第1話「新人親睦会」


 僕の名は平田 滝輔(ひらた たきすけ)。  この春から社会人となり、専門学校最後の春休みをつぶして、今は1週 間の新人研修を受けてるところだった。  本当は卒業旅行などしたかったが、この就職難ではそんな贅沢なことを 言ってる場合ではない。  まあ、この就職がきっかけで渡部さんという同期の女性と知り合えたの だから良しとしよう。  渡部さんは私立の名門女子高から推薦で、この会社へ採用されたらしく 僕の2つ下の18歳である。  今、受けてる新人研修の女子社員の中で一番人気がある女性でもあり、 そんな彼女と仲が良くなれたなんて嬉しいことだ。  ただ、まだ告白をしてないので恋人というところまでいっておらず、仲 のいい友達の関係なので、この研修の間に仲を深めたいと思っている。  そう思い研修最後の今日に告白するつもりだったが、初っ端からとんで もないハプニングに巻き込まれて、告白する機会を失ってしまった。  研修最後の日は親睦会を兼ねて、旅館で研修をすることになったので、 渡部さんが1人になる機会を狙って研修後に告白をするつもりだった。  しかし、親睦会前に旅館のお風呂に入った渡部さんを覗こうとする同期 の男子社員たちに強引に誘われて、渡部さんの裸を見てしまった。  さすがに裸を見たあとでの告白は出来るわけはなく、渡部さんへの告白 は親睦会の後にすることに決めた。  もちろん、告白する前にお風呂を覗いていたことを話して許してもらう つもりだ。  いや、もしかしたら軽蔑されて、それで終わりかもしれない。  それでもいい。覗いたことを黙っていることなど僕には出来ないかだ。  しかし、親睦会でもいろいろととんでもないことが起きるとは思っても いなかった。  午後7時、親睦会が始まった。今日はこのまま旅館に泊まることになっ たせいか、上司も自分たち新人も酒を浴びるように飲み、あちこちで馬鹿 騒ぎする手が付けられない状況となってきた。  新入男子社員の中には素っ裸になって踊る馬鹿が数人ほどいて、まさに 無礼講な状況といえよう。  イチモツを振り回して動き回るので、新入女子社員たちは手で目を隠し て悲鳴を出してきてるが、ほとんどの女子社員が指の間からしっかりと見 ている感じだ。  この中で、ちゃんと目をつぶっているのは渡部さんぐらいなので、僕と してはホッとしている。 (それにしても、何が悲しゅうて、同期の立ったイチモツを見なきゃなら ないんだ..)  まあ、そうなるほどまで新人は上司にどんどん酒を飲まされてべろんべ ろんとなっており、僕も渡部さんもかなり飲まされて酔ってしまった。  これじゃ告白どころじゃない..あげくは酒に酔ったエロ上司の部長が とんでもないことを言い出してきた。 「みんなぁぁーよく聞けぇぇぇーー!これからぁぁーーー、親睦会恒例の 野球拳をするぞぉぉぉーーー!」 (親睦会恒例の野球拳って..そんなことを毎年しているのか?)  もしかしたら酒に酔った勢いで部長がふざけて言ってるのかも知れない。  いくら、酔ってるとはいえ、野球拳をする新入女子社員などいるわけが ないだろう。 「この部長の俺とぉぉーー、野球拳をしたい奴は手をあげろぉぉぉーーー! 言っとくが男じゃねーぞ。女が手をあげるんだぞぉぉーー」  指名ならともかく、挙手するなんてするわけがないだろう。  おそらく、部長以外は誰も手をあげるものなど、いないと思っているは ずだ。そう確信していたのだが.. 「部長ぉぉ〜、私が相手になりますよぉぉぉーー」  何と1人の新入女子社員が酔った勢いで手をあげてきてしまい、その挙 手で部屋内は男子社員たちの大歓声で響き渡った。  何故なら、挙手をしてきたのは新入女子社員の中で1番人気が高い渡部 さんであったからだ。 (何で渡部さん、手なんてあげたんだ?部長は本気なんだぞ)  同期の男子社員たちがいると言うのに、気軽に手をあげてしまった渡部 さんがそのまま部屋の前にある挨拶用の壇上に上っていく。  部長も千鳥足で壇上に上がり、いつの間にか新人代表としてエロ部長と 野球拳をすることとなった。 「野球〜するならぁぁ〜♪こういうぐあいにしやさんせぇぇ〜♪ アウト!! セーフ!! よよいのっよいっっ!!」  1回目は渡部さんがパーで勝つことが出来、まずは部長が上着を脱いだ。  「アウト!! セーフ!! よよいのっよいっっ!!」  続いて2回目も渡部さんがグーで勝つことが出来、部長がズボンを脱ぐ。  そして渡部さんの連勝は続き、3回目のチョキで部長はシャツを脱いで、 ブリーフ1枚とされてしまった。  