Xchange紅一点!〜たくやの周りはみんな♂〜(1R・2R) −3


CASE3:渡辺美由紀と演劇部



 やっとついた……舞子ちゃんと一緒に宮野森学園前のバス停を乗り過ごしてしまい、戻ってこれたのは二時限目も半ばに入ったかと言う時間だった。
 舞子ちゃんは初体験の興奮と射精のし過ぎで足腰立たなくなって、結局Uターンのバスでそのまま帰宅。心配なのであたしも付き添ったんだけど、舞子ちゃんたら火照った体を普通のバスでグイグイ押し付けてきて……スカートに張ったテントを他の乗客に見られないかと冷や冷やさせられっぱなしだった。
 それはともかくとして……学園に着いた事は着いたんだけど、どうも様子がおかしい。
 いつもなら不審者が入って来れないようにと閉めてある校門も開いたまま放置されているし、上手く口では言えないんだけれど……嫌な予感を自然と湧き上がってくるような器用な雰囲気が漂っている。空は何処までも晴天が続いているのに、後者からは黒っぽいオーラが立ち上っているような気もするし、女になってから鋭くなった危険センサーが唸りを上げて警戒サイレンを鳴り響かせている。
 ―――できれば回れ右してズル休みしたいけど……
 一歩足を踏み入れれば妊娠すると言われても今日の宮野森学園でなら信じてしまいそうな、そんな予感。……だけど今のあたしには、局部だけ男になってしまった明日香や舞子ちゃんの事で千里に問いたださなくてはいけないと言う使命がある。もしこのまま帰ろうものなら、部屋で待ってる明日香の筆おろしをしてあげるどころか、どんなに恐ろしいお仕置きが待っている事やら……
 覚悟を決めよう。何もとって食われるわけじゃない。それに予感なんて不確かなもの、当たる方がおかしいのだ―――意を決し、学園内に足を一歩足を踏み入れてみるけれど、これといって何かが起こるわけでもない。そのまま二歩、三歩と進んでみるけれど、平和な学園の敷地内で突然不審者に襲われて茂みに連れ込まれたり、落とし穴や地雷などのトラップが仕掛けてあるはずはないのだから。
 ―――思い過ごしかな?
 朝から騒動続きで神経質になっていたのかもしれない。何も怒らないことで胸も軽くなったあたしは遅刻している事を思い出し、まずは職員室に顔を出さなければなどと考えながら早足で下駄箱へと向かう。
 そしてそこで、地面を埋め尽くすほど大勢の倒れ、うな垂れている男子たちを目撃する事となった。
 ―――な、なんじゃこりゃ〜〜〜!?
 死体が並んでいるのかと思ったけれど、そうじゃない。地面に日光浴さながらに制服姿のまま倒れている男子たちも、中庭に設置されたベンチの周囲で力なく座り込んでいる男子たちも、苦しそうなうめき声をもらしているものの死んではいない。よく見ると男子たちの中に寺田先生や佐野先生まで混ざっているけれど、この二人に関しては気を失ってくれてる方がありがたい。
 とりあえず情報収集しよう。「返事がない。ただの屍だ」なんてメッセージを想像しながら、見知った顔の男子を一人抱え起こして頬をペシペシと叩く。
 お〜い、生きてる〜?
「あ……ああぁ………棒が……金が………う、うわぁあぁぁぁ!」
 む、あたしの顔を見た途端に逃げ出した。失礼なヤツだな……でも、棒? 金? この学園に金の延べ棒でもあったのか……って、あったとしてもこんなに大勢人が倒れるはずもないし。
 よし、次。今度は多めに、ペシペシペシペシ。
「ううッ……じ、地獄だ……校舎の中は……俺たちの想像を越えた悪魔が、サバトが……デ、デ○ルアナラ○ズ、助けてケルベ□ス―――!」
 あんたはゲームのやりすぎだ。寝不足だったら寝てなさい。さて次は……お、大介がいた。こいつに優しい介抱はいらないわね。ゲシッと。
「グエッ!………た、たくやちゃん?」
 ええ、そうよ。この有様は一体何があったのよ。知ってることがあったらきりきり答えなさい―――やっ、こら、なに盛った犬のようにスカートの中に頭を突っ込んでくるのよ!?
