プロローグ


注意:XC3の設定と異なるところがありますが、気にしないでください。


「「海外旅行〜〜〜〜〜!?」」
 あたしと明日香は揃って驚きの声を上げた。
「ええ。招待されたんだけど、南国リゾートも一人じゃ面白くないでしょ。だから相原君と片桐さんも一緒に行かないかと思って。卒業旅行の行き先、まだ決めてないんでしょ?」
 驚いたのは、宮野森学園の保健医にして、学園中の男子女子から強い人気と信頼を得ている妖艶な美女、松永先生からの旅行のお誘いを受けたからだ。
 今ではあれほど辛く、苦しかった受験シーズンも一段落。あたしと明日香は同じ大学へ合格し、進学する事が決定していた。体は未だ女のままで――まあ、面接の際に大いに審査員の興味を引いてくれはしたけれど――色々と苦労とハプニングが耐えない毎日ではあるけれど、そんな学園生活も後わずか。残す卒業式ももうすぐそこに迫っていた。
 海外……そんなところへ招待されるなんて夢にも思っていなかった。しがないサラリーマンの息子――今現在は女の子なんだけど――であるあたし、相原たくやには、海外旅行なんて夢のまた夢。行く事はほぼ絶望的とさえ言ってもいい。
 夕焼けの海。誰もいない静かな砂浜で明日香と二人見詰め合って……なんて想像はしちゃうけれど、あたしには先立つものがまったくない。受験中もバイト漬けの日々を送ってはいたけれど、その大半を研究費――あたしが男に戻る薬を作ってもらうために、千里に渡しているので、スズメの涙に等しい額しか手元には残っていない。
 それでも卒業旅行ともなれば話は別。幸いにして卒業前に薬完成のめぼしが立ったので、幼馴染の明日香や演劇部でお世話になった美由紀さん、交換留学生のクラスメートのケイトの四人でアルバイトし、旅行に行こうと計画している。ただ……あたしが完全に女扱いされていて、本当は男一人に女三人と言う、他人に話したら殺されそうなぐらい羨ましがられる、そしてあたしにしても本当に付いて行ってもいいのかと悩んでしまう嬉し恥ずかし旅行なのが問題だったりする……
 そんな時にこの海外旅行の話だ。明日香達に加えて松永先生とも……ヤバい、ヤバすぎる。一生分の運を使い果たす云々よりも、松永先生があたしに絡んでくるという時点でものすごく危険な香りに満ちている。
「で、でも先生。あたしたち、パスポートも持ってないし、あんまりお金も……」
 できればやんわり、先生の気分を損ねずにお断りしたい。これは女になってからひどい目に会い続けて磨き抜かれたあたしの直感に従った決断だ。―――が、それはすでに松永先生の想定内だったらしい。
「今から申請すればパスポートは大丈夫でしょ。それにお金も心配しなくていいわ。今回の旅行はスポンサーがついてるんだから一切に費用は向こう持ち。この私を招待するんだから、向こうもそれぐらい折込済みよ」
 と言って、長い髪を掻き揚げる松永先生は……う〜む、確かにこの学園の保健医にしておくにはもったいないほどの美貌と、白衣とセーターの二枚重ねの上からでも見て取れる乳房の膨らみと美しさをいつまでも保ち続ける魅惑的なボディー。これなら、いくら出してもいいと言う男性がいてもおかしくないだろうけど……その人、松永先生とどういう関係なんだろ?
