61 - 「三十路たくや「秋の小旅行・(1)紅葉狩り篇」」


「ん〜……こんなもんかな?」

 クローゼットを開けて思案すること数分。白いシャツに黒のジャケット&パンツ姿へ着替えたあたしは、姿見の前に立っておかしなところがないかを確認する。
 普通の女性ならお出かけ前の服選びに何十分も何時間もかけたりするんだろうけど、あたしはそれほどファッションにこだわりがないので、TPOだけ考えて時間を掛けずにあっさり決めてしまう。
 それに学生だった頃は女になっては男に戻ってを繰り返す連続だったので、女物の服は数日を過ごすためのものでしかなく、そこにあまりお金をかけてこなかった。
 結婚してからは酷いもので、夫が買ってくれたのは露出過剰な服ばかり。それもすぐに破かれたり精液まみれにされたりして使い物にならなくなることが多く、まともな服は量販店で買ったものだった。

 ―――ファッションに一番興味を示す年頃は男だったからなぁ……でも量販店のは胸の部分がキツいし、すぐに伸びるから長持ちしないんだよね……

 ともあれ、今日は車を運転して出かけるし、ナンパもノーサンキューだ。黒基調で地味かな〜とおもわないでもないけれど、ここは考え方を変えて、シックに決めたということにしよう。
 それでも相変わらずバストの自己主張は激しく、ヒップラインも張り詰めてしまっていて見た目がエッチい。ジャケットの裾でお尻は隠せてるけど、スタイルの良さだけはどうしようもない。

 ―――やっぱり胸が大きすぎるよねぇ……いまだに成長期だし。重たいからそろそろ小さくなって欲しい……

 あたしとしては切実な悩みなんだけど、下手をするとどこからともなく現れた千里に「そんなに邪魔なら新開発した乳もぎエクササイズマシンの実験台にしてあげますよ!」と猟奇的なモルモットにされそうだ。
 研究員時代の悲劇を思い出すと、その恐怖にブルリと身体を震えてしまう。もうマッドサイエンティストバトルに巻き込まれるのはごめんこうむりたい……

「時間にはまだ早いけど……どうしよっかな」

 ナンパ避けに下口の伊達メガネをかけて地味度をアップすると、左の手首に着けた男物の腕時計で予定の時間に十五分ほどの余裕があることを確認する。
 荷物の確認をするにしても、今日は日帰りなので、小さめのバッグ一つしか持っていかない。中身も財布やハンカチティッシュぐらいだ。コンドーム? 要らない要らない。
 さてさて手持ち無沙汰になっちゃったな……なにして時間をつぶそうかと思案していると、あたしの携帯が着信音を鳴らし始める。

 ―――メール? 差出人はあゆみさんか。

 あちらも準備ができたらしい。それならばとすぐに迎えに行く旨を返信し、あたしは階下のあゆみさんの部屋へ向かった。

「たくやくん、おまたせ。今日は運転、よろしくね」

 出迎えてくれたあゆみさんはカーディガンにロングスカートというコーディネート。うんうん、こういう女性らしい華やかなコーデはいいよね〜。あたしとは女子力の差を感じてしまう。

「紅葉を見に行くのっていつ以来かな。さっきニュースで今年は特に綺麗だって言ってたけど」
「あたしも知り合いから紹介してもらったんですけど、すごくいい所らしいですよ。ちょっと遠いが難ですけどね」



 というわけで、今日はあゆみさんと二人で紅葉狩りです。

 −*−

「うわぁ、もみじ奇麗だね〜。ここまでくるとまさに圧巻って感じで」
「そうだね……はぁ……♪」

 頭上を覆うは紅葉したモミジやイチョウやカエデの葉。重なり合う圧倒的なまでの鮮やかな彩りに、あたしとあゆみさんは感嘆の吐息を漏らしていた。
 落葉に覆われた山道は友禅を広げたかのように美しく、その上を歩くことがもったいなく思えてしまう。けれど踏めば柔らかく、日差しは照らす木々の紅葉一枚一枚の色が溶け合い、赤みを帯びた金色の光になって柔らかく降り注いでいる。

「はぁ……♪」

 息を吸えば涼やかな山の空気が胸の奥へと染み入り、美しさに覚えた興奮と混ざり合って蕩け、酔いしれる。
 深まりつつある秋の気配を感じながら朱色や黄色を目で追いつつ山道を進んでいると、ご年配の女性から挨拶ついでに「口が開きっぱなしですよ」とクスクス笑われながら指摘され、あゆみさんと一緒に照れて苦笑いを浮かべてしまう。

 ―――いやー、それにしても来てよかった! レジャーばかりが自然じゃないよね!

 夏には海やプールに出かけたりもしたけれど、それとはまた違う自然との触れ合いにあたしのテンションは上がりっぱなしだ。

 今回の紅葉狩り、話の出処は実はあたしだ。
 同僚の先生から紅葉狩りに行った話を聞き、マンションに住む仲の良い「婦人会」の面々に紅葉狩りに行かないかと持ちかけてみたのだ。
 ところが、誰も彼もがなかなかに忙しい面々なので、スケジュールの折り合いがなかなかつかない。結局、休みの取れた平日にあゆみさんと二人で来ることになってしまった。

 ―――まあ、二人きりなら、その分のんびりできるし。

 訪れたのは紅葉が見ごろのとあるお寺の庭園とその裏山。
 ガイドブックを手に散策コースを回って色とりどりの美しい紅葉に感嘆のため息を漏らし、その後はお寺の庭内を散策。秋の草花を愛で、途中で出会ったご住職にお話を聞かせて貰ったりしてゆっくり一回りすると、茶屋風の休憩所で一休み。
 歩き回った疲れが出たところに和菓子の優しい甘みとお茶の香り……嗚呼、日本人でよかった……!

「こうやって散策するのっていいよね。私、いつも部屋にこもってるから……昔は、こういうのも見慣れた風景だったのに……」
「あゆみさん、最近は小物作って通販で売ってるんだっけ? あんまり頑張りすぎちゃ駄目だよ?」
「えへへ……でも、評判がすごくよくて、それが嬉しくてつい頑張っちゃって……」
「んじゃ、また今度どっかに遊びにいこっか。あゆみさんは強制参加ね。ん〜……もう少し寒くなったらマンションのみんなと一緒にスキーとか温泉とか」
「温泉かぁ……ふふふ、そういえば温泉っていつ以来だろうなぁ……」

 もしかして失言だったかな……と、少し遠くを見つめるあゆみさんの横顔を見て思ってしまったのだけれど、笑顔を返してくれたので大丈夫かと胸をなでおろす。

 ―――やっぱり、嫌な思い出ってすぐにどうこうできないよね……

 でも温泉の話題はどこに地雷が潜んでいるかわからない。美味しいお茶とお団子を肴に別の話題で盛り上がりながら、あたしはふと、あゆみさんとの出来事を思い返していた……



 −*−

 あゆみさんは以前、山奥の温泉旅館で中居をしていたらしい。
 想い人は幼馴染でもあるその旅館のご主人。
 いつかは二人一緒になれればと思っていたのだそうだけれど、幼い頃から可愛がってくれていた番頭とそそのかされた主人に騙され、犯され、挙句に多額の借金を背負わされてAV女優としてアダルトビデオに出演させられたのだという。
 旅館は人手に渡り、今はその場所にホテルが建っている。愛しい人も戻る場所も失ったあゆみさんは借金を盾にAV出演を強要される内に、「これは仕事だから…」と割り切ることを覚える。
 やがてAV以外で知らない男に抱かれることも多くなった。人気AV女優を抱くために金を惜しまない男もいるのだ。そして「買われた」あゆみさんはそういった男たちにも弄ばれ、心身を削る日々が続いたそうだ。
 今は借金も完済し、そのようなこともない。ある日、証文を手に弁護士と共に訪れた男が「過払いだ」といって法定利息以上にむしり取られていた利息や、未払いになっていた出演料などとして大金を置いていったらしい。
 そのお金で現在住んでいるマンションの一室を購入したあゆみさんは、その後もちょっとしたトラブルに巻き込まれたりしながらも、前を向いて頑張り続けている……

