15 一日遅れのホワイトデー(3)−後編


PM 0:09 駐車場

「ホワイトデーの特設コーナーは昨晩の内に撤去させていただきました〜♪」
「彼氏の方への贈り物ならこちらの品などいかがでしょうか〜♪」
「最近多いんですよね。女同士でバレンタインとホワイトデーって。お客様もそちらの趣味の方ですか?」

 あ〜も〜〜! あたしは女の姿をしてるけど、同性愛嗜好者じゃないんだからね!―――麻美先輩と綾乃ちゃんにああいう事をした直後だと説得力がないんだけど。
 さすがにホワイトデーのプレゼントが全国名物駅弁って訳にはいかない。かと言って、エッチな事をした直後の疲れと徹夜の眠気で、プレゼントと値段の折り合いの判断をつける思考力も低減してしまっている。しかたなくふらふらとデパートから大学へと戻ってきて善後策を練ろうと思って歩いていたら……駐車場に見覚えの車が入ってきて、危なっかしくも速攻で駐車スペースに止まるのを目撃してしまう。
 あの運転は間違いない。この大学であれだけデッドライン崖っぷちの運転をするのは明日香ぐらいのものだ。
 ―――だけど、会う前に心に誓わなければいけないことがある。今度はエッチなことはしないと……これ以上やったら、あたしが死ぬ。もし生き延びても、さっきのただれた肉体関係如何で明日香に殺される。そもそも、
「―――あらぁ。誰かと思ったらたくやじゃない。もう論文は書き終わったのかしら? フンッだ」
 今の明日香に下手に手出ししようものなら、車で轢き殺されてもおかしくない気がするし……
「えっと……明日香、ごめん。ホワイトデーのお返しは今日中にきちんとするからさ」
「ホワイトデー? ああ、別にいいわよ、そんなの。たくやには最初っから何にも期待してないんだから」
 今日はどうも虫の居所がかなり悪いらしい。謝るあたしの言葉などに耳を貸してくれる様子はなし。妙にいらいらした態度で返事を返されてしまう。
「それより私なんかにかまってていいの? たくやには可愛らしい後輩と美人の先生がいるんでしょ」
「………へ?」
 いやまあ、留美先生や綾乃ちゃんへもホワイトデーのお返しはきちんとしなきゃいけないんだけど、今ここでそんな話をしなくても。
「そもそも論文だとか理由つけて泊り込んで、何してたか分かりゃしないし。そういえば最近ゼミ室にばっかり行ってるわよね。それって私の留学が決まってからかしら。よかったわね、私との関係が精算できてさ」
「清算って……なに言ってるのよ。お互いに自分の道で頑張ろうって、二人で約束したじゃない。だからあたしは―――」
「うるさいわね! 私が外国行ったらもう恋人でもなんでもないんだから気安く話しかけないで!!」
「そ、そんな……明日香、どうしちゃったの。急にそんな事言い出すなんて……」
「急に? 別に急でもなんでもないわよ。ただ気付いただけ。たくやって最低の恋人だったって。私の事なんか何にも考えてくれてないんだって!」
 語気を強め、吐き捨てるように言った明日香の言葉のショックで、ふらりとよろめいてしまう。
「どうせ海外に行く私のことなんてこれっぽっちも考えてないんでしょ。そうよね、たくやは自分の事で手一杯だもんね。私なんかいてもいなくても一緒だもんね!」
「明日香、落ち着いて。そりゃホワイトデー忘れてた事も謝るし、電話の電源切ってたのも謝るけど、そこまで言わなくてもいいじゃない。あたしだって一生懸命―――」
「私の事忘れて頑張ってたんでしょ? じゃあずっと忘れてなさいよ。勉強でもアルバイトでも、女の格好で好きなだけやってればいいじゃない!」
 な…何であたしがここまで言われなきゃいけないのよ……明日香だって、あたしが男に戻ろうと努力してるか知ってるくせに……!
 既にあたしの思考回路は悪いほうへ悪いほうへと考える悪循環のスイッチが入ってしまっていた。冷静になって考えれば、何らかの理由で明日香が不機嫌になっていると分かるのだけれど、周囲の目も気にしないほど罵声を投げつけてくる明日香の理不尽ぶりに、何かがプチッと、あたしの中で弾けてしまう。
 何日も徹夜したのは何のためだったか。明日香やみんなと楽しいホワイトデーを過ごすためだ。そりゃ結果的に一日遅れになってしまったけど、ここまで怒鳴られなければいけないことなのか? バイトだってプレゼントを買うために決まってるじゃない。それなのに、明日香は…明日香は何も分かってくれない!!!
「そう……あたしたち、もうおしまいなんだね……」
「ええ、やっと分かった? 私はようやく開放されるかと思ってせいせいしてるわよ。今すぐどっかに消えて! もう私の前に現れないで!」
「わかった。明日香がそう言うんなら……チョコレートのお礼をしたらさっさと消えてあげるから」