 それにどうにも話がおいしすぎる。この話には何かイヤ〜な予感をひしひしと感じるんだけど……
 こうなったら少々強引にでもお断りしておくべきか……と考えていると、横にいる明日香があたしのブレザーをくいくいと引っ張ってきた。
「………たくや、どうする? 美由紀やケイトにも一度話をしておいた方が良くない?」
「………その前に、何かおかしいとか思わないの? いくらなんでも、あたしたちの費用まで全部出してくれるなんて……」
「………何言ってるのよ。海外よ、海外。せっかくのお誘いなんだから……これを断ったらタダじゃ置かないわよ……!」
 うわ……明日香も海外旅行の魔力にすっかり取り付かれちゃってる。あたしも行けるなら行けたでいいんだけど……ま、いっか。いくら松永先生でも、エッチな事をしてくるぐらいだろうし。………それはそれでちょっぴり楽しみではあるんだけど。
 明日香も乗り気だし、後は美由紀さんたちに話してみるだけだ。じゃあ、と先生にその事を切り出そうとすると、保健室の戸がタイミングよく開き、ブレザー姿の二人の女子が連れ立って中へと入ってくる。
 一人はセミロングの長身の美女、もう一人は金色の髪を頭の後ろでポニーにした外国人のクラスメート。美由紀さんとケイトだった。
「あれ、相原君たちも来てたんだ。それなら話が早いわね」
 入ってくるなり戸惑いを隠せないあたしの前でそう言うと、美由紀さんはポケットから赤い手帳のようなものを取り出した。
「松永先生、パスポート、しっかり受け取ってきました。これでいつでも行けますよ♪」
「ウフフフフ♪ みんなで旅行に行けるなんて、ものすごく楽しみですネ♪ ケイト、水泳部でいっぱいいっぱい練習したから、早くおニューの水着で泳ぎたいですネ♪」
 ちょ……なに、美由紀さんとケイト、二人ともなんでそんな準備がいいのよ!? もしかして、あたしたちよりも先に話つけられてる!?
 しまったと思ったときには何もかもが手遅れだった。これじゃいくらあたし一人が反対しても、旅行を中止にする事も一人行かないなんて事も出来ようはずがない……松永先生、恐るべし……
「そうか。海外だから海で泳いだりも出来るんだ。じゃあ私も新しい水着を買いに行かなきゃ♪」
 明日香も完全に行く気満々だし……なんかもう、あたしの意思は関係無しに全てが決まっていくような……
「片桐さんは英語が堪能よね。出発日の二日前から私の家に泊まってくれないかしら。色々と手伝って欲しい事があるの。アルバイトだと思って来てくれない?」
「はい、わかりました。それで行き先はどこなんですか? ハワイ? グアム? サイパン? あぁん、もったいぶらないで教えてくださいよぉ♪」
「相原君、ちゃんと水着持ってる? せっかく海外に行くんならここはドドンと奮発しないと! ビーチの男を全員悩殺する気で行くわよ!」
「ケイトが選んであげますネ♪ たくやちゃんのおっぱい、スゴく大きいからケイトはスッごく楽しみですネ♪」
 はぁ……ま、いっか。別にあたしも反対じゃないんだし、せっかくの旅行なんだから、みんなで楽しめるだけ楽しまなくっちゃね♪


 それはいいとして、性別変わっちゃってるあたしがパスポートをもらえるか、スゴく不安だったりする……どう説明しよう……






Xchange旅情編・南国リゾートver






 うわ、思いっきり寝坊した〜〜〜!!!
 涙と別れの卒業式――と言っても、会おうと思えば会えるので意外に気楽な別れだったけれど――を終えた翌日。あたしは荷物を詰め込んだカバンを二つ抱えて飛行場のロビーに走りこんだ。
 はっきり言って、昨日は会おうと思えばいつでも会えるクラスメートとの気軽なお別れよりも、旅行前のわくわく感の方が大きかった。おかげで全然寝付けなかった上に、明日香は泊まりこんだ松永先生の家から直接飛行場に向かう事になっているので起こしてくれる人もいない。それでもなんとか出発前に飛行場へと滑り込むと、あたしは重たい荷物を床へ降ろしてゼェハァと呼吸を繰り返した。
「タクヤちゃ〜〜〜ん、こっちですネこっちですネ。早くしないと飛行機が跳んでイっちゃいますネ!」
 あ、ケイト。美由紀さんもいる。よかった、間に合った〜〜!
