分岐1→3:明日香へのプレゼントを願いながら、袋へ手を…


「………あたしに、じゃなくてさ、別の人へのプレゼントって言うお願いでもいいのかな?」
 袋へ伸ばしていた手を止め、確認のためにサンタさんにそう訊ねると、白ヒゲの老人は「おろ?」と言う感じにキョトンとする。
「あたしはほら、男に戻りたい事は戻りたいけど、それを先輩や後輩にもう頼んじゃってるの。もしここで男に戻る薬を貰ったりしたら、せっかく頑張ってくれてる二人に悪いし……それにね」
 あたしは自分の胸に手を当てる。大きくふくよかではあるけれど……男であろうと女であろうと変わることは無い、そう信じている想いを確かめるように。
「あたしが女になっちゃったせいで、スゴく心配してくれてる人がいるの。女になるたびに心配してくれて、きっと今も心配してくれてる……その人へのプレゼントが欲しいんだけど……そう言うのってダメかな、ははは……」
 がらにも無い事を言ってしまい、恥じらいを誤魔化すために頬をぽりぽりと掻く。―――あたしらしくない。明日香の事はずっと気に掛かっていたけれど、出会ったばかりのおじいさんに話してしまうなんて……バイト先でお酒を飲んだっけ?
 言ってしまってから激しく後悔する。しまった、そう思っても時間は戻らないし、言葉は既に老人へ届いている。これはもう笑って誤魔化すしかないわけなんだけど―――
「…………えらい」
 なぜかおじいさんは号泣していた。
「えらい、えらいぞぉ! 最近は小さな子供でさえ、プレゼントと言えばゲームやプラモや自分のほしい物をねだるばかりだというのに、自分の愛するもののためを想いプレゼント! ああ、ガキンチョばかりを相手にしていては味わえない愛の篭ったシチュエーション! ジジィ感激!」
「は…ははは……一応深夜だから叫ぶのを自重してくれるとありがたいんだけど……」
「何をゆう! これこそ世界を救うラブアンドピース! これが避けずにいられますかってぇの! この「今日のラッキーカラーはパープルグリーン♪」のエドワード、今、まさに大開眼!」
 う〜む……このまま叫び続けるようならジュースのペットボトルで殴って気絶させようか。外はふにゃでも、中身が結構残ってるから衝撃は十分だろう。
 けれどそんな物騒な心配も杞憂に終わり、サンタの老人は白い袋の口を開くとずずいとあたしに差し出してくる。
「そう言うことなら問題なしのオールオッケーじゃ。確か恋人は女性じゃったの? たくやちゃんの恋人になら婚約指輪でもウエディングドレスでも何でも出してしんぜよう」
「ちょ……それは気が早いって。えっと…あたしも研究があるし、明日香も留学を控えてるし……でも、指輪か……そういうのもいいかな……」
 明日香が海外へ向かう飛行機に乗る前に、その手に指輪を押し付けて、「今度会うときは男の姿で…」とかなんとか言っちゃったりして……うわ、なんか夢が広がるシチュエーションっぽい。む、胸がドキドキしてきちゃった……
 とりあえず息を吸おう。す〜、は〜、す〜、は〜……よし落ち着いた。それじゃあ……明日香への指輪、じゃ無くて、プレゼントを貰おう―――
「―――って、何で袋の口を閉じてるんですか?」
 確かに袋の口はあたしへと向けられ、手を差し入れやすい絶好の場所に差し出されている。が、その口自体が巾着のようにギュッと窄まっていて、入るのはせいぜい指一本程度。これじゃプレゼントをもらえやしない。
「お、おかしいのう。ちょっと待ってもらえんか?」
 サンタの老人はあたしへ何度も頭を下げると、突然丸々とした袋にボディーブロー――袋のボディーがどこかと言うことはこの際考えない事にして――を叩き込む。
「あん? おいこら袋。ワシがプレゼントをやる言うとるんやから素直に口を開かんかいな。ああぁん? おんどれ、ワシに逆らおうっちゅうんか、あん? 誰のおかげでゴミ袋にされんで済んどるおもとんねん、あ、ああぁん?」
 うわ、な、なんか恐いよサンタさん。メンチ切ってるよサンタさん。この光景を見たら夢見る子供も泣き出しそうだよ……
 ―――と、どうやら意思があるっぽい袋に対して脅迫まがいの言葉を投げかけていたサンタさんだけど、
「んののののののっ!? ぱ、パンチが見え…げふぅ!」
 袋の不意打ちフリッカーの連打によって吹き飛ばされてしまう。
 ―――いやまて、袋がどうやってフリッカーなんて使ったんだ!? この目で見てたのにまったく理解できなかったんだけど……しかし今の腕の振りはまさしく死神の鎌……いやだから、腕はどこにあったんだって……
「く……やるではないか。思い出すのう……貴様を屈服させるためにギアナ高地で繰り広げた死闘を」
「――――――――――」
「ならば見せてやろう。今年のおみくじは「恋愛運は大凶です♪」だったこのワシ、グラップラーエドの真の実力を!」
「――――――――――」
「ふっ……お前もか。ならば見よ! ワシのお腹が太ってたるむ! メシはまだかとちょっぴりボケる!」
「―――――――――!」
「ひっさぁつ! サンタクロォース…フィンガァァァ!!!」
「――――――――!!」


「人の部屋で暴れるなぁ!!」


 ゲシゲシゲシゲシッ!
 明日香直伝ハイキック四連撃。激突しようとしていたサンタさんと袋を横から蹴り飛ばすと、床へと打ち伏せる。
「キュゥ……」
「あんたらねぇ…今が深夜だって言えば何度言えば分かるのよ。父さんと義母さんが起きたらどうしてくれるのよ!」
「す…すんませんすんません。もうしませんからご勘弁を……」
「まったく……それで、どうして袋は口を閉じちゃったの? 理由も分からないの?」
「いや、理由は分かっておるんじゃけど……ぶっちゃけ、言っていい?」
「許可」
「同性愛は認めませんって」
 ………それはつまり、
「あたしは、お・と・こ・だぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!」
「うげぇぇぇ! ギブ、ギブアップ! それにワシじゃなくて袋が、袋がぁぁぁ〜〜〜……がくっ」
 あ……しまった。つい反射的にサンタさんの襟を締めちゃった……お〜い、ぺちぺちぺち。……ダメだ。これ、完全に落ちちゃった。
「どうしよう……これじゃいつまでたってもプレゼントがもらえないじゃない」
 気絶して白目むいてるサンタさんは……ま、その内目を覚ますとして。あたしが今できることは―――


分岐4
1:こうなれば実力行使。無理やり手を差し込んでやる。
2:あたしが男だって事を袋に説明しなくっちゃ。


続く