24・持ってる人にはわかりません!(XC2R・実験的微エロ)


「まったくもう……女になってもこういうところは全然変わりないんだから」
 朝、もうそろそろ家を出ないと遅刻しそうな時間であるにもかかわらず、起こしに来てくれた明日香がすぐ傍にいるのにたくやはベッドの上ですやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「はぁ……なんでこんなのに惚れてるんだろ?」
 時々ではあるけれど、本気でそう疑問に思うことがある。……が、今はそれよりもたくやを起こして投稿させる事の方が大事だ。と、そう思ってしまうのも、やはり惚れているからなのだけれど。
 とは言え、たくやが女になってしまうと、起こすのはなかなか骨の折れる至難技となっていた。
 本来なら問答無用で叩き起こし、お尻を蹴り上げて速攻で出発の準備をさせたいところだけれど、今、たくやは千里の作った機械の影響で女の体になってしまっている。男の時だったら平然と殴ったり出来たはずなのに、仮初めの身体とは言え女性相手だと暴力を振るうのも躊躇われてしまう。
 しかも体に巻き付けたシーツから覗く肩はむき出しで、薄い布地には男性では絶対にありえないアップダウンの激しいボディーラインを浮かび上がらせている。明日香に背を向けて丸まっているけれど、肩から脇を通りなだらかにくびれていくウエスト、そして再び盛り上がり、腰から太股へと繋がっていく一連のラインは、見事なまでに艶かましい曲線を描いている。
 明日香の目から見ると、美容のために節制もダイエットも何もしていないたくやがこんなにも美しい肉体をしていることは正直ねたましく、腹立たしくもあった。自分が拓也の為にと影でどれほど頑張っているかを知らないくせに、ちょっと薬を全身に浴びたり爆発に巻き込まれたぐらいでこれほどまでに魅力的なボディーを手に入れられると、刹那さと遣る瀬無さと虚しさで昂ぶった怒りで思わず拳を硬く握り締めてしまう。
 ―――で、でも、私だって負けてないんだから……!
 宮野森学園のアイドルと周囲から言われている明日香にとって、男のたくやに女性の魅力で負けるのはプライドが納得してくれない。
 胸の大きさでは負けてしまっているけれど、本当に大事なのは色や張り。用は全体の美しさで勝っていれば、EだろうがFだろうが敵ではないのだ。そもそも歳相応のサイズと言うものがあって、今のうちから大きければこれからの成長云々で問題だってあるはずなのだ。―――と考えていなければ、とてもではないけれどたくやと日常的に接することなんてできないぐらいに最近ストレスが溜まっていたりする。
 ふと我に帰り、手首を返して腕時計に目をやると、時間がかなり押してきていた。
 こうなったらシーツを引っぺがして素っ裸で床に転がして強制的に目を覚まさせよう……普段から蓄積してきた恨みをちょっぴり混ぜてそう決めると、明日香はシーツに手を伸ばす―――のだが、
「う、ううぅん……」
 運悪く、たくやが寝返りを打って仰向けになってしまい、目測を誤った明日香の手は「ムンズ」と幼なじみの“胸”を鷲掴みにしてしまっていた。
 ―――ぷにゅぷにゅ
「う〜ん…ムニュ……ん………」
 明日香の五指はしっかりとたくやのおっぱいに食い込んだ。それも力任せにシーツを掴もうと思っていたところだったので、かなり力強く。EかFかと言う膨らみには五箇所にくっきりと凹みができ、それなのに内側からの圧力は明日香の指を押し返そうとするのと同時に深々と食い込む指をしっかりと受け止めており、その感触に明日香は無意識に指を動かし、一揉み、二揉み、トドメに三揉みめまでして甘く心地よすぎる弾力を手の平いっぱいに確かめてしまっていた。
「フッ…んんゥ………」
「ひゃあああああああっ!!?」
 思いもかけず体感してしまった感触に意識が吹き飛んでいた明日香だが、たくやが切なそうに鼻を鳴らすと悲鳴を上げて飛び退る。
 だが、それでもたくやは未だ目を覚ます気配を見せない。蚊に刺されたとでも思っているのか、明日香の手が離れたおっぱいをシーツの上からポリポリと掻いて見せた。
「お…脅かさないでよ……」
 連続した緊張と驚きから開放され、明日香は大きく息を吐き出した。―――が、頭の中が冷静になると、今度は手の中にまだ鮮明に残っている感触に気が向いてしまう。
 ―――なんか……神様って不公平じゃない?