 とりあえず唯さんの旦那の隆幸さんは、あゆみさんに土下座謝罪すべき。

 −*−

 さて、回想兼説明終了。
 最近のあゆみさんは唯さんに入れ知恵され、インテリア用の小物をネットで販売しているそうだけれど、まじめに頑張り過ぎるので、放っておいたら髪はボサボサ、肌はカサカサになるほど集中して作業している。目の下にクマまで作るほど根を詰めるのはさすがにどうだろうか。

 ―――今回誘えたのはあゆみさんだけだったけど、ゆっくりできる二人きりだったのは逆に良かったのかもね。

 集まれば何かとエッチな騒動が起きる婦人会の面々を思い出しながら、あたしはスケジュール調整がうまくいかなかったことをこっそり神様に感謝してしまう。
 あと、ナンパに合わなかったことも嬉しい。平日ゆえの人の少なさが幸いして、ナンパをかわす煩わしさに時間を取られなかったので、本当に羽を伸ばして楽しむことができた。

「ん〜、お茶もお菓子も美味しかった〜♪ みんなへのお土産、ここのお団子にしよっかな」
「それいいかも。唯さんもさとみさんも物凄く来たそうだったし、買って帰らなかったら絶対に怒るよ、二人とも」
「だよね〜。唯さんはともかく、さとみさん怒らせると、あたしのお昼ご飯事情が……」
「さとみさんのパン屋さん、美味しいもんね」

 さとみさんはマンションの敷地内でベーカリーカフェを経営している。
 雑誌の掲載などはお断りしているので、マンション住人限定の知る人ぞ知る小さなお店だけれど美味しいのだ。怒らせて出入り禁止をくらうのは勘弁して欲しい。

「んじゃ買うのは帰りでいいとして、今度は写真撮りながら回ろっか」
「私は落ちてる紅葉で綺麗なのを探そうかな。ちょっとしたお土産にもなるし、小物作りにも使えそうかも」
「ん〜……仕事のことは忘れなさいと言うべきか、グッドアイデアというべきか……」
「えへへ、ごめんね」

 あれこれ問題はあるものの、今のあゆみさんの浮かべる笑顔は柔らかくて優しい。だったら今はこれで良いのだろう。。
 そうして休憩を終えたあたしたちは、カメラを手に鮮やかな紅葉に包まれた道をゆっくりと歩きだす。

「あゆみさん、ちょっとそこに立って。撮るよ、はい笑って〜」
「あ、あはは……こう、かな?」

 あたしがカメラを構えると、あゆみさんは少し戸惑いながらも笑みを返してくれるので、そこでパシャリと一枚撮影する。落ち着いた配色のコーディネートは紅葉に調和し、素人の腕前ながら上手く撮れたと思う。

「じゃ、次はたくやくんだね。カメラ貸して」
「いいのいいの、今日のあたしはカメラマンで」

 なにせ今日は運転手なので、白シャツに黒を基調にしたジャケットとパンツという動きやすさ優先の服を着てきている。白黒で見た目地味だから写真移り悪いと思うんだけどなぁ……

「ダ〜メ、私ばっかり撮られるのはズルいよ? それにせっかく一緒に遊びに来た思い出なんだから、二人分の写真撮らなくちゃ♪」

 ―――そう言われちゃ仕方ない。女になってから写真とか動画には嫌な思い出がいっぱいなんだけど……ポーズは、こう? あはは、やっぱ変かな、ハズかし〜!

 一台のカメラでお互いに写真を撮り合いながら、紅葉に包まれた小道を進んでいく。
 途中、年配のご夫婦の写真を撮ってあげたり、あゆみさんから野草や山菜のことを教えてもらったりしながら散策していると、

「すみません。よければ俺にも写真を撮らせてもらえませんか?」
「「え……?」」

 本格的なカメラを首にかけ、撮影機材などを詰め込んだ大きな荷物を抱えた男性が背後から声をかけてきた―――

 −*−

 声をかけてきた男性は鳥居さんという写真家だそうだ。
 名刺も貰った。スマホでこそっと調べてみたけど、日本各地を回って風景写真を撮影しているらしく、そこそこ有名らしい。

 だけど、普通なら有名人に声を掛けられたって、あたしもあゆみさんもほいほい付いて行きはしない。なにしろ二人とも男に騙されてひどい目に遭ってきた人生持ちなのだし。
 でも、

 『普通の人じゃ見られない穴場があるんですよ。すごく綺麗ですよ。そこにご案内しますから』

 その言葉にあたしとあゆみさんと顔を見合わせ、少し迷った末に行くだけ行ってみるという曖昧な返事を返してしまったのだけれど……





「うわぁ! なにこれ、スゴい、素敵すぎる!」
「ほんと……綺麗すぎて言葉が出ない……」
「あっ! 見て見て鹿がいる! 鹿が水飲んでる!」
「お、大声出しちゃだめですよ、驚かせちゃうから……」!

 眼前に広がる光景に、そして全身を揺さぶるような落水の音に、あたしもあゆみさんも揃って息を飲んでしまう。
 鳥居さんに案内され、散策コースから外れて森の奥へと踏み入って辿り着いたのは、コケや木々に覆われた岩肌から降り注ぐ小さな滝だった。
 降り注ぐ優しい日差しと煌めく様な紅葉の色彩、滝の音色に遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声が重なり合い、これは本当に現実なのかと疑ってしまう程に幻想めいた雰囲気を醸し出している。

「この滝は景観保全のため、ガイドブックとかに場所は載ってないんですよ。足元も滑り易くて危険ですしね」

 説明された通り、今いる場所から滝へこれ以上近づくにはコケに覆われた岩肌をかなり下まで降りなければならない。岩肌は湿ったコケに覆われているため滑りやすく、重装備の鳥居さんならともかく、あたしたちが履いているような普通の登山靴では湿ったコケに覆われた岩肌は滑りやすく、下手すると落下して大怪我しかねない。
 それにこんな場所にゴミくずや空き缶を捨てられたくないので、保全のために公開していない気持ちはわかる。

「ん〜、空気おいしい! どこに連れていかれるんだろうって、身の危険を感じてたのが馬鹿みたい」
「あはは…いきなり声かけてきたかと思ったら森の中に踏み込んでいきましたもんね……」
「それに付いてきてしまったあたしたちは、むしろいい度胸してるのではと褒めたたえられないかな?」
「むしろ危機意識を持ってくださいって怒られると思います……」

 それもそうだと苦笑いしながら鳥居さんへ視線を向けると、ひたすら「すみませんすみません、自分口下手なもんで…」と謝りながら撮影機材の準備をしていた。

「ではお二人とも、モデルの件、よろしくお願いします」
「ぅ………」
「毎年ここの写真を撮りに来てるんだけど、誰かの姿と一緒に写したことはないんだ。けど二人を見た時、ビビッと来たんでね。撮るならこの二人だって。むしろお願いします。ぜひ俺に写真を撮らせてもらえませんか!?」

 ここに来るまでの間、あたしたちは写真のモデルをして欲しいことを頼まれていた。
 ただ、了承はしていない。何度も断っている。
 それでも「あの場所を見たら気持ちは絶対変わるから!」と半ば強引に連れてこられて、実際に美しい光景に心奪われもしたものの、それでも写真を撮られることには二の足を踏んでしまう。

「ええっと…あたし一人ならいいんだけど……」
「あゆみさんはダメなんですか? なにか理由が?」

 ―――ええい、言い淀んでんだから事情があることぐらい察っして! てか、モデルがあたし一人じゃダメか!? ダメなのか!?

