美由紀編 ―ストレイシープー その1



 すっかりと日も落ちた時間帯。
 汗に濡れた身体を床に敷いたシーツに横たえ、演劇部部長の渡辺美由紀は激しい行為後の乱れた息を整えている。
 周りには自分同様、演劇部の女子部員3人が乱れた制服を気にすることなく快感の余韻に浸っていた。さすがに床の上で直接は身体が痛いので、シーツを何枚か重ねた簡易のベッドは少女達の濃厚な汗に塗れ、しっとりとした感触を肌に伝えてくる。
 乱れたままの美由紀の呼吸に合わせ、天井に向かって突き出された形のいい乳房がふるふると揺れる。汗に濡れた若さと張りのある胸は仰向けになってもほとんど崩れることなく、薄紅色の突起共々つんっと上を向いている。
「……ふぅ…」
 ようやく整い始めた呼吸と共に、真っ白になっていた頭が活動を再開する。力の入らない身体を何とか起こし、周りを見渡すと窓の近くにいる少女を見つけた。
「見られちゃうわよ? そんな格好で窓の近くにいると」
 8月も終わりとは言えまだまだ暑い。心地よさそうに夜風に身を晒す少女もまた、美由紀同様全裸だ。下校時間を随分とすぎ真っ暗になった校庭は昼間の喧騒とうって変わって静寂に包まれて入るが、誰がいないとも限らない。
 美由紀と同様か、それ以上ありそうな豊かな膨らみを隠すことも無く窓へ向けていた少女はくすりと笑う。
「だって、風が気持ちいいんだもん♪」
 火照った身体を夜の空気に晒し、相原たくやが屈託の無い笑みを浮かべる。
「そりゃ…気持ちいいでしょうけど、知らないわよ? 見られても」
 呆れたような美由紀の声。たくやの傍に行こうとしたが身体を起こすことが精一杯。演劇は体力勝負だ。それなりに自信はあったのだが、がくがくと震える腰は足に力を伝えてはくれない。
「んっじゃ、見せ付けちゃおうか?」
 たくやの方から近付いてくる。
 目の前の裸体がとても少し前まで男の身体だったとは誰も信じないだろう。今は同姓である美由紀ですら羨むプロポーションだ。
「ちょ! まだするの?」
 妖しく微笑むたくやの顔にさすがに危機感を憶えるが、力の入らぬ足では逃げることも出来ない。
「ほ…ほら、さすがにちょっとイきすぎて苦しいし……この娘たちもまだ気絶してるし…」
 目の前で弾む2つの膨らみ。座り込む美由紀に視線を合わせる為、たくやは四つん這いになってその耳元に唇を寄せる。
「だったら……2人きりで楽しみましょうよ?」
 柔らかくズシリと重い乳房を重ね合わされ、美由紀は2人分の体重を支えきれずにそのままシーツへと崩れ落ちた。
「美由紀さんも気持ちよく気絶させたいし♪」
 瞳を輝かせて覗き込んでくるたくやの視線に、美由紀はぷいと顔を背ける。
「私…私は気絶なんかしません……」
 恥ずかしそうに頬を朱に染め、美由紀が反論するが、「気持ちよく」には異議を唱えていない。
「じゃあ、試してみよっか?」


―*−


 部員全員とたくやの下校を見届けて渡辺美由紀は自身も帰り支度を済ませ、しっかりと戸締りを確認して部室に鍵をかける。部室の施錠は部長の役目だ。
 宮乃森学園の演劇部の練習は厳しいと有名で、部員も毎年大勢入ってくるが今年は美由紀を含め4人しか残っていない。
 厳しいのは顧問の情熱故である事は理解しているし、幼い頃から「演技すること」が夢の美由紀には苦にもならない。元より美由紀自身「演技」に関しては自分を厳しく律している。制服を押し上げる膨らみは同年代より遥かに豊かに実っており、くびれた腰から続く、きゅっと持ち上がったお尻。少々短めのスカートから伸びる両足は外人のように長く、足首まですらっと脚線美を描く。モデルとしても充分通用する等身とスタイルも、人に見られる事を意識し努力してきた結果だ。整いすぎて冷たい印象を受ける美貌と、時に辛辣な物言いになる事もあり、「厳しい」「冷たい」印象を与えてしまうのだが……、
(ふうぅ〜、結局…気絶するまでイかされちゃったわね……)
 今の美由紀にその面影は無い、年相応の、まるで恋する乙女のように頬を薔薇色に染めている。
 気がつけばたくやと後輩3人に覗き込まれていた。よく憶えていないがはしたない声を上げてたくやにおねだりしてしまった気がする。最後には耐え切れずシーツの上におしっこまでしてしまったような……ちなみにそのシーツは美由紀が洗濯する為に持って帰ろうとしたが、半ば強引に後輩の1人に取り上げられてしまった。「先輩にそんなことさせられません!」と言ってくれるのは嬉しいが、自分の尿の染み込んだものを他人に洗ってもらうのは恥ずかしい。
(でも相原くん、何か落ち着きがなかったような…)
 演技の勉強のため、人間観察を趣味としている美由紀は洞察力もいささか自身がある。いつものように部活の終り前に現れたれたたくやは、普通に振舞ってはいたが何処と無くそわそわと落ち着かない様子だった。
 悩みでもあるのなら是非とも相談して欲しいが、考えてみれば「男から女になってしまった」と言う冗談のような状況……しかも2度目らしい…なのだから悩みは尽きないのかもしれない。
(まぁ、その役目は片桐さんのものでしょうしね)
 心配しなくともたくやには可愛い彼女がいるのだ、自分の出番は無いだろう。2人は幼馴染であり恋人同士、そこに他の人間が入り込める筈もない。
(特に気になるだけで…好きってわけじゃないのだしね) 
 自分に言い聞かすよう心の中で呟く。


「あら……」
 見慣れぬ一枚の便箋。
 靴箱の中に手紙などこのメール全盛の時代にしては随分古風なやり方だ。
(また、男の子からかしら?)