どうやら部長は4枚しか着ておらず、あと1回負けると皆が見たくない部 長の全裸姿が晒されるだろう。  当然ながら男子社員たちのブーイングが部屋内に響きだす。  僕としては醜い部長の裸が出てもいいから、このまま部長に負けて欲し いと強く願った。  だが、この後の4回目と5回目は引き分けとなり、6回目のチョキで渡部 さんが初めて負けてしまった。  みんなが見てる前で上着を脱いでいき、ブラ姿を見せてしまった渡部さん。  これ以上、負けたら下着姿になるだけに必死に応援したが、またもやパ ーを出して負けたのであった。  ついにはスカートを脱いで、下着姿の状態となり、タオルを渡されるこ ともなく白色のブラと同色のショーツ姿を壇上の前で見せてしまった渡部 さん。  普通だと、これで終わりだと思うのだが、全員が泥酔しているせいか、 そのまま野球拳が続いてしまい、この後のジャンケンでも負けてブラまで も取ることになってしまった。  みんなが見ている前でブラを外して、おっぱいを必死で手隠ししてきた 渡部さん。  今度こそ、ここで止めると思ったのだが、泥酔している連中が続行コー ルをしてしまったので、勝ち負け関係なくあと1回だけ行うことが決まっ てしまった。  その上、じゃんけんをする関係で両手隠しから片手隠しになった渡部さ んだが、酔っているせいで上手く隠すことが出来なかった。  左手を右胸に当てて、左腕で左胸を隠しているのだが、腕で隠す方がし っかりしておらず、腕の間からおっぱいが何回もこぼれてしまう上に、当 てている左手も大きく開いているせいで乳首が指の間から飛び出していた のだ。  まあ、すぐに最後のじゃんけんがはじまるので、これぐらい見えてしま ったことは諦めるしかないのかも知れない。  ともかく、渡部さんには絶対に勝って脱ぐことを逃れてほしい。  心の奥底から願っていた僕だったが、お風呂の覗きの時と同じに、僕の 願いは打ち砕かれ、渡部さんがあっさりと負けてしまった。  渡部さんも負けたことがショックらしく、胸を隠してた手を放して床に ひざをついてしまった。  そんな渡部さんの身体を部長は強引に抱き起こして、渡部さんに最後の 1枚を脱ぐように言ってきた。 「ほら、負けたんならパンティを脱がんかい。それとも脱がしてほしいか〜」 「いえ、脱ぎます..脱ぎますから..」 「じゃあ、早くここで脱ぐんだぞ」 「わかりました..ぁぁっ、みんな見ないでくださいぃ..」  ショーツを脱ぐというのに、タオルを渡されなかった渡部さんはおしり をみんなの方を向けながら、ショーツを下ろしていった。  不謹慎だが、下ろすときの渡部さんは無防備すぎて、正直な話、おっぱ いやあそこが少しだけ見えてしまった。  この後は、渡部さんがおっぱいとあそこを手で隠しながら、エロ部長に 下着を渡して野球拳が終わり、渡部さんの方にもすぐに浴衣を渡されたの で、僕としてはホッとしたとこだろう。  ただ浴衣を羽織るときにも、おっぱいがあそこがチラチラと見えたけど、 一応お尻以外は少しの時間だけしか晒してなかったのが救いだったかも。  ここで僕が怒りに覚えたのは脱がした渡部さんの下着や服をエロ部長が 酔っている男子社員に向けて放り投げたことだ。  当然ながら酔った男子社員たちの激しい取り合いになり、渡部さんの服 や下着はぼろぼろになって着れなくなってしまった。  その上、渡部さんに渡された浴衣は紐なしのミニ浴衣だったので、両手 で必死に押さえないと、すぐにはだけてしまうものだった。  このミニ浴衣によほど恥ずかしかったのか、渡部さんが顔を真っ赤にし て、部屋から出て行ってしまったので僕は心配して追いかけていった。 「はぁはぁ..渡部さん..だ・大丈夫かい..」 「たっくん(平田の愛称)..心配して来てくれたの」 「あ・あの..み・見えてなかったから..大丈夫だから..」 「くすっ..それは..そんなに気にしてないわ..みんな酔ってるから 覚えてないわよ..」 「それならいいんだけど..」(どうする..ここで言っちゃうか..)  野球拳の後の謝罪と告白なんて、おかしい感じだけど、今なら言えそう な気がする.. 「渡部さん、実は今日のことなんだけど、僕はイケナイことをしたんだ。 まずはそれを謝らしてくれないか」 「それってお風呂のこと?素直に言うなんて、たっくんらしいわね」 「!えっ..何でお風呂のことを渡部さんが..」 「実は男子社員たちが覗いてくるのは、私たち知っていたのよ。覗きの方 も毎年恒例となってるみたいなの」 「覗かれるのを知ってて入ったってことなのか?」 「まあ、そんな感じよ。