16 夏美ルート一直線(1)前編


「ただいま〜……」
 元気の無い声を出して玄関をくぐる。
 どうも体がムズムズする。化学室で掃除中に薬品を浴びたせいか、体中がヌルヌルしてるし、どうも体の奥でムズムズする感覚が抜け切らない。
「早くお風呂に入ってシャワーでも浴びようかしら……あれ? 僕、今女の子みたいな……」
 ま、気のせいよね。……なんか言葉遣いとか頭の中がおかしくなってる。それに声も高くなってるみたいだし……疲れてるのかな?
「まあいいや。部屋で服を脱いだらそのままお風呂場に直行しようっと」
 こんなところで独り言言っててもしょうがないけど……あれ? 玄関に義姉の夏美の靴がある。
「もう帰ってきてるんだ。……見つかったらまたどやされそうだなぁ……」
 あたしが先にお風呂に入るって言ったら、ついでに風呂掃除しろとかお湯を張り直せとかわがまま言うんだろうし……けど、早くお風呂で体を洗いたいし……
 頭の中で、父の再婚相手の連れ子である血の繋がっていない義理の姉、夏美の事を色々と思い浮かべる。
 性格は最悪。自分勝手でわがままで、口より先に手が出る性悪な性格をしている。それなりに美人だとは思うけど、夏美のストレス発散のために当り散らされ、いじめられているので、世間一般で言われるような「義理の姉弟の禁断の…」と言った関係はこれっぽっちも存在していない。
 ―――まあ、あの義姉さんを押し倒すような根性があたしにあれば、これほどまでにいじめられる毎日は過ごしてないと思う。それにあたしがいようといなかろうと、自分の部屋に彼氏を連れ込んだりしてるし……あれはキツいよね。あたし、恋人いないのに……
「―――どうせ服も薬品浴びてるんだし、このままお風呂場に行っちゃえ」
 リビングにカバンを置くと、あたしはそのまま脱衣所へと足を向ける。……どうもさっきから一人称が「あたし」なんだけど……う〜ん……
 考え事をしながら脱衣所前へ付いたあたしは、右手で肌に張り付くシャツのボタンをはずしながらドアを開けて中へ入る。
「キャアッ!!」
 ………あれ? この声は一体誰の……?
「拓也、ノックもせずに入ってくるんじゃないよ!」
 あたしが顔を上げた直後に、左の頬にビンタが叩き込まれる。そして衝撃が突き抜けた後に込み上げる痛みで熱くなった頬を押さえながら脱衣所へ目を向ける。
「ね、義姉さん!?」
 義姉の夏美が細く整った眉を怒らせてあたしの事を睨みつけていた。
「ごめん、入ってるって知らなくって!」
 お風呂から出たばかりなのだろう、夏美は湿り気を帯びた肌を惜しげもなくさらけ出していた。健康的に日に焼けて、少し褐色になった肌がすぐに後ろを向いたあたしの目にしっかりと焼きついている。
「いいからとっとと出て行けっての!」
「きゃあっ!」
 必死に「見ていない」事をアピールするため、顔を両手で覆っていたあたしの体が夏美に蹴られ、よろめいて脱衣所を出た途端勢いよくドアが閉められる。
 ―――び、びっくりした……いつもなら義姉さんの事を気にしながらお風呂やトイレを使ってるけど、今日は考え事してたからなぁ……
 夏美はバスタオル一枚で家の中をうろつくのはもちろんの事、「見る?」と言ってあたしの目の前でバスタオルを広げるなどの破廉恥行為も平然としてしまうほど開放的だ。もちろん、あたしに見せるときは肩紐の無いブラをちゃっかり下に着けて、大事なところを見せはしない。それでも義姉の体にドキッとしてしまうあたしを見て楽しんでいるのだ。
「胸は……それなりにあったよね」