 学園の中でも抜群の存在感を持つ美由紀は目立つ。男子からの告白を受けたことは数えきれない。男女交際に興味が無いわけではないが、あくまで「演技の勉強」としてだ。それでもいいと言ってくれた男子とは何度かデートしたが、やはりその男の子を好きになることは無く、その状態でつき合うことに不誠実を感じて美由紀の方から断ってきたが……、
(今の私達の関係って何なのかしらね?)
 先ほどまで肌を重ねていたたくやを思い出すと、何故か可笑しくなる。
 無地の便箋には表裏とも何も書かれておらず、愛の告白だとしたら味気無い。不審に思いながらも中を開いてみると2,3枚の写真と…画像をプリンタで印刷したものだが…一枚のメモが入っている。
(携帯の番号?)
 メモに書かれているのは090から始める数字の羅列のみ。
 何か嫌なものを感じ写真を見た瞬間、「ひっ!」と声を上げ、慌てて口元を押さえた。
 手から放れた鞄は静寂な空間に似つかわしくない騒々しい音を立てて床上に転がるが、気にしている余裕も無い。
 脳内を巡る血液が一瞬で足元へと下がり、軽い眩暈を感じてふらふらとよろける。写真から目が離せないまま、口から溢れ出そうとする悲鳴を必死で堪えながらも美由紀は力なく床へと崩れ落ちた。


 どれくらいそうしていたのだろう? 早鐘を打つ鼓動が治まる事は無いが、少しずつ冷静になってきた。やっとのことで写真から目を離し、震える指で封筒へ戻すと拾い上げた鞄へと押し込む。手元に残したのは番号の書かれたメモのみ。
(この番号に連絡しろ……ってことでしょうね)
 忌々しくて眉を寄せるが、あの写真の事を考えると電話してみるしか無い。少なくとも今は情報が少なすぎる。この手紙の主の思惑がわからなければどうしようもないし、その手がかりはこの怪しいメモの連絡先しか無い。
 早足で校門を抜け、この時間になればほとんど人通りの無い街道へと出ると、震える指を何とか押さえ込み、メモの番号へと電話をかける。
(早く出なさいよ……)
 いつもなら何も感じない呼び出し音に腹立たしさと焦りが募る。何度目のコールだったのだろう? やけに長く感じる時間は終り、ようやく繋がった。
「……」
 美由紀が何も言わず相手の第一声を待っていると、痺れを切らしたのか電話の向こうの相手が喋りだした。
『オビエテイルノ? 渡辺美由紀サン』
 ご丁寧に変声器か何かで声を変えている。聞こえてくる声は耳障りな電子的な声。
「……そりゃあ…ね、こんな怪しげな電話のさせ方は初めてだから」
 美由紀は感情を出さないよう、平静を装う。
『ヨク撮レテタデショウ、アノ写真』
「ええ…とっても。何が目的なのかしら?」
 何処となく焦りを含む美由紀の声に電話の相手が嬉しそうに笑う。
『アハハ。イツモ冷静ナ美由紀サンニシテハ焦ッテイルノカナ?』
「あなた!……まぁ、いいわ。目的は何? 私に何か望んでるからこうして回りくどい手を使って電話をかけさせたのでしょう?」
 美由紀の声のトーンが下がる。静寂な住宅街だ、あまり大きな声で話しては誰に聞かれるかわかったもんじゃない。
『簡単ナ話デスヨ? 名優デアル美由紀サンニチョット演ジテ欲シイ役ガアリマシテ……』
 本題に入ったのだろう。緊張のあまりからからになった喉がゴクリと動く。

『美由紀サン、チョット牝犬ニナッテヨ?』
「はいっ?」

 最初は電話の向こうの相手が何を言っているかわからなかった、いやわかったのだが理解できなかったが正しいのだろう。
 牝犬…牝犬って何? 例の写真から信じられないことが起こっているが、この一言も信じられない。
『ドウシタノ? 美由紀サン? 美由紀サ〜ン』
 電話の相手の間の抜けた呼びかけに、一度大きく深呼吸して応える。
「どういう事かしら? 牝犬になると言うのは?」
『エッ……アノ…ソノ…』
 怒りを隠さない美由紀の声に、相手は怯んだのか要領を得ない。
 美由紀は感じている違和感を頭の中で少しずつ組み立てながら、相手の出方を伺う。
