54 - 「たく×こう」前編


「んじゃいっくよー! そ〜〜〜〜〜〜れっ!」
 斜め上へ放り上げたビーチボールを追いかけるように、あたしも水着姿の身体を助走をつけて飛び上がらせる。
 色は白。胸の膨らみが半分ほど露わになるほど面積少な目。正直これを着て人前に出るのにはものすごく抵抗感があるものの、ここはレジャープールだ。男も女も半裸同然の格好でキャッキャウフフと戯れる場所だ。
 現状ではむしろ羞恥心より開放感が克ちすぎてハイテンションになってしまっていて、ブレーキ壊れてアクセル全開のまま、あたしはビーチボールに右手を思いっきり叩きつけていた。
 ―――狙いは明日香だ。ちっくしょう、あたしのこと振りやがってぇぇぇ!
 快音と共に打ち出されたビーチボールが向かう先にいるのは、これまたセパレートの水着姿の明日香。でも運動神経のいい元恋人は手を組むと、
「まだまだ甘い!」
 バレー部顔負けの綺麗なフォームでビーチボールをレシーブした。
 勢いを吸収され、雲ひとつない快晴の空にボールが高々と上がる。それを教科書どおりに頭上で受け止めてトスしたのは、
「高田さん、ぱ〜〜〜す♪」
 予想外にもこちらもビキニの麻美先輩、しかも今日はメガネではコンタクトというレアバージョンだ。あたしに負けず劣らずの巨乳が弾み、腰に巻いたパレオから魅惑の脚線美を覗かせながら、もう一度ビーチボールを空へ跳ね上げる。
「わ、わたしですか!? あの、ちょっと待って、まってぇ〜!」
 そんな麻美先輩から名指しでご指名を受けた綾乃ちゃんは、可愛らしいワンピース姿でおろおろ慌てながら、
「ぇ……え〜〜〜い!」
 なんでボールを叩くのに目を閉じるのか。しかも手をグーにして。……でもそういうところが可愛らしいんだよねぇ♪
 ともあれ、狙いもつけずに大振りされた手が落ちてくるボールに当たるはずもない……のだけど、偶然いい感じに真っ芯を捉える。
 そして急加速したボールが一直線に向かったのは、
「次は私ですか。いいでしょう、こんなこともあr―――」
 どうしてボールが飛んできてるのに前口上がそんなに長いのか……なぜか紺のスク水の上から白衣を着た千里の顔のど真ん中にベシッとビーチボールが直撃した。
「は〜い、千里1ポイント! 5ポイントで罰ゲームだからね♪」
「ぷっ……ベシッだって……ベシッって…ぷくく……ご、ごめんなさい、でも……もうダメ、おなか痛いィ♪」
「先輩! 先輩! 笑ってる場合じゃなくて! あの、大丈夫ですか、ごめんなさいごめんなさい!」
「高田さんは謝らなくていいのよ。ずっと研究室にこもって身体を動かしてない河原さんが悪いんだから」
 みんなして言いたい放題だけど、解説ポーズのままボールに顔を直撃された千里が、あまりにも見事に絵になりすぎてる。自慢げに何か言い出そうとしていたところだっただけに、効果は倍増だ。
「んじゃ次は千里からね。さあ、かかってきなさい!」
「ふ…ふふふふふ………この天才科学者で将来ノーベル賞確定の私の顔にボールを叩きつけるとは……いいでしょう。5ポイントでも100ポイントでも取って上げます、そして相原先輩はプールサイド全裸ダッシュの罰ゲーム!!!」
 ちょっとまって、あたしのせい!?……と突っ込もうとした矢先、鼻先を赤く腫らした千里は“十本”の手で地面に落ちたボールを拾い上げた。
「………へ?」
 白衣の中からウネウネと触手のように伸びるものがある。見覚えのあるそれは……千里謹製のマジックハンドだ。
「私を笑った事を後悔しても、もう遅いですからね!!!」
「ちょ、それは反則だァ―――――――――!!!」

