その2@


翌日。たくやは朝の昇降口に入ったところで、携帯の電源を切ろうとしてメールの着信に気付いた。差出人は SST…三人組のリーダー格、佐藤だ。名前を直接入れるのが躊躇われ、三人のイニシャルの頭文字を入れて いる。 教師用の女子トイレに入り(元男なので生徒用は使用しないように云われている)メールを確認する。そこには 短い文章が入っていた。 『宮村を誘惑しろ』 どういう事なのか…三人が宮村に良からぬ悪巧みを企んでいる事はすぐに判った。 だが自分に教師を誘惑させて、何がしたいのか…それが判らない。 それに…自分は決して三人の言いなりになっているわけではない。単にHの相手になってもらっているだけだ。 女の子の身体になって男には味わえない快感を知り、男に戻らない選択をしたのも…全部自分だ。三人に誘わ れても、イヤな時は(めったになかったが)断わったし、三人と離れても別の男とHすれば良い…それだけの 話だ。 この女としての快感を手放すつもりは無い。(で、なければ男に戻らない決心をした意味がない)しかしあの 三人の奴隷のなるつもりはさらさら無い。 …たくやはすぐにメールを消去して教室へと向かった。 「たくやちゃん!」昼休み。昼食を終え、誰もいない屋上にいたたくや…いまだに晒される好奇の目から逃れる ため…に声を掛ける男達。三人組だった。 「…何?こんなところ見つかったらまた宮村先生に怒られるわよ」無愛想な態度で接するたくや。 「あぁ〜つれないなぁ〜〜…あんなに激しく愛し合った仲じゃないかぁ」 「…勘違いしないでね。あなた達とはあくまでHだけの関係。それだけよ。それも昨日でお終い…今度見つかっ たらお互いただじゃ済まないし」 「学校でやらなきゃいいんじゃないの?」鈴木がニヤニヤしながら話し掛ける。 「…今日から毎日、宮村先生が帰りに家まで送ってくれるって。これ以上何かあったら申し訳無いって」 「何!あの野郎」鈴木が声を荒げる。 「…ふ〜ん」妙に落ちついた感じの佐藤。その冷静さが妙に気になるたくや。 「…で、なんか用なの?用が無いなら教室へ戻るわ」 「まぁまぁ焦らなくてもいいじゃない。メール見た?」 「見たけど…そんな事する理由が無いわ。あたし、別にあんた達の命令を聞く義務無いし…」 「そんなに宮村先生に義理立てしなくたっていいじゃない…むしろ俺達の関係を邪魔した張本人だぜ」 「べ、別に義理とかそんなんじゃ…」 「まぁ、黙っててもらったんだから“先生ありがとう!”ってなモンなんだろうけどさ」 「違うわよ!!」それまで鬱陶しそうに話していたたくやが声を荒げた。 「怒らない、怒らない…まぁ怒ったたくやちゃんも可愛いけど」 「戻るわ」 「まぁ待ってよ。これ見てからでもいいじゃない。ほら…」 そう云って佐藤は携帯の画面をたくやに見せる。 面度臭そうにそれを覗くたくや。 「何これ?…どっかの教室の入り口でしょ。これがどうしたのよ」 「判らないかなァ…ちょっと暗いけど人影が見えるでしょ…見た事のあるジャケットの色が」 「あぁ…宮村先生…でもこれが?」 「まだ判らない…これを撮った時ってね、たくやちゃんが俺と鈴木に前と後ろの穴に入れられてよがっていた時 なんだよ」 「う、嘘、嘘よ!先生が来たのはあたし達の行為が終わった後…」 「それが違うんだなぁ。これはあの時、田中が気付いてこっそり撮ったんだけど…あいつは俺達の行為をいつか らか判らないけど、ずっと覗いていたんだよ」 もちろん携帯の写真はその時のものではない。今日の午前中に田中が教室に入ってくる直前の宮村を撮ったものだ。扉はどこの教室も変わらないので、周りの風景を入れなければどの教室なのかは判らない。また三人組も 宮村が覗いていたという確信があるわけではなかった…覗いていたのは紛れもない事実なのだが…それは三人 もたくやも知らない事だった。


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