「おお、おおおおおおおおおおおおっ!? 女だ、たくやちゃんは女のままだァ! スベスベの太股、湿った股間!……なっ、湿ってるってことはもしかして感じちゃってゲブハァ!」
 学園内でなんてセクハラなことしてんのよ、あんたはぁああああああっ!!!―――あたしは大介の頭を両手で固定して腰を引くと、怒りを込めた膝蹴りをしまりのないスケベ顔の真ん中へと叩き込んだ。
 諸悪の権化はその一撃で見事に気を失い、仰向けに倒れこむ。……だけど第二、第三の敵がすぐまたあたしの前に立ちふさがろうとする。
「お…オンナァ……オンナダァアアアアアアアアアアアッ!!!」
「ああ……傷心の俺を癒してくれるのはたくやちゃんだけだよぉ………愛を、俺に愛をぉ〜〜〜!!!」
「ハァ、ハァ、ハァ、女、女オンナおんな女オンナだぁ! パンツは俺の、ブラジャーは俺の、みんな俺のだぁぁぁぁ!!!」
 こいつ等いったいなんなのよ!?―――そういえば倒れている人の中に女子の姿が一つもないけれど、あたしへ向かってオンナオンナ言いながら迫ってくるのは、なんか関連があるの!?
 一人、また一人と起き上がった男子たちはゾンビのように立ち上がり、力ない足取りであたしの方へと押し寄せてくる。けれどあたしに近づき、こちらの姿を視界に捉えると、ゾンビ男子たちの目に力がみなぎりだしていく。
 ―――こ、このままじゃ、あたしここにいる何百人かの男子全員に犯されるぅ〜〜〜!!!
 冗談じゃなく、そうなってもおかしくない雰囲気が目の前の男たちにはある。かと言って、下手に走って逃げたりしたら、相手の狩猟本能に火をつけて追い掛け回されないとも限らない。
 どっちにしても襲われるなら逃げられる可能性のある方を試みたいけれど、どう逃げればいいのか……ジリジリと迫る男子たちを前にして思案に暮れていると、いきなりあたしの手首を握り締められてしまう。
「相原くん、こっち!」
 え……み、美由紀さん!?
 長い髪の毛にモデルさながらの高い身長、そしてFカップの膨らみはこんな状況でも見間違えるはずがない。あたしの手を引き、駆け出したのが美由紀さんだと気付くと、貞操の大ピンチだと言うことも忘れてホッと胸を撫で下ろしてしまう。
 美由紀さん、無事だったんだ……なんかもう、女子は男子に食べられちゃったんじゃないかと思っちゃった……
「話は後。とにかく校舎の中へ!」
 だけど男子があんなに大勢下駄箱をガードしているのにどうやって……とりあえず美由紀さんについて走っていると、不思議な事に男子たちは積極的に追いかけてこない。
 思いがけず追跡の足がゆるみ、そのまま男子たちを避けて校舎を回りこむ。そして周囲に男子がいないのを確かめると、美由紀さんは廊下側に面した窓を開け、産に手を付いて身軽に飛び越えてしまう。
「はい、手に捕まって。相原くんじゃ飛び越えられないでしょ?」
 ううう……情けない話ですが、元男だとか関係無しに窓枠が高すぎて……
 運動神経ゼロはゼロなりに美由紀さんに手を引いてもらい、窓の枠へとよじ登る。そして何とか校舎内に入り、窓をキッチリ閉めて鍵を掛けると、あたしは安堵しながらその場にへたり込んだ。
 なんで校舎に入るだけでこんなに苦労しなくちゃいけないのよ……そりゃ遅刻したあたしが悪いんだけどさ、だからってこの仕打ちはないんじゃないかなぁ……
「うそ!? もしかして何の事情も知らずに遅刻してきただけなの!? 体に異変とか無かったの!?」
 異変も何も、朝からとんでもない事が……それよりも下駄箱前のあの連中よ。一体なんなのよ、アレはぁ!?