 たくやの胸の形をはっきりくっきり記憶した指は、その弾力を思い出しながら、そのラインを思い出すように丸く指を曲げる。
 当然手の平に収まりはしなかったのだけど、しばし、明日香は自分の右手を見下ろして思案。たっぷり一分以上、眉根にシワを寄せて悩んだ末……明日香はおもむろに、自分の右手を自分の右胸にかぶせてみる。
「ぐっ……あぐぐぐぐゥ〜………!」
 噛み締めた歯の間から、どこにもぶつけられない怒りが溢れ出る。
 下を向いた視線の先、たくやの胸のラインを再現した右手と制服を押し上げる明日香の胸の膨らみとの間には隙間が開いていた。押し付けるのを拒否して右手は宙にとどまっているわけではない。明日香の脳もはっきりと感じ取ってしまったたくやの乳房のボリュームのイメージが、“絶対に越えられない壁”がその隙間にあるかのように右手が明日香の胸に触れるのを押し止めているのだ。
 ―――なんたる敗北感。
 改めて確かめさせられると、何度も自分の中で無理やり納得した事実がより色濃く鮮明になる。女性の価値はおっぱいじゃない……そもそも女性ではなかったたくやの胸を見ながら、それこそ見るたびに自分に言い聞かせてきてプライドを保ってきたけれど、そんなものは現実のリアルに触れた途端にあっけなく吹き飛んでしまった。
 ―――で…でも、まだ、私にだって……!
 瓦解しようとする自尊心。それを必死に繋ぎとめているのは、自分が別の方向性ではたくやに勝っていると言う自信だ。
 そう、色と形と張りと……ともかく、大きさ以外の別のところだ。それ以外にもウエストのくびれとかお尻とか太股とか。そもそも女性らしさをアピールする髪の長さでは明日香の方が絶対的に勝っているのだから。
「そうよね、ははは、私ったら何を焦ってたんだろう。たくやに私が負けるはずないのに」
 吐息を一つ。それでいつもの自分を取り戻した明日香は、今度こそたくやを起こそうとベッドへ目を向ける―――が、意識しないようにと努めているのに、心の奥底では対抗心をむき出しにしているせいで、視線が見てはいけないたくやの胸へとチラッと向いてしまう。
「うぐ……ッ!」
 たくやは仰向けになって寝ているはずなのに、その胸だけはまるで重力法則を無視しているかのようにシーツを大きく押し上げている。それはどこからどう見ても、たくやの乳房にはそのボリュームを支えるだけの張りがあるという証明だった。
 負けてない、決して負けてない……そう念じるものの、自分の胸がたくやレベルにまで大きくなったとき、果たしてツンッと先っぽを天井に向けて突き上げられるだろうかと言う疑念を払拭する事が出来ない。
 ましてや相手はノーブラだ。その実力は押して知るべし、なのだ。
「う…ううう……」
 脂汗をたらたら流しながら、自分のアイデンティティが崩壊していく音を明日香は耳にする。
 張りがダメならウエストはどうだろうか?―――残念な事に、シーツの上から見るたくやのくびれには余分な贅肉が付いているようには見えない。
 ならば太股は?―――女性らしい丸みを帯びたラインを描く腰周りから伸びる太股は、ボリュームとしなやかさを危うい均衡で保っている。シーツからベッドへと投げ出された美脚には白磁にも似た決め細やかさまで備わっている。
「むむっ……うううっ………」
 負けてない。負けるはずがない。負けちゃいけない。負けたらどうしよう。―――もし負けたら、彼氏よりも魅力のない女になってしまう。そんなレッテル貼られたら、まだうら若き身で女性として終わってしまいかねない。
 次第に弱気になって行く明日香の心。どこか自分が勝ってる場所を探し、ベッドに横たわって寝息を立てているたくやの姿に視線を走らせるけれど、一度ネガティブ思想になってしまえば後はまっ逆さまに落ちるだけ。それを食い止める心の拠り所は―――
