たくやはいったい誰の嫁?<宮村先生編>-2


 美術室から制服姿の女の子が飛び出していったのは、それから五分ほどしてからのことだった。
 あたしはと言うと、教室の扉の横の壁に背中を預け、中に入ることも、家に帰ることも出来ずにボ〜ッとしていた。幸いなのは、女の子はあたしの存在に気付いた様子もなく行ってくれた事で、その後すぐに美術室から出てきた宮村先生に見つけられたことだ。
「やあ相原、来てくれてたのか」
「う、うん……」
「弁当を持ってきてくれたのか? いやー、助かったよ。財布も忘れてたし、事務員さんからは仕事を押し付けられたし、このまま昼食抜きだと午後は授業にならないところだったよ」
「う…ん……」
「もしかして、ずっと聞いてたのか?」
「………………」
 全部聞こえていたわけじゃない。入り口は閉まっていたし、気持ちを抑えられなくなった女の子の声ばかりしか耳に届いてこなかったし。
 それでも、話の内容は大体把握している。宮村先生が、女の子の告白を断ったのだ。―――あたしと言う、存在がいるから……
「弱ったな……生徒たちにもお前と暮らし始めたことがバレてから、急にあんなふうに言い出す女子が出てきて困ってるんだよ。まああまり聞かれたくは無かったんだけど、心配しなくていいよ。ちゃんと断ったから」
「でも……………あたしが、いなかったら……………?」
 チラリと見ただけだったけど、走り去っていった女の子は長い黒髪が印象的なかなりの美人だった。
 もしもあたしが先に先生と付き合い始めていなかったら……そんな「たら・れば」の仮定の話を考えたって意味はないことは解ってる。先生だってあたしを選んでくれたから、あの女の娘はここから走り去っていったのだ。
 けどもし、先生があたしと付き合い始めていなくて……もしも、あの娘とあたしの二人から好きな方を選んでいいって言われたら……
「あたし……今日は帰ります」
 ダメ、マズい、それ以上考えないで……そう自分に言い聞かせても、宮村先生に選ばれなかったらと言う考えはあたしの当然のように幸せを甘受していた心を蝕んでいく。
 それは女として自分に自信が無いからなのか、心の奥底では穢れている自分が宮村先生にふさわしくないと思っているからなのか、そう言った普段感じないままに溜め込んでいたマイナスの気持ちが胸いっぱいに溢れ出てくると、あたしは宮村先生の顔すらまともに見れなくなっていた。
 ―――お弁当、渡さなきゃ……
 でも身体は今来た道へと既に振り返ってしまっていた。
 止まれない。心も身体も逃げ出そうとしている。
 大好きだけど、捨てられたくないから、嫌われたくないから、あたしよりも好きな人がいると知ってしまいたくないから、あたしはこの場からも、幸せな生活からも、宮村先生からも逃げ出そうとしている。
 あたしはあたしが不安定であることを一番良く解っている。男と女、二つの性別をこの世で一番行き来して、最終的には産まれた時とは真逆である女の生き方を選んでしまったのだから。
 きっとはじめから女の子として産まれ、育ってきたなら感じなかった悩みだっていっぱい抱えている。他の人に話せば笑われそうな悩みでも、あたしにとってはとても重要で、そしてあたしにしか解らない悩みばかりだ。
 でも解らない……もう、あたしにだって、今の気持ちは解らない。先生が好きなのに、あんなに愛し合ってきたのに、今はただただ逃げ出したい気持ちしかない。ここに来るまで、宮村先生に会えるのをあんなに心待ちにしていたのに、どうしてこんなにもいたたまれないのか解らない。
 ―――あたしは……バカだから……
 好きな人の気持ちが解らなくなったのは、これで二度目。そしてそのどちらからも逃げ出すバカだから、


 ―――誰かに、手を引いていてもらわないと……


「んっ………」
 お弁当を入れていた紙包みが廊下に落ち、手首を捕まれ強引に引き戻されたあたしは宮村先生の腕の中で強引に唇を奪われていた。
 あたたかい……何度も安らぎを覚えていた温もりに包み込まれると、暗い気持ちで埋め尽くされていた身体に怯えにも似た震えがビクンと駆け巡る。けれど、走って逃げようとしていたあたしを逃がすまいとする宮村先生の腕に強く抱きしめられ……
「っ………!」
 太股の内側に、生暖かい液体が伝い落ちていく。好きな人の温もりを感じた途端に、拒もうとする身体とは裏腹に全身が喜びで弛緩してしまい、朝からずっと溜め込んでいた愛液が股間の奥から席を切ったようにあふれ出してきてしまっていた。
 ―――温もりに…溺れちゃうよォ……
