第2話「理由」


「先生!! 一体これは何なんですか!?」  自分でも珍しく大きな声が出た。でも、それもそのはずだ。何しろ目が覚めたら身 体が女の子になってるんだもん。 「まぁまぁ、そんな大声出さないで。ちゃんと説明してあげるわよ♪」 「・・・何だか妙に楽しそうですね?」 「あら? そう見える?」  えぇ、見えますとも。だって目が笑ってる・・・ 「ふふふ、まぁ気にしないでよ」 「・・・気になるんですけど」 「あら? 女の子が細かい事気にしちゃダメよ?」 「ボクは男の子です!!」 「あら? 随分声のキーが高い男の子ねぇ?」 「・・・先生。ふざけてないでちゃんと答えてください。一体どうしてボクの身体は 女の子の身体になっちゃってるんですか?」 「あらあら、怖い顔ねぇ? 可愛い顔が台無しよ?」 「先生!!」  ますます大きな声が出る。僕ってこんな大きな声が出せたんだ・・・じゃなくて。 「正直に答えてください。一体どうして、ボクをこんな風にしたんですか?」 「可愛いから」  ・・・即答。しかもなんて答え・・・ 「・・・本気ですか?」 「えぇ、本気と書いてマヂよ」  ・・・微妙に読みが違う気がするけど・・・ってそうじゃなくて!! 「そんな理由でボクをこんな身体にしたんですか!?」 「そうよ? それ以外に何か理由がある?」  ・・・サラッと言われても困るんですけど。 「・・・・・」  余りに不条理な答えに、思わず黙り込んでしまう。 「それに、丁度新しい薬が出来上がった所だったから、実験台になって貰おうと思っ てね」 「・・・・・」  今度は怒りの余りに黙り込んでしまう。実験台って・・・ 「・・・本人の許可も得ずにですか?」 「あら? 良く見ると怒った顔も可愛いわねぇ?」 「先生!!」 「はいはい、さっきから先生先生ってボギャブラリーが少ないわねぇ」 「ほっといてください!! じゃなくてぇ!!」  それにボギャブラリーが少ないのは作者が原因であって・・・(ほっとけ) 「声も確実に女の子の高さになってきてるわねぇ? うん、順調順調」  ボクのその声を聞いて嬉しそうに何かを記入する先生。さっきからはぐらかされて ばっかりだ・・・ 「先生・・・」 「ん? あらあら、泣いちゃったの? 困ったわねぇ?」 「・・・グス・・・スン」 「ホント、気性も女の子ソックリねぇ」  ・・・只単に気弱なだけです。 「後少し定着すれば完全に女の子になるわね」 「・・・グス・・・なりたくないです」  っていうか完全に話が逸れてる気が・・・ 「でも、既に後少しの所まで定着してるんだけどね」 「そんな・・・」  じゃあ、後少しで完全に女の子に? じょ、冗談じゃないよぉ・・・ 「そんなの嫌です!! すぐに元に戻してください!!」 「嫌よ」  ・・・また即答ですか。しかも嫌って・・・ 「そんな!? どうして!?」 「君が可愛いから」 「・・・・・」  またいい加減な理由・・・ 「ふふふ、それに、君のその従順で気弱な性格。サディストの血が騒ぐのよ」 「サデ? 何ですか? それ・・・」 「ふふふ、秘密♪」  ・・・も、いいです。 「とにかく、こんな身体じゃ家にも帰れないし、皆の前に出れません!! 元に戻して ください!!」 「もう一度言うわね? イ・ヤ・よ」 「・・・もう一度言いますね? 元に戻してください」 「・・・さらにもう一度言うわね? イ・ヤ」 ・・・あぁ、悪循環・・・ 「・・・もう一度理由を聞きますね? どうしてイヤなんですか?」 「だって・・・」 「なんですか?」 「元に戻す薬なんて作ってなかったしねぇ♪」 「なぁ!? そんなぁぁ!?」 「というわけだから諦めてね♪ それにしてもこうも見事に成功するなんて思わな かったわぁ♪ 今日はお祝いにタップリ飲むぞぉ♪」 「諦めろって・・・そんな!? 早く解毒剤なり元に戻る薬なり作ってくださいよ!?」 「イヤよ。せっかく成功したんだから勿体無いじゃない」 「勿体無いって・・・そんなの酷いです!!」 「だって私酷いし」  うわ・・・自分で言い切ってる・・・ 「そんなぁ・・・」 「それにね、面倒臭いし」 「そんなアバウトな・・・」 「まぁ、今から解毒剤を作ったとしても完成する頃には完全に定着しちゃって元に戻 らないでしょうねぇ」 「・・・そんなに時間がかかるんですか?」 「違う違う。どちらかというと気を失ってる間に殆ど定着が済んだってところかし ら?」 「元に戻る薬の作成は?」 「実はね、この薬って偶然出来た物でねぇ・・・調合法とか解らないのよ」 「は?」 「で、成分を調べようにも全部君に使っちゃったしねぇ」 「へ?」 「ま、つまりは元に戻る方法は無いってことよ」 「ふぇ・・・そんな・・・そんなのって・・・」 「まぁ、諦めて私のペットになりなさい」 「な!? どういう事ですか!?」  いきなり何を言い出すんだろう、この人は・・・ 「大丈夫。優しく躾てあげるから」 「じゃ無くてぇ!! 何処を如何したらそういう話になるんですか!?」 「君が可愛いから」  また同じ事を・・・ 「・・・先生こそボギャブラリー足りないじゃないですか。さっきから同じ事ばっか り」 「そう? じゃ、言い換えるわね?」 「へ?」 「君が女の子のように可愛くて、いくら苛められても歪まないほど精神力があって、 且つ加虐心を煽るイジメテ波を発生させてるから」  ・・・もう何が何だか。 「とにかく、そんなのお断りです!!」 「ダメ?」 「ダメ!!」 「どうしても?」 「どうしても!!」 「絶対?」 「絶対です!!」  しつこいなぁ・・・先生も・・・ 「じゃ、無理矢理しちゃおう」 「そう、無理矢理・・・ってえぇ!?」 「ふふふ、さぁ、覚悟しなさい。タップリ可愛がってあげるから・・・」  そういう先生の表情は、ボクを苛める誰よりも怖かった・・・


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