「そ、そうだ!」
 たくやが最初に女になってから一年。その間は恋人同士として何度も肌を重ね合わせてきた。その際には胸だって何度も揉んで、こねて、絞って、吸ってと飽きる事無くいろんな愛され方をされてきたのだ。
「だったら―――!」
 そう、たくやの胸(女性時)よりも明日香の胸の方が感触が良いのだ。揉み心地が良いのだ。吸い心地が良いのだ。
「そうよね。たくやなんて女になったばかりだもんね。どっか身体がおかしくたって変でも何でも全然ないよね♪」
 度重なったショックの分だけ、今度は逆に心は軽やかになり、険しい表情をしていた顔には明るい笑みまで浮かべられる。
「ふふふ♪ 私ってば何を考えてたんだろ。女の体になって一番困ってるのはたくやなのにね。それなのに―――」
 今にも鼻歌を歌いだしそうなほどテンションも上がっていた明日香だが……その表情が突然凍りついたように固まった。
 固まったのは顔だけではない。身体も、声も、足も、そして―――自分の胸に押し当てられた右の手の平も。
 ………ついつい確かめてしまったのだ。たくやの胸の感触がまだくっきりと残っている右手で、自分の胸を。
「―――――――――――――――――――――――――」
 もにゅもにゅ
 ………ボリュームで負けてるのは仕方ない。
 ………張りで負けてるのはなんとなく分かってた。
 ………だけど、なんか、勝っているって思っていたのに………ものすごく正直者の明日香の右手は、ご主人様のおっぱいよりもたくやのおっぱいの方が柔らかくて揉み応えがあって気持ちがいいと言っていた。
 もにゅもにゅ
「つまり私……」
 もにゅもにゅ
「……たくやに全敗って事?」
 もにゅもにゅもにゅもにゅもにゅ
 何度も自分の胸を揉んでみるけれど、手の平は本当に正直者だった。たくやほどの巨乳を揉んだのは初めてと言うのもあるけれど、あのふくよかで、まろやかで、それでいて暖かくて、初々しさと瑞々しさと、けしからん程のたわわさを兼ね備えたけしからんおっぱいの揉み心地に比べると、明日香の胸は何もかもが物足りないと答えていた。
「………いや、まだよ。私はまだ、こんなところで負けるわけにはいかないのよ……!」
 そうだ、まだ揉み心地で負けただけだ。こちらにはまだ吸い心地と言う強い武器が残っているのだ。
「ぐッ………」
 だけどそれもいきなり負けそうだ。乳房に詰まった母性と言う点では、大きさで勝るたくやの方が圧倒的に分がある。きっと男性ならほとんどが自分のよりもたくやの方を吸いたいと思うはずだ。
「けど……ま、まだ確かめたわけじゃないし………!」
 そう、確かめなければ話にならない。残るはこの吸い心地のみ。これで負けたら……そうなれば最後の手段。本来ならたくやにはあるはずのない“アソコ”で勝負をつけなければならない。そちらなら明日香にも賞賛はある。あるはずだ。なかったら生きていけない。
「そうよ……私がたくやに負けるはず、あるわけないのよ………」
 一度ネガティブに落ちた後に希望を見つけてしまったのがいけなかった。落ちて、上がって、また落ちたのだから、明日香の精神的なダメージは計り知れないほど深刻だ。ましてや相手はたくや。幼い頃から勉強でもスポーツでも何一つ負けた事のない、幼馴染と言う親しすぎる相手に負けたからこそ、強烈なショックによる明日香の暴走は収まる事を知らなくなってしまっていた。
「こんなの嘘よ、夢よ、幻よ。きっとたちの悪い悪夢を見てるんだわ。本当の私は今ごろはベッドの中で、暖かい布団に包まれて眠っているのよ……」
 自分でも何を言ってるのかなんて分かっていないだろう。それほどまでに自分勝手に追い詰められてしまった明日香は、荒い息を漏らしながらたくやの胸元へと手を伸ばす。