 ダメだって解っていても、あたしの手は身体の前に回された宮村先生の腕を握ってしまう。
 離せない。離れない。―――遠くから聞こえてくる学生たちの楽しそうな喧騒の声を掻き消すほどに胸が高鳴る。それが、どんなに逃げようとしたって逃げられるはずがない、離れられるはずがないと言う現実だ。
「ひどいじゃないか。せっかく持ってきてくれたお弁当、また持って帰っちゃうつもりだったのかい?」
「そうじゃ……ない…けど……」
 答える言葉がたどたどしい。まだ愛撫されたわけでもないのにお漏らしをしてしまったことを誤魔化そうと太股をモジモジ擦り合わせていたあたしの体温は、耳の後ろに息を吹きかけられた途端に急激に跳ね上がる。
「心配しなくても大丈夫だよ。そりゃ相原と一緒じゃなかったら、告白されたら考えるよ。ニコニコしててもやっぱり男なんだし」
 でもね―――先生はそこで言葉を区切ると、あたしの体に回した腕にグッと力を込めてあたしの背中に身体を密着させる。すると、あたしのお尻の谷間へとスカート越しに硬い感触が強く押し付けられてきた。
「こんなにも魅力的な恋人がいて……他の子に目が行くと思うかい?」
「だって……あたしは………先生だって…知って………」
 先生の言葉をただ黙って受け入れて喜び浸るには、あたしの生い立ちは複雑すぎる。それすらも受け入れてくれているから、一緒に生活をし、狂ったように肉欲に耽ったりも出来たのだけれど……今のあたしは卑屈になりすぎていて、素直にその事実を受け入れられずにいた。
「昔の相原……と言うか、昔のはじめて“女”になった頃の相原は、そんな顔をしなかったぞ」
「………………」
「他の子と比較しなくたっていいじゃないか。相原は相原……もう、手放したりなんかできないよ」
「あ……っ!?」
 宮村先生の域が次第に熱を帯びて行く最中にも、あたしは返事を返せないでいた。すると、先生の右手があたしのアゴに触れ、後ろを振り向かせようとするその動きを逆らわずに受け入れると、口づけをされながら……服の上からゆっくりと乳房をこね回してきていた。
 ―――こんな……誰がいつ来るか分からない場所で……
 まだ教室の中でなら分かる。鍵を掛けてしまえば、窓から覗かれでもしない限り二人きりの密室と言う状況を作れるのだから。でも宮村先生は、すぐ背後に美術室の扉があるにもかかわらず、待ちきれないと言わんばかりに廊下の真ん中であたしの唇を塞ぎ、他の女性よりも一際魅力的な胸の膨らみを揉みしだいてきたのだ。
「ッ……んゥ………!」
 こんなところを見られたら……頭の中で事態は解っていても、浅く開いた唇から捻じ込まれた舌を、あたしには振り払うことが出来ない。最初は振り向かされていたキスにも、自分から首を伸ばし、より濃密に、濃厚な口付けを求めようとしてしまっていた。
「んはあッ……っ!」
 乳輪の根元を親指と人差し指で押し揉まれると、校舎の中では漏らしてはいけない声が喉から溢れ、背筋にビクッビクッと震えが駆け巡る。横にねじれる首が背中と一緒にさらに反り、先生の股間と密着したお尻が左右にくねり、この悦びにいつまでも浸っていたいと、先ほどまで逃げようとしていたことも忘れて思い始めてしまっていた。
「もう我慢できないよ……朝、あんなところでお預けを食らったんだから。今日一日、授業中もずっと頭から離れなかったんだから」
 廊下の端にまで届きそうなほどに大きく唾液としたのから見合う音を響かせ、宮村先生の両手があたしのふくよかな膨らみを執拗に揉みしだく。息を荒げ、ますます固くなり熱を帯びて行く股間を擦り付けながら、弾力のある乳房の形を歪め、強弱をつけて圧搾を繰り返してくる。
「は…ァあぁぁぁぁぁん……」
 次第に膨張し、張り詰めて行く乳房。女になった直後には、どうしてこんな思いモノが身体についているのかと不思議に思うことさえあったけれど、今では愛する人の手で思う存分捏ね回される愉悦に翻弄されるたびに、表情を蕩かせたイヤラシいメスの表情を浮かべて喘ぎ声を上げてしまう。
「そこに……手を突いて」
 痺れるほどに乳首が固く尖り、収まりが付かないほどに身体を小刻みに震わせ息を荒げさせてしまったあたしは、言われるがままに廊下の窓と窓の間にある太い柱へと両手を突く。そして見ることの出来ない背後からジジジ…とチャックを下ろす音が響いてくると、服の下でブラの紐が弾け飛ぶんじゃないかと思うほどに胸が震え、スカートをめくり上げられてヒップが露わになると全身に流れる血液が一気に燃え上がったかのように身体中が熱くなっていく。
 ―――やっぱり……もうダメェ………!
