52 - 三十路たくやプレ版第4回「学び舎の逢瀬」前編


 新入生の皆さん、そしてご父兄の方々、お初にお目にかかります。
 今期より当・宮野森学園で新規開設されましたTSF履修コースの皆様の副担任を勤めさせていただきます相原たくやです。
 ノーリスクでの性別転換術式の確立は、誕生してから既に十年以上の月日が経ち、性同一性障害の問題の解決など社会的にも人生の選択の一つとして受け入れられつつあります。ですが安易な性転換は、一方で様々な問題を引き起こしている事も事実。軽々しくもう片方の性別になれるということは現在の性別からの逃避として受け止められたり、ご父兄の方々としても幼い頃から共にあったお子様が男から女に、女から男に代わってしまうと戸惑われる事と思います。
 私はこれまで長らく研究機関に勤めており、教師としては今年が皆さんと同じ、一年生と言う事になります。まだ若葉マークも取れずに学ぶべき事ばかりの日々を過ごしており、そんな女がこれから三年間、皆さんを支えていくことに不安を感じる肩もおられるでしょう。
 でも、もしかしたら皆さんの中には、私の名前を存じている人もおられるのではないでしょうか。
 なぜなら私は、皆さんにとっては先生でもあり、同時に先輩でもあるからです。
 性転換薬「エックスチェンジ」や性転換装置「クイックレボリューション」がこの宮野森学園で生まれた事はご存知かと思います。そしてその両方の最初の被害…いえ、使用者、つまり現在の技術で最初に性転換した人間こそが私なのです。
 先ほども申し上げましたが、性転換技術が生まれて十年以上の月日が経っています。言い換えればそれは、私が女性として過ごした月日でもあります。
 男性として生きていた人生が、ある日突然180度入れ替わり、女性として生きていかなければならなくなった……すぐにそれは受け入れられず、幾度となく男に戻り、その回数と同じだけ、また女性にされました。ええ、私の場合、自分の意思ではなく周りの意思やトラブルに巻き込まれて女性化したという点では差異があるのかもしれません。
 ですが、男が女になることの苦労は私が誰よりも存じています。ええ、なにせ世界で最も性転換をした人物としてギネ○に載ったぐらいですから。
 ……先ほどからスゴく会場内がざわついていますけど、私が昔は男だったって信じられませんか? ふふ、そう言われるのも慣れてますよ。もしどうしても信じられない人は、いつでも職員室にいらしてください。昔の写真でよければお見せしますから。
 と、話が反れてしまいましたね。
 そういうわけですので、これから三年間、そんなわたしが皆さんを支えていくことになります。
 一年生の間に何度か実際の性転換を経験し、三年後に皆さんがどちらの性別を、そしてどのような人生を選ぶのかは今はまだ解りません。でもその時の決断に悔いがないように、この宮野森学園で過ごす三年間を大事に過ごしていただきたいと思っています。
 みなさん、ようこそ宮野森学園へ。新しい人生のステージへ。これからよろしくお願いしますね♪


 −*−


 ―――はぁ〜……ものすっごく緊張した。あんなに大勢の前に立つのなんて、勘弁して欲しいわ。
 入学式でいきなり壇上に上がらされ、事前の原稿の用意も何もないままに始めた自己紹介は、おおむね好評だったようだ。
 とはいえ、あまりにも心臓に悪すぎる。何百人もの新入生や父兄の視線を一身に浴びた緊張感で、入学式も無事終わったというのに、スーツの下で心臓がいまだにバクバクいっている。
 それどころか―――


