「夏休みの宿題やった?」-1


「は〜〜、や〜っと今日もバイトが終わった〜〜♪」
「でも、ケイトはとってもハッピーでしたネ。たくやちゃんや美由紀ちゃんとずっとず〜っといっそでしたからネ♪」
「私もこのバイトはよかったな。結構いい運動が出来たから。夏休みが終わったらコンクールに向けて今まで以上に頑張らないといけないからね」
 今年の夏休みは長く、充実していた。けれどあわただしくも楽しかった日々をようやく終えた開放感に自然と明るい口調で二人と話しながらあたしはウンッとタンクトップを着ただけの上半身を伸び上がらせた。
 当然のことながら、あたしは自分が男に戻る研究費を稼ぐために夏休みをフル活用した。一円でも多く資金を稼いで、千里に男に戻る薬を作ってもらわなくちゃならない。
 美由紀さんはこれから活動が活発になる演劇部を少しでも潤し、卒業後すぐに劇団に入るために、そしてケイトはそんなあたしたちと一緒にいられるからと言う理由で、宮野森学園女子生徒の中で間違いなく巨乳部門のトップ3を占める三人で、夏休みの間中あちらこちらとアルバイトをして回った。……まあ、本来ならあたしは男子生徒なんだから、嬉しくない部門での受賞なんだけど……
 けれどこの三人が集まると、男どもが放っておいてくれるはずが無かった。登録制のアルバイトで一週間ごとに違うバイトをしてたんだけど、海の家ではあたしたちのビキニ姿にお客が殺到しすぎて昼間はウエイトレス仕事が忙しくて休む間もなく、夜になるとナンパ男に誘われ、疲れきった体を抱かれてそのままホテルに連れ込まれて一晩中……その一週間は家に帰る手間が省けた事だけが幸いだった。
 他にもヌードモデルや高級デパートでの販売員、探偵まがいの事もやらされたし、その行く先々でエッチなトラブルに三人ともあってきた。今日はプールの監視員だったけど、監視台の上でビキニの紐を解いてちょっとしたスリルを味わったり、ナンパ男三人にトイレでフェラさせられたり、流れるプールの波に乗って水中で入れられちゃったり、今日で最後だからって監視員のお兄さんの逞しい胸にすがりついてこっそり……はあぁ……最後のは二人にも気付かれて無いと思うけど…早く男に戻らなくちゃ、どんどんエッチな女の子になっちゃいそう……
 まあ、そういう目に会い続けるのも半ば運命かと諦めてるあたしだし、ケイトに至っては逆に楽しんでいる風にさえ感じられた。驚いたのは、美由紀さんが意外にさばさばしている事で、
「相原君と一緒だったからかな。みんなで気持ちよくなれたって感じがして…うん、そんなに悪い気はしなかったわよ」
 と言っていた。それを聞いて、その日は美由紀さんと一晩過ごした事……明日香には内緒にしておかなくちゃ。
「さ〜て、夏休みもあと三日か。精一杯遊んじゃうぞぉ!」
 夏休み中、ほとんど休み無しで働いていたから結構お金にも余裕はある。今日はこれからみんなで晩御飯を食べて、残り三日の予定を立てる………三日?
「ア〜〜〜! しまったですネ、ケイト宿題が終わっていませんですネ!」
 ………そういえばそうだった。仕事仕事ですっかり夏休みの課題をやるのを忘れていた。
「仕方ないよ、ケイト。あたしたち、夏休みの九割をバイトに費やしてたんだから。美由紀さんは?」
「あはは、私も全然やってない。余った時間で文化祭用の脚本を書いてたから」
「そっか……それじゃこの三人で宿題を見せ合うなんて事は出来ないわけだ」
「ム〜〜、たくやちゃん、なんだか一人だけズイブンと余裕ですネ」
 そりゃまあ、あたしにはあてがありますから。なんたって、
「あたしは明日香に見せてもらうから」
 学園有数の優等生が幼馴染だから。毎年毎年見せてもらうたびにお小言を言われるけど、今年は暇なときには顔を見せに行ってあれこれ満足させてきたから……ふふふ、勉強会とか言ってまた行っちゃおうかな〜〜♪
「あ〜〜、それってずるい。一人だけ片桐さんに頼るなんて!」
「そうですネそうですネ! ケイトも明日香ちゃんと楽しみたいですネ!」
「ケイトが楽しみたいって言うと、なんかエッチな事を想像しちゃうんだけど……ま、いっか。それじゃ明日はあたしの家に集まって、本当に勉強会って事でどうかな。明日香にも事情を話しておくし」
「助かる〜〜。やっぱり持つべき者は友達よね。恩に着るわ」
「ワ〜〜イ♪ たくやちゃんのお家にお泊りするですネ。楽しみですネ♪」
「よ〜し、それじゃ明日の予定も決まったことだし、今からご飯だ〜〜〜!」
 とまあ、そんな感じで女三人(あたしは微妙に違うけど)、バイト疲れのハイテンションもあいまってその日はそのままご飯を食べに行ったんだけど―――