「う〜ん……説明するのは難しいんだけど、簡単に言うとショックを受けて黄昏れちゃってる男子たち。今日は朝から失恋話が数え切れないから」
 なにそれ?
「今朝学園に来たら彼女の方から別れ話を切り出されたとか、男の方から彼女に罵声を浴びせて破局になったとか、もう滅茶苦茶よ。錯乱して屋上から飛び降りようとする人が出たぐらいだから。―――それもこれもゼ〜ンブこれのせいでね」
 美由紀さんが下を指差すので、座り込んで見上げていた視線を指の向いている方に降ろしていく。
 ―――おお、いつ見ても大きな胸で……最近あたしの胸も膨らんで来てるんだけど、まだ美由紀さんには一歩及ばないか……
「胸じゃなくて、もっと下」
 下?………うん、キュッと括れたウエストは健康そのもの。どんな衣装でも着れる様にって日々の節制を欠かしていない、まさに役者の鏡よね、美由紀さんてば。
「惜しいんだけど、もう少しだけ下」
 も、もっと下!? でも、ここより下となると……み、見ちゃってもいいの? 一応ほら、あたしは中身が男だし、座ってるこの位置からだとスカートの中がちょっと覗けちゃったりするかな〜とか期待しちゃうんです、あはははは…♪
「もう、なに馬鹿なことばっかり言ってるのよ。……だったらいっそ、めくって見せてあげよっか?」
 えええええええええっ!? 待った待った、ちょっと待ったぁ!……美由紀さんが言葉どおり、自分のスカートに手をかけるのを見て、あたしは慌てて押し止める。いくら授業中で廊下に人がいないと言っても、こんなところでスカートをめくらせるなんて、そんな事をさせるわけにはいかなかった。
「別に見られるぐらい気にしないわよ。女子にはみんな付いてるんだし。相原くんにだって付いてるんでしょ?」
 そ、そりゃあ、あたしも今は女の身体な訳ですから付いてると言えば付いてるんですけど、どちらかと言うと無くなったほうかな〜なんて。あは、あはははは……
 笑い声がどうにも乾いてしまっている。男心としては美由紀さんのスカートの中を見せてもらえる大チャンスを棒に振った直後の笑えない冗談に、どこかから針のの筵(むしろ)が現れてその上に座らされているような気分になってくる。
 ―――だけど、
「えっ……相原くん、付いてないの!?」
 美由紀さんがちょっと想像していなかった驚き方をすると、あたしのすぐ目の前にしゃがみこみ、あたしのスカートに手をかけてガバッとめくり上げてしまう。―――って、キャアアアアアアアアアッ!!!
「本当だ……相原くん、おチ○チンが付いてない。なんで? どうして相原くんだけ!?」
 どうしてもなにも、あたしが千里のせいで女になっちゃってるのは美由紀さんも知ってるじゃない! それを何で今さらそんなに驚くのよ、てかスカートから手を離してぇ〜〜〜!
「あ、ゴメン。……でも不思議よね。ほら、学園中の女の子にはみんな付いてるのに」
 取り乱すあたしとは裏腹に、スカートから手を離した美由紀さんはあっけらかんと自分のスカートをめくり上げてしまう………が、そこには見慣れたモノがついていて……
 み、美由紀さんにもおチ○チンがぁあああああああああああああッ!!?