(音が全然漏れてこない……マイクを押さえているのね、わざわざ聞かれないようにしていると言う事は……相談相手がいる、相手は複数犯か……)
 誰かと相談でもしているのか、やけに長い沈黙が続いている。
『ン〜コホンッ。アノ画像ヲバラマカレタクナカッタラ、コレカラ私ノ言ウコトヲ聞イテモライマス』
「……その前に確認させて。もしあなたの要求を断ったら?」
 美由紀は声を抑えて慎重に相手の言葉を待つ。
 電話の相手が金銭を要求とかならわかりやすいが、現段階では相手が何を考えているのかわからない・・・・・・。
『ソノ場合ハアノ画像データガ学園中ニバラマカレルコトニナリマスヨ?』
 美由紀はふうっ・・・とため息をつく。
「チープな答えね。どうぞ、お好きにしたら? けど騒ぎを大きくすればする程あなた達が捕まる確立は上がるわよ? この時点で脅迫罪は成立している・・・・・・今なら聞かなかったことにして上げるけど?」
 電話の相手がまた押し黙る。先程同様誰かと相談しているのだろう。
(「あなた達」に対して反応は無し、やっぱり複数の可能性は高いわね・・・・・・)
『・・・・・・サスガハ美由紀サン、デモイッショニ写ッテイルアノ娘モソノ覚悟ハアルカナ?』
「予想どうりの答えね、最低の」
 そう、あの写真に写っていたのは美由紀一人では無い。相原たくやの姿も写っている。
 写真はいつ撮られたものかはわからないが、全裸のまま肌を重ねる2人の姿を写したものだ。
 美由紀がたくやと身体を重ねて以来、今では演劇部全員を巻き込んでの関係が続いている。
『ソレニ脅迫デハナク「オ願イ」デス。美由紀サンガダメナラアノ娘ニ「オ願イ」シテミヨウカナ?』
「・・・・・・最低ね!」
 滅多に表に出す事のない怒りの感情を声に乗せる。
 脅される原因を作ってしまったのが自分だと思うと冷静でいられる筈もない。今でこそたくやに主導権を握られてしまっているが、きっかけは美由紀がたくやに演劇の助っ人をお願いしたことから始まったのだ。
(せめて相原くんだけは……)
 たくやに迷惑をかける訳にはいかない。ただでさえ女性化してしまい注目を集めているのだ、これ以上騒ぎを起こしたくは無いだろう。
「私が言うことを聞けば……牝犬になれば…相原くんには手は出さないと約束してもらえるのかしら?」
『モチロン』
 馬鹿馬鹿しい、そんな保障は無い。しかし……、
「わかった、信じるわ。」
 信じられる訳が無い。が、少なくとも美由紀が「脅迫者」の目的を突き止めるまでは、せめてたくやに迷惑がかからないよう祈るしかない。
『ジャア、最初ノオ願イハ……』


―*―


(頼り無いものね……)
 朝の通学、いつもと何ら変わらぬ宮乃森学園の制服に身を包んだ美由紀。
 あの忌々しい「脅迫者」からの指示は一つ、今日下着を付けるなという事だ。
 歩を進めるたびにいつも以上に重く感じる胸と、頼りなく感じるスカート。下着1つでこうも変わるものかと驚かされるが、身体に感じる違和感を何とか顔に出さぬよう、平然と振舞っていた。
(胸ってこんなに重いものだったかしら? 揺れるし……スカートだって)
 他人から見れば普段と変わらない筈だが、「着けていない」ことを意識してしまうと過敏に反応してしまう。自分の胸の重さと、歩くたびに上下する膨らみに、誰かに下着を着けていないことが気付かれないかと不安が高まっていく。しかも歩くだけで揺れる胸は服の裏地の感触を敏感な先端に伝えてくる。さすがに気持ち良くはないが、くすぐったい感触が常に付きまとってしまう。
 スカートもいつもより長めにしたがやはり心許ない。普段からスカートが短い分、下着は見えないよう気を使っているが、履いていないだけで言いようのない不安が沸いてくる。
 せめてストッキングでも履ければ良いのだが、「脅迫者」の指定はあくまで、いつもの格好に下着を着けない事だった。
「あっ! み・ゆ・き・さ〜んっ!」
 しっかりとスカートを後から鞄でガードしながら通学用バスに乗りこむと、突然、自分の名前を呼ばれた。