 仮に、被写体があたし一人なら構わない。けれど、あゆみさんにはAV女優をしていたという言いづらい理由があるため、簡単に首を縦には触れないのだ。
 職業カメラマンの撮影した写真なら、人の目に晒される可能性が高い。そうなると、写っているのが元AV女優だとバレる恐れがある。そうなると鳥居さんに被害が及んでしまうかもしれない。
 自分のAV女優という経歴のせいで他人に迷惑をかけることをあゆみさんも望んではいない。だから、モデルの話は断りたいのだけれど、

 ―――鳥居さん、意地でも諦める気なさそうだしなぁ……

 とりあえずイヤラシい目的でなさそうだ。純粋に写真モデルとしてあたしたちに声をかけてきたのは見る目がある……のだろうか?
 あゆみさんもさすがに困惑しており、オロオロしながらあたしに「どうしましょうか?」と目で訴えかけてきている。
 でも事情が事情だ。鳥居さんには事情を説明して、きちんとお断りするしかない。

 ―――ほんとにそうかな?

 ふと、疑問が頭に浮かんだ。
 ちょっと整理して考えてみよう。
 あゆみさんは身バレが怖い。肖像権がどうとかじゃなく、AV女優だった経歴がバレて鳥居さんに迷惑をかけないようにするためだ。
 で、鳥居さんは撮らないという選択肢がない。頭の中に欠片もないのだろう。はた迷惑な……
 ただ、こうして考えてみると撮る撮らないの二択のようでいて、ポイントとなる双方の事情は異なるところにあるのが解る。
 それなら「断る」んじゃなく「どうすればいいか」で考えてみる。

「だったら―――」

 答えは簡単。
 ばれなきゃいいのだ。




 −*−

「うおおおおおっ! いい、いいよ! 素晴らしい! シャッターきる手が止まらないィィィ!」

 滝に向かって岩に腰かけるあたしの”背後”からパシャパシャパシャと連続してシャッター音が聞こえてくる。
 ただ、顔はレンズに向けない。首を傾げたりするけれど、視線は滝に向け、振り返ることだけは絶対にしない。

「ふおぉおおおおぉぉぉぉぉ! これだ、風景と人の調和、まさに芸術だ! あ、ちょっと髪をかき上げたりしてもらえますか!?」
「えっと、こんな感じ?」
「いい、いいですよ、グッドだ! 顔も絶妙に隠れてます! まさかここまであびべぼばびべぼばああああ!!!」

 滝から吹いてくる風で乱れる髪を手でかき上げながら少しだけ後ろに首を向けると、よほどいい具合だったのだろう、ヤバいんじゃなかろうかと思ってしまう程に鳥居さんのボルテージが上がっていく。
 そして様々な角度で一通り撮り終えれば、交代してあゆみさんが滝の前に立つ番。
 今度は立ち姿での撮影だけれど、やっぱり後ろ姿。鳥居さんの後ろに回って休憩がてら見学していると、服の裾や長い三つ編みが風に揺れ、木々や水飛沫とは異なる”風景”がそこに見て取れる。

 ―――要は顔さえ見られなかったらいいと思ったんだけど……良い具合じゃないのかな?

 鳥居さんにあたしから双方の妥協案として提案したのは「後ろ姿のみの撮影」というものだった。
 後ろ姿だけなら、それが誰かなんてそうそうわかりはしない。仮にAVファンがあゆみさんだと言い当てたとしても、顔が解らなければ知らぬ存ぜぬでも通せるだろう。
 そして鳥居さんが本当に撮影したいのはあたしたちではなく、紅葉に包まれた滝の風景なのだ。それならちっぽけな彩りでしかないモデルの顔の重要性は、風景に比べれば一段落ちることになる。

 ―――最初に鳥居さんがビビッと来たのも、あたしたちの後ろ姿を遠目に見てだったしね。

 二人して服装も地味だったので、むしろ秋の風景に合わせるにはちょうど良かったのかもしれない。本人にとっても人生初という絶好調なテンションで撮影し続ける鳥居さんにそう話したみたら「それで地味…?」と突っ込まれたけれど……
 地味だよね? そりゃまあ他の人よりもボディラインのメリハリはあるけど、上着もズボンも黒基調だし……ちょっと胸回りやお尻回りがタイトなだけで……あゆみさん、どうして目を逸らす? あれ? そんなにエロス?

 そんなわけで、撮影は和気あいあいに会話(?)を交えつつ順調に進んでいる。打ち合わせを兼ねた休憩を時折挟みながら一時間ほど過ぎたけれど、シャッター音が途切れることがほとんどない。メモリ大丈夫ですかと訊いてみたくなる。
 すして撮影が順調に進んでいるときに……その”事件”は起こってしまった。

 ―――不意に、強い風が吹いたのだ。

「「「――――――――――――――――――!!!???」」」

 滝からいきなり吹き付けてきた強風に、あたしは思わず腰を落として顔の前で手をかざす。
 そしてその手の隙間から、

「きゃああああっ!」

 あゆみさんの悲鳴が聞こえ、前を抑えたが故に後ろへ向けてスカートが大きく舞い上がり、眩いばかりに白い太股とお尻がこちらに向けて曝け出されてしまった。

 ―――黒、だと!?

 あまりに衝撃的な光景を前にして、あたしは動きを止めてしまう。
 
 かぶりつきたくなる程みずみずしいヒップ。その谷間にキュッと食い込んだ細い布地は肌とのコントラストが鮮やかな黒レース。
 心の中で両手を合わせて感謝しながら、脳内メモリにシャッター連射で鮮明に記憶する。これはもう忘れることができないだろう。
 そしてスカートがゆっくりと舞い降り、あゆみさんが涙をにじませて後ろを振り返るまで……あたしと同じく硬直したままだった鳥居さんは、シャッターも押しっぱなしだった。……あとで現像した写真を譲ってもらえるように交渉しよう。

「み…見まし……た?」
「うん……あゆみさん、ナイスブラック♪」
「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 あっはっは、山奥でそんなに大きな叫び声をあげちゃだめだってば。なにか事件が起きたのかと思われるじゃないですか―――って、ちょ、掴みかからないで、落ち着いて落ち着いて、揺らすのダメ―――!!!

「違うの! 違うんです! たくやくんとお出かけだから下着も気を抜いちゃだめだと思ったからァ!!!」
「うんうん、わかってるわかってる、ちゃ〜んとわかってるから。……実は期待してた?」
「何を期待するんですか!? 全然わかってないじゃないですか! 期待してたわけじゃないから! むしろ警戒してたっていうかァ!!!」
「……あれ、これもしかしてお出かけに誘ったから逆に期待させちゃってたパターン? 実はあゆみさん、デート気分だったとか!?」
「ち、ちがっ、わたし、あの、考えてないから! 誘われるかもとか! 温泉とか! ホテルとか! なんでそんなこと言うのよ! たくやくんのエッチぃ!!!」
「言ってるの全部あゆみさんだからね……それにしても、あゆみさんてばもしかして結構溜まってるとか……?」
「たまってないもん! よ、欲求不満とか……違うから! そんなんじゃないんだからぁ!!!」
「はいはいわかりましたって。鳥居さん、あゆみさんがちょっと壊れちゃったから休憩を……って、鳥居さん?」

 返事がない、ただの屍……ではないけれど、あたしが視線を向けた先で鳥居さんは、地面に向かって俯き、手で口元を抑えていた。
 そして手指の隙間からは赤い液体が滴り落ちていて……

「………鼻血?」
「へ? は? はひ? ふへぇえええええっ!?」
「ちょっとこっち向いて。大丈夫ですか、スゴい出血ですよ」
「ひは、らいひょうふへ、ひゃは、らへ、は、はひゃあああああああああ!?」