 男として、やはりそう言うのには興味はあるわけで……大学生で遊んでいる割に、綺麗な形をした膨らみをつい頭の中へと思い浮かべてしまう。
 大きさはグラビアアイドルとかに比べれば小ぶりだけど、生で見たのは初めてだけあって、そのインパクトはスゴい。さすがに下の方までは見れなかったけど、まさか義姉のおっぱいがこんなにスゴいなんて……
「やっぱり義姉さんも女…なのよね。……スゴいよね……」
 すぐには揉むとか吸うとか、そんなイメージが沸き起こるわけではない。ただ、その形や見た目から想像できる柔らかさを再現しようと、自分の両手を胸に当てて下からこう、揉みこむように……
 ―――ふにゅん
「んッ――!! え…あ、なに………?」
 あたしの手の平に、大きくてずっしり重くて、それなのに弾むような柔らかさの物体の感触が広がる。それこそ、イメージしていた乳房の柔らかさや重みを超えるなんともいえない触りごこちなんだけど……
「なんで……あたしの胸に?」
 恐る恐る視線を下げると、カッターシャツの胸元が大きく盛り上がって本当なら床まで届くはずの視界をさえぎっている。もしかすると「お腹の贅肉か!?」などと思うけれど、手で腹部を撫で回しても余計な贅肉など付いていない。むしろ前より細くなったような気もする。
「じゃあ…これってやっぱり……」
 お腹へ下げていた手を、ゆっくりと、慎重に、自分の胸元へと持ってきて、意を決してグッと握り締める。
「ヒャウンッ!!」
 指を押し返すような強い弾力を、それでも指先に力を込めて握りつぶすと、電気が走ったように体が震え、甲高い声がノドから迸ってしまう。
「どうして…こんな……んんっ…あ、ああぁぁぁ………」
 上か阿附立つはずしたシャツの胸元からは、くっきりと一本の線になるほど密着しあった乳房の谷間が覗けている。あたしが揉みこむたびに微妙に形を変え、次第に汗がにじみ始めてくる。
「何であたしの胸が……こんな、女の人みたいに大きくなってるのよ……」
 とりあえず観察しよう。自分でも何がどうなってるのか分からない。……そう思い、足を自分の部屋へ向けると、背後で脱衣所の扉が勢いよく開けられた。
「あ……ね、義姉さん……」
 肩越しに後ろを振り返ると、おへそが出るぐらい短いタンクトップと短パンとを身につけて、髪の毛を頭の後ろでまとめた夏美が、なにか胡散臭いものを見るような目つきであたしの事を見つめていた。
 ―――すっかり忘れていた。本来なら、部屋に逃げ帰って鍵を掛けて嵐が過ぎ去るまでジッと隠れてなきゃいけなかったのに……
「………あんた誰?」
「え……?」
 開口一番、まるであたしのことなど知らないとでも言うような冷たい言葉が夏美の口から放たれる。
「ね、義姉さん、何言ってるのよ。義弟の拓也だってば」
 慌てて名乗る―――けど、姉弟の間で今更名前を言わなきゃいけないなんて……
「知らないねぇ。あたしにはあんたのような義弟はいないよ。何かの間違いじゃないのかい」
「そんな……冗談はやめてよ……」
 なにか得体の知れない恐怖が背中中を這い回る。
 ヤバい、何か分からないけど、とにかくヤバい。義姉さん、絶対に怒ってる……
「義弟じゃなくて……今のあんたは義妹なんじゃないのかい?」
 そう言うと義姉さんは腕を前へ伸ばし、あたしが払いのけるよりも早く大きくシャツを押し上げる胸を鷲掴みにした。
「きゃうぅ!!」
「へぇ。何を詰め込んでるんだって思ったけど、本物かい? けっこう揉みごたえがあるじゃないか」
 二つの膨らみが義姉さんの手で下から持ち上げられる。何でこんなに膨らんでしまったのか分からないまま、白いシャツに包まれた胸に義姉さんの指が深く食い込んで、大きく開いた指の間から柔らかい乳肉が押し出される。