「相原くん…」
 バスの中にたくやの姿を見つける。
「どうしたの、こんな時間に。相原くんにしては早すぎるんじゃないの?」
 いつも遅刻ぎりぎりのたくやがこの時間のバスに乗ることは無い。たくやと違い美由紀は常に余裕をもって行動しているので、こうしてバスで一緒になるのは初めての事だ。
 ぎゅうぎゅうの人ゴミをかき分けてたくやの所まで進む、いつもたくやと一緒に登校している明日香の姿は無かった。
「え〜と…ちょっと…ね、用事が…」
「きゃっ!!」
 多少強引にバス内を進んだ為に、スカートの裾がまくり上がっている事に気付き、つい、声を上げてしまった。何事かと視線を向けてくる周囲の目が痛い。
(急いで隠したから見られてはいないと思うけど……)
 もしかしたらお尻が見えていたかもしれない……頼りない服の感触に自らの身体を強く抱き締める。
「どうしたの、美由紀さんがあんな声出すなんて珍しい……」
 心配そうに覗き込んでくるたくやの視線が痛い。隙間無く押し込められた車内でぴったりと向き合う2人。
「え…ちょっと、ね」
 あと少し首を伸ばせば唇が触れ合うほどの至近距離は互いの息使いまで感じられる。
(私がノーブラなの……バレないわよね)
 互いの豊満な乳房を押し付け合う状況。視線を下げれば胸の膨らみが互いに押し潰されて、形を歪ませているのもわかってしまう。
 すし詰めのような状況で周囲から圧迫され身体を押し付けあうのは仕方ないが、妙に胸の部分に重点的に力が掛かってくる。
「あっ……こら、駄目よ…相原くん……」
 いたずらっ子のような笑みを浮かべたたくやの表情に、わざと胸を摺り寄せている事に気付く。
「だって美由紀さんの胸、気持ちいいんだもん♪」
「バカ……時と場所をわきまえないと……」
 片手はつり革を、もう片方は鞄を持っているので抵抗できない。首元に熱い吐息を感じながら、胸を襲う圧迫感に肩を震わせながらも必死に声を上げないよう堪える。
「あれ? 美由紀さん」
 こちらを覗き込むたくやが首を傾げ、突然今より強く身体を密着させて来た。
「…んくっ!」
 乳房を押し潰される刺激に、声が漏れぬよう美由紀は咄嗟に息を呑む。
 下着を着けていない分だけ柔らかに形を変える胸の感触を、確かめるようたくやの胸が動く。まるで愛撫のような動きに肩から首筋を抜けて甘い快感が広がっていく。
「美由紀さん…着けてないの?」
「バカッ!!」
 小声とは言えバスの中では誰に聞かれるかわからない。頬を朱に染め、たくやに非難の視線を送る。
「んふふ♪」
 珍しく慌てる美由紀のその態度は先ほどのたくやの質問を裏付けることになる。
 嬉しそうに笑うたくやに嫌なものを感じて、身体を離そうしたが後ろの人に阻まれ押し返されて更に強く密着させられてしまう。
「あんっ♪」
 今の嬌声は美由紀では無くたくやのものだ。
 小さく、一瞬であった筈の甘い声は周囲の空気を変える。
(注目…されてる)
 運の悪いことに美由紀とたくやを囲む人間に女性がいない。男たちから見ればとびきりの美女が2人目の前にいる状況で、聞き間違いかもしれないがそのどちらかが快楽を告げる声を上げたのだ、注目しないわけがない。
 美由紀はたくやを守るように身体を押し付ける。
(相原くん、動かないで……)
 これ以上注目を集めるのは不味い。つり革を掴む手を離し、たくやの頭へと回すと、そっと自分の胸へと引き寄せ、周りからたくやの顔を隠す。
 露骨な視線を投げかけてくる男に対し、美由紀が冷たい視線で返す。
 まさに「氷のような視線」に睨まれ、男は慌てて目を逸らした。
「美由紀さん?」
 豊満な胸の間から、たくやの疑問の声。
「大丈夫、気分が悪いのでしょう? バスが止まるまでこのまま私に寄りかかっていて」
 あの声は体調不良という事にして誤魔化してしまおうと周囲に聞こえるよう、やや大きめの声で返事をしながら、たくやが顔を上げないよう強く胸へと押し付ける。
(……誤魔化せたかし…らっひゃん!!)