 近くの木の根元に置いていたバッグからウェットティッシュを取り出し、鳥居さんの鼻血を噴いてあげようと、傍らに跪いて身を寄せたのがいけなかったのか。
 鳥居さんはあたしと至近距離で目が合ったことに驚いてしまい、慌てて離れようとして、その場でひっくり返って尻もちをついてしまう。
 そして、あたしたちに向かって大きく開かれた膝の間では、

「あ………」

 もっこりしていた。
 しかも今にもチャックがはじけんばかりにギンギンに大きく。
 原因は言わずもがな、あゆみさんのスカートの中を見てしまったせいなんだろうけれど……童貞でもなかろうに、随分と過剰過ぎる反応だ。
 ちらりと目を向ければ、鳥居さんの左手の薬指には結婚指輪がはまっている。もしかして夫婦生活がうまく行かなくて溜まっているのだろうか……
 今は近づかない方が良いかと考えてティッシュを渡し、鳥居さんには自分で鼻の下を拭いてもらっているけれど、性的に興奮しながらあたしやあゆみさんから距離を置こうとする態度に、どうにも不自然な気配を感じるのだった―――


 ―*―

「その……どうしても説明しなければいけませんか?」
「その時は、とあるカメラマンが女性二人を林の奥へ連れ込んで如何わしい事したってあることないことネットに情報発信しちゃうけどいい?」
「………話しますので、それだけはどうかやめてください」

 双方落ち着くまで撮影は一時中断になったのだけれど、そうは問屋が卸さない。
 もしかしたら本当に不埒なことをする目的であたしたちをこの場に連れてきたかもしれないのだ。ここはお互いの信頼のためにも事情は全部話してもらいましょうか。

「その……お見苦しいものを見せてしまったわけなんですが……実はファインダー越しに女性の裸を見てしまうと、昔からあんな風になってしまって……」
「つまり、カメラでエッチな写真を撮ろうとすると、秘めていた性欲が爆発してモッコリしちゃうと。……まさかハメ撮り好きのエロカメラマンだったなんて……」
「違います。そういうことはカメラマン仲間にもさんざん言われましたよ。……ただ、感覚的なことで説明しずらいんですが、撮影しようとファインダーを覗きこむと、被写体の美しさへの感動に対してブレーキが効かなくなるような感じでして」
「普通に見るのは平気なの?」

 シャツの襟首を引っ張って胸元を覗きこませてみるけれど、鳥居さんはたじろぐものの鼻血を噴いたりはしなかった。少し股間が大きくなりはしたけれど……

「たくやくん、何してるんですか!? そんなことしちゃダメ!」
「いや〜、一応確認はしないとね。鳥居さん、次はカメラ越しに」
「それは……遠慮させていただきたいんですが……」

 あからさまに視線を逸らされた……まあ、醜態を晒すと知ってて実行しようとは思わないだろう。

 とりあえず鳥居さんの事情は分かった。
 聞けば、昔はモデルの撮影などもしていたそうだけれど、体質というか性癖というか、撮影時に女性モデルへ異常興奮するせいで専ら風景写真を専門に撮るようになってしまったんだとか。

「たくやくん……何とかしてあげることって出来ないかな?」
「勃たせないようにするってこと? できないことはないけど、まだまだ元気なのにアソコを不能にされたら泣くよ、絶対に」
「ず、ずっとじゃなくて、お仕事中だけでも一時的にとか……」
「う〜ん……事は男の一生に関わることだから、かなり難しいかな……」

 勃起不全にする薬なら作れるけど、それなんて拷問薬だろう。男のアイデンティティの生殺与奪に関わる薬とか、考えただけでも背筋が冷たくなる。
 それに絶対に市販できそうにない薬だし、スポンサーも付かないだろうから、研究に費やした時間や費用に見合う成果も出せそうにない。回復させるならともかく不能にするのなんて百害あって一利ぐらいしかなさそうだし。

 だったら二発か三発ほど抜いてから撮影に挑む方が、よっぽど健全な手法だろう。
 もっとも、あの思春期の少年並みの敏感さを抑え込むのに、果たして三発程度で済むかどうかはわからないけれど……

「………あゆみさん、鳥居さんを何とかしてあげたい?」
「だって、スゴく困ってるし……」

 そういう風に困ってる人を見捨てておけないのは、あゆみさんの美徳だと思う。

「そのためなら、あゆみさんにできることはしてくれる?」
「えっと……なんだか物凄く嫌な予感がし始めたんだけど……」
「うん、まあ……ごにょごにょごにょ……」

 あゆみさんの耳元で何をするかを説明すると、さすがに困惑された。
 一応あたし一人でも大丈夫である旨は説明したものの、最後には「自分も…」と恥じらいながらも了承してくれるから、あゆみさんは好きだ。

 では早速作戦実行といこう。薄暗くなって撮影できなくなるまでの時間を考えると、のんびりもしていられない。
 用意するのはレジャーシートと、あたしのカメラ。レジャーシートはあゆみさんに広げてもらうようにお願いをしてから、あたしはカメラ片手に、少し離れたところで休憩している鳥居さんの元へ駆け寄った。

「鳥居さ〜ん、そろそろ撮影再開しましょっか」
「構わないんですか? 写真でしたら、もう十分な枚数を撮影させてもらいましたけど……」
「それは仕事用でしょ? 鳥居さん、最初にあたしたちの写真を撮ってくれるって声かけてきたでしょ。さっきまでのは、鳥居さんのお仕事用だからノーカン。今度はあたしやあゆみさんのための写真を撮る番ね♪」
「写真だったら現像したのを郵送……わ、わかりました、撮ります、撮らせていただきますから」

 ジト目をしただけであたしの要求を呑むあたり、カメラマンという仕事の時以外は意外と小心者なのかもしれない。
 そんなことを考えていると、あゆみさんが緊張した面持ちで滝を背にして鳥居さんの正面に立つ。
 では撮影会の後半のはじまりはじまり……鳥居さんがデジカメを構えると、あゆみさんはレンズを意識しながら、カーディガンをその肩からゆっくりと滑り落としていく。

「っ………!?」
「鳥居…さん………綺麗に…撮ってください……ね?」

 まだ服を一枚脱ぎ落しただけなのに、あゆみさんの表情が、肢体が、妙に艶かましく感じられる。

「あ……」

 画面越しに大勢の男性を魅了してきたボディーラインをアピールするかのように手を滑らせる。
 Gカップの乳房はブラウスの下でボタンがはじけ飛ぶのではないかと思うほど張り詰めてゆき、小さな唇からこぼれる吐息は粘り気を感じるほどに熱い湿り気を帯びていた。
 それは恥じらっているのか、それとも見惚れるあたしの反応を引き出すために焦らしているのか……無意識にゴクリと喉を鳴らして唾をのみ、汗が滲むほど手指を握りしめていると、あゆみさんは今にも泣きそうな、だけど今にもイきそうな表情を浮かべ、滑らせた指先でスカートのホックを外す。

 ………ふぁさ

 天女の羽衣のように、スカートが柔らかく地面へ落ちると、先ほど風の悪戯で目にすることになった太股を、今度は正面から拝見することになった。
 適度に引き締まりつつ二区間を感じさせる太股と、まるで見せることを予定していたかのような黒い下着のコントラストがあまりにも鮮やかでイヤラシく、目に焼き付いて離れない。そしてよくよく見れば、股間を包み込む黒レースの中央が色濃くなっており、その奥で淫蜜を滴らせる淫唇の形を浮かび上がらせようとしていた。

「……………………………」

 鳥居さんの指は、まだ一度もシャッターを切っていない。
 それでも紅葉と滝を背景にして徐々に衣服を肌蹴ていくあゆみさんから目を離すことができず、ファインダーを覗きこんだまま息を荒げ、鼻血をポタポタと地面に滴らせていた。
 そんな鳥居さんにあたしは背後から、