 この直後、間一髪で躱したビーチボールがプールの水面に直撃し、盛大な水飛沫が上がって何人もの人が吹っ飛ばされた。
 ここの監視員さんはかなり厳しい……悲鳴やざわめきが起こる事態に冷や汗を流しながら、あたしたちは混乱に乗じ、慌ててその場を逃げ出したのだった―――


 −*−


「なんで発明品なんて背負ってんのよ、もうちょっとで大惨事だったでしょうが!」
「いやまあ……世の中、何が起こるかわかりませんし。例えば私の発明を恐れた秘密諜報機関が襲ってきたときなどの備えとしてですね」
「あるわけないでしょ、そんなこと。罰として、今日の全員分のお昼は千里の奢り決定だから」
「そんなぁ……もう私の自由に出来る研究費用はほとんど残ってないのに……」
「………あんた、あたしが稼いでた研究費用をどれだけピンはねしてたのよ」
 ともあれ散り散りに逃げた千里と綾乃ちゃんと合流し、あたしたちは明日香と麻美先輩を探して歩き回る。
 ちらほら耳に聞こえる話では、先ほどのビーチボールの一件は新しいアトラクションか何かだと他の人たちには思われたらしく、笑い話で済んでくれたのが救いだ。
 ―――けどまあ、慌しく駆け回っているスタッフの皆さん、ごめんなさいです。
 心の中で彼らにこっそり詫びつつ、さすがに気落ちした千里とそれを宥める綾乃ちゃんを伴って探し歩くこと一時間弱。ようやく二人を見つけた……のはいいんだけど、
「あ、相原先輩、あれって……も、もしかしてお二人ともナンパされてるんじゃ……」
 綾乃ちゃんがこちらを伺うように問いかけてくるけれど、間違いない。
 向こうもこちらを見つけたらしく、明日香が大きく手を振って自分と麻美先輩がいる事をアピールしているけれど、そんな二人の肩にはそれぞれ見知らぬイケメンの手が回されている。いかにもスポーツマンらしい引き締まった身体つきをした男たちは明日香といくつか言葉を交わすと、笑みを浮かべて肩の手を離す。
 そして、
「―――――――――ッ!?」
「わ、わ、わわわっ!?」
「むう、昼間っから大胆ですね」
 なんと男たちは、あたしたちの方へ駆け出そうとした明日香と麻美先輩の腰に手を回して抱き寄せ、二人の唇を有無を言わさず奪い取っていた―――