 手に取るのは、たくやの胸を覆っていたシーツ。ゆっくりと、たくやを起こさない様に細心の注意を払って白い布をめくり上げて行くと、明日香の眼下に羨ましいほどのボリュームを誇る乳房が遂にその姿を表した。
「ッ………!」
 寝息に合わせて緩やかに上下する胸へ視線を向けながら、明日香は髪の毛を掻き揚げる。その際に首筋に触れた指先が熱さを感じるけれど、明日香はそれを無視し、未だに目を覚まさないたくやの胸にゆっくりと唇を近づけていく。
 ―――今の私って、物凄く恥ずかしい事をしている気が……
 幼なじみで恋人で元々男だった拓也の胸に唇を近づけている自分の姿に、ほんの少しだけ残っていた冷静な部分が恥じらいを訴える。が、その程度で収まるような行動なら最初から暴走とは言わない。
「ん………」
 女性相手にこんなことするのは明日香だって初めてだ……浅く唇を開き、緊張して震える舌先を突き出すと、いろんな意味で緊張した明日香は目を瞑る事も出来ないまま、たくやの胸の先端に吸いついた。
「ッ………!」
 たくやも目を覚ましこそしないけれど、唾液で湿った明日香の舌と唇が乳首に触れると、小さく身体を強張らせる。一方の明日香はと言えば、
 ―――……こ、この後、一体私はどうすれば……!?
 たくやの胸に吸い付いてしまった時点で急速に頭の中が冷めてしまった明日香は、この現状から次にどのような行動をとればいいのか分からずに硬直していた。
 復讐を遂げた後には虚しさだけが残る……のと同じかどうかは知らないが、乳首を口に含んでその舌触りを確かめただけで目的を達したと頭が勝手に判断したらしく、暴走状態はあっさりと解除されてしまう。そして、残されたのは相手の胸に吸い付いたまま取り残された状態……もし今、たくやが目を覚ましたら、どのようにいい訳しても誤魔化しきれず、自分が寝ている相手のおっぱいに欲情を抑えきれずに吸い付いてしまったと言うある意味半分以上事実な誤解をされてしまう状態で我に帰ってしまったのだ。
 もしこのまま乳首を吸えばどうなるか……そうしてみたい欲求がないわけではないけれど、そしたら確実にたくやは目を覚ます。明日香が痴女扱いされるのは十中八九間違いないだろう。
 では早々に唇を離せば良いのだが、どういう訳かそれができない。たくやの乳首を含んだ瞬間、唇に触れる乳房の柔らかさと白い肌から立ち上るほんのりとした汗の薫り、そして口の中で転がる小さな乳首の舌触りが思いの他心地よくて、そのまま口を離すのを躊躇われてしまったのだ。まるで赤ん坊が母親の乳房に吸い付くと泣きやむかの如く、不思議な安堵感に包まれた明日香は静かに目を閉じ―――そんな矢先に、室内に小さな音が響いた。
 ―――カシャ
「んなっ!?」
 反射的に顔を上げて身を起こすと、明日香は音の聞こえてきた扉の方へと目を向ける。すると、確かキッチリ締めたはずの扉がわずかに開いており、その隙間から―――
「な、夏美さん!? どうして、なんで、えええええええええッ!?」
 たくやも明日香も痴女と認める相原夏美が、デジタルカメラ片手に部屋の中を覗いていた。
「いや〜、遂にばれちまったね。いつばれるのかってずっと冷や冷やしてたのに、このまま最後まで気づかれないんじゃないかって逆に心配しちまったよ」
 明日香に見つかると、夏美は特に悪びれた様子も見せず、手にしたデジカメをポンポンと放り投げながら部屋の中に入ってくる。
「一人暮らし始めたんじゃないんですか!? なんで……いえ、それより、いつから覗いてたんですか!?」
「ん〜? 明日香がたくやの胸を揉んでるところから。なかなか部屋から出てこないから、絶対にイチャイチャしてるだろうと思ってさ、カメラ片手に覗いてみたら……いやいや、決定的瞬間ってヤツだったね」