 ゼェハァ言いながら周りを見回せば、ケイトがあたしを呼びながら手を振っているのが見える。一度床に降ろした荷物を抱えなおして駆け寄ると、美由紀さんの開口一言。
「もう。どうせ明日香が起こしてくれなかったから寝坊したんでしょ。それとも昨日の夜は眠れなかったのかな?」
「あ…あはは……まったく持ってそのとおりで」
 完全に見透かされてる……けど、生まれて初めての海外旅行なのに、ワクワクドキドキしないなんてできるわけがない。
「ふふふ。実は私もそうなんだけどね。でも、旅行に行くと思ったら一時間も早くに目が覚めちゃったけど」
「ああ……それなら美由紀さんに起こしてもらえばよかったかな。たはは……」
 あたしが起きたのは目覚ましをセットした時間の一時間後だし。女の体だと色々時間も掛かっちゃうしね……
「ハ〜イ、ケイトもすっごくハヤくに目が覚めちゃったですネ♪」
 いいよなぁ……あたしもそんな早起き体質に生まれたかった……
「それでぇ、みんなとバカンスにいけると思ったら我慢ができなくなっちゃったですネ……」
 ――と、ケイトは荷物を床に下ろして自由になったあたしの手を取ると、そのまま自分のスカートの中へと導きいれる。………ただでさえ、これだけかわいい娘が揃って周囲から注目を浴びているというのに、だ。
「アウゥン……♪」
 あたしの指先がケイトの股間へ触れると、金色の髪が小さく跳ね上がる。
 湿ってる……ケイトの下着はまるでオナニーをした後のような湿り気を帯びていて、指先には恥丘の膨らみが張り詰めているのが感じ取れる。
 突然の事に驚きで麻痺したあたしの思考は、心地よい弾力を思わずなぞり上げてしまう。下から上へ、濡れて肌へ張り付いたショーツにくっきりと浮かび上がるケイトの陰唇へ指の腹を押し込み、そこに溜まった蜜を掻き出す様に擦りたてる。
「アッ、アッ、ソ…それはダメ、ダメですネぇ!!」
 ケイトのビクッと太股に痙攣が走り、ひと撫でし終えて離れようとしていたあたしの手を強く挟みつける。しかも抑え切れなかったケイトの鋭い喘ぎ声で、ますますあたしたちを見る人の数が増えてしまっている。―――はっきり言って、出発前から大ピンチ。こんな場所でこんなことしてたら、猥褻物なんちゃら罪で……逆にお金取れないかな……ともあれ、面倒ごとになりかねない。
 とは言え、ケイトのスイッチは完全に入ってしまった。――いや、あたしが触れる前から既に入りっぱなしだったようだ。両手であたしの手を掴んでより深い位置へと導きいれながら、見上げるブルーの瞳は快感の熱に浮かされている。
「たくやチャン……」
 体から力を抜いて、ケイトがしなだれかかってくると、服越しにケイトのたわわな膨らみが腕へと押し付けられる。あたしや美由紀さんに負けず劣らず、大きくて弾力のある膨らみはあたしの腕に押しつぶされて形を変え、そのまま上下に擦り付けられて来る。しかも――
「ケイト、もしかしてノーブラ……!?」
「さっき……おトイレで取っちゃったですネ……ウゥン……たくやちゃんに…いっぱいカワイイしてホシイですネ……」
 か、かわいいって……ケイト語で「感じさせる」でしたっけ!? ちょ……これ以上は本気でマズいってぇ!! でも、でもぉ……あああああっ! この膨らみが、おっぱいとアソコのぷにぷに感が、あたしの残りわずかな男の理性を崩壊させるぅぅぅ!!!
「アッ…たくやチャン……そこ…クリットが……クゥン…アァ……ケイトのおマ○コに…たくやチャンの指……スゴく…スゴく……カンジ…ちゃいますネぇ……♪」
 もうダメです……引き抜くことのできないあたしの指はケイトの下着を脇へとずらすとねっとりとした愛液にまみれたケイトの粘膜を責め立ててしまう。周りの目を気にする余裕も失い、ただ無心に、締め付けるケイトの膣口へと軽く指を出し入れし、手の平に触れるクリトリスを転がしながらストロークを速くしてケイトを高みへと追い詰めて行く。
 ケイトの弱いところは熟知している。もう何も考えられないまま、あたしは指を二本もケイトのヴァギナへと押し入れる。そして手首を捻って膣内を抉るとグチャリと音を立ててケイトの肉壁が収縮し、両手をあたしの体へと回して強く抱きついてくる。
「アッ―――」
 あたしの顔のすぐ傍で、泣き出しそうな表情で悶えるケイトの唇から嬌声が引き絞られそうになる。あたしの指をくわえ込んだままの腰を震わせながら軽く引き、子宮を痙攣させて愛液を溢れさせる……
 まさか本気で……こんなロビーのど真ん中で、立ったままイっちゃうの……!?