「んのおっ!?!?!?」
「ふふっ……ぼ〜っとしてないで、あゆみさんの綺麗な姿、ちゃ〜んと撮影してあげてね♪」

 あゆみさんにも負けないボリュームの自分の胸を押し付ける。

「鳥居さんてば、もうこんなにおっきくして……あゆみさんの裸を見て、何を想像してるの?」
「そ、それは……スゴく、綺麗だなって……」
「嘘ばっかり……イヤラシい事ばっかり考えてるんでしょ?」
「そんな、ことは……」
「いいんですよ、好きなだけ撮影して。自分がイヤラシい写真を撮りたいって認めてくれたら……」
「違う……僕は、そんな写真を、撮る、ために……カ、カメラマンになったわけじゃ……うオうゥ!!!」

 長年ため込んでいた性欲が暴走しているのか、鳥居さんの男根はガチガチに硬くなっていた。
 ズボン越しに手指を滑らせるたびに力強い脈動を繰り返し、直接触っているわけでもないのに今にも暴発してしまいそうだ。

「嫌ならやめちゃう? 鳥居さんの大好きなこの場所であゆみさんの裸を撮影する機会なんてないのに……」
「でも……こんなのはいけない事、で…ですからァ……!」
「あれぇ、モデルがあゆみさんじゃ不満? それじゃ、どうしよっか……ね♪」

 カメラを構えたまま動かない鳥居さんの手の甲へ指を滑らせながら、あゆみさんへ意味ありげに微笑みかける。
 すると黒の下着一枚だけを身にまとっていた彼女が体の震えを抑え込むように自分の身体を抱きしめる。そして潤んだ瞳であたしのことを見つめ返すと、下着のサイドに指をかけ、胸のボリュームを強調するように前かがみになりながら最後の一枚を膝下へ脱ぎ降ろしていった。

「あ、あゆみ……さん……!」
「ふふっ……あゆみさん、すごく綺麗……」

 下着を片方の足首に引っ掛けたまま全てをさらけ出すあゆみさんの姿は、二十代どころか十代と言っても信じてしまう程にみずみずしく、美しかった。
 恥じらって赤く染まる顔をカメラのレンズから背けてはいるものの、手の平に収まらないほどに豊かに膨らんだ乳房は興奮の高鳴りに合わせて小刻みに弾んでおり、まだ触れてさえいないのに先端は固く高く尖り勃っている。
 あのすべすべとした白い肌がかつてはカメラの前で何百人もの男性に穢されてきたのかと思うと、あたしの胸にも嫉妬のような憤りが湧き上がるものの、同時にあの恥じらいの表情をもっと歪めてみたいという被虐芯まで刺激され……予定とは違う行動に物凄く動揺してしまっていた。

 ―――あんまりサドっけはないはずなんだけど、あゆみさんのMのオーラが強すぎる……というか、なんでそこまで脱いでんの!?

 あゆみさんに耳打ちしたのは「あゆみさんのちょっとエッチな姿を写真撮らせてみる?」ぐらいのことで、野外全裸露出しろとまで言っていない。あたしは無実だ。
 ただ……これがあゆみさんの「ちょっとエッチ」なのかな? 過去に色々と常識はずれなことをさせられてきたせいでズレた考え方になってしまっているのかもしれない。

「ねぇ……我慢しなくていいのよ? こんなにさせちゃって……」
「な、なにをして……うおっ! ダメです、妻が……うううッ!」
「ここにはあたしたちしかいないんだから……いいんですよ、鳥居さんの好きなように写真を撮って……」
「好きな、ように……だ、けど……こ、こんな写真を、撮る、ために……カメラマンに……オオう…ッ!!!」

 あゆみさんの裸に意識が奪われている鳥居さんの下半身へ手を伸ばすと、はち切れそうになっていたチャックを下ろし、ガチガチに固くなっている鳥居さんのペ○スを露わにする。

 ―――うわぁ……すごくおっきぃ……今にも暴発しそうになってて、熱くて……え、あゆみさん!?

 ズボンの外へ露出させた硬いペ○スを柔らかく手でさすってあげていると、近づいてきていたあゆみさんの指があたしの手に触れる。
 まさか……という直感が脳裏をよぎったけれど、その時にはあゆみさんはその場に跪き、……あたしや鳥居さんを熱く潤んだ瞳で見あげながら、滴りそうなほど涎を湛えた口の中へ赤く大きく膨らみ切った亀頭を咥えこんでしまった。

「んんぅ……んんっ、んあっ、鳥居さん、スゴい、大きすぎて、全部咥えきれない……んんんゥ……!」
「くウゥ……! あ、あああ、あゆみさん、す…吸い上げられて……ハァ、ハァ、ううう……ッ!!!」
「きもち…いいですか? ぴくぴくして……こんなにため込んで……んむっ……遠慮せずに…いっぱい…わたしにぃ……」

 ―――うらやましい……

 あゆみさんは右手で鳥居さんのペ○スの根元を扱きながら、反対の手でずっしりと重そうな玉袋をやわやわと揉みしだく。その細い指先に敏感な部分を揉まれ、転がされた股間は脈動を強め、先端から滴り落ちるほど先走り液を溢れさせる。そんな先端へ口づけするように吸い付くと、口腔からぴちゃぴちゃと音を響かせてあゆみさんは丹念に射精口を嘗め回し、そして今度こそ、口の中に溜まった唾が押し出されるほどの大きさの巨根を上目遣いのまま根元まで飲み込んでしまった。

「うあ……ああああああああああッ!!!」

 喉の奥で亀頭を締め上げられ、鳥居さんが苦悶にも似た声を漏らす。そして、カメラを見上げるあゆみさんに向けて遂にシャッターを連続して切り始めた。

「あゆみさん、あなたはなんて美しいんだ! もう、僕は、どうなったって……んほぉおおおおおおおおお!?」

 頭上でたかれるフラッシュに眩しそうに目を細めたあゆみさんは、ペ○スからいったん口を離してしまう。そして根元を握って先端を形よく膨らんだ胸の谷間へとあてがうと、その赤黒い怒張を深い胸の谷間へズブズブと飲み込んでしまう。

「ああぁ……鳥居さんのおチ○チン、私の胸の間で跳ね回ってる……ふふふ……♪」
「う…アァ……あゆみさんの胸に、し…搾り取られる……!!!」

 シャッターを切りながら、葉を噛み締めた鳥居さんの口元から隠し切れないほどに獣欲を混じらせた涎が滴る。それを胸の膨らみで受け止めたあゆみさんは乳房を二の腕で真ん中に寄せ上げ、普段からはとても想像できない艶のある笑みを浮かべて谷間から飛び出す先端にむしゃぶりつく。

「くゥうううううううううぅぅぅ!!!」
「―――――――――!!?」

 カメラを下に向けて構えていた鳥居さんがくぐもった呻きを漏らし、頭を跳ね上げる。そしてカメラを地面に落とすやいなや、あゆみさんの後頭部を押さえつけ、乱暴な腰使いで喉奥に肉棒を荒々しく突きたてる。
 そんな鳥居さんに暴走を少し眉をしかめただけで受け止めたあゆみさんは、腰の動きに合わせて顔を前後に振りながら髪をかき上げ……あたしへと熱い視線を向けてきた。

「ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 次の瞬間、あゆみさんの口内へ根元まで肉棒を突き入れた鳥居さんが弓反りになるほど全身を緊縮させ、溜まりに溜まったザーメンを一気にぶちまけた。さすがにこれにはあゆみさんも堪らず嗚咽を漏らし、精液を逆流させてしまうけれど、次第に卑猥な音を響かせて濃厚なザーメンをすすり、寄せ上げた胸に溢れた白濁液を受け止めていた。