 幸い、春休みの大学には人もそれほど来ていない。けれどこれだけ明日香が大声を張り上げたのだ、離れた場所にはちらほら昼食へ向かい学生や院生の姿もいるけれど、係わり合いを恐れて近寄って気はしない。だからあたしは………明日香を車のボンネットへと押し倒した。
「な…何するのよ!?」
「さっき言ったじゃない。バレンタインデーにもらったチョコレートのお返しをするんだって……あれ、美味しかったんだよ」
「そんなのいいから離しなさいよ。私、これから教授のところへ行かなきゃいけなんだから!!」
「へ〜……もしかして教授と出来ちゃってたりするわけ? 明日香ってば体を使って留学する事に決まったんだぁ…へ〜…ふ〜ん……」
「なっ!?」
 明日香がそんな事をするはずない。したら教授がぶん殴られている。―――けど、あたしがちょっとからかっただけで明日香は動きを止め、その隙に方を大きく露出した明日香の服をブラごとズリ下げる。
「きゃあぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!」
「あらぁ、さっきまであんなに偉そうに怒鳴り散らしてたのに、かわいい悲鳴を上げるじゃない。―――そうね、せっかく最後の機会なんだし、明日香の可愛らしいところを全部見せてもらおうかな」
「こんなところでなに考えてるのよ、離しなさい、この、こ―――」
 暴れようとする明日香の腕を押えつけて唇を奪う。……けれどキツく知事合わされた唇はあたしを拒んでいる。それを舌でドリルのように強引に割り開くと、歯茎を舌先でなぞりながら大量の唾液を流し込んで、苦しさとくすぐったさに耐え切れずに葉が開いたところで、今度は明日香の下を絡めと利、ズズズ…と吸い上げた。
「こ…この……!」
 明日香が呼吸できなくなるぐらい吸い上げてから唇を離すと、恥ずかしさとあたしへの怒りで顔が真っ赤になっていた。
「明日香……かわいいよ。いじめたくなっちゃうぐらい……」
 何を言っているのか自分でも分からない……分からないまま、あたしと明日香の乳房がお互いに潰れあうほど体を密着させて再度キス。叫ぼうとしていた口へ舌を差し込まれてむせる明日香を口付けだけで翻弄しながら、あたしは明日香のスカートの中へと手を差し入れた。
「明日香は海外に行っちゃうんだもんね。それじゃあ、こんなところでエッチなことしたって全然平気でしょ?」
「そ、そんなわけないでしょ! たくや、やめて、やめなさい! さもないと、絶対、ぜったに許さないんだから!!!」
 普段のあたしなら、その声を聞くだけで体がすくんでしまうだろう。けど、眠気が限界を突破したあたしは言葉の意味を理解する機能が一時的に麻痺しており、明日香が泣こうがわめこうが、なんら気が咎める事はない。むしろ、あたしが大事な場所を弄ぶたびにコロコロと変わる表情を見るのがなんとも心地よい。
 おもむろに明日香の胸へ顔をうずめる。麻美先輩よりも小さく、綾乃ちゃんよりも大きい平均的な大きさの美乳を空いた手で揉みまわして谷間へと舌を這わす。
「ん……こ、この……これ…レイプなんだって……んんッ……!」
 握り締めれば、柔肉が指の間から搾り出される。次第に強く、緩急をつけながら胸と股間を責めたてると、歯を食いしばった明日香が必死に反応を押し殺し、その一方で唾液を纏わり突かせた乳首がむくっと頭を持ち上げ始める。
「ほら……感じてるなら声を出してもいいんだよ?」
「クッ………たくやの…馬鹿……後で覚えてなさいよ……!!」
 この期に及んで、まだそんな言葉を口に出来る明日香に素直に驚きを見せると、あたしは指を二本、おしっこか何かの湿り気を帯びているだけで膣内はまだ濡れていない明日香の秘所へ強引に押し込んだ。
「――――――――――――!!?」
「力を抜いて……相しないと明日香のおマ○コがどうなっても知らないわよ」
 回りに人がいる状況で明日香の膣を犯すなんて……ヤバい、背筋が震えるぐらいに…興奮が昂ぶってる。
「い…イヤ……抜いて。たくや、抜いてぇぇぇ……!!」
 潤滑液の少ない膣内は、いつもと違って摩擦が強く、それだけに肉感的でほんの少し動かすだけで明日香が強く反応する。
「あっ……やだ………こんなの…ヤダぁ………」
 どれだけ指の進入を拒んでも割り開き、吸い付いてくる肉壁を引き剥がしてぐるりと円を描くようにかき回す。ギュッギュッと収縮して締め付ける膣肉は緩やかな指の往復のたびにめくれ上がり、奥から込み上げてくる愛液が広がるまで、苦痛に等しい快楽で明日香は悶え苦しみ、けれど少しずつ、膣内から響くグチャグチャと言う音が大きさを増し始めていた。
「明日香も感じてきたのね。あんなに嫌がってたのに濡らしちゃうなんて……あ、そっか。明日香はあたしが抱いてくれないから別れるって言い出したのね」