『んあっ、はァ、宮村先生…スゴい、壊れちゃう、あたし、もう、ンあアアアアアアァ……!』
『すまん、相原のスーツ姿があまりに綺麗で……ッ! 連続で、このまま、中で出すぞ……!』
『聞かれ、ちゃう、おマ○コがザーメンとチ○ポでグチュグチャ言ってるの、扉の向こうに、人が大勢いるのにィ……! イ、イく声も、みんなに、みんなにィ……!』
『……聞いて欲しいんじゃないか?』
『ち、ちが―――!』
『誘ったのは相原じゃないか。膨らんだ股間を見ただけで、体育館の外に連れてきて、濡れたおマ○コ突き出して……なんてドスケベ教師なんだろうな、相原は……!』
『横でずっと、あたしのこと見ておチ○チン勃起させて、苦しそうにしてたくせにィ……!』
『このまま、中に出すぞ、相原、いいか、出すぞ、出すぞ……!』
『あ、あたし……あっ…も…なかに、なかに…出し、出して、あっついミルクドピュドピュッて、抉りながら、出して、膣出ししてぇ! 欲しいの、気持ちよくなりながら、先生の精液をおマ○コに欲しいぃぃぃ……!!!』
『ッ〜〜〜……!!! と、とまらない……相原……中に、子宮に、おおっ、うおおっ……!!!』
『ハァ、ハァ、ハァ……おなかの一番奥で…先生のザーメン……溢れかえって………ふふふ、それじゃ、すぐにお口で綺麗にして上げますからね……♪』


 ―――という感じに、体育館の裏手で宮村先生とやっちゃってたときにいきなり呼び出されたんだもんねぇ……
 本来ならば、入学式にあたしのスピーチの予定なんて組み込まれていなかった。他の先生方の一番後ろの目立たない位置にこっそり立っていたのだけれど、隣にいた宮村先生と肩が触れ合ったのをきっかけに、視線を交わして指を絡ませて……まさか宮村先生があんな場所であたしのお尻に手を伸ばしてくるなんて。
 宮村先生には妊娠中の奥さんがいて……
 あたしは離婚したばかりで……
 元教え子と元担任……
 それなのに夜の職員室でケダモノのように性交に耽って以来、お互いを意識する日が続いてしまっている。
 だから今日も、宮村先生に手を引かれて式を抜け出し、体育館の裏手で求められたのを拒めなかった……というよりも、もう少し遅ければあたしの方から誘っていた。
 愛撫の必要もないほどに濡れそぼったヴァギナに巨根をねじ込まれ、声を押し殺しながらむせび泣く。
 妊娠できない……例え子供が生める身体であっても宮村先生になら何度受精させられたっていい。
 だから避妊なんて必要ない。お互いの求めるままに欲望をぶつけ合って、心行くまで快感を貪りあう……そんな背徳的な関係が興奮を昂ぶらせる。無理やり犯されるのではなく、自分から進んで淫らなメスになる。
 ―――“夫”にも、こんな気持ちになったことなかったのに……
 愛されて、押しに負けて結婚したからというのもあるけど、それでも短いようで長かった結婚生活の中で、“求めた”事はあっても宮村先生との関係のように性欲の全てを曝け出した事はなかった。―――まあ、変態行為を強要された事はあったけど。
 だからオッパイもまれて腰をくねらせて、自分も相手も気持ちよくなっちゃおうという感じで、際限なくエッチがエスカレートしちゃうわけで、それはそれで困りものだ。
 なにせ場所は学園内。誰かに見つかろうものなら懲戒免職は仕方ないとしても、先生と奥さんの関係がどうなるかわからない。それでもエッチしちゃうのだから……とんでもない淫乱教師というか、教師失格というか。
 それでまあ、宮村先生に二連続で膣内射精されて、二人してひとまず興奮が収まったから、そのまま三回戦いっちゃおうと宮村先生のおチ○チンをしゃぶって精液の残りをチュウチュウしていると、