 突然、谷間に熱い感触を感じ、慌てて視線を降ろすと胸の間に顔を埋めたたくやがもぞもぞと動いている。
「ん? ふふふ♪ はぁぁぁぁぁ〜♪」
 美由紀の視線に反応して、たくやも見つめ返してくるがまた敏感な豊肉の谷間に顔を埋める。
(んぅ! んっうつつつ!!)
 ブラウスの隙間から熱い息が吹き入れられ、その感触に背中が震えた。
「美由紀さん……いい匂い……」
(相原くんっ!! このおばかぁああ!! 匂いなんてかがないでぇええ!!)
 胸元に鼻筋を入れられて自分の匂いを嗅がれているとわかると、恥ずかしさに顔へと全身の血が集まって行く。何とか声を出すことは堪えたが身体が固まったように動けない。
(匂いって……匂いって……)
 真夏の車内だけあり、充満した熱気に汗の匂い。自分の身体も同様だろう。体臭を匂われるなど10代の少女には恥ずかしすぎる行為に美由紀も冷静でいられない。
(相原くんっ!! ちょ……! まだ嗅いでるぅうう!!)
 頬を焦がす羞恥の炎に、だんだんとのぼせた様に思考がまとまらなくなっていく。つい……子犬のように鼻を鳴らすたくやの姿につられたのか、それとも少しでも恥ずかしさから逃れるためか自分でも無意識のうちにたくやの髪に顔を埋めた。
 汗に混じるほのかな別の香り。柑橘類を思わせる、それでいでわずかに甘ったるい芳香が美由紀の鼻腔を抜けていく。決して嫌いな匂いではない。嗅ぎたくなる香りと言えばいいのか、つい車内であることを忘れそのままたくやの髪に顔を埋める。
(これが……たくや君の……“匂い”)
 表現するとすれば、確かに「いい匂い」としか言いようが無いのかもしれない。
 愛しい…かはまだ美由紀自身にもわからないが、たくやの匂いに包まれていると昨日からざわついていた美由紀の心が穏やかになっていく。
 たくやと美由紀の甘い芳香が混じり合い、安堵と安心に包まれる中、美由紀は幾度と重ねた身体の感触を思い出していた。
 裏地に擦られる敏感な先端への刺激が、いつの間にかむず痒い感触からはっきりとした快感に変わっている。突起し硬くなった乳首はざらざらとした布地に圧迫されて、身を捩るだけで甘い疼きとなって美由紀の性感を刺激してしまう。動かないよう我慢しても、たくやの呼吸だけで振動となり、じくじくと疼く乳頭が擦られてしまう。
「あっ……くぅ!!」
 何とか堪えていた声も、我慢できずに漏らしてしまった。
 再び周囲の視線が集まるのがわかるが今度は睨み付ける余裕は無い。小刻みに身体を揺すり刺激を求めてたくやへと身を預ける。
(んんっ…胸の先端…駄目、痛いくらい……敏感になって…)
 過敏になった先端への絶え間ない刺激に美由紀は身を委ねて、たくやの匂い包まれると場所が何処か、周りに人が居る事もどうでもよくなる。
「んっ…あふっ…ふふ…」
 目の前でたくやの嬌声が聞こえる。何かに堪えるようもじもじと身を揺する2人は唇を切なげに震わせて見詰めあう。
(相原くん!?)
 微かに笑みを浮かべるたくやの淫蕩に溶けた貌。
 よく見ればたくやの後ろの男がもぞもぞと動いており、それに合わせて切なそうに表情を歪めている。
「は……ふっ……」
(まさか……)
 顔は見えないが後ろに立つ学生服の男にたくやは痴漢されている?
「んんっ……」
 どんどんと溢れだす吐息は完全に周りに気付かれているだろう。それでも美由紀はたくやから目を離す事ができない。もどかしそうに眉をひそめるたくやの表情にどうしようもないほど身体の芯が熱くなる。
(駄目! 止めなきゃ……でも……)
 肝心のたくやが拒否していない。声を出せないのかとも考えたが時折美由紀に視線を合わせて微笑む。
 美由紀はぐったりと後ろの男に身体を預けるたくやを目の前に身動きが取れない。2人を取り囲む周囲の人壁は明らかに先ほどより狭くなっている。たくやと美由紀の間にもいくつかのごつごつした手が挟まれて、今にも倒れそうな美由紀を支えていた。
(お腹に……男の人の腕が……)
 美由紀の知る細く柔らかな手の感触ではなく、がっしりとした硬い逞しい感触。想像以上に大きく熱い男の腕の質感に美由紀の下腹が熱くなっていく。
(うそ……なんで?)
