XC'mas2009 金髪サンタの贈り物? 前編


「あ〜あ、せっかくのクリスマスだって言うのにさ〜」
 せっかくの25日も一緒に過ごす相手がいなければ、他人の仲むつまじさを見せつけられるだけの頭にくる日でしかない。
 明日香が海外に留学し、それでもまだ女のままでいるあたしには、ともにクリスマスを過ごす相手がいない。
 そりゃ、女になってるあたしは自分で言うのもなんだけど美人だし、胸の結構大きいから、声をかけてくれる相手は事欠かない。その全員が男だと言うのが問題なのであって、もしお誘いに乗ろうものなら、望まない肉体関係を結ばされてしまうことは目に見えている。
 ―――だからって、わざわざこういうバイトを選ばなくてもさ・・・・・・
 現在、25日の夜。クリスマスのまっただ中。目の前を肩や腕を組んだ男女が行き交って非常に目に毒な時間帯だけれど、あたしがしていることと言えば真っ赤なサンタクロースの服を着て、ケーキ屋さんの前で半額になったクリスマスケーキを販売するアルバイト・・・・・・どうしたって悲しみがこみ上げてきてしまう。
 それというのも・・・・・・
「タクヤちゃ〜ん、テンチョーさんが売れ残ったケーキは持って帰っていいって言ってますネ。とってもデブっ腹ですね♪」
「ケイト・・・それを言うなら太っ腹。まったく、久しぶりに会っても、そう言うところは変わってないんだから」
「エヘヘ、タクヤちゃんに褒められちゃいましたですね♪」
「いや、褒めてないって・・・・・・」
 宮野森学園時代の友人のケイトから急に電話をもらったと思ったら、アルバイトだったわけで・・・何でもケイトが勤めている会社が不況でボーナスを出せず、代わりにと言っては何だけれど社員のアルバイトが認められたらしい。
 海外から留学してきてそのまま日本に滞在しているケイトは好奇心旺盛で、そうなると様々な仕事に挑戦し始めたそうなのだけれど、今回のクリスマスケーキ販売のお仕事も「サンタの服が着てみたいから」やってみて「二人じゃないとダメだから」と言う理由であたしが呼ばれたのだ。
 ―――あ〜あ、もうちょっと色っぽいお話かと思ってたんだけどな・・・・・・
 一時期、あたしとケイトは男女の関係を持っていた・・・・・・はっきり言えばエッチする仲だ。
 ポニーテールにした金色の髪と、巨乳と言われるあたしの胸お皿に上回るボリュームを誇る外国産ホルスタイン。更衣室で二人一緒にサンタの服へ着替えるときに目にしたけれど、90センチの大台に乗ったあたし同様、さらに一回り存在感を増したように思える。
 そんなあたしの視線に気づいたケイトが言うには、
「OLになってから、いろんな人のいっぱい揉まれちゃって、ケイトのオッパイ大きくなっちゃったですネ」
 予想はしていた。以前も、所属していた水泳部の男子部員たちと不特定多数異性交遊をしていたケイトだ。あたしと会わなくなってから、他の男と関係を持っていたとしてもおかしくないし、そう言うオープンなところが受け入れられづらくてもケイトのいいところであると思う。・・・・・・でも、セックスフレンドのような関係にあったあたしは、そう言うことをストレートに言われて少々心中複雑になってしまう。
 ―――最後に明日香を選んだのはあたしだけど・・・・・・
 その明日香との関係も今は妙にこじれていて、修復したくても相手が海外ではどうしようもない。そして今、隣には過去に関係のあったケイトがいるけれど、そちらもすでに終わった関係だ。もしこの後、ケイトと女同士として肌を重ねるような展開があったとしても、それはケイトが他の男性とそうするのと変わらない、ただの快楽を楽しむ”お遊び”の関係でしかない。
 ―――あ〜あ・・・・・・やっぱり男に戻らなきゃ恋人なんて・・・・・・
 失ったからこそ解る独り身の寂しさ。冬の寒空の下でミニスカートでなかったことは幸いだったかもしれないけれど、幸せの象徴であるクリスマスケーキを売り、すぐ隣にケイトのような美女がいても、あたしの心が暖まることはなかった。
「タクヤちゃんタクヤちゃん、この後ヨージありますか?」
「用事? まあ、終わったら家に帰るぐらいで用事ってほどのは・・・・・・」
「じゃあこの後、ケイトと一緒に遊びましょうですネ。今晩はオールナイトでケイトと一緒ですネ♪」
「でもさ、ケイトにはいるんでしょ。一緒に過ごしてくれる男性(ひと)。だったらせっかくのクリスマスなんだし、その人と過ごした方がいいんじゃない?」
「ん〜・・・・・・ケイト、特定のステディはいませんネ。そう言うカンケイだったの、タクヤちゃんがファーストでラストですネ・・・・・・♪」
「え・・・・・・?」
 アルバイトも終わりに近づいた時間帯でのいきなりの告白・・・・・・最初で最後、それはつまりあたしのことが今でも好き・・・・・・そう解釈してもいいのだろか?