「相原先生どこですかー!」

 ―――って熊のようにおっきい先生が捜しにきたもんだから大慌て。さらに「松永理事長から入学生に挨拶するように!」って伝えられて二度びっくり。
 パンツを履く余裕も後始末する時間もなし。スーツの乱れだけ慌てて直したけど、何百人もの前でノーパン立って、挨拶しながら太股には溢れ出ちゃったザーメンを垂れ流し。イった直後で腰もガクガクだったし、太い肉棒で押し広げられてヒクヒク蠢めいてた肉壁を締め上げていると、最後に拍手を貰っていた頃には笑顔を浮かべたまま半ばイっちゃってたし……
 ―――松永先生、絶対わかってて壇上に上げたでしょ……
 エッチへの嗅覚がものすごい松永先生、もとい松永理事長だけに、あたしと宮村先生が抜け出してエッチしていた事にすぐに気づいたのだろう。そうでなければいきなり壇上にあげたりはしない。教師としての自覚を持ちなさいというお仕置き……と普通に考えれば、普通ならクビだけど、それでも普通に考えればそんなところだ。でもこれが松永理事長の指示だったら、ノーパンでザーメンおマ○コをヒクつかせながらスピーチしてきなさい……という露出命令だったという答えが返ってきそうで恐い。
 ―――こんなんじゃダメよねぇ……これでも一応、男に戻ろうとは考えてるのに……
 やれやれ、こんな事でこの先どうなるのやら……そんなため息を付きながら腕時計に目をやると、もうそろそろホームルームの始まる時間だ。
「………居間岳(いまだけ)先生、やけに遅いわね」
 あたしが副担任を任されたのは、もちろんTSFクラスの1年F組だ。
 人数は他のクラスに比べて20人と少ないけれど、書類を見る限りはかなり個性的な面々が揃っている。
 そんなクラスを研究者だったあたし一人で面倒を見れるわけがない。そこで、よぼよぼのお爺さんながら生徒指導に長きに渡って携わってきた経験豊富な居間岳先生が担任で、あたしはその補助として副担任をすることになっているのだけど、

 ―――ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜

 なんで救急車が学園の敷地にはいってきたんだろう……こういうときの嫌な予感の的中率が異常に高いだけに、「ああ、またなのか…」とあたしは頭を抱えたのだった……


 −*−


「居間岳先生はぎっくり腰で入院される事になりましたので、副担任のあたしは臨時の正担任と言うことになりました♪」
 そう告げた直後のクラスの盛り上がりはすさまじかった。
 ―――あううう〜……あたしも若いつもりだったのに、付いていけなかったよう……
 あっちは青春真っ盛りな20人。
 対してこっちは結婚生活に疲れ果てて離婚して寂しい一人生活を送っている三十代。
 どう考えてもエネルギーの総量では向こうが上だ。抗えるはずがない。
 そんなわけで、あたしの教師人生の最初のホームルームは、誰もが知りたがるあたしの『性転換体験談』を根掘り葉掘り質問されて、瞬く間に終わってしまったのだった―――


 −*−


 ―――これから一年、あの子達と付き合っていくのか……ちょっと前まで、あたしもあっち側だったような気もするんだけどね。
 夕暮れの校舎を一人歩く。
 遠くから聞こえる運動部の掛け声に、グラスバンド部の演奏の音色。
 硬く冷たい感じのする廊下を時間を忘れてゆっくり進んでいると、今までのことが全て夢幻だったかのようにあたしの意識は学生時代に引き戻される。
 ―――戻って、きたんだな……
 宮野森学園に勤める事が決まってから慌しかったせいで、のんびりと校舎の中を散策する時間も取れなかった。そして今日、ようやくこうして歩いて回ってみれば……たわわな胸が張り裂けんばかりの郷愁めいた感情が湧き上がってきてしまう。
 ―――あたしの学園生活、か……
 足は自然と3−Aに向いていた。
 誰もいない教室を覗き込み、中に入れば、あの頃の仲間がそこにいる……そんな錯覚に苦笑しつつ、自分の座っていた席に歩み寄る。
「戻ってきたっていうのは……嘘だよね」
 そこにある机は、あたしの使っていた机ではない。
 教室の中に視線をめぐらせ、悪友の大介がいた席を、情報通の由美子のいた席を、大村先生が立っていた教団を、そして……少し逡巡してから、あの時、一番大切な人がいた席に目を向けた。
「明日香……」
 ただいまと、そう言わなければならない人が、そこにいない。
 心の中で思い浮かべる姿にさえ、そう言えない。
 だって、あたしは明日香を裏切ったから。
 誰よりも愛していると、大切に想っていた人から、あたしは離れてしまい、別の人と結ばれた。
 女になってしまったという事情があったにせよ、関係が自然と消滅してしまったにせよ、あたしの心は過去の裏切りを忘れ去る事ができない。
 未練なのか、後悔なのか、それともまた別の……いずれにせよ、あたしは明日香を含めたみんなの前から姿を消した事実は変わらない。だから、
 ―――この場所に帰ってはこれても、あの頃に戻れはしないんだ……
 若さゆえの過ちだ。
 何も考えずにそのときの感情で行動して、その報いがこの胸を締め付けるような感情だ。
 あたしは、女になりたかったわけじゃない。
 男に戻れたって、なんの意味もありはしない。
 あの頃の自分を弁明したくて、唇が動いて、言葉を紡ぎそうになるけれど、
「……………」
 結局、一言も言葉に出来ないまま、逃げるように教室を後にした。
 ―――あたしは……なにがしたくてここに来たんだろう……
 女々しいあたしは過去にすがる。
 その過去は自分が捨て去っていた。
 そんなあたしがここにきて何かを求めようとする事が間違いである事に、今になって気づく。
「やっぱりあたしって、バカだよね……」
 いつの間にか早足になっていた。歩く早さを緩め、自嘲をこめた一言をつぶやくと……ふと、あたしの耳が変な声を捉えていた。
『……ッ…………!』
 ―――こっちって……
 無意識で向かうほど往復はしていないんだけど、あたしは1−Fに向かっていた。
 そして声は1−Fに近づくにつれてしっかり聞こえるようになり、けれどくぐもった声はなにを言っているのか聞き取りづらい。
 でも、
『あいっ…はっ……センセェ……!』
 ―――あたしの名前を呼んでる?
 聞き違えかも知れないけれど、その男の子とも女の子ともつかない声に、ふと興味がわきあがった。
 だからそのまま1−Fの教室の扉に手をかけ、