 濡れている……のはわかっていたが閉じ合わさった太ももを伝わる熱い感触。膣内を濡らしていた愛液がとうとう膣口を溢れだしてしまった。
 たくやとも、自分の物とも違う、刺激的な匂い、獣臭い?とまではいかないが攻撃的な匂いに包まれ美由紀は身体が火照るのを感じていた。
(この匂い……わかる、興奮した男の匂いなんだ……)
 熱気のこもる車内でも一際熱気の高い一角。たくやと美由紀を中心としたその場所はぎらぎらとした欲望に晒されている。
 だんだんと大胆になる男達は服の上からたくやの胸の膨らみをあきらかに揉みしだいているが、たくやは声を堪えながらも身体を震わさせて受け入れているように見える。
「相原さ……」
 おもわず呼び掛けてしまう美由紀に、たくやは瞳を潤ませ、「どうしたの?」と何事もないよう振る舞う。
「あはは♪ んっ! くぅ……あ……熱いよね…もう8月も終わりだって言うの…にぃい!!」
 まるで痴漢されていないよう、普通に受け答えするたくや。
(気付かれていないと思っているの?)
 上気した肌に、潤んだ瞳。やや開いた唇からは快感を告げる熱い吐息が溢れだすが、それでもたくやは美由紀に気付かれまいと普通に振る舞っている。
 既に男達の腕はブラウスの中へと侵入し、直接たくやの胸を弄っていた。美由紀から見ればその動きは服に阻まれて見えないが、不自然に盛り上がるブラウスの動きを見ていれば何をされているか一目瞭然だ。
(あんなに…強く……)
 いきなり力任せに愛撫されても痛いだけだ……が、充分に整った身体ならば受け入れてしまうだろう。きつく甘噛みされた乳房への強烈な快感はたくやに教わったものだ。
 たくやから身体を離されてしまった美由紀は、確かな温もりを感じる後ろの人間へと身体を沈ませ受け止めてもらう。痴態にあてられ、温もりが欲しくてたまらない。
(私……下着を着けてないのに……今、あんなことされたら周りの人にばれてしまうのに……)
 沈む腰の辺りに、手よりも硬い感触を感じる。
(これ……男の人の……)
 久々に感じる男の肉棒の感触を思い出し、またそれに付随するあの内を掻き回される感覚が疼く下腹を更に熱くさせる。
(嫌悪感が無い……こんな現実感を感じない状況だからかしら?)
 自ら感触を確かめるよう腰をまわして、硬い質感に身体を押しつける。
「ぐぅっ!…」
 たくやとは違う、快感を告げる男の声。
(気持ちいいんだ……)
 身体をゆするたびに聞こえてくる男の歓喜の声が美由紀の首筋を擽る。お尻に当たる硬い感触に上下の動きを加えて刺激を続ける。
 ぐちゅ……っとはっきりした水音が聞こえのは美由紀のスカートの中からだ。腰を上下させるたびに擦り合った太ももが粘着質な音を奏でる。
「やだっ!」
 あれほど希薄だった現実感が急に濃厚になり、濡らしている自分の状態としてしまった行為に、普段冷静な美由紀は頬だけで無く、顔全体を朱に染めてあまりの羞恥に身体の動きが止まった。
 拒絶とも取れる美由紀の声に慌てたように男達の動きが止まったが、肌全体を薄紅色に染めた少女の姿はとても拒んでいるようには見えない。動きを止め、生まれたての赤子のうように身体を震わせる姿は快感を堪え…いや、望んでいるように見えてしまう。
 先ほどの美由紀の視線に怯み、なかなか手を出せないでいた男達が、その豊満な膨らみへと手を伸ばした。
(触られる!!)
 気配を感じ、ぴんと背筋を伸ばす美由紀。今度は声を上げないようきつく唇を結ぶ。拒絶することは考えられず、下着を着けていない事がばれてしまうのも忘れていた。
(んっ……んっ…大きい……)
 2本の手がそれぞれ美由紀の胸へと触れる。ごつごつした指の感触が柔らかい肉へと埋まっていく感触に顎を仰け反らせてしまう。
 女の子の指よりも太く、硬い感触が力強く、どこかさぐりさぐり乳房を押し潰し、快感とくすぐったさの中間のような刺激与えてくる。
(物足り……ない)
 既に痛いくらい張りつめた膨らみは、それ以上の刺激を求めてしまい、足りないと美由紀の身体を疼かせる。触られてもいない膣が何かを求めてきつく収縮し、押しだされた愛液はますます内腿を伝う。
 背筋を伸ばすと押しだされた胸がブラウス越しでもはっきりと存在を主張するぽっちの位置を浮き上がらせる。恥ずかしさに顔を背けるが触って欲しい要求には勝てず、自分以外の視線に、服越しとはいえ胸の先端を晒し続ける。
(んんっ! 今…誰かブラを着けてないって……あくぅ! ばれちゃった!?)