 先生から離れることも逃げることも、毎晩のように愛し合った思い出を忘れる事だって出来やしない。それなのに普通の女の子が先生に近づいただけで卑屈になってひねくれて、
 ―――お、おかしいよ、こんなの、まるであたしじゃないみたいで……!
 宮村先生が言ったみたいに、以前のあたしならこんな事で悩まなかったはずなのに、まるで心の箍(たが)やブレーキが壊れたみたいに、自分の感情が抑えきれない。
 今だってそう。まだキスや胸を揉まれるぐらいなら、廊下でもやっててもスキンシップだって言い張れる。でも……グチュッと音を立ててショーツの脇から淫唇に祈祷を押し付けられている姿を他の誰かに見られれば、言い訳なんて無理、宮村先生にどれだけの迷惑がかかるかわかったものじゃない。
 だけど―――拒めない。
「んァ〜………♪」
 キュッと窄まる膣口を押し広げ、太くて逞しい宮村先生の肉棒があたしのヴァギナに収まっていく。柱に左の頬を押し付け、午前中味わうことが出来なかった愛おしい肉棒をキツく喰い締め、涎の愛液を垂らしながら絞り上げてしまう。
「せ、センセ……スゴい…い、いつもよりも固いィ……!」
「相原だって、そんなに締め付けたら、すぐに……!」
「あッ、あッ、んむッ…んゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 すっかり下がりきっただらしない子宮がひしゃげるほどに、力強く肉棒が付きこまれる。そしてそのままメス犬のように、激しく喘ぎたいのを必死に堪える。血が出そうなほどに下唇を噛み締めていなければ、学園中に響き渡るほどに盛大に嬌声を上げてしまっていた。
 けれど、あたしのほんの悪戯心からあおずけをされていた宮村先生の肉棒は、そんなあたしの必死に努力など気にも留めない。むしろ待たされていた分だけいつもよりも強烈なまでの勢いで秘所を貫き、あたしと先生しかいない廊下に連続してはしたない粘着音を鳴り響かせる。
 ―――んああああああああァ! ダメ、そんなに激しく、出ちゃう、声が溢れちゃうゥ〜〜〜〜〜〜!!!