 −*−


「みんなと別れてる間にちょっとナンパされちゃってね。麻美さんと一緒だったから最初は断ったんだけど、しつこく言い寄られてるうちに、帰りにデートする事になっちゃって」
「そういうわけだから、ごめんなさい。帰りは私と片桐さんは別行動になっちゃうんだけど……」
 プールサイドに設けられたフードコートで特製ハンバーガーやドリンクで昼食をとりながら、先ほどキスした相手の事を明日香と麻美さんが説明する。
 まあ……幼馴染な元彼女と憧れの先輩が、半裸も同然の逞しい男たちの腕に抱きしめられて情熱的に唇を奪われたのだ。頭の中が真っ白になって何も考えられなくなるぐらいに困惑したし、二人の話を素直に受け入れられないほどにも嫉妬している。
 でも、あたしには明日香も麻美先輩も止める権利はない。そんな事を言い出したら、
『あんた、女になったのにまだハーレム願望なんて持ってるの? 言っとくけど私はノーマルだから。たくやよりも何倍も素敵な彼氏を留学する前に見つけてやるんだから!』
 と明日香にぐさっとくることを言われるのが落ちだし、既に何度も体験済みだ。
「恋人……か」
 つぶやきながら、どんな風に口説かれたのかを饒舌に語る明日香と、熱を帯びた顔で相槌を打ちながらポテトを一本ずつ食べていく麻美先輩に目を向ける。
 ―――シてきてるよね……
 明らかに上気した肌。プールの水ではなく粘り気を帯びた汗に濡れた半裸の姿を見れば、最後のキスがなくても、二人があの男たちと人気のない場所でSEXしていたのは想像に難くない。千里や綾乃ちゃんならともかく、明日香とも麻美先輩とも経験のあるあたしから見れば丸わかりだ。
 その事に嫉妬しないわけじゃないけど……麻美先輩はともかく、明日香のほうはナンパしてきた男と楽しんだりするのは、今に始まったことじゃない。
 あたしの身体が男に戻れなくなって恋人関係が自然消滅してしまうと、明日香はまるで見せ付けるように色んな男と身体を重ねている。時にはあたしの義姉の夏美と遊びに出かけて朝帰りまでするほどだ。
 そんな明日香の行動に胸を締め付けられるような悔しさを感じたりもするけれど……でもこうして一緒に遊びにきたりもするように、決して仲違いしているわけじゃない。むしろ女同士の友人としてあけっぴろげに何でも相談しあえる関係に収まっている。
 ―――でも今日のはあたしへの当て付けなんだろうな……
 明日香が麻美先輩を巻き込んで……いや、麻美先輩もあたしへ思う事はあるのだろう。言葉ではなく、ナンパしてきた男に強引にとはいえ身体を許してからあたしの前に姿を見せた二人の行動に、あたしは罪悪感の入り混じった複雑な感情を抱きながらため息をついてしまった。
 なにせ、今日は最初から失敗をやらかした。
 リゾートプールへの招待券は六枚だった。最初は留美先生を予防としたのだ。けど先生は学会で発表があるとかで忙しくて断られて……その時、たまたま居合わせたのが“アイツ”だったのだ。
 本当は女だけで羽根を伸ばすはずが、一人だけで男がいて、それがあたしの“恋人”だったのだから言い訳も出来ない。一人だけ恋人同伴なんて……
「―――で、あんたたちはどうなってるの?」
「へ……な、なにが?」
 最近、人間関係が複雑になってきていただけに思わず思考のループに入り込んでいたあたしは、明日香に声をかけられて現実に引き戻された。
「なにが〜じゃないわよ。どうせ私たちの話なんて聞いてなかったんでしょ」
「ご…ごめんなさい……」
「この中で恋人がいるのはあんただけでしょ。工藤くんと今、どこまで行ってるのって聞いてるのよ」
「い、いいいいいいいいっ!?」
 そう、そうです、あたしの恋人……弘二です。工藤弘二。