『夏休みの課題? それなら一昨日、由美子に貸したけど』
 えええ〜〜〜〜!? そんな…なんでよりによって、借りた物は期日ぎりぎりにならないと絶対に返さない、まるで一分一秒のギリギリ間を楽しむかのようにレンタルビデオですら延滞料ぎりぎりになるまで返そうとしない由美子の貸したりするのよぉ〜〜〜!!!
『だって、たくやったら私の部屋に来ても一言も宿題の事を口にしなかったじゃない。それにずっとアルバイトしてるし、たまの休みには私に会いに来てくれてたから、初めの内に終わらせちゃったんだって思ってたわ』
「そ、そこを何とかならない? ほら、あと三日あるじゃない。それだけあれば明日香に答えを教えてもらって――」
『ごめん……明日は朝早くからお母さんと一緒に出かけなくちゃいけないの。帰ってくるのは31日の夜になると思う』
「そ…そんな……」
『でも、いい機会じゃない。今年は受験なんだし、勉強しなくちゃいけない状況が出来上がったんだから、少しは頑張りなさい。帰ってきたらお土産持って手伝いに行ってあげるから。それじゃあね』
「ま、まって。出来れば今からでも――」
 プツッ―――ツーツーツー



「え〜っと……そーいうわけで、自分でやらなきゃいけないことになりました……ごめん!」
 美由紀さんとケイトが家に来てくれたんだけど、肝心の明日香のノートがここに無くては話にならない。上がってもらった二人を前にしてパンッと手を眼前で合わせると深々と頭を垂れて誤るしかなかった。
「しょうがないわよ、悪いのは相原君じゃないわ。………計画的にしてなかった私たち全員の責任よ」
「アウ〜〜…ケイト、今からこれをやらなくちゃいけないんですネ……トホホ〜〜ですネ……」
 今日は朝から両親は出かけていて、家の中が静かなのだけが唯一の救いだ。そして、リビングのテーブルの上に山のように積まれた課題の問題集は……そんな救いだけでどうにかなるようなものではなかった。
 なにしろ宮野森学園は進学校としても有名だ。おかげで五教科に一冊ずつ、分厚い問題集が宿題として出されていた。これが漢字の書き取りなら時間を掛ければ三日で済ませることもできるけど、内容はかなり難しい。あたしの得意な理数科目ならまだしも、古文や英語になるとページを開いただけで頭が雲丹(うに)になりそうだ。
「それじゃあ手分けして取り掛かろっか。あたしは理数科目からやっていくから」
「なら私は現代文ね。古文も得意だから任せておいて」
「ケイトはイングリッシュがんばりますですネ♪ 任せておいて下さいですネ♪」
 うんうん、三人寄れば文殊の知恵とは言ったものだ。よ〜し、頑張ってさっさとこの宿題を終わらせてやる。そして夏休み最後の思い出を!


―――と意気込んで始めたのはいいんだけど、その一時間後。


「フニュうゥゥゥ……問題文が読めませんですネェェェ〜〜〜……」
「ケイト、頑張って! はい、漢字の辞書はこれ!」
「たくやちゃ〜ん……こんなにブ厚い本、全部読めませんですネェェェ……」
「これは読むんじゃなくて調べる……ってケイト! ダメ、涎をたらして眠っちゃダメ!」
 ………考えてみれば当然の事だった。交換留学生とは言え、ケイトは外人だ。それなら英語は得意なのは当たり前だけど、この課題の問題は日本語で書かれている。しかも回りくどい表現を使っているところが多いのでケイトにはいまいち理解しづらい。最初はそれを教えながら自分の担当科目をやっていたけれど、時間が経つにつれてケイトの集中力は弱くなっていき、あたしの手も止まる事が多くなっていった。
「美由紀さんも手伝って。このままじゃケイトが宿題を……え、赤ペン?」
 隣であたしとケイトがいくら騒いでも黙々と問題を解いていた美由紀さんの手が、どういうわけか採点用の赤ペンを握り締めていた。そして、
 ―――35点。
「人物の感情表現がまだまだ甘いわね。それになに? ここで抱きしめなくてどこに感動が生まれるのよ! あああ、こんなつまらない文章なんてほかに無いわ。次!」
 ………どうやら問題の長文の採点をしているらしい。気になって覗き込んで見ると、問題文には赤ペンで大量の書き込みや修正が為されていってるけど、あまりよくない予想の通り、解答欄は真っ白だ。
「あの〜〜…美由紀さん?」
「ちょっと待ってね。今いいところ………地味ねぇ。もっとこう、ぐっと来る問題はないの?」
「………飲み物持って来るね」
 ダメだ……このままでは何もかもダメになってしまう。
 もはや予想や直感ではなく確信になった絶望の未来に頭を痛めながら立ち上がると、なんとなく静かな場所を求めて台所へふらふらと歩いていった。
「―――あれ? このメモ書き……」
 朝は気付かなかったけれど、テーブルの上にメモが置いてあった。父さんか母さんからだろうか、気になって手にとって見ると、