「お……ほぅぅ……こんな快感は、は、はへぇ………」
「いい写真……撮れましたか?」
「はは……もう、最高です……」

精液をすべて吐き出して一気に萎えたペ○スをあゆみさんの唇から引き抜いた鳥居さんは恍惚の表情を浮かべ、数歩よろめいた後に尻もちをつく。その様子を確認して安堵のため息をもらすと、あたしは落とされたカメラを拾い上げ、

「それじゃ次はあたしも混じるから、よろしくね♪」
「………はい?」

 今度は落とさせないよう、カメラのストラップを鳥居さんに首へかけた。
 そして地面から見上げてくる視線を感じつつ、Hカップの胸を強調するように突き出しながらジャケットを脱ぎだした。

「たくやくんも……撮ってもらうんですか?」
「うん。だって、こんなになっちゃったんだもん……♪」

 鳥居さんへ体を向けたまま、シャツよりも先にズボンとパンツを一気に膝までずり下ろすと、お尻までグチョグチョに濡らした下半身をあゆみさんに突き出してみせる。
 あんなにも濃厚なパイズリやフェラを見せられたあたしは、もしも男のままであったのなら二人の間に割って入り、あゆみさんに自分の性器をしゃぶらせた上でおマ○コにねじ込んでいたと思う程に昂ってしまっていた。久方ぶりに燃え上がったオトコとしての情欲はやり場がないがために、蠢く膣肉から蜜音が聞こえてくるほどにあたしの身体を熱く滾らせ、あゆみさんに襲い掛からずにはいられないほどに収拾がつかなくなってしまっていた。
 ましてや、同じマンション内で暮らす内に幾度か肌を重ねた間柄……興奮しきったあゆみさんから立ち上る汗混じりのメスの香りに後頭部を課ツンと殴られたかのような衝撃を受けたあたしは最後まで残っていた羞恥と理性をシャツやブラと一緒に脱ぎ捨ててしまう。

「ふふっ、あゆみさんてば、あたしに見せつけながらこんなに乳首固くしてたんだぁ……♪」

 鳥居さんの構えるカメラの前で全裸になることに恥ずかしさを感じないわけではないけれど、湧き上がる感情が脈動になって全身に広がるほどに性的な欲求が膨張し、ヒクつく淫唇から熱いものが溢れ落ちてしまいそうになる。
 もういっそこのおマ○コに鳥居さんの巨根を突き入れられたら……とも思うけれど、あゆみさんのお口とお胸がよほど気持ちよかったのか、まだ力なく垂れさがっているペ○ス後での期待を寄せながら地面に膝をつく。そしてあゆみさんと向かい合わせになるとその肩に手を置き、引き寄せながら硬く充血した乳房の先端を擦り合わせた。

「んっ……♪」
「ふあッ……!」

 敏感な場所同士を擦り合わせた快感に、あたしたちは二人そろって嬌声をあげる。
 あゆみさんの乳房は唾液と精液にまみれていて、ついばむように口づけをするたびに密着した膨らみが吸い付いてしまうような感じがする。 互いの膝が相手の股間に割り込むように身を寄せながら体を上下にゆすってザーメンローションにまみれて隠微なぬめりを帯びていく二組の巨乳が絡まり合うように相手の谷間に割って入り、遂にはお互いの背に手を回し合ってより濃密に身体を擦り合わせる。

それから唾液と精液にまみれたあゆみさんの乳房にあたしの胸を優しく擦り付け、互いの膝が相手の股間に割り込むように身を寄せていく。

「んぅ……はぁ……あゆみさんのおっぱい、やわらかい……♪」
「やっ、だめぇ……んふッ……んあぁ……」
「初めてじゃないんだし……いいでしょ? あんなあゆみさんを見せられたら、我慢できなくなっちゃって……んうッ!」
「たく、や…くん……ダメ……見られちゃう……んんっ! んむゥ、ンふゥ〜! クリが、たくやくん、こんな、んァあぁぁぁぁ!!!」

 むき出しになったクリトリスを太股が擦りあげ、ヌチャヌチャと卑猥な音を響かせている。あたしの膝上は羞恥と快感でビクンと身体を震わせたあゆみさんの漏らした汁でびしょぬれになっていて……それなのに、あたしの股間へ自分の太股を擦り付けながら熱心に腰を揺すり立てている。
 少しでも相手の肌と触れ合いたいと言わんばかりに腕に力を込め、身体を小さく上下に動かせば相手の感じる快感が鼓動と脈動と体温と痙攣になって伝わってくる。

「「んあッ!!!」

 音を立てて股間から熱い汁を噴きだしたのはどちらが先かもわからない。けれど首をのけぞらせて離れた唇は相手を求めてまた吸い付き、興奮のままに呼吸すら忘れて貪り合う。
 とどまることのない快感の連続に涙を浮かべた瞳を横へ向ければ、先ほどあれだけ出したばかりのペ○スを再び隆起させながら、鳥居さんがあたしたちへカメラを向けているのが見えた。
 そのレンズ越しに視線があたしとあゆみさんに突き刺さっているのを感じると、一瞬、意識がそちらに奪われてしまう。

 手で、足で、胸で、肌で、唇で……全身で愛し合っているあゆみさんを独占してしまいたい欲求と、無防備なまでに感じるところを曝け出している姿を撮影されることへの強烈な羞恥、そして濃密に絡み合うあたしたちを傍から撮影するだけの現状ににじみ出んばかりに不満と興奮を充満させたペ○スが腹筋を討つほどに反り返っている様を。
 その一瞬であたしは我に返ってしまった。そして自分の中で渦巻く様々な感情を意識するのと同時に混乱してしまい、反射的に何か言おうとして口を開いてしまう。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

 その時、あゆみさんが愛液にまみれた太股を強く押し付け、割り開いた淫唇を淫唇をグリュッと割り開いた。
 まるで雷に打たれたかのような衝撃があたしの身体を駆け巡る。膝から太股へ、引き寄せられたあたしの腰はクリトリスをあゆみさんのクリトリスへ擦り付けられてしまい、強烈な快感が脳髄で弾けてしまった。

「んぁああああああああああああああああああああっ!!!」
「たくやくん、イッちゃったんですか? カメラの前なのにクリトリス…こんなにおっきくして……♪」
「んあっ! ああッ! クァああああああああああああああああああっっっ!!!」

 主導権は完全にあゆみさんに握られた。ヴァギナを緊縮させてお漏らしアクメさせられてしまったあたしは、落ち葉が柔らかく敷き詰められた地面へ仰向けに横たえられると、鳥居さんに向けて開脚させられ、しなやかな指先にヴァギナを隅々まで掻き回されてしまう。
 一度イかされて完全にスイッチを入れられてしまったあたしは、もう快感に収まりが効かなくなっていた。愛液にまみれたクリトリスを二本の指に挟まれてシゴかれ、振動するかのように小刻みに動く指先で膣奥の敏感な場所を擦りあげられると、一も二もなく恥丘をグッと突き出し、太ももを張り詰めさせてイッてしまう……はずなのに、達する寸前になるとあゆみさんは愛撫を中止してしまう。

「ふふふ、たくやくんをこうして弄んでみたかったんだぁ♪ ほら見て、私の手首までびしょびしょになっちゃった。これ、全部たくやくんがお漏らししたんだよ?」
「あっ、んあぁ、あ…あゆみさん、やだ、こんな、お…お願いだから、もう、もう……!」
「んっ……! なんか、たくやくんの泣き顔見てたらゾクゾクしてきちゃった……安心して。一番きれいでイヤラシい姿を、撮影してもらうからね……♪」
「ンむゥ……!」