「違うっ!! 私は、私はたくやが傍にいてくれないから……留学の日が近づいて不安で、だから、だから……」
「嘘ばっかり。あたしのおチ○チンがなくなっちゃったから分かれようって言い出したんでしょ。おチ○チンをここに入れて欲しくてたまらないんでしょう?」
「違う、違うぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!」
 明日香の右足を抱え上げて開脚させると、下着の脇から差し込まれた指は根元まで明日香の蜜で濡れ光っていた。もう十分にほぐれて準備が整ったと判断したあたしは、上げた脚を抑えながら手首にひねりを加えて明日香の膣を指先で抉り抜いた。
「あああああああッッッ!!! 許して、もうこんなの、耐えられない、許して、許してぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!」
 涙声に近い明日香の懇願を耳にしても、あたしは手の動きを緩めない。遠くにいるギャラリーに、今日からは別の男に犯されるヴァギナが少しでも見えるように体を横にずらして指ピストンを繰り返し、白く泡立った愛液を膣の中から掻き出した。
「イヤだイヤだって言いながら、なによこの濡れようは。イきそうなんでしょ。おマ○コがビクビク震えてるの、ちゃんと分かってるんだから」
「そんなの、違う、私はたくやに……んぁあああああああっ!!!」
「ふふふ……Gスポ責めは初めてだっけ? 明日香ってばこれやるとすぐに怒り出すもんね……感じすぎるから。でもね、もうあたしに遠慮しなくていいんだよ」
「ひィッィィ!!! 触らないで! いや、そ、それっ、ダメぇええええええええっ!!!」
 ここか……このまま責め続けてもいいけど、どうせなら一番奥まで触ってあげた方がいいわよね。
 親指で窄まった尿道口とクリトリスを擦りながら指先で膣奥に触れる。コリコリした場所を丹念に擦り、突き、指を引き抜くときも指先を曲げて絶頂直前で緊縮した膣壁を掻き毟る。
 尿道のすぐ裏側に当たる膣天井を圧迫するたびに、あたしの指をいやらしく咥え込んだ膣口から押し出された愛液が駐車場のアスファルトへビュッビュッと打ち放たれる。あれほど乾いていた淫裂は愛液にまみれ、アナルにまで伝ってボンネットに垂れ落ちるほど。それを見たあたしは口元に満足の笑みを浮かべると、明日香の潮吹きスイッチともいえるGスポットへ突き刺すような力で指を押し付けた。
「ほぉら、イっちゃいなさい。熱いおしっこ漏らして好きなだけイっちゃいなさい」
「あひ、あひ、あひぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 まるで見てくださいといわんばかりに、完全勃起のクリトリスを明日香が突き上げる。パンッと張り詰めた恥丘の膨らみを突き出して愛車のボンネットで弓ぞりになると、悶絶する明日香の股間からブシャッと盛大な音を響かせて絶頂液が噴き出してきた。
「ほらほらほら。まだ出るでしょ。潮噴きなんてめったに出来ないんだから、タップリ味わってね」
「イくッ! イくッ! イく、イく、イくゥゥゥうううううううううううううッ!!!」
 何度も体を揺さぶりながら、明日香は白く濁った絶頂液を小さな尿道口から噴き上げ、ここが昼過ぎの駐車場だと言うことも忘れて絶叫に近い喘ぎ声を迸らせる。
「さて…と。これで終わらせはしないわよ、明日香。最後なんだから、あたしの思うように楽しませてもらうんだから」
 射精液の噴出も終わり、あたしの指が引き抜かれてもまだ、明日香は体を起こせず荒い呼吸を繰り返す。その間に地面におちていた明日香のカバンを拾い上げたあたしは、中から車の鍵を取り出した。
「そおか〜。明日香の車に乗るのもこれで最後になっちゃうのよね〜。―――じゃあこっちでも楽しんじゃおうか」
 後部扉の鍵を開けると、あたしは明日香を抱えて後ろ座席へと横たわらせる。もちろん、苦しそうにしているのにそのままにしておくつもりはない。ヒクつくヴァギナを締め付けている下着をスカートの中から引き抜き、あたしも車の外で自分の下着を脱ぎ下ろした。
「たく…や……なに……?」
 涎で濡れた唇にうわ言のように言葉を漏らす明日香に、あたしは笑みを持って答える。
「まだ最後のお楽しみは終わってないのよ。あたしの指が明日香のアソコを忘れられなくなるぐらい……何回だって可愛がってあげるから」
 明日香に覆いかぶさり、扉を閉めて、ロックする。
 しばらくすれば外から他の人が覗きに来るかもしれないけれど、見られたって構いやしない。だって……
「明日香……真っ白になって何にも考えられなくなるぐらい、いっぱい感じさせてあげるからね」