「何を撮ったか知りませんけど、すぐにデータを消去してください! 今すぐ! たくやに見せたら承知しませんから!」
「ヤなこった。こんな美味しい写真を誰がただで消すと思ってんだい? さ〜て、明日香には何をしてもらおうかな。こんな事ならビデオカメラを持ってくるんだったよ」
 それはつまり、明日香が葛藤したりしている時に漏らした言葉も全部聞かれている事を意味している。
 ―――最悪だ。
 最も聞かれてはいけない相手に聞かれていた。そして見られていた。目の前が真っ暗になる錯覚に襲われるけれど……デジカメのデータを消去しさえすれば、何を言われても知らん存ぜぬ出誤魔化しきれるはずだ。
「夏美さん……こう言う事はあまりしたくないんですけど、どうしてもデータを消さないって言うのなら、実力行使に訴えかけますよ?」
「へぇ、面白い事を言うじゃないか。あたしは別に構わないけど……あっちはどうすんだい? ぶん殴ってでも記憶を消す?」
 この状況を楽しんでいるのか、けらけらと笑いながら、夏美は明日香のほうへ―――正確には明日香の脇へ逸れて背後を指差す。
 ―――嫌な予感が明日香の背筋を駆け上る。
 恐る恐る振り返る……そちらにあるのはたくやのベッドで、殴って記憶を消すような相手はそちらには一人しかいない。
 そしてそんな明日香の想像を裏切る事無く、視線の先ではたくやがベッドに上半身を起こし、顔を明日香のほうへと向けていた。
「た、たくや……あの、これは違うの」
「…………………」
「私はこんなことするつもりじゃなくて、ただ確かめようと」
「…………………」
「だから……ち…違う……そんなつもりじゃなくて……」
「…………………」
 自分でもまともないい訳が出来ているとは思っていない。それでも主語も述語も定まっていない言葉で何かを伝えて必死に弁明しようとしているのだけれど、無言でじっと明日香を見詰めるたくやの視線に、声も次第に尻すぼみになってしまう。
「私は…たくや……だか…ら………」
 ―――そんな目で、見ないでよォ……!
 無言で責められる圧力に力を失っていくのを感じながら、明日香の瞳から涙が流れ落ちる。恥ずかしさを混乱がさらに押し上げ、制御の効かなくなった涙腺からは何度拭っても涙が溢れて止まらず、ついには、
「た……たくやの馬鹿ぁ〜〜〜〜〜〜!!!」
 と、自分のした事を棚に上げてたくやを馬鹿呼ばわりしながら、夏美を押しのけて部屋から飛び出していってしまった。
「―――幼なじみでも、わかんないこともあるもんだね」
 明日香が泣きながら玄関から飛び出していく音を遠くに聞きながら、少しいじめすぎたかと頭をぼりぼりと掻いた夏美は、ずっと押し黙ったままのたくやの傍に歩み寄り、眉間に人差し指を押し当てた。
「こんな寝ぼすけに、何を言っても無駄なのにね」
 軽く突っついただけでたくやの上半身はベッドへと倒れ込み、胸にシーツをかけもせずに再び眠りについてしまう。
「明日香ぁ……うるさぁ〜い……ムニュムニュ……」
 ―――いや、そもそも起きてすらいない。すぐ傍で明日香が夏美に向けて大声を上げていたので、寝ぼけたまま身体を起こしただけだったのだ。
「こりゃ今日は遅刻確定だね。んじゃその記念って事で」
 明日香も去って、夏美もあえて起こす気はなく、既に時間もリミットいっぱい。それでも周囲の騒ぎや明日香の気持ちにも気付かずに胸丸出しで寝こけているたくやに向けて、夏美はやれやれと肩をすくめてからデジカメのレンズを向けた―――





 その後、たくやをさっさと男に戻すために明日香が麻美先輩を探し回ったり、北ノ都学園に入ってから服装で女性らしさをアピールするようになったのが、今回の話と関係あるかどうかは定かではない……


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