 ぴんっと張られたブラウスに浮き上がる胸の形を見れば、嫌でもばれてしまうのは分かっていた。
「美由紀さん?」
 突然、たくやの声。
 甘く溶けた頭はたくやの存在すら忘れていた。熱に浮かされながら声の方向に視線を向けると同じようにブラウスを突き上げるたくやの姿があった。確かにブラをしていた筈の胸の部分には美由紀同様張りつめた先端が見て取れる。
(相原くんもあんなに……)
 剥ぎ取られたか、ずり上げられたか複数の腕に嬲られるたわわな膨らみは押さえつているものが無いことを示すよう柔らかく形を弾ませている。
 見れば胸だけでなく、大胆にスカートの中にまで何本もの腕が入っていた。
「大丈夫? 凄い汗よ、顔も真っ赤。呼吸も荒いし…酔っちゃた?」
 自らも、肌に汗を浮かべて快楽に溶けた視線でこちらを見詰めながら。気付いていない、気付かれていないフリをするたくや。
「あくっ…! んんぅ……だいじ……ひぃん!! 大丈夫、ちょっと熱くて…ね」
 ならばこの三文芝居に付き合おうと、美由紀も何事もないよう応えるが、途中張りつめた乳首を抓まれ、明らかに快感を含んだ声を出してしまう。
「ホントに…熱いよね…んふっ!」
「ああっ!! 熱っ!! 熱いわね…んくっ!!」
 淫らに喘ぐ2人の少女。
 硬く尖った乳首を弄られると、足りなかった性感を押し上げられ歓喜に身を震わせる。
(痛いくらい…気持ち…いい……)
 喘ぐたくやの表情を見ながら、目の前にぱちぱちと火花が飛び散っていく。
 限界が近い、胸を弄られているだけなのにこのまま絶頂を迎えられそうだ……しかし…、
「あぁんっ! ……んんっ! あっ! 熱いわ……相原くん…こんなに汗を掻いて……」
 わざとらしく問いかけながら、美由紀はわずかに身を屈めて、足を肩幅以上に開いていく。本人は気付いていないが、隙間の空いた股間から溢れだす愛液がバス内の床にねっとりとした滴を垂らしていく。
 ぽたぽたと床を打つ水滴にも気付かず、身体の合間に空間を残したまま顔だけをたくやへと寄せた美由紀は、絶え間なく溢れる濡れた吐息を押さえる事無く伸ばした舌をたくやの首筋に這わす。
 聞こえてくるのは自分の舌がたてるぴちゃぴちゃとした音と、たくやの下腹部から聞こえる濡れた蜜壷が掻き回さている淫音、そして……。
「…! …! …………………!!!」
 声無き絶叫。我先にと美由紀の秘唇を掻き混ぜる性急な指の動きが奏でるたくやと同じ、いや、より水音を含んだぐちょぐちょとした卑猥な蜜音。
(太いぃいいいいいい!! 何本っ! 何本入れられているのっっつう!!)
 ここ最近はたくやに充分に愛されているとはいえ、今は女同士の肉体は膣の内まで刺激し合うには適していない。さすがに道具は使う気にならないので、いつもイかされる時は膣口……浅い部分とその秘唇の上に位置する敏感な突起を苛められての絶頂しか味わっていない。実際入っているのはたった2本にすぎないが、異物を咥えこむことが久々な美由紀の膣肉は、確認するように吸いつき自らの膣道を狭めて圧迫してしまう。
 それぞれ独立して動く指の動きは、内で何かを確かめるよう膣壁の感触を確かめながら優しく、大胆に動いている。
(ほぅ……ほぉおおおおおおおおおおおおお!!)
 膣内にあるひっかかりを指に刺激されて、頭の中で獣のような声が上がる。男達は慎重に内部を刺激しながらも、それ以上奥へ進む事なく片方は膣上部の膀胱の下辺りをかりかりと引っ掻き、もう1本の指はお尻側へと爪を優しく立てて刺激を繰り返す。
 ぶじゅっ! ぶしゅうぅう!
 噴出される愛液の音も耳に入らず、喉を反らせてその快感に翻弄される美由紀の口元から一筋の唾液が零れる。
 宮乃森のクールビューティーと名高い面影はなく、ただ快感に溶けた美由紀の貌。
(あはっ!! バレてる…男の人たちに…ノーブラなのも…ノーパンなのも…あっひぃいいい!! ああっ!! 感じてるのもぉおおおおお!!!)
