、クジにさほど興味のない高齢の大先生であった。
だが、その中で異色なのが隠居と呼ばれる大先生の中の大先生、江丸で
であった。江丸は毎回、社員の後からクジを引くことになっており、それ
は一番最後にクジを引くということだ。
もちろん、僕と先輩も最後の方だから、江丸よりは少し前に引く順番に
なっている。
「源ちゃん、いつも奴はどうして一番最後の方で引くと思う?」
「・・・・・どういう事ですか?一番美味しいとこを見せるだけなんじゃ..」
「それもあるが、奴自身がこのカラクリを良く知ってるからだよ。絶対に
当たらない自信があるから余裕で待って居られるんだ」
「それって、例の引かせないカラクリですか?」
「ああ..奴は一番最後で当たりを引くことで、自分の強運や力をアピー
ルしたいんだろう..」
「そんな..きたなすぎる..」
「もっと、汚いのはこの先だ。恐らく奴の番になったら彼女らは本当のア
ドバイスをする」
「それって、まさか!!!」
「そうさ。全てがあの江丸が当たりを引くようにセッティングされている
のさ」
「そんな...」
「だが..そう簡単にシナリオ通りにはいかせねえ..」
「先輩..」
「いいか。俺はお前の後で引く順になっている」
「は・はい..」
「だが、俺の番はこない。お前がそれを実現させるんだ」
「えっ..」
「これが俺のシナリオだ。源ちゃん。お前に全てかかっているんだ」
「そんな..上手く当たりを引けるかどうか..」
「上手く引く必要はない。運命が示す糸を引くんだ」
「運命?」
「言葉では上手く言えないが、きっとお前が引けるのは1本しかない」
「・・・・・・・1本しか?」
「そうさ。その1本を必ず引くんだ!躊躇わらず引くんだ」
「・・・・・は・はい」
僕が先輩から理解しにくいアドバイスを受けてる中、高桐さんのとこに
は、あの真鍋がやってきたのであった。
真鍋が地面を見ると高桐さんの恥毛がついたスポンジボールが多く転が
っていた。
これは引いた者が捨てたのではなく自然に落ちてしまったスポンジボー
ルであった。
「ずい分、ボールが落ちてるようね..クリーム付けすぎたかしら?」
「いえ、脱毛クリームを付けなければ今頃、ここは血でぽたぽた垂れてマ
ズイ状態になってましたよ」
「そうね。真っ赤に腫れてはいるけど血はほとんど出てない様ね」
真鍋は冷静に高桐さんの恥丘を見て状況を把握していた。
「ところで、貴女達。もうすぐ、あの坊やの番が来るわ。注意しなさいよ」
「まかせてください。私たちが上手くハズレに誘導しますよ」
「そうそう。私たちのマジシャンズセレクトはプロ級ですよ。真鍋さん」
「確かに貴女達のその腕は素晴らしいわよ。でも手強いわよ..」
「見た感じ、そんな凄くは見えませんが」
「ええ、見た感じはね。でも手を抜いたら確実に負けるわ..」
「心配性ですね。真鍋さん。この恥毛クジは恒例の特別イベントですし、
私たちに失敗の2文字はありませんよ」
「貴女達、この恥毛クジの最高の盛り上がりがどこなのか分かるわよね?」
「もちろんです。ここまで外れたのを最後に大先生の中の大先生が一発で
当てるとこですよね」
「そうよ。そうでなければ、ここまでハズレできた意味がないわ」
「もちろんです、真鍋さん。それに今まで失敗したことがないので安心し
てください」
「・・・そうね。1回を除いてはね」
「1回?えっ!失敗したことがありましたって?」
「ええ、1回だけ..どっかの馬鹿が当たりを引いて台無しにしたことが
あったのよ..」
「そうなんですか?真鍋さん?でも、失敗した話を聞いたことがないんで
すが..」
「それは、かなり前の出来事からよ。そういうことがあったからくれぐれ
も失敗はしない様にね。いいこと!」
「はい。わかってますよ。まかせてください!」
「・・・その言葉に期待してるわよ」
真鍋はそう言うと真っ直ぐ先輩の方に鋭い視線を向けた。
「ふっ、真鍋め。意地でも源ちゃんに引かせないつもりだな」
「先輩...それって..」
「彼女らは恐らく全てのテクを使ってお前を惑わす気だ」
「そ・そんな..」
「だけど気にすることはない。お前が引けるのは恐らく1本しかない」
「どうして、わかるんですか?」
「ふふ..俺がそうだったからだ。いっぱいクジはあったが1本しか見え
なかった」
「先輩!?それって..」
「いいか、もう番は来る!これが俺の最後の言葉だと思え」
「えっ?最後の言葉?」
「これから先は俺の言葉すらも、お前の邪魔となる。だから、俺はここか
らは何も言わないつもりだ」
「先輩...」
「いいか。上を見て当たりを辿る様な事はするな。あくまでも糸をよく見
るんだ」
「糸を?」
「ああ..ほら、あと4・5人でお前の番だ。行って来い!!」
バシィーン!