 宮野森学園からの腐れ縁というかなんというか、女になって精神的に不安定なときに、猛烈なアタックを繰り返され、男に戻れなくなってしまった頃には……好きになってしまっていた。
 それからと言うもの、自分の気持ちに気づいてしまったあたしは弘二に求められると拒めなくなってしまった。場所がホテルならまだいい方。年がら年中盛っている弘二に誰もいないゼミ室や、校舎の裏の林の中、こないだなんか満員の場所の中で我慢できなくなったからって痴漢まがいに身体をまさぐられて……なんて事までされたりしている。
 で、今日は一緒に来ているはずの弘二なのだが、実は最初にとんでもない事をやらかしてしまった。
 あいつ、あたしの水着姿を見るなり、
『先輩……み、魅力的過ぎますッッッ!!!!!』
 と思いっきり興奮し、思いっきり勃起したのだ。
 しかも履いていたのは、モッコリを強調するブーメラン水着。それでは弘二の巨根を押さえ込むことが出来ず、まるでパチンコの紐のようにググ〜ッと引き伸ばされた挙句、パチンッと弾け、大勢の人の目があるプールサイドで先端から根元まで飛び出させてしまったのだ。
 ―――あれは周囲の目が痛かった。
 もっとも、すぐ傍に監視員さんがいたおかげで、弘二はすぐさま捕縛。施設内からの退去を命じられ、あたしたちとは離れ離れになったのであった、めでたしめでたし。
 おかげで女だけで羽根を伸ばして楽しむことが出来たので、その点はいいのだけれど……あれ、ポテトがいつの間にかなくなった。どうも考え事をしながら無意識に摘んで口に運んでいたらしい。
「ええっと、ごめん、考え込んでた。弘二との関係だけど……」
 と顔を上げると……おや、なんか空気が変だぞ。綾乃ちゃんが下向いてモジモジしていて、千里が汚物を見るような目であたしを見ている。麻美先輩は真っ赤になった頬に両手を当て、明日香は、
「たくや……考えてたこと口から全部出てた」
 ―――あ、そうだったんだ。それは………って、今あたし、なに考えてたっけ?
 先まで自分が何について考えていたのかを思い出すのに、腕を組んで三十秒ほどかかった。……きっと、思い出したくないから頭が思い出すことを拒否していたのだろう。
 ―――弘二としたエッチのことばかり考えてたぁぁぁぁぁ!?!?!?
「相原先輩……ゼミ室でなんて、その、ふ……不潔です!」
 綾乃ちゃん、違うんです! 悪いのは迫ってきた弘二で、あたしはイヤだって言ったんだよォ!!!
「えっと……あい、相原くんも、女の子を満喫してるようだし、結果オーライって事でいいんじゃないかな、あは、あはははは……♪」
 出来れば男に戻りたかったんですけど……あうう、麻美先輩のフォローがフォローになってない……
「ふむ……あたしもやってみようかな、野外プレイ」
 ちょっと待った明日香さん! 一緒にプレイする相手ってどこのどなた様!?
「………女になった先輩は変態です」
 ぐはっ! お、オブラートも何も無しに断言された……千里、酷いよぉ……
 あたしはいったいどんな事を漏らしていたのやら……そっちはさっぱり思い出せず、こめかみを指先で揉み解しながら氷が溶けてしまったジュースのカップを手にし、ストローから一口分だけ吸い上げる。
「―――でもね」
 いつもなら、話はこれで終わる。
 でも湿り気を帯びた口は、滑らかになっていた。
 ここから先は言わなくてもいい話。
 あたしの胸の中だけで考えて、自分で決断しなければいけないこと。
 それなのに……思わず口をついた言葉が、みんなの注意を引き戻す。
 話すのをやめられない。すでに聞く体制になったみんなを前にして、最近ずっと考えていた事をため息をつくように口にする。