PM 7:48 焼肉屋
「は……ははは………みたか…これがあたしの甲斐性だぁぁぁ……え、えへへへへ……♪」
「先輩、相原先輩、変な寝言はやめてください。周りの人たちも見てますよ。そろそろ起きてくださいぃ〜〜!」
「ははは………ほえ? あ、あれ? あたし、さっきまで明日香の車の中で……」
 気がつくと、あたしは見慣れない場所でテーブルに突っ伏していた。
 目の前には肉、野菜、ビールに日本酒………おや? なんとも食欲をそそる香ばしい匂いが……
「もう、やっと起きたの? 早くしないとお肉なくなっちゃうわよ」
「まあいいじゃない。片桐さんもそんなにむくれなくても。でも相原くん、徹夜は美容の大敵なんだからね」
 明日香に…麻美先輩?
「でも本当に驚きました。研究棟の廊下に先輩が倒れてるのを見つけた時は本当にどうしようかと……」
「これから研究に人生をささげようと言う心構えは立派だが、日常がこうもおろそかではな。店員、生中二つと冷酒を頼む」
 綾乃ちゃんに留美先生まで……えっと………
「あの……もしやこれは弾劾裁判?」
「なんで焼肉屋で食事してるのが裁判に見えるのよ。まだ頭がおかしいんじゃないの、あんたは……」
「いやいや明日香さん、確かあたしは振られたばかりで赤の他人―――」
 言葉の途中で明日香の肘がこめかみに決まる。
「目ェ覚めた?」
「は、はい……今までのは全部夢です。そうです、そうに違いありません……」
 首から上が吹っ飛ぶかと思った……ううう、さっきまでのが夢だって分かったけど、こんなに痛いならあっちが現実の方がよかったかも……
「はっはっは、相原がこれでは置いていく片桐もさぞ心配だろうな。まあ、安心するといい。お前がいない間に私が多少は見れる男にたたき直しておいてやる」
「その前に男に戻らないとね。そっちは私の研究分野だから任せておいて」
「大丈夫です。相原先輩ならこれからも頑張ってくださるって、私は信じてますから」
 う〜ん…口々に褒められるのは悪くはないんだけど、
「―――なんでみんなで焼肉屋にいるの?」
 と、素直に質問してみる。すると留美先生が、どこかで見たことのある財布を振りながら
「バレンタインのお返しに決まっているだろう」
「あ〜〜〜!! それ、あたしの財布じゃないですか。何で留美先生が!?」
「お前が倒れて心配させられた侘びと、ホワイトデーを忘れていて一日待たされた侘びと、バレンタインのお返しを焼肉食い放題にまけてやったんだ。ああ、そこの店員。カルビとロースと塩タン追加だ」
「私は冷麺が食べたいな。高田さんは? せっかくのたくやの奢りなんだし食べなきゃ損よ」
「いえ、わ、私はもうお腹いっぱいで……」
「高田さんはもうちょっと食べた方がいいわよ。いっぱい食べなきゃ相原くんみたいに胸が大きくならないんだから」
 ち…ちくしょう。人が汗水たらして恥ずかしいのを我慢してためたお金を………こうなったら!
「あたしはご飯大盛りぃ!! ああもう、お腹すいた、すいたったらすいたぁぁぁ〜〜〜!!!」
 片っ端からお肉を口へ運ぶ。久方ぶりに味わう食事をじっくりと噛み締めると、あたしはすぐに来た丼を受け取って白いご飯を口の中へと掻き入れた。