「義姉さん、何するの、やめてぇ!!」
「喋り方まで変わったのかい? お前、本当に拓也?」
「当たり前じゃない。あたしはあたしで……んあっ!!」
「先っぽが固くなってるじゃないか。ひょっとしてあんた……あたしの裸見て、興奮したんじゃないだろうね」
 そんなこと……と否定したいけれど、シャツから浮かび上がるほど固くなった胸の先端を指先でえぐられた瞬間、込み上げる悲鳴があまりにも大きすぎてノドが詰まってしまう。
「ふぅん……元々女だった…って訳じゃなさそうだね。それにしてもいい乳してるじゃない。あたしよりでかいのにこんなに敏感なんて」
「そんなに…さわらないで……あんっ! 先っぽは、あっ、だめぇ……!」
「感じてるくせに、説得力がないんだよ」
「あんっ、ああんっ、はあぁぁぁ……!!」
 義姉さんに背後の壁まで押しやられると、膨らみを揉む手の動きがより激しくなる。指先がほんの少し胸に食い込むだけで、今までどんなに触ろうと感じたことのなかった刺激が全身に駆け巡る。くすぐったいような、けれど感じるたびに腰が抜けそうになる感覚に、次第に変な気持ちになってくると、首筋に唇を寄せてきた義姉さんがあたしの胸元に舌先を這わせてきた。
「はうぅぅぅ…! ね…義姉さ……ンンッ!」
 胸元から首筋を伝って上がってきた義姉さんの舌があたしの唇をなぞると、そのままスルリとあたしの口内に差し込まれ、唇同士が密着してしまう。……あたしの、ファーストキスだ。
「んっ…んふ……ん…ん、んん〜〜!……ふぁ…ぁ……ぁ……」
 初めてのキスが…こんなにエッチなキスだなんて……あ、また……
 壁に押し付けられ、頬を両手で捕まれて身動きできないあたしの唇を、今まで触れるだけで怒鳴っていた義姉さんが吸い上げる。鼻をくすぐる甘いシャンプーの香りにうっとりとしていると、あたしの舌は義姉さんの舌に容易く絡め取られてしまい、飲むに飲めない涎が唇の端から溢れてアゴの先端へと伝い落ちてしまう。
「お前からも舌を動かしな。歯を立てなきゃいいんだから」
「あ…ふむぅ……んっ…んぅぅ………」
 あたしも自然と両手を義姉さんの腰に回し、瞳を閉じて舌を突き出す。間に挟まれた唾液を潤滑液にしてお互いの舌の表面を擦り合わせる。
「んんっ……ふぁ…ん…く………!」
「ふふふ……キスは合格にしてやるよ。初めてなんだろ? お前、もてそうにないからね」
「ハァ……ハァ……義姉…さん……」
 顔が離れると、あたしと義姉さんの舌先に白い唾液の橋が掛かる。その糸が切れ、涎の雫があたしの胸元へと落ちるのを感じながら荒い呼吸を繰り返していると、唇だけじゃなく、義姉さんの体があたしから一歩遠くへ離れて行く。
「ど…どうして……」
 キス…もっとして欲しいのに……義姉さんと、もっとキスしてたいのに……
 初めてで、そのぬくもりの虜になってしまったあたしがキスをやめてしまった夏見義姉さんに恨みがましい目を向ける。……けれど視線に力が入らない。なんか……自分でも分かるほどとろんとしてる……
「たくや、あんた、さっきあたしの裸を見たよね?」
「え……それは…その……」
「見たんだろう?」
 今にも崩れ落ちそうなほど頭の中がゆだっていたあたしは、義姉さんにキツく問い詰められ、誤魔化そうと思うことも出来ずに顔を縦に頷かせてしまう。