 ここで声を上げられたら致命的……そう思った直後、あたしはとっさに動いてケイトの唇を自分の唇で塞いでいた。
「ンンッ、ンムゥ―――――――――――――ッッッ!!!」
 暴れるケイトの頭を空いた手でしっかり抱えながら、決して逃がさないディープなキス……唾液まみれのお互いの舌をグチャグチャと絡ませあい、その一方でケイトの敏感な膣壁を指先で押し上げることで迸るオルガズムの喘ぎを、迸る端から貪るようにあたしの口で受け止める。
「ンゥ……フゥ…ンンッ……ひゃふひゃ…ヒャン……」
「…………はぁ……」
 ケイトの絶頂の波が収まると、ようやくあたしは口と指とを離す事ができた。今回の旅行……最初からこの調子じゃ、本当にどうなる事やら……
「もう……二人とも、先走りすぎよ。フォローする身にもなってちょうだい」
「あ……ご、ごめん……」
 一人のけ者にされた美由紀さんは、少々憮然とした表情であたしを睨むと、ケイトのスカートの中から引き抜いた指を周囲から見えないように体で隠しながらハンカチで拭ってくれる。多分、あたしとケイトがやってる間もこうして立ってくれてたんだと思うと……やば、顔から火が出そうな……
「ケイトも少し落ち着きなさい。さっきトイレでしてきたって言ってたじゃない」
「アン……ソーリーですネ……ケイト、たくやチャンとエッチしたくて朝からずっとイきっ放しで我慢できなかったですネ……♪」
 なるほど。ずっとオナニーしてたわけだ……どうりでスイッチが入るのが早いわけだ。
 しかし……このままここにいたら、いつまでも周囲の目が気になってしまう。傍目には外国式の挨拶に見える――わけないか。こんな場所でこそこそお触りまでしてしまった以上、変質者や淫乱女と誤解されても仕方がない状況だし。
「―――そういえば明日香と先生は?」
 聞く前にいきなりケイトに襲われた(?)ので未だ確認できずにいた事を、腕に抱きついて擦り寄ってくるケイトにではなく、そのケイトをうらやましそうに見ている美由紀さんに訊いてみる。
「あの二人ならもうすぐ来ると思うわ。相原君が来る少し前に携帯で連絡があったから」
 ふ〜ん……それにしても、明日香……松永先生に襲われてなきゃいいんだけど。
 松永先生の家に泊り込みと言うことは、当然………と、不埒な事を想像していると、ロビーの入り口にゴージャスなコートを着て否応無く注目を集める美女が現れた。
 言うまでもない……学園内ではアレでも控えめだとでも言いたげにまっすぐあたしたちのほうへとやってくるのは、まごう事なき松永先生だったりする。そしてその後ろに明日香もついてきているけれど、松永先生相手では分が悪い。なんて言うか……まあ、明日香の魅力はあたしが知ってれば十分かな、と。
「みんな揃ってるわね。それじゃ早速搭乗しましょうか」
 ここにとどまっているのは色々とマズい……その言葉に反論は無く、あたしは自分と明日香の荷物がそれぞれ詰まったバッグを抱えなおす。
「おはよ、明日香。昨日はよく眠れた?」
「……………」
「ありゃ? 明日香……大丈夫?」
「うん……あんまり眠れなかったけど……大丈夫…だから……」
 え………や、やっぱり…て言うか、明日香のこの様子………
 あたしが声を掛けた途端そっぽを向く明日香。顔は赤いし、言葉によどみがあるし、あからさまにいつもと様子が違うし………
「片桐さん、続きは向こうでレクチャーしてあげるから」
 当然あたしが気付く事も予想済みだろう、タイミングを見計らったようにあたしたちへと振り返って声を掛けてきた松永先生の言葉に、明日香は怯えるように体を震わせ、強張らせた顔を赤く染めていく。
「えっと………明日香、先生のは…その……犬に噛まれたとでも思って忘れた方がいいよ、ね?」
「…………分かってる。たくやに心配されなくたって……」
 そうは言っても……今の明日香、ものすごく無理してる上に……スゴく、色っぽいんだけど……