「エヘヘ・・・・・・ちょっぴり恥ずかしいですネ・・・・・・」
 ケーキを売る身では、お互い見つめ合うわけにもいかず、視線は人が行き交う道の方へと向けていなければならない。それでも安くなったケーキを買おうかと立ち止まるお客さんに笑顔を振りまきながらチラリチラリと視線を横に向け、白いファーのついたサンタクロース服と相まって一段と際だって見える金色の髪を揺らすケイトの表情を盗み見ようとしてしまう。
「ケイト、あの・・・・・・」
 たまらずあたしがケイトの気持ちを確かめようと口を開いたのは、閉店時間の直前。お客さんの波が収まり、もう三個ぐらいしかケーキが残っていなくなってしまってからのことだったんだけど、そこでタイミングを計っていたかのように最後のお客さんが現れた。
「こ、こんばんわ・・・・・・」
「あれ、明くん? どうしたの、こんな時間に」
 そこには週に何度か家庭教師として勉強を教えてあげている明くんが立っていた。
「えっと・・・・・・冬期講習の帰りだったんですけど・・・・・・先生の姿を見かけたからつい・・・・・・」
 言葉の通り、明くんの肩には鞄の紐が掛けられており、塾帰りであることが伺えた。学校も冬休みになり、受験の今年はあたしに勉強を見てもらいながら進学塾の冬期講習まで受けている。
 受験する学校はあたしの母校でもある宮野森学園。そこへ進学する理由は・・・・・・実を言うと”あたしの母校”だからと言うそれだけの理由だ。
 ―――もう、いつもあたしを困らせるんだから・・・・・・
 おとなしくて可愛らしい美少年の明くんにはいつもあたしの母性本能をくすぐられてしまう。本当は男だからとか関係なしに、明くんには女として色々なことを教えてあげたくなり、実際に勉強そっちのけで色々なことをしてしまっている間柄だ。
 でもそれも今年で終わり。来年になれば受験も終わり、家庭教師もお払い箱。そうなれば明くんとの関係も同時に終わりになり、授業と称した肉体関係もできなくなってしまう。
 ―――それも仕方がないよね・・・・・・いい機会だって思わなきゃ。
 いずれあたしだって男に戻る。その時になって関係を清算するよりも、今の方が傷が浅くてすむはず。明くんだっていずれ新しい恋人ができるんだし、あたしよりいい人はいくらでもいるはずだ。
 そんな風に、関係が微妙になりつつある可愛い教え子がいきなり目の前に現れると、ケイトの時以上に心中が穏やかでなくなってしまう。そしてそれが顔に出てしまったのだろうか、
「この子がタクヤちゃんの新しいステディですネ!?」
 思わずモジモジしあってしまっていたあたしと明くんの間に割り込むように、ケイトがサンタ服の胸元を大きく押し上げる膨らみの前で手を組んで、なぜか嬉しそうな声を上げた。
「す、ステディって・・・・・・」
 言葉の意味を知っているらしい明くんが顔を赤らめる。そしてケイトに向けられた視線がケイトの顔から胸元に移動し、思わず固まってしまったことを見逃すあたしではなかった。
「明く〜ん、ケーキ買いにきたの? それとも営業妨害でもしにきたのかな〜?」
「違います! ぼ、僕は、あの、ただ・・・・・・」
 確かにケイトの胸は反則だ。あたしも一時はあの胸に顔を埋めて思う存分揉みしだいたものだし。
 だけど、いつもあたしのオッパイに吸いついて、こね回して、言いように弄んでくれている明くんがケイトの胸に見とれるのを目にしてしまうと、こめかみをひきつらせたままの笑顔で困らせる言葉を口にしてしまう。
 ―――うわ、嫉妬だよ、これって。
 明くんとの関係を終わらせようって考えているのに、ケイトに見惚れただけで皮肉を言うのを我慢できなくなるなんて、矛盾してると言いようがない。でも、あたしが目の前にいるのに、他の娘の胸に目を奪われるというのも釈然としないものがあり、表現するのが難しい気持ちが胸の仲に渦巻いてしまう。
「え〜と・・・・・・この子は明くんって言って、あたしがバイトの家庭教師をしてあげてる子」
「タクヤちゃん、家庭教師なんてできたんですネ・・・・・・」
「なにその失礼な言葉は!?」
「だって、タクヤちゃん、成績あんまりよくなかったですネ。ケイト、ちゃ〜んと覚えてますですネ♪」
 忘れていてほしい過去を・・・・・・同級生の思わぬ暴露に押されてしまうけれど、あたしの教え子である明くんはちゃんと成績が上がっている。なにも問題はない・・・・・・その実体が、エッチを餌に明くんに猛勉強させたからと言うのでも、成績が上がったことは間違いない。あたしが男のままだったなら自慢できるほどはあがらなかっただろうけど・・・・・・
 それはさておき。
「あの・・・先生、この後ですけど・・・・・・時間があったら、ぼ、僕と・・・その・・・・・・」
 どこかで聞いた話だ・・・・・・と思ったら、つい先ほどケイトに言われたのと似た内容の言葉を明くんが口にした。
「この後の用事は・・・・・・」
 真剣で、それでいて恥じらいもしている明くんの表情を見れば、なにを言いたいのかは解る。受験に失敗させてはいけないと、最近はあたしもまじめに勉強させているし、冬期講習で勉強漬けではアッチの方がかなり溜まっていることだろう。
 だけどつい先ほど、あたしは今晩ケイトに付き合うと約束してしまったばかりだ。ケイトの目の前で約束を反故にして明くんに付き合うわけにもいかず、かと言って、明くんをこのまま帰してしまうのもかわいそうな気がする。
 でも・・・・・・
「ケイト、落ち度でいいから家庭教師のアルバイトをやってみたいですネ♪」
 そこは落ち度じゃなくて一度です・・・・・・と心の中で突っ込みながらも、この後の時間を三人一緒に過ごすことで話が落ち着きそうなことにホッと胸を撫で下ろした。・・・・・・そして一方で、ケイトの言う”家庭教師”があたしと明くんの関係を見透かした上での言葉だとは、冗談だと思っていたあたしには知る由もなかった・・・・・・


後編へ