「声が大きいってば……恥ずかしいじゃない。聞かれたからって今さらどうこうって事はないけど」
 あう、ごめん。―――でも、このモッコリが学園中の女子に付いてるって……か、考えただけで頭痛くなってきた。下駄箱前でうな垂れてた男子たちの気持ちも分かるわ……
「女の子の方がショックなんだから。朝起きて、自分の股間におチ○チンが付いてたのよ? 現に半分以上の女子が今日は欠席してるし。片桐さんもそうだったんじゃない?」
 うん、まぁ……朝からあたしの部屋に押しかけてきた。あんなにうろたえてた明日香も初めてかも。
「そう言う事情もあって、今日は臨時休校。どのクラスも授業はやってないし、女子はみんな教室でジッとしてるわ」
 え……休みになったんなら帰ればいいのに……
「簡単にそう言うけどね……女の子におチ○チンが生えてきたのが宮野森学園限定っていうのが問題なのよ。原因になったウイルスや病原体が学園内にうようよしてるかも知れないから、むやみに外へ出るのはやめた方がいいらしいのよ。下手したら被害拡大、街中にバイオハザードが起こるかもしれないし」
 バイオハザードって……確かに女性が全員アソコだけ男性になったら、最悪子孫繁栄できなくて人類が滅びかねない大問題だし……
「一応男子は先生も含めて外へ放り出して、今は投稿してきた女子は校舎内に自主的に隔離って事になってる。保健所にも連絡を入れてあるけど、症状が症状だからどう対応していいのか決めかねてるみたいよ」
 ……そ、そうだ。千里よ。こんな異常事態をやらかすのはあいつしかいないんだから、さっさと元に戻させればいいのよ!
「河原さんねぇ……実は行方不明なのよ」
 ウソッ!?
「残念ながらホント。今のこの学園で、この状況を何とかできるのはあの子だけだからってみんなで探したんだけど、どの教室にもいなくって……朝、登校してきたのを見たって子がいるから、どこかにいると思うんだけど……」
 そうなんだ……ったく、いつもなら「貴重なデータです。是が非でも収集しなくては!」とか言って周囲の迷惑を省みずに突っ走ってそうなのに……こんな時にどこへ行ったって言うのよ……
 ともあれ、明日香と舞子ちゃんだけかと思っていた体の変化が学園全体を巻き込んだ大規模なものだと分かった以上、一分一秒でも早く千里を見つけ出して解毒薬なり何なり作らせなければいけない。いざとなれば、あたしと同様に女性化の薬を飲ませる事でおチ○チンだけを上手く消し去れるかもしれないし。―――となれば、こうしちゃいられない!
「どうしたの?」
 どうもこうも、千里を探してくる。同じ部活の付き合いだし、千里がいそうな所はいくつか思い当たるところもあるし。まっててね、すぐに千里を見つけてみんなを元の体に戻してあげるから!
 科学部部長の使命感と言うか、この異常事態を何とかできるのがあたしだけなのだと思うと、つい拳を固めて決意まで固めてしまう。
 だけど……そんなあたしのやる気に水を指すような言葉を美由紀さんが口にする。
「それよりもさ、演劇部の部室に寄って行ってくれないかな? もう騒ぎも一段落しちゃってるんだし、ちょっとぐらいならいいでしょ?」
 でも……美由紀さんだってイヤでしょ、おチ○チンが付いてるのって……
「ううん、全然」
 ―――へ?
「だっておチ○チンが生える機会なんて、これから先、一生ないかもしれないのよ!? これはチャンスなの、神様が私に演劇を極めろって言ってくれてるのよ!」
 もしも〜し、美由紀さん、あたしの声が聞こえてますか〜?
「今なら私にも分かる。半陰陽の肉体を周囲から蔑まれるアンドロギュヌスの気持ちが、心が、感情が!―――と言うわけで、今すぐ練習したいのよ。今のこの熱いパッションを理解するためにも、相原くん!」
 は、はい!?―――しまった、つい返事をしちゃったぁ!
「それじゃあ演劇部のレッツゴー! 授業はないんだから今日はとことん付き合ってもらうわよォ!」
 うわ〜、拉致監禁だ、人さらい〜! あたしには千里を見つけると言う指名があるのにィ〜〜〜!!!
 ―――と、そんな事をあたしが叫んでも、演劇魂に火の付いた状態の美由紀さんを止められるはずもない。
 哀れあたしは美由紀さんに手首を掴まれてしまうと、引きずられるように演劇部の部室まで連れて行かれることになってしまったのだった……


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