 普段そう言う表情はベッドの中でしか見せない明日香だけに、隠そうとしても隠し切れるものではない。まだ寒さの残る春先だというのに、服から除く首筋の肌にはほんのりと汗がにじみ、すぐ横を歩くあたしへ向けて濃厚な女の香りを漂わせている。
 出発前の夜に、明日香が松永先生からどれだけの辱めを受けたのか……そもそも明日香が深い考えももたずに先生の家へ泊り込んだことにも問題があるのだけれど、それでも自分の恋人が女性とは言え他の人に言いように弄ばれたかと思うと……
「明日香……」
 ……ごめん。憤りもあるけど、ちょっと興奮しちゃうかも……明日香ってばちょっとお固過ぎるし……
「さ、さあ、早く荷物預けに行こ。あたし、飛行機ってあんまり乗ったことないから楽しみだな〜。あんなのがどうやって空に浮くかって未だに謎よね。ね、明日香もそう思わない?」
「別に……揚力で浮くのは知ってるし……」
「ほらほら、せっかくの旅行なんだから暗い顔は無しにしよ。さっきも言ったでしょ、忘れた方がいいって。だから向こうに着いたら――」
 そこで言葉を区切ると、明日香の耳元に口を寄せ、
「―――あたしが忘れさせてあげるから」
 もっとも、「あたしたち」になるかもしれないんだけど……そのあたりは臨機応変に。それに一気に顔を真っ赤にした明日香に余計な事まで言っちゃったら、殴られるだけじゃすまないかもしれないし。
「さ、行こう。ボ〜ッとしてたら飛行機に乗り遅れちゃうわよ」
 明日香の手を取り、強く引く。元気がないのなら励ませばいいと言う思いも込めて。
「………うん」
「そうと決まれば急がなくちゃ。みんな先行っちゃったよ。明日香が遅くなったのが悪いんだからね」
「わ、私のせいじゃないわよ。たくやだって、どうせ今日は寝坊して遅刻したんじゃないの!?」
 う…全部バレバレですか。でも、いつもの明日香の調子が戻った事にホッとすると、しっかり手を握って小さく笑みを浮かべ、先へ行くみんなへと追いつくために足を速めて歩き出した―――







 一方その数時間後――
「どうしてですか!? どうして僕だけが海外には行けないんですか。他の人はみんな行ってるじゃないですか! ちゃんとチケットの代金を払うといってるのに、なぜ!?」
「お客様、出国にはパスポートが……」
「ですからパスポートも売ってくださいって言ってるんです! なんでチケットは売ってるのにパスポートは売ってないんですか。売店でも売ってないし、そんなのおかしいですよ!」
「パスポートはここではなくてですね……あ〜ん、警備の人、早く来てください。この人が変なんです!」
「変でも何でもいいから僕を飛行機に乗せてください。早くしないと僕の愛しい先輩が僕を置いて行っちゃうじゃないですか! 青い海、白い砂浜、赤い夕焼け! ああ、ダメです先輩。僕はあなたの素肌を他の奴に見せたくないんです。あなたは僕だけのものにしたいんです! そして……先輩、日本を遠く離れて異郷の地で僕と、ああ、ダメです、そんな、いきなり吸うなんて激しすぎます! 吸うのは僕です。飲むのが先輩なんです。まずは僕に吸わせてください。なのに、なのに、それ以上吸われたら僕はどうすればいいんですかぁぁぁ!!」
「ここです。ここに変態が!……いや―――――ッ!!!ダメ、私に近づかないで、変態がうつるぅ〜〜〜!!」
 ―――国際線のカウンターの前でくねくねと体をくねらせ、口から「ああ」とか「いい」とか卑猥な単語を連発して悶えまくった男は、受付嬢を泣かせた挙句にガードマン数人に取り押さえられ、そのまま飛行場から蹴り出された事でロビーはいつもの賑わう平穏を取り戻した。


「待っていてください先輩、僕は必ず追いついて見せますからねぇぇぇ!!!」


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