 車内ではしたない声を上げ絶頂を迎えつつある美由紀。
 濡れぞぼる膣肉を掻き回す指の動きは遠慮無く、性感をどんどんと押し上げていく。
 痛いほど張りつめる胸の先端は相変わらず乱暴に刺激され、別の手はその男の手にも余る膨らみへと痛いほどに指を食い込ませている。
(ほんの少し前までは胸だけでイけそうだったのに……)
 膣への優しく、甘い刺激を思い出さされると胸だけではイくのは勿体ないと意識にブレーキがかかる。乳房も充分に気持ちいいのだが、何か物足りないのだ。
 ひくひくと蠢く膣への刺激も充分快楽を感じているが、優しすぎる。望んでいる絶頂感へと届かせてくれない。
 そう、全てを吹き飛ばす最後の一撃を美由紀は求めていた。
 これだけ男の手が身体を支えているのだ、つり革に掴まる必要もない。たくやの目の前で自らスカートの中へと手を差し入れ、覆うものない秘唇へ指を入れる。
(熱い……こんなにぐちょぐちょになって……)
 熱い蜜液を垂らす秘唇へどんどん奥へと指を沈ませる。自らの膣内で他人の指が当たる感触は倒錯的な快感を呼び起こし、更にぬるぬるになった膣内へと指が入り込んでいく。
 第2関節まで沈んだ中指をぐるりと動かし、熱い蜜液と貪欲に絡み付く己の膣肉を指の腹で刺激しながら、男の指へと絡めて粘度の高い愛液を更に撹拌し、節くれた指と、白く細い指の計3本が膣内を掻き回し、床を塗らすことを気にせずじゅぼじゅぼと卑猥な音を奏でていく。
(駄目っつ! これでも……足りないぃいい!!!)
 たくやはどうやってイかせてくれていただろう……、募る焦燥感と、昂る快感に瞳から涙が零れる。
(足りない……もう、一押しなの…にぃいい!…あっ……)
 意図してなのか、偶然か、男の指が触れてこない場所がある。
 白く濁った液体を指に纏わりつかせ、自らの秘所から指を引きぬく。暖かく濡れた場所から抜けた指は、外気に触れてもまだ熱い粘膜の余韻を残している。
(ここ……)
 慎ましい秘口の上部へと指を滑らせると、
「ひっ!! ぃいいいいいいいいいいいい!!」
 堪え切れず溢れる絶叫。
 ぷくっとした感触に指が触れるだけで、求めていた一押しにわずかに届かなかったもののずくんっ! とした快感が足の付け根からお腹の下まで一気に駆け抜ける。
(そうぅうう!! ここっ!! ここがっ!! 気持ちいいのぉおおおお!!)
 くりくりした突起は、皮の上からでもしっかりと勃起しているのがわかる。きつ過ぎる快感ではあるが、今の美由紀には望んで止まないものだ。愛液がたっぷりと絡んだ自分の指で何度も擦り刺激する。
「おぅ! おっ! おっ!! おおぅ!! おぐぅ!!」
 美由紀の整った美貌に似つかわしくない獣のような声。
 包皮越しの刺激ですら、脊髄を焼き切るような痛烈な刺激を与えてくるのだ、直接触れば脳が焼き切れるかもしれない。そう思わせるほどに美由紀の性感は昂まっていた。
(相原…さ……拓也君っうう!!!!)
 目の前にいるたくやの顔しか目に入らない。蕩けきった女の顔を浮かべるたくやに自分も同じような…それ以上に快感に溺れた貌をしているのだろうと考えながら、美由紀は最後の一押しを求め、包皮の上からでもわかる尖りきったクリトリスを押し潰すように、ぬるつく自分の指を押しつける。
「おっ!! おおおぅ!!! ああがっつ!! あああああぁあああああああああ!!」
 押さえる事の出来ない絶叫、全身から一気に汗が吹き出し、掻き回される膣内は収縮し2本の指を身動きが取れないほどに締め付け、その力で愛液を鉄砲水の如く噴出させる。
 顔をたくやの首元へ埋めながら唇から空気を押し出しながら絶頂を告げ続ける。
「あがっ!! ああぁああ!! くっうぅう!!!!」
 いままで感じた事ない絶頂感。たくやが与えてくれる緩やかな満たされる感覚では無く、強制的に押し上げられる思考の余地も無い強烈な多幸感。それは男の手を借りてはいるが、自らの指で迎え入れたものだ。
 ばちばちと脳内で弾ける感覚に喉を震わせながら、たくやの潤んだ瞳を美由紀は見詰め続けた。スカートの中に差し入れた指と、内腿へと叩きつける、自らの膣の収縮に押し出される粘液の感触、またそれとは別の今まで感じた事のない濃密な男の匂いに包まれながら、美由紀の脳はこれ以上の刺激は許容できないと、意思のブレーカーを落とす。
 ふっと途切れていく意識の中で、最後までたくやの瞳を見詰め続ける美由紀。最後に唇がかすかに動いたが言葉は紡ぎ出せなかった。
 美由紀の意識は薄れていく。最後に、優しく微笑むたくやの表情を見詰めたまま、今は何も考えたくないとそっと瞼を閉じる。 
 
 
――あの電話……、あなたなのでしょう? 相原くん…?


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