『父さんがまとまった休暇を取れたので、二人で一週間ほど旅行に出かけてきます。
 お金はお財布の中に入れてありますが無駄遣いしないように。
                                   母より』


「そんな……最後の頼みの綱まで断ち切られた……」
 いざとなったら立ってるものは親でも使えとばかりに、二人にも手伝ってもらうつもりだったのに……これで終わった、何もかも……
 このまま夏休みが終われば、ひな子先生にキツいお説教を食らって、居残り補習で笑いもの……ううう、お先真っ暗だぁ……けれどやらなくちゃいけない。それがまた苦行に他ならない。
 ―――ああぁ…いっそ男の人に抱かれるのが宿題だったらな……
 それなら満点間違いなしと言うぐらいに犯られちゃってる。別に喜んで抱かれるわけじゃないし、無理やり犯されることに抵抗が無いほど淫らな女の子になっているわけじゃない。だけど、今にして思えばエッチしてた時間全部を費やせば、少なからず宿題が進んでいたんじゃないかと―――
「………そうだ!」
 あたしたちに出来ないのなら、終わってる人のを写せばいい。
 そして今、ここにはあたしもいれて三人の美少女がいる。
 となると……
「ケイト、美由紀さん、いいこと思いついた!」
 できればあまりやりたくないけど、背に腹は変えられない。あたしは飲み物を慌しくコップに注ぐと、急いでリビングに戻って行った。





「うわぁ、全教科完璧に終わってる! さすが来生。よ、大統領!」
「あ…ああ。しかし…ものすごいメンバーで押しかけてきたな」
「ま、まあいいじゃない。あんただって可愛い娘が部屋に上がってくれて嬉しいんじゃないの?」
「そんなことあるかって。俺はお前が男だって知ってるんだからな」
「ケイトや美由紀さんは?」
「うっ……」
「あたしだって知ってるのよ。クラス一の秀才の来生君が巨乳好きだって」
 そう言われると、来生は口をつぐんでしまい、赤い顔を横に逸らして階段を下りて行った。
 ―――いきなり押しかけてきて、あの言い方は無かったかな?
 あたしたちもかなり切羽詰った状況だっただけに、夏の日差しの照り返しで40度を越えそうな気温の中を歩いてやってきたのは、クラスどころか学園一の秀才と言われるクラスメートの家に押しかけてしまった。
 来生は身長も今のあたしとそれほど変わりないけれど、その頭のよさは灯台確実慶応が滑り止めと言われるほどの秀才だ。メガネをかけているのはガリ勉の証だけど、普段は大介を交えて巨乳談話に花を咲かせる普通の男の子だ。あたしが男のときにはそれに参加していてこいつの性癖を思い出し、あたしたち三人の色気で宿題を見せてもらおうと思ったのだ。
 事前に電話で連絡を入れておいたけど、ケイトと美由紀さんがいるとは思っていなかったらしい。しかもあたしはノースリーブのワンピース、ケイトはすらりと伸びた脚線美を見せ付けるようなホットパンツに上半身はタンクトップと白いパーカーで汗にまみれた胸の谷間を強調し、美由紀さんに至ってはヘソ出しキャミソールにパンツルックだけど、ここに来る前にブラをはずしていたので乳首がくっきり浮かび上がっている。いきなり玄関でこんな三人に迫られて、断れるほど来生は女性慣れしていなかった。
 こうして来生君の了承を得て、彼の八畳の部屋を占拠させてもらったんだけど……男に戻ったらカツサンドでも奢ってあげなくちゃ。ごめんね。
「たくやちゃん、たくやちゃ〜〜ん!」
「どうかしたの、ケイト? まさか問題集を家に忘れてきたとか……」
 部屋の中でケイトが呼ぶので顔を覗きこませると、美由紀さんとケイトがエアコンのリモコンを手にして困り果てた顔をしていた。
「やっぱり……このエアコン、動かない」
「えっ……うそ、なんで!?」
 こんなにクソ暑いのにエアコンなし……そういえば、ここに来てから汗が一気に噴出してる。もしかして……
「ああ、そのエアコン壊れてるんだ」
 そう結論を述べたのはジュースの入ったグラスを四つ持って帰ってきた来生だった。
「どうする? 悪いけどノートを貸せって言うならお断りだからな。ケイトや相原に貸したら提出期限にうっかり忘れてきそうだし、他のクラスの奴は論外だ」
「「「うっ……」」」
 もう既に汗の湿り気でじめじめとしている室内で顔をしかめるけれど、宿題のためには仕方ない……ここに三日通って終わらせる覚悟できただけに、いまさら後には引けなかった……


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