先輩は僕の背中を強く叩いて前に出した。背中の痛みが心強い激励とな
った。もう先輩はそこから歩かず、じっと立ち止まっていた。
そんな先輩に後ろで並んでいる社員から文句が出始めた。
「おい!お前、前が空いてるじゃないか!さっさと前に行け!」
「悪いがお前らが引くことはない。諦めな」
「ほぉぉぉーー、ずい分と面白い事を言うじゃないか。幻の当選者くん」
「江丸か..あんたも惜しいことしたな。大先生の中の大先生かも知れな
いが、番はきそうにないぜ」
「ぐひひ。それはどうかな?彼女らの腕は超1流だよ。前のように予測な
ど不可能なのだよ!」
「予測?あの時に俺が当てた意味が未だわかってないんだな..」
「ああ?なんだ?予測じゃなきゃまぐれか?運か?まあ、そんなもん通用
せん!」
「ふふ、未だスケベに目がないお前にはわからねえかもな..何故当てら
れたか..」
「五月蝿い!!そうか、そんなに言うなら少しだけ待ってやろう。だが、
あの小僧が外した時はアレは全てわしの物だ。わしの自慢の100インチ
スクリーンで思い切り流してやるぞ。ぐひひ」
「夢を見るのは勝手だ..しばし好きな夢でも見てるがいいさ」
「ぐぬぬぬぅぅーー貴様ぁぁぁーーいつか覚えておくんだな。わしに逆ら
うのがどういう事になるか。社長か人事部長に言っておこうか〜」
「人事まで口出せるとは、さすが大先生の中の大先生だな。そうだな、地
方に飛ばすなら北海道にしてくれ。まだ綺麗な桜が見れそうだからな」
「ほぉ〜、わしの言葉が嘘だと思うかね」
「ふっ、こんなバブルの時代はもうすぐ破裂するさ。その時はあんたもい
ろんなスキャンダルが出て、おしまいだろうな」
「貴様ぁぁぁぁ〜」
先輩と江丸が対立している中、僕の番がついにやってきた。
僕がクジを引けるのはたったの1回..本当に当てられるんだろうか..
裸の先輩OLたちが僕に何かを言ってるようだけど、聞くつもりは無い
し、周りの音が耳に入らないぐらい僕の意識は1点に集中していた。
巧みなマジシャンズセレクトも幾ら駆使しようが意味がない。
聴覚は既に途絶えてる。彼女らの言葉は意味不明なものとしか感じられ
ない。
「ねぇ〜、源堂くん。彼女を助けたいなら力を貸すわよ〜」
「そうそう、私たちもあの江丸に当てられたくないから」
「・・・何を言ってるか分かりませんが、無駄ですよ。今の僕は誰の言葉も
聞くつもりは無い。理解も出来ませんから」
「!何ですって〜。そんなこと言うと後悔するわよ〜」
「素直に聞いたほうがあなたのためよ」
「・・・もう喋り終わりましたか?僕に何を言っても無駄ですから」
「生意気な坊やね♪まあ、聞かないつもりなら、こういうことしちゃうか
ら〜」むにゅ♪
「ほら、私たちのおっぱい柔らかいでしょ。聞くつもりになったでしょ〜。
んふふ〜」
僕の身体におっぱいを押し付けてきたので、さすがの僕も聞くフリだけ
することにしたが、やはり巧みなマジシャンズセレクトっていうのは伊達
じゃないかも知れない。
正直な話、先輩OLの話を聞いてしまった僕に迷いが出てきてしまった
からだ。
(ううっ..どれを引いていいかわからなくなってきた..先輩は引ける
のは1本しかないって言ったけど、僕には無理かも..)