「あたし……弘二と別れようかと思って」


 −*−


「……………………………………*~(゜Д゜」
 ―――弘二のヤツ、顔が顔文字そっくりになってる……なんか悟りを開いてるっぽい。
早めに切り上げて3時ぐらいに施設の外へ出ると、弘二が街灯のポールの根元に体育座りしていた。
「工藤先輩、よっぽど相原先輩と泳ぐのを楽しみにしていたんですね……」
「自制の効かないあいつが悪いの。自業自得よ」
 これがまあラブラブな恋人同士なら「待った〜?」「いいやそんな事ないさハニー♪」なんて臭い流れの会話でもするところだろうけど、正直に言って、今の状態の弘二に話しかけたくない。あまりにも絶望に打ちひしがれた顔をしてるから、子供にも指差して笑われるてるし。
 それでもあのまま放っておくわけにはいかない。あたしは肩を落として大きくため息をつくと、みんなに向けて手を合わせて頭を下げる
「今日はごめんね、いろいろと。あたし、あの生ゴミを処分してから帰るから」
「仕方ありませんね。工藤先輩とのあんな話を聞かされた後では責めようがありませんし」
「この埋め合わせはまた後日!」
「気にしなくていいって。私たちも時間ぴったりだったし」
 そう言って明日香が腕時計で時間を確認していると、その背後から二人の男性が近づいてきた。……さっき、プールで明日香と麻美先輩に手を出していた男たちだ。
 見るからにスポーツマンという体つきだ。どちらも背が高く、肩幅の広いほうの人は親しげな笑みを浮かべ、目の合ったあたしに小さく手を振ってくれている。もう一人のほうは目つき鋭く、明らかに肉食系男子という顔立ちで、唇の端を吊り上げた笑みにちょっと凄みを感じてしまう。
「明日香さん、麻美さん、おまたせ」
 手を振ってくれていたほうが親しげに話しかけてくる。それでやっとナンパ男たちが来た事に気づいた明日香は笑顔で……本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて振り返る。
「ううん、時間ぴったりだし。むしろ私たちのほうが待たせちゃったんじゃない?」
「あはは、そんなこと全然ないって。それに、今日は夜まで付き合ってくれるんでしょ?」
「ちょっとやだ、みんなの前でそんなこと言わないでよ!」
 あたしたちの前で『今夜は僕たちSEXします』と公言したようなものだ。さわやか系のイケメンなのに、こっちの男もやっぱり肉食系なのか……と思っていると、
「んっ……!」
 麻美先輩が不意には何か買った甘い声をあげた。
 反射的にそちらへ顔を向ければ、もう一人の男は麻美先輩の背中から回した手でキャミソールに包まれたボリュームのある膨らみに指先を食い込ませているところだった。
「へぇ……ブラは外してきたみたいだな。そんなにこのデカチチを可愛がって欲しかったのか?」
「あ…あなたが言ったから……ん、んうぅ……! ここじゃ…ダメ……あっ、みんな、こっち見てるぅ……!」
「我慢できないんだよ。でもお前だってそうなんじゃないのか? 俺みたいな男に二回も付いてこようとするなんてよ」
「いや……ここじゃ…ダ…メ……せめて…人目のないところで………んっ、は…はぁうゥゥゥ……!」
 目の前の光景が信じられなかった……あのいつも知的な麻美先輩が、ナンパ男に野卑な手つきで乳房を揉みしだかれて喘いでいる。施設の前には他の人の目もあり、プールサイドでキスした時よりも多くの侮蔑の視線が向けられているのに、キャミソールでは隠し切れないほどに乳突起を屹立させ、両手で押さえた口元から抑えきれない喘ぎ声を漏らしている。
 あの知的な麻美先輩が、こんなにもイヤらしいオンナの顔をするなんて……そんな普段とのギャップが、目の前で女性が喘ぐ姿を見せつけられた衝撃と合わさって言葉を失い、ただただ細かく腰を揺すって恥じらいの声をあげる麻美先輩を凝視してしまう。それは綾乃ちゃんも、麻美先輩をライバル視する千里も同様だ。
「おい、シン。いきなりなにやってるんだ。お友達が怯えてるぞ」
 声を出さなかったら延々と続いてしまいそうな麻美先輩とナンパ男の痴態を止めたのは、片腕を明日香に抱きしめられた体格のいいほうの男だった。
「申し訳ない。あいつ、悪いヤツじゃないんだけど、気に入った相手にはすぐに手を出しちゃうクセがあって」
「く…クセですむの? あれで?」
「俺としても思うところがないわけじゃないんですが……両者合意の上での事らしいんで、一応」
 目を向ければ、ナンパ男が「はいはい、わかりました」と降参したかのように両手をあげて唇に笑みを浮かべていて……麻美先輩がどこか残念そうに、名残惜しそうに、視線を男へと投げかけている。
「それじゃあみんな、また今度ね♪」
 あたしたちも一緒にどうかと誘われはしたものの、あたしは弘二をどうにかしないといけないし、綾乃ちゃんは顔を赤くして手を左右に振り、千里は無関心にナンパ男の言葉を断ったので、明日香たちは2対2でこれから遊びにいくらしい。
「相原先輩、私たちもこれで失礼します。ちょうどいい研究の息抜きになりましたよ」
 私たちって……千里も綾乃ちゃんも二人とも帰っちゃうの!? できればもうちょっと一緒にいてくれないかな!? その……弘二と二人っきりになると、なんか今、あれこれ感情が吹き出しそうで!
「相原先輩と工藤先輩、お二人のことですから。私たちが口を挟むのもどうかと思いますし……でも私は、先輩たちが仲直りして欲しいって思ってます」
「私は二人の腐れ縁を何度も見てきましたから特に心配はしていませんよ。どうせ人間関係はなるようにしかなりませんし」
 綾乃ちゃんはともかく、千里のは励ましの言葉なんだろうか。
 ともあれ、一人だけ残されてしまうと……モロダシ事件を起こした弘二なんて放って帰りたくなるけれど……あたしが弘二にそういうことが出来ないのが、千里の言う“腐れ縁”なのだろうか。そんな事を考えながら呆けたまま座り込んでいる弘二に近づき、目を覚ませといわんばかりに蹴り倒した―――


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