 滴り落ちる程にあゆみさんの指にまとわりついている自分の愛液を唇にねじ込まれ、喘ぐ舌を扱き立てられる。咀嚼できずに涎を溢れさせた唇から引き抜かれた指はナメクジのようにあたしの胸からウエストへのラインに唾液を塗りたくりながら、太股の付け根をくすぐりながらヴァギナを通り過ぎ、レンズを前にしてヒクヒク緊縮するだけのアナルを抉りたててきた。

「あああああッ! あっあっあッ……!!!」
「こっちでも経験あるの? 私の指を根元まで咥えこむなんて、AV女優よりもスケベなんだね、たくやくんは……♪」
「ちが、それ、まえに……んうううっ!  あああッ、出る、出ちゃ、ゥ……!!!」

 イく寸前に、小さな小さな尿道口から呼び水のようにびゅるッと淫汁を迸らせてしまうけれど、そこでも寸止めをされてしまう。しかもお尻の穴に指を二本も根元までねじ込まれたまま。
 イくにイけず、悶えるほどに排泄口の圧迫感に興奮だけが激しく昂らされる。そしてヴァギナとアナルを両手の指で幾度となくアクメ寸前の苦痛をアジア和されていくうちに、あたしの股間では数えきれないほどの熱汁が迸り、腰も膝もガクガク震えて股間を踊り狂わせる。
 そんなあたしの理性を連続するシャッター音が現実に引き戻して放してくれない。女の快感を知り尽くした指先に緊縮の収まらないヴァギナを撮影される想像以上のハズかしさに頭の芯まで真っ赤に染め上げ、感情を掻きむしられていると、

「ねぇたくやくん、鳥居さんのおチ○チンってすごく大きいんですよ……男優さんよりもスゴいぐらい……」
「ェ………え……………?」

 ?合わせることもできない奥歯をガチガチ鳴らしながらなんとか目を見開けば、あたしの顔をまたいでいたあゆみさんの濡れそぼった秘所が目の前を塞いでいた。もう焦点も合わせられなくなった瞳をさ迷わせ、何とかあゆみさんの声のする股間の方へと目を向けると、鳥居さんが膝の間にいた。

「相原さん、し、失礼します!!!」
「やっ! 待って、今は、ダメ、ダメェエエエエエエエエエエエッ!!!」

 ヒクつく大陰唇をあゆみさんが左右にグイッと広げたかと思うと、その中心に圧迫感を感じ、あたしはすぐさま制止の言葉を口にして……すぐさまそれはヴァギナを串刺しにされて子宮口を突き上げられた強烈な快感で決壊した理性を押し流すオルガズムの大波に飲まれて全身を反り返らせて絞り出すほどの嬌声になって迸った。

「さ、さっきまで、写真を撮ってた君と、こうしてつながるなんて、き…綺麗だ、最高だ、ああ、俺はこんな彼女を撮りたかったんだ!!!」
「スッ、ごィ! あアァ! おッキィ! イクッ、イクッ、アアッ! アアッ! ンァアアぁぁああァアアアアアアアアアアアっ!!!」

 あたしの恥丘へ鳥居さんが腰を叩きつけるたびに、膣奥を深々と抉られながら、壊れた尿道口から絶頂汁が次々と噴出する。
 さっきよりもずっと近くから聞こえるシャッターの連射音に突き上げられたハズかしさから涙の溢れる目元を両腕で隠すけど、両脚は体格のよい鳥居さんの腰に回され、両手の塞がれた彼の代わりにアクメマ○コを彼のチ○ポに突き出してしまっていた。

「もう、限界だ、出るゥ……!!!」
「――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!」

 腰を振る幅が狭くなり肉棒が膨張したかと思った次の瞬間、あたしの胎内に鳥居さんのザーメンが吐き出された。
 散々イき喘がされたあたしは、噴出した精液が子宮の内側に直撃するたびにビクンと蜜壷を収縮し、精液を勝手に搾り取ってしまう。
 だけど鳥居さんが長年ため込んだ性欲が尋常じゃなかったことを改めて思い知らされてしまう。あたしの子宮を精液で満たしてもなお射精し足りないペ○スは萎えることを知らず、いまだ脈打つ肉棒を精液ごと引きずり出すと、アクメの余韻に打ち震えていた膣奥に亀頭を力強く突き上げてきた。

「まだ、いいですよね!? 僕は、被写体と本当にセックスして……ウォオオオオオオオオッ!!!」
「だめだめだめだめだめぇ!!! あうっ、んあぁぁぁん! は、激し過ぎ、こんなの、おマ○コ、おかしくなっちゃうぅぅぅ……!!!」

 息をつく間もなく再開されたストロークに、あたしは息も絶え絶えに懇願するけれど、野外レイプ同然のセックスに背筋が続々と震えてしまっている。
 まるで焼けた鉄の棒のように熱くて硬い肉棒で乱暴におマ○コを掻き回され、意識が何度もはじけ飛ぶ。それなのに泡立った精液にまみれたあたしのおマ○コは壊れたかのように愛液を溢れさせ、どんなに強くねじ込まれても鳥居さんのおチ○チンを卑猥な音を響かせて受け止めてしまっていた。

「んふうっ! あ、あゆみさん、代わって、だめ、んっ! んくうううっ! あああっ! やっ…ダメェエエエエェェェェェ――――――――――――――――――!!!」

 喉が壊れそうなほどに声を迸らせても、大量の水を吐き出す滝の轟音が遠くに響く前にすべてかき消し、重なる紅葉がすべてを吸い込んでしまう。
 紅葉を待とう枝々から覗く空を見上げながら巨根をねじ込まれるたびに汗まみれになった肌を震わせ、乳房を弾ませる。

「そうだ、こんなにおっぱいを揺らされたって、写真じゃ伝わらない! ああ、やわらかい、あったかい、美しい、たくやさん!!!」
「んあっ、あぁぁぁぁ! お腹の中、スゴいことになっちゃってる……く、くぅうぅぅぅん……!!!」

 遂にカメラを手放し、揺れ弾むあたしの乳房を鳥居さんが揉みしだく。
 どんなに無茶な動きをされても快感に喘ぐあたしに、鳥居さんの三度目の興奮はいやがおうにも高まっていく。

「君たちが、いけないんだ! こんなにイヤラシくて、誘惑して! 僕は、僕は、あううううううううっ!!!」

 獣のように叫びながら、鳥居さんはひたすらに腰を振りたて続け、あたしのおマ○コの奥底まで掻き回し、擦りあげる。
 片足を持ち上げられ、おマ○コの中を肉棒でドリルのように抉りながら体位を後背位に変えられると、勃起ペ○スがさらに奥深く突きこまれ、何か言おうにも頭の中が快感で沸騰して喘ぎ声しか絞り出せなくなる。
 溢れる涙以上に膝立ちになった膝の間には絶頂汁が迸り、何度も何度も達し続けていると、不意にあたしのアゴに柔らかい手の平が触れ、上を向かされる。

「ちゃんと私の責任も……取ってくださいね……♪」
「あ、あゆみさ……んムゥウウウっ!!!」

 上げた視線の先には、あゆみさんのおマ○コ。
 すでにぐっしょりと濡れた淫唇へあゆみさんの手で押さえつけられると、あたしは夢中で舌を蠢かせ、窄まった膣口を舌先で押し広げる。今にも快感でどこかへ弾け飛んでしまいそうな不安から縋り付くようにあゆみさんの太股を抱え込み、我を忘れて友達の淫唇を指で抉り、唇で啜り上げた。

「あああああァ! たくやさん、いい、そこもっと、んあァあああああっ! 吸って、そこ、クァアァァァあぁぁぁぁぁん!!!」

 あたしの顔に勢いよく飛沫が浴びせかけられるけれど、背後から子宮に突き上げられる鳥居さんの欲望に意識と乳房が揺さぶられ、なにも言葉にならない。息もできず、苦しさのあまりに緊縮する括約筋が抜き差しされる肉棒を締め付けると、鳥居さんの呻き声がさらに大きくなり、これでもかという一突きの直後、

「ッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」

 ―――また、いっぱい精子きたァ! こんなにぶちまけられたら、あっ、あたし、またキちゃう、イく、ふあッ! ふァァああああぁぁぁぁぁんッ!!!