覗く代わりにそれ以上、変なことをしないと主犯 の男子社員に先輩OLが釘をさしてるみたいなの」 「そんな馬鹿なことが..」 「でも、私たちも覗かれたくないなので、くじ引きで誰か1人だけ男性た ちの目を惹きつける役をつくって、その子だけが裸を見せることにしたの」 「じゃあ、渡部さんがくじ引きで..」 「私って運が悪いよね。まさか当たってしまうなんて..もちろん、当た った以上は恥ずかしいのを我慢していろいろ見せ付けるしかなかったの」 「そうだったんだ。でも覗いたのは悪いことだし謝らしてくれ」 「真面目だね..たっくん。その顔だと謝らないと気がすみそうになさそ うだしね」「うん」  僕は渡部さんの前で土下座して謝ることにした。  正直な話、これでも気が済まないのだが、今の自分が出来る精一杯の誠 意であった。 「ありがと..たっくん。もう十分に気持ちは伝わったから..」 「ごめん、渡部さん。本当にごめん」 「もう頭をあげてよ。ねっ、たっくん」  いつまでも頭をあげない僕に対して、渡部さんの方が困ってきたようだ。  別に困らしたくて、ずっと頭を下げてるわけじゃない。  本当に申し訳ない気持ちでいっぱいで、頭が上がらなかったのだ。  そんな情けない僕に渡部さんが、とんでもない行動に出てきた。 「申し訳ないのなら..浴衣を取ってきて..」「えっ?」 「私をいつまでも裸で立たせるつもりなの?たっくん」「!!」  僕が渡部さんの言葉に驚いて、少し上を向くと何と着ていた浴衣を遠く に飛ばしていたのであった。 「渡部さん!?な・何を」「そ・そんなことよりも早く..取ってきて」  顔を真っ赤にして震える声で言ってきたとこを見ると、相当恥ずかしい ことをしたのだろう。  僕は急いで浴衣を取ってきて、裸で立っている渡部さんに渡した。 「ありがと..これ以上、謝ったら..また投げるから..」 「わかったよ..謝るのはこれで終わりにするよ」  まさか渡部さんがこんな大胆な止め方をするとは思っていなかった。  まだ酔っているせいもあるのかも知れない。  酔いが残っている中で告白するのはおかしいかもしれないが、謝った後 にすると決めた以上は勇気を出して言うしかなかった。 「渡部さん..こんな状況でいうのもおかしいけど、もし良かったら僕と つきあってくれないか」 「!たっくん..」  渡部さんは僕の突然の告白に少し、戸惑いながらもこう言ってきたのだ。 「たっくん、私..あなたが思ってるほどの子じゃないと思うけど.. それでもいいの?」 「えっ..それって..」 「ほらっ、私..女子学院の出身だから男性にすごくいいイメージに見え てしまうけど、本当のイメージは結構違うかも知れないのよ」 「別は僕はそういうイメージで渡部さんを選ぶつもりはないよ」 「ありがと..たっくん」 「渡部さん、もしかしたら僕とは..」 「ううん、そういう意味で言ったんじゃないの..そうだ。少しだけ返事 を待って欲しいんだけど..」 「少しだけ?」 「そう..今度、ここの会社で花見をするでしょ?その花見が終わったら たっくんの答えをもう1回聞きたいの..」 「えっ?僕の答え?」  いつの間にか僕への告白の返事が、僕が答えることになっている?  いや..答えを聞きたいのは僕の方なんだけど.. 「あの..渡部さん、僕の答えというのは..どういうこと?」 「あっ..ごめんっ。私の答えを先に言うのを忘れてたわ..もちろん、 私もたっくんの事が好きよ」 「そ・そうなんだ!じゃあ、僕とつきあってくれるんだね」 「ええ、でも..たっくんは本当に私の事を好きでいてくれる?」 「もちろん、だから僕の方から告白したんだから」 「じゃあ、今の質問をもう1度、花見が終わったあとでしていい?」 「うん、別にいいけど」 「じゃあ、約束ね。花見が終わったらたっくんに答えを聞くからね」 「う・うん」  何故か渡部さんが僕に念を押して聞いてくる。  花見が終わったところで僕の渡部さんを想う心は変わらない。  何回、聞かれても僕は渡部さんの事が好きなのである。  結局、花見が終わるまでは今のままの関係でいくことになってしまった のだが、何故花見の後なのか良くわからない。  けど、僕の耳には渡部さんが再び口にした言葉が頭に深く残っている感 じであった。 <たっくん..  もう1度同じ事を聞くから、その時のたっくんの答えを聞かせて..>  これが、とんでもなく深い意味を持っていたとは、この時の僕が知るは ずがなかった。  そう、これから僕の会社では、とんでもない事が始まろうとしていたか らであった。


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