 ズリュッと音を響かせて肉棒が引き抜かれるたびに、膣口から掻き出された愛液がボタボタとリノリウムの冷たい床に滴り落ちる。亀頭のエラに肉ヒダを掻き毟られ、そのたびに甘美な震えがあたしの卑屈さを吹き飛ばし、わななく子宮どころか理性まで突き崩そうとしていた。
「あ…もッ……アッ…アアッア………ッ!!!」
「出す…ぞ……いつものように…いつ出来てもいいように……中に……ウッ、ウウウッ!」
 宮村先生が歯を食いしばり、粘つく本気汁に濡れまみれた膣腔を犯し抜く。あたしの太股は掻き出された愛液でドロドロになり、ブラでも押さえきれない振動に乳房を大きく弾ませながら、
「あ、んふゥ! イく……も…ダメェ!!! センセェ、あたし、こんなに、感じ、あっ、あっ、はうゥん!!!」
 懸命に声を押し殺しはしたものの、両足を突っ張り、いつ誰の目に触れるとも限らない窓の間に隠れたまま歓喜の涙を流したあたしは、ビームのように勢いよく絶頂汁を噴出させていた。
 そしてそれと同時に、授業をしながらたっぷりと溜め込んでいた宮村先生の濃厚な精液があたしのおなかの奥へと注ぎこまれる。今度こそ当たるかも……そう思わずにはいられない勢いと量に、粘膜にまみれたあたしの秘所は、律動を繰り返しながら射精もまだ最中の肉棒を締め付ける。
「んは…ぁ……気持ちよすぎるよぉ……先生に中出しされると……あたし…何も考えられなくなっちゃうぅ……♪」
「それはこっちもだよ。こんなに気持ちよくしてくれる恋人がいて、幸せモノだよな〜……」
「ふふっ……これからもずっと……今日と同じぐらい気持ちよくしてくださいよね?」
「うっ……せ、精一杯頑張るよ」
 子宮に精液を浴びせかけられる感触に瞳を伏せ、柱にすがりつく身体をビクン…ビクン…と震わせる。
 すると、
「やだ………まだ、し足りないって……もうだめ、こ、腰が動いちゃうぅ………!!!」
 身体を重ねて愛情を確かめ合い、安堵したせいだろうか、まだ先生の射精は終わっていないのに、あたしは腰を蠢かせて、早くも第二ラウンドに突入し始めていた。
「まだ、時間、あるよね……チャイム、鳴るまで、もう一回ィ〜……!!!」
 絶頂を迎えて柔らかくなり始めていたペ○スも、精液にまみれた肉穴の中を往復すると、たちまちのうちに固さを取り戻してくる。
 けれど、さっきはあんなに激しくあたしのことを犯してくれた宮村先生は、動いてくれないどころか……どうも様子がおかしい。どうしたんだろうと後ろを振り返ると、いつもニコニコ笑みを絶やさないのがモットーのはずの宮村先生にしては珍しく、あんぐりと口をあけて硬直しており、
「しまった……スピーカーの調子がおかしくて………事務員さんに様子を見て欲しいって頼まれてたんだった………」
「へ………?」
 そういえば、何で事務員さんは宮村先生の居場所を美術室と知っていたのだろうか?―――答えは簡単。自分が行かせたのだから。
 そして、スピーカーの調子が悪いと言うことは……慌てて自分の時計を確認すると、時刻は既に午後の授業の開始時刻を五分ほど過ぎている。さっきまで聞こえていた昼休みの喧騒もすっかり鳴りを潜め、それどころか、廊下の端の怪談の踊り場からは、何人もの視線を感じてしまうんですが……
「そう言えば、先生って美術の先生でもなかったよね」
「い、いるだろうな……生徒だけじゃなくて先生も」
 でもまあ……考えようによっては、これで宮村先生に悪い虫が付くことは無くなったわけで。
 慌てて股間からペ○スを引き抜き、またお口でお掃除してあげたいぐらいにドロドロになっているペ○スを急いでズボンの中に押し込む宮村先生に対し、あたしはショーツの位置を直してスカートを整えるだけ。一足先に服装を整えたあたしは、一度だけ視線を感じる廊下の端へと目を向けると、悪戯っぽく笑みを浮かべ、先生の首に腕を回して濃厚な口付けをしてみせる。
「ははは……教師をクビになったら、これから毎日できる身分になっちゃうかもしれないけどね……」
 ま、校舎内で堂々と淫行をしちゃったんだし、首になったらその時はその時。だったら毎日のように朝から晩まで愛し合って……その後のことは、またその時考えればいい。
 大切なことは、あたしが宮村先生を愛していることなのだから……
「今日はいっぱいしてあげるから、出来る限り早く帰ってきてよね……“あ・な・た”♪」
「こういうことは生徒の前ではやめて欲しいんだけど。立場が危うくなるから」
「だ〜め。他の誰でもなくて、あたしを選んじゃったんだから。そこだけは諦めてね♪」
 だから………授業が始まっているのだから、いい加減、この場を後にしなければいけない。廊下でSEXしていたことが職員室に伝わる前に。だからその前に、二度と迷わないように、あたしは―――



「これからもずっと―――ね?」


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