「しゅきぃ! 相原せんせっ、イく、もう、我慢できないぃぃぃ!」


 よく考えもせずに開けた直後に、思いっきり絶句することとなった。
 ―――オナ、オナ、角オナニーですか!?
 教室に入るとそこでは、生徒が教卓の角にグリグリと股間を押し付け、昇りつめている真っ最中だった。
 まあ、性の目覚めが机の角が股間に当たって……と言う話はよく耳にする。学園内でそういう現場に遭遇してしまうのはかなりレアではあるが起こりうることかもしれない。
 ただ……教室に入ったあたしと向き合う形で、今しがた絶頂を極めたのは宮野森学園男子の制服を着ていた。
 顔立ちは可愛い。ショートヘアの髪の毛もさらさらとしていて、見るからに美少女と言う顔立ちなのに……生徒の机よりも背の高い教卓の硬い角へ椅子の上に立ってまでグリグリと押し付けていた股間は女の子ではありえないほど大きく盛り上がっている。
 つまり、
 ―――男の子で角オナニーぃぃぃぃぃ!? うわっ、想像しただけで痛そうなんですけどっ!
 久しぶりに男の子の痛みを思い出してしまい、タイトスカートの上から股間を両手で押さえつけてしまう。
 けれどそれがマズかったのか、ズボンの前の膨らみを大きく脈打たせていた女顔の男の子は、オナニーの現場を目撃された恍惚の表情を泣き顔へと変化させていく。目には大粒の涙が浮かび、戦慄く唇から叫び声が迸りそうになり、
「危ない!」
 動揺した男の子が椅子の上でバランスを崩す。
「わっ、わっ、うわああああっ!」
 そもそも射精した直後は男だって足腰から脱力するのだ。あんな不安定な場所で立ったままオナニーしていたらバランスを崩して当然だ。
 椅子が何とか平衡を保とうと回転するように揺れ動くけれど、動けば動くほど揺れも大きくなる。そして男の子はあたしから逃げるように身体を引き、教卓から手を離せば、とてもまっすぐ立っていられるものではない。
 その時、あたしも反射的に動いていた。
 後ろに向けて倒れながらも支えを求めて前に突き出された男の子の両手。その片方を急いで駆け寄って握り締め、引き寄せる。
 けれどスーツに合わせたローヒールでは、それほど機敏に動けるわけではない。男の子の元へ急ぐあまり、前へダイブするようにつんのめったあたしは、もつれる様にして、けれど男の子を怪我させまいと自分の胸に抱きかかえながら、教壇の上に倒れこんでいった―――


52 - 三十路たくやプレ版第4回「学び舎の逢瀬」後編へ