僕は困惑しながら、くじを引くために高桐さんの前に立った。
でも高桐さんを見ることは出来ない..
こんなヒドイ目に遭ってる高桐さんの姿をどうして見られると言うのか!
そんな時、僕の耳に小さな声が届いた。
「・・・げ・源堂くん....」
「!!高桐さんっ!!!」
僕は高桐さんの顔を見た。高桐さんはそんな僕に向けて苦しい中で少し
微笑みを見せた。
「・・・源堂くん..ひ・ひいて..」
「高桐さん....」
僕は苦しみの中から微笑んでくれた高桐さんに応えるために糸の方だけ
をじっと見た。
そう..この時、先輩の言ってた事が始めてわかった...
(1本だけ..1本だけ他の糸と違う動きをしている...)
そう..高桐さんが当たりの糸を必死に動かしたのだった。
それが女性にとってどれだけ恥かしいことだろう..その恥かしさをあ
えて僕の為に高桐さんはやってくれたのだ。
周りにいた先輩OLたちも一瞬で青ざめた。そう、どんなに惑わそうが
もう答えがはっきり見えてたからであった。
僕は躊躇わずその糸を思い切り引いた。これ以上、高桐さんにこんな事
をやらせたくないから。
当たりの糸を引くと同時に高桐さんは大声を上げながら大きく身体を跳
ね、乳首から吊るされた鐘のような大鈴が響いた。
先輩OLたちが悔しがる中、僕がさっさと景品のとこに行くと、遠くか
ら江丸がくだらないことを言ってきた。
「そ・そこの君!!君の今度の賞与..いいや君には出世コースを重役に
話してあげるから、それをわしに譲ってくれぇぇぇーー!いいや、う・売
ってくれてもいい!!いくらでも金は出すぞ!!」
僕はそんな江丸の前で景品のビデオテープを地面に叩きつけた。
ビデオテープは粉砕して中のテープが散乱する。そのテープの上にアル
バムとある物を一緒に地面に捨てた..
ボォッ!!ボオオォォォォォォッッ!!
そう..先輩から貰ったライターに火をつけて捨てた。煙草を吸わない
僕に先輩がさっきくれたライター。
貰った時には理解出来なかったが、今では全てわかった。
僕は先輩の方を振り向いた。
丁度、先輩はマッチ箱からマッチを取り出して火を付けて煙草を吸って
いた。
僕の方を振り向いていないが、何を言っているのがわかる..
そんな先輩に真鍋さんがツカツカと近づいていく。
「今時、マッチだなんて懐古趣味かしら?」
「俺のライターは焚火が好きで消えちまったんでね」
「そう、楽しいライターね..」
「何しにきたんだ..」
「ずい分、いい気分に慕っていてると思って様子見よ..」
「どうかな..」
「忠告してあげるわ。貴方達がやった事は逆効果よっ」
「・・・・どういうことだ」
「見なさい、あの江丸を..貴方達は触れてはいけないものを触れたのよ」
「そうかも知れないな..だが、俺はこの答えが今でも正解だと思ってる...」
「そう..ならいいわ。あの坊やにこれから愕然しないでね。と伝えてち
ょうだい」
「そうだな。あの下衆がこれで収まるわけないな..」
「あの景品を渡せばあの子への仕打ちはこれで終わってたのよ。あの時も
そうだったはず..」
「ひどくなったのは俺のせいだと言いたいのか?」
「そうよ。もう知らないわよ。後は彼女の精神が持つかどうかよ..ふふ」
「持つさ..俺はそう思う..」
「・・・そう?まあ私には関係ないことだからいいわ」
真鍋さんは先輩と話した後にこの会場を去っていった。
そして真鍋さんが言ってた通り江丸の顔はものすごい形相となっていた。
下唇を思い切り噛んでるいる江丸の唇からは血が流れ始めている。
この江丸を見てると高桐さんの恥辱はこんなものでは済まない様な気が
してくる..
高桐さんにこれ以上、何をやらせようとするんだ?
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