 子宮へぶちまけられた精液が結合部から大量に逆流し、ぼたぼたと滴り落ちる。あゆみさんもヴァギナを跳ね上がらせて粘つく白濁をあたしの鼻先で迸らせる。
 もうあたし全身は汗や精液でドロドロに汚れていた。それでも三連発ですべての性欲を吐き出した鳥居さんのペ○スがおマ○コから抜け落ち、絶頂の余韻で呆けてしまっているあゆみさんからも解放されると、イき狂った身体の火照りが滝から吹き付ける湿り気を帯びた風に冷やされて理性を取り戻していく。

「ふふふ、これで終わったなんて思ってないよね?」

 地面にうずくまっている陰部に指を滑らせる。ドロッとした汁を指にまぶし、高く突き上げさせたお尻に唇を滑らせながら、窄まろうとする蜜壷をグチュグチュと卑猥に掻き鳴らす。

「ひあっ!? た、たくやくん、だめ、今されたら私……ああっ、ああっ、たくやくん……んああああああッ!!!」

 イッたばかりのところに膣奥の感じるスポットを押し揉まれ、愛液にまみれて濡れ輝いているアナルまで責め立てられて、あゆみさんも裸体をくねらせるほど盛大に官能を爆発させる。
 尻もちをついて肩で息をしていた鳥居さんの見ている前で、絶頂を告げる愛液は勢いよく迸る。クリトリスを摘まめばその勢いはさらに増し、カメラを手放した鳥居さんはその光景を食い入るように見つめながら、股間のペ○スをギンギンに反り立たせる。

 ―――第三ラウンド開始、ってね♪

 あゆみさんの嬌声は滝音にかき消され、他の誰にも聞かれることはない。
 ならば復讐するは我にあり。あたしも今は快楽の事だけを考えて、最初から激しく交わり始めた二人に身を寄せていくのだった。



 −*−

「つっ……かれたぁ………」

 できれば今すぐ寝たい。とはいえ車の中で一晩過ごすつもりもなく、あたしは愛車に夜道を走らせる。

「やっぱり運転代わろうか?」
「疲れたっていうなら、あゆみさんの方が疲れてるでしょ? どうせ今日は家まで帰れないんだからゆっくり休んでてよ」
「うん……じゃあ、そうさせてもらうね」

 今からだと帰宅する頃には日付が変わっているし、さすがにそこまで意識と体力が持ちそうにない。
 それに汗と土と唾液と精液まみれた身体を一刻も早く綺麗にしたいのだ。だから今日は急遽予約を入れた宿で一泊し、温泉につかって身体を綺麗にして疲れを抜くのだ。

 ―――てかその前にお腹空いた、なんでこの辺は食べ物屋さんが全然ないの!? まあ、お店があっても入れないけどね。あたしたち臭いから……あはははは……

 野外でエッチするなら色々と準備しとく必要がある。夏場なら虫除けとか、後始末するティッシュとか。
 今日は本当にエッチするつもりはこれっぽっちもなかったので、日暮れ近くまで三人で延々とヤり続けた後始末は、もう舐めとるしかないという有様だったのだ。

 ―――まさかお掃除フェラした上にあゆみさんとシックスナインとか……

 おかげでまた写真撮り始めた鳥居さんが暴走して追加ラウンド発生し、駐車場まで戻れた時にはすっかり日も暮れていた。
 せいぜいヌード写真を撮らせるだけのたくらみだったのに青姦3Pまでした結果は、鳥居さんの一人負けといったところだろうか。最初のころよりも明らかに痩せてたし足元もおぼつかなかったけど、あれで無事に車を運転して帰れるのかちょっと不安だ……

「そういえばたくやくん、あれでよかったの?」
「ん? なにが?」
「あれだよあれ。カメラのメモリー。私たちのハズかしい写真のデータを鳥居さんに渡してたけど……」
「あ〜、あれかぁ……」

 別れ際、あたしは自分のカメラから抜き取ったメモリーを鳥居さんに投げ渡していた。
 今日の紅葉狩りの写真も入ってたんだけど、なんとなく渡してしまったのだ。きっとそうした方がいいんじゃないかなっていう思い付きだけで、特に深い考えはなかった。

「ま、大丈夫じゃないかな。あたしたちが持ってたって、あんなデータは消すだけでしょ?」
「はぅ……で、でも、誰かの手にあんなことやこんなことした記録が残ってるのは……」
「それこそ大丈夫でしょ。鳥居さんはあんな写真を悪用する人でもないだろうし。あんなにセックスしたんだから、それぐらいわかるでしょ?」
「………わかんないよ、普通」
「あれぇ!?」

 あたしが大げさに驚いて見せると、あゆみさんがくすくすと笑う。それにつられてあたしも笑えば、不安なんていともたやすく吹き飛んでしまった。

 ―――それに……「思い出」までは消えないしね。




「それはそうと、あゆみさん」
「どうかしたの?」
「落ち着いて周囲を確認して欲しいんだけど……」

 いつしか車は舗装されていない山道に入っており、カーナビに表示された現在地は道なき場所に表示されており、しかも目の前は明らかに崖。
 つり橋が存在したらしき後は残っているけれど、橋が切れ落ちてることに気づかずに進んでいれば、今ごろあたしたちも崖の下まで転がり落ちていただろう。

「………ここ、どこ?」
「いやー、あたしってばやっぱ疲れてたのかなぁ。道間違えちゃったみたい。あはははははははは♪」
「た…たくやくんの馬鹿ぁアアアアアアアアア!!!」
「大丈夫、遭難はしてない。……今はまだ」
「そうだ! 宿に連絡しよ? それで場所と道を聞けば……」
「あれ、ここ携帯の電波が届いてない。連絡無理」
「ふぇえぇぇぇぇぇん、いつになったらお風呂入れるの!? もう、たくやくんとお出かけなんて絶っ対しないんだからぁぁぁ!!!」




 −*−

 あの後は大変だった。
 切り返す場所もないので切り立った崖のすぐそばの道をバックで逆走して脱輪しかけ、あゆみさんが壊れたり。
 ようやくたどり着いた宿がまさかの混浴で、色々ハズかしい目に遭っちゃったり。
 疲れ果てた末にようやく我が家へ帰り着けば、唯さんやさとみさんにお土産を買い忘れたことで怒られて、エロエロになった旅行のあれこれを話して聞かせたら悔しがられて、夜遅くまで付き合わされて翌日は寝不足で出勤したり。

 そんなこんなの騒動から一ヶ月後。鳥居さんからあたし宛に荷物が郵送されてきた。
 中身はあたしとあゆみさんをモデルにした滝の写真のパネルがそれぞれ一枚ずつ。まるであの日の光景だけでなく音や香りすら閉じ込めたような、素人目に見ても素晴らしい写真だった。
 自分の写っている分を自分の部屋に飾ると、広すぎて些か飾り気に乏しい室内に一気に彩りが増えたように感じられる。
 で、あゆみさんにはあゆみさんの写っている分と、同梱されていたオマケもつけて渡してあげた。なんと、オマケはあの日のハメ撮り写真で作ったアルバムだ。何も言わずに渡したので今ごろ中身を見て驚いているのだろうけど、はてさてどうなることやら。せめて唯さんたちに見つからないことを祈ろう。

 そんなことを考えながら、 今度こそはみんなで旅行に行こうと、懲りずに次の計画を立て始める。
 空っぽにしたメモリーをカメラに差し込みながら―――