 ともあれ、明日香と分かれるわけじゃないし、みんなもいつものとおりだし……あれが夢で、やっぱり安心したかも。
 でも、どこから夢なんだろう……廊下で倒れてたって言うから、論文が完成したのはちゃんとした現実として、一体どこまでが夢なのやら……って、おや? 五人だけ? いつもの面子に何人か足りないような気がするんだけど……






PM 9:56 五条ゼミ・ゼミ室

「は〜はっはっはっはぁ!! ついに完成しました。一ヶ月先のバレンタインを見越して開発期間二ヶ月と十一日!! 血液中に溶け込むことでその人物を思いのままに操る事の出来るスーパー洗脳ナノマシンいるバレンタインチョコレート。さあ食べなさい。相原先輩食べなさい。これを食べて私の忠実なる僕と化すのです―――――!!!」
 真っ暗なゼミ室にハート型のチョコレートを持って飛び込んできた千里は、ゴスッと言う鈍い鈍い音を耳にした。
「………なんですか。人の偉大なる発明に立ち会わせ、あまつさえその実験台にしてあげようと思っていたのに。仕方ありません、出直すことにしましょう。とりあえずこれを先輩の口に捻じ込んで、佐藤麻美に対する究極の切り札に……」
 物騒な事を口にしながら、音の正体を見極めずに千里はゼミ室を後にした。

「あ…あはははは……先輩と放置プレイ…先輩と放置プレイ……あはははは………」
 翌日―――工藤弘二が頭から血を流して発見されるのは、まだ十時間近く先の話であった。


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