 もしかして裸を見た事を怒って、ここでやめられちゃうのかも……あたしだって男だし、美人の義姉にこんな事をされて先の事を期待しないわけが無い。その証拠に股間のモノは………まるで反応していない。キスをされて興奮しているし、義姉さんにキツくされてゾクゾク背筋を震わせているのに、あたしの股間はまるでなくなってしまったかのように勃起した様子が感じられない。その代わり、沸騰しているかのように熱くなってるのに……
「そうか。じゃああたしも代わりに見せてもらおうか。たくや、服を脱ぎな」
「え……そんな、イヤ……」
「脱ぐんだよ。上も下も、パンツも全部。あたしは全裸を見られたんだよ。だからあんたも全部脱いじまいな」
「でも……」
「ああもう、じれったいね。あたしが脱げって言ったら脱げばいいんだよ!」
 目の前にいるのが義姉さんとは言え、服を脱ぐ踏ん切りがつかずにモジモジと躊躇っていると、いきなり前に伸びた義姉さんの手がシャツの上から胸の先端を強く摘んで捻り上げてきた。
「あうううううっ!!」
 薬品を吸って肌に張り付いた白いシャツからはうっすらとピンク色が透けて見えている。その周囲ごとねじ切るかのような強さでひねり上げられたあたしは、体を折り曲げるほどの激痛に溜まらず涙を溢れさせてしまう。
「やめて、脱ぐ、脱ぐから、ヒッ、ヒィィィィ!!」
「ふん、分かればいいんだよ。あんたは愚図なんだから、もう二度と逆らうんじゃないよ。いいね!」
「は…はい……」
 乳首から手を離されたあたしは、義姉さんの視線におびえながら服従する事を約束すると、はずしかけていたシャツのボタンを上から順にはずして行く。
「こ、これで……」
 ボタンを一番下まではずし終えると、義姉さんの顔をうかがう。
「聞こえなかったのかい。あたしは全部って言ったんだよ。早くそのシャツ脱いで胸を見せてみな。―――あんたも興味あるんじゃないのかい?」
「……………」
 それは……あたしだって自分の体がどうなったのか気になるし……
「わ、わかったわよ……んっ」
 張り付くシャツが肌を離れるくすぐったい感触に鼻を鳴らしながら、肌を覆っていた服を肩から肘へすべり落とす。
「あ……本当に、あたしの胸……」
 目の前に飛び込んでくる生々しい光景は、紛れもなく現実だった。
 昨日までは筋肉も贅肉もなく平らだった胸。けれど今そこには、男のあたしには不釣合いな膨らみが付いてしまっている。一目で分かるほどきめが細かく、しっとりとした肌。肌のまぶしさに鍔を飲みながら手をあてがえば、吸い付くような肌触りと揺れ弾む張りと柔らかさに、自分の体の事ながらドキドキしてしまう。―――まるで、自分の体じゃないような……
 脱衣所から流れ出てくるお湯の熱気のせいか、肌には大粒の汗がにじんでいる。それを指先で塗り広げるように手でなぞり、丸々とした膨らみの形のよさと固く尖った先端の突起……乳首の存在を何度も確かめてしまう。
「気持ちいいのかい? そんなに夢中になって撫で回しちゃって」
「あ……」
 義姉さんの声で我に帰る。慌てて胸から手を離すけれど、状況は何一つ変わらず、夏美は目の前に立ったままニヤニヤとあたしを見つめている。
「ほら、次だよ。シャツはそのままでいいから今度は下を脱ぎな」
「やっぱり……脱がなきゃダメ?」
 試しに訊いてみるけれど、強い視線で睨み返されるだけで許してもらえそうに無い。
 それに……なぜか胸の鼓動が収まらない。義姉さんに股間を見られるのは恥ずかしいのに………それなのに、逆らう事が出来ないと強迫観念に駆られたあたしは、自分の胸に込み上げる感情がなんなのか深く考える事無く、ベルトをはずし始めてしまっていた……


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