第1話 動き出す陰謀


「おはようございます、はるかお嬢様」  食卓で、お父様と朝食を摂っていると、その人は私に朝の挨拶をしてきた。 「あら、外堂さんおはようございます」  この人は私の執事をしている、外堂元康さん。私が幼い頃からのお目付け役のよう な人。 「今日は随分お早いお目覚めだったんですね? お部屋に伺ってもいらっしゃらない ので驚きましたよ」 「私だって、何時までも子供じゃありません」  私も、今週の土曜日には16歳になる。昔なら立派な大人だもん。 「それは失礼を・・・・・・」  仰々しく頭を下げる外堂さん。別に怒ってるわけじゃないのに・・・・・・ 「それより、そろそろ学校に行かないと・・・・・・」 「そうですね。では、すぐに車の用意を・・・・・・」 「うん」  私は、椅子に座ったまま、この場を去っていく外堂さんを見送った。 「はるかも早く、準備をしなさい」 「は?い、お父様」  お父様に言われて席を立つ。 「そういえば、今日もお母様はお仕事?」 「あぁ、まだ当分帰って来れないそうだ」 「そう・・・・・・」 「だが、土曜日には一度帰るとも言っていた。私も努力する。だからそんな哀しそう な顔をするんじゃない」 「ホント?」 「あぁ」 「ありがとう、お父様」  普段からあまり家族での団欒というのが取れないのが我が家の常。それは、お父様 は会社の会長。お母様は、世界を渡るデザイナーだから。だから二人とも多忙で、今 日だってお父様が朝食にいるのが珍しいくらい。 「それじゃあ、行って来ます。お父様」 「あぁ、気を付けて」  私の名は、繭品 はるか。家柄はあまり関係無く、全く普通の女の子。自分では、 そう思ってる。そう、あの日が訪れる日までは・・・・・・ 「いよいよ、今週ですね? はるかお嬢様」  対面のシートに座っている、はるかお嬢様にそう声をかける。 「え? うん、そうだね」  何か、良い事でもあったのだろうか? 嬉しそうな微笑でそう応えてきた。 「何か、良い事でも?」 「え?」 「とても嬉しそうな表情ですので・・・・・・」 「やだ、顔に出てる?」 「はい・・・・・・」  無意識の内に笑っているようだ。どうやら相当嬉しい事があったらしい。 「あのね、今年の誕生日なんだけど・・・・・・」  顔を俯けて、照れたように頬を赤らめるはるかお嬢様。一体何があったのやら ・・・・・・ 「お母様が久しぶりに帰ってくるって・・・・・・それに、それにね。お父様も!!」 「ほう、それはそれは・・・・・・」  なるほど、滅多に揃う事の無い両親が揃う可能性があるからか。しかし、ただそれ だけでここまで喜ぶとは・・・・・・ 「だからね・・・・・・今から楽しみで楽しみで」 「良かったですね、はるかお嬢様」 「うん・・・・・・」  満面の笑みで頷くはるかお嬢様。この無垢で純粋な彼女に、執事として仕えて早 10年。その10年間、彼女をずっと世話をしてきた。 「しかし、今からそんなに興奮していると、当日に倒れる危険もあります。今は今す べき事をしっかりと成し遂げてください」 「わかってます。でも、やっぱり嬉しい・・・・・・」 「学校でまでその様な表情ですと、周りの方が不思議がります。なるべく早く落ち着 いて下さい」 「はい」  やれやら、こんな事では、今日一日上の空だろう。学校側も、家に報告しなければ 良いのだが・・・・・・まぁ、呼び出されないように祈るしかないか。 「はるかお嬢様。到着いたしました」  ブレーキ音が響き、車が止まる。どうやら、学校に到着したようだ。 「あ、はい。めぐみさん、どうもありがとう」 「いえ、これも運転手の務めですから」 「では、参りましょうか」  そう言って車のドアを開け、はるかお嬢様が出てくるのを待つ。 「それじゃあ、行って来ます」 「お気をつけて・・・・・・」  一礼をし、はるかお嬢様が校門を、潜り、中に入るのを見つめる。 「・・・・・・無邪気なものだな」  そう言いながら車内に入る。 「出せ」 「はい」  俺の指示に、めぐみは車を走らせる。 「随分な浮かれ様だったが・・・・・・この分だと当日はかなり楽しめそうだな」 「・・・・・・」 「所で・・・・・・例の計画の進行状況は?」  運転しているめぐみに、そう訊ねる。 「はい、ほぼ万全な状況です」 「ククク、そうか。これでいよいよ、俺の長年のプランも終局に入るわけだ・・・・・・」  そう、この10年間俺が練ってきた、はるかへの奴隷調教計画がな・・・・・・


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