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もうひとりの私

れいな

第2話
いつもと変わらぬ日常の会話。変わったのは私・・・・・

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「永井君。ちょっといいかなぁ?」

山下が忙しげに近寄ってくる

「?何ですか?山下さん。」
「君が昨日休んだときに、○○○の標準品が有効期限切れ間近だってことに気がついてねぇ。」
「期限の延長をするために再評価を緑山君に頼んだんだけど、いいよねぇ?」
  「えっ?○○○標準品ですか?」
  「それは無駄ですよ。」
「無駄?」
  「確かに一般の標準品の最長有効期限は3年まで延長できることになってますが、
   それは分解しやすいので既に半年ごと2回再評価されています。規準書では
   再評価は2回までになっていますので、3回目の再評価は出来ません。」
「えっ!そうだった?」
  「そうです。」
  「以前、新規の標準品を貰えるように、本社にお願いして下さいと山下さんに連絡
   しましたよね?」
「えっ!そうだっけ?」
  「そうですよ。メールを出しましたよ。そのメール、残ってますけど?」
「えっ!!まずい!緑山君、もう実験を始めてるよ。」
「急いで中止して貰わなくちゃ。やばいなぁ。」
「また、嫌味を言われちゃうよ。まいったなぁ・・・」

山下は慌てて葉子を探しに行く。
まったく相変わらず、何をやってんのよ。いい加減にしてほしいわよ。
リーダーの貴方が、何故に私に教えられてるのよ。
心の中でつぶやく・・・・・

「ちょっとぉ、聞いたわよ!実験中止なんだって?」

葉子が言葉を荒げて居室に入ってくる。

「まったくさぁ、今頃になって。」
「昨日から液クロの準備初めてたのよ。今日だって分析直前まで処理が出来てるのに。」
「いっつもそうなのよね。玲奈が何かをいうと、山やん、すぐに意見を変えるのよ。」
「玲奈の一言で180度変わるのよ。」
  「ちょっとぉ、私は基準書の内容を教えただけよ。」
  「私が悪いわけではないのよ。人聞きの悪い言い方は止めてくれない?」
「だぁってぇ、いつもそうなんだもん。玲奈の一言でコロコロ変わるのよ。」
「玲奈は私達とは違って優秀なのよ。男性からも一目置かれてさぁ。」
「山やんだって、玲奈と私に対する態度は全然違うじゃん。」
「玲奈って、男顔負けよね。普通の男じゃ太刀打ちできないわよね。」
「だから、なんでも玲奈の言う通りになっちゃう。」
「とんだ無駄骨よね。」
「無駄な実験してた私の身にもなってよ。まったく・・・」

まったくと言いたいのは私よ。リーダーの間違いを私は教えただけよ。
何で葉子に、そんなことを言われなくちゃいけないのよ。
八つ当たりは止めてほしいわ。
彼が間違えた指示を出さなければ、こんなことは起きなかったのよ。
どうしてあんな言われ方をしなくちゃいけないのよ。

二言めには
「玲奈は私達とは違って優秀なのよ。男性からも一目置かれてさぁ。」
「男、顔負けよね。普通の男じゃ太刀打ちできないわよね。」
「だから、なんでも玲奈の言う通りになっちゃう。」

こんな言葉で片づける。
彼女流の嫌味。

私はただ、基準書に沿ってないと指摘しただけよ。簡単な事じゃない。
指摘が無ければ、そのまま無駄な実験をしてたのよ。
感謝されることはあっても、責められる理由など何一つ無いじゃない。
大体、彼も彼だけど、葉子だって何年同じ仕事してるのよ。
いい加減、それくらい憶えてよ。
少しは憶える努力をしたらどうなの?
適切な指示なのか、そうでないかぐらい分からない方が不思議よ。
私の意見だから通るわけじゃないのよ!
間違ったことだから修正されたのよ。勘違いしないでほしいわ。

心の奥底でつぶやく。
葉子は仲の良い友人。多分、社内では一番仲が良い友人だと思う。
けれど、彼女のこんな部分が嫌い。 

こんな時は目茶苦茶気分がブルーになる。
自分なりに仕事に対しては厳しくありたいと思ってる。
男なんかに負けたくない。その気持ちから人知れず努力をしてるつもり。
それなのに・・・・・

こんな日は早めに帰宅する。会社に留まっていても、良い事など何一つない筈だから。
帰宅し、部屋のドアを開ける。バッグをソファに投げ、ベットに倒れこむ。
昼間のことを思い出す。
改めて葉子への怒りが込み上げてくる。
やめよう・・・・こんなことを思い出しても精神衛生上よくない。
思い直し、食事の支度に取り掛かる。
夕食のメニューは、バジルとベーコンをトマトソースで絡めたパスタ。
バジルはもちろん生葉を使う。香りが違うから。
パスタはたっぷりのお湯で茹でてアルデンテでなくっちゃ。
お皿はトマトソースが映える白地にブルーのラインが入った奴にして。
サラダは・・・・そうねぇ、何がいいかなぁ?
さっぱりグリーンサラダにして、オニオンスライスを添えて、色にコーンを入れようかな?
器は切り子風のガラスね。
そして、冷えたワインを飲んじゃえ!今日の気分は白ね。
手際よく作り、食べ始める。
食事を作るのは好き。食べる事には気を使う。
一人の食事でも材料、食器にこだわり、見た目、栄養のバランスにこだわる。
見方を変えれば、形にこだわるのかもしれない。

おいしいものを食べる為に働く。それは生きがいの一つ。
本当は誰かの為に作り、食卓を共に囲みたい。
そういう願望はもちろんある。
けれど今は・・・・ぼんやりワイングラスを手にする。
グラスに彼の顔が浮ぶ。
そして、彼に組み敷かれる自分の痴態・・・・・・

再び葉子に言われた言葉が蘇る。

「男顔負けよね。普通の男じゃ太刀打ちできないわよね。」

男顔負け?そう、確かに彼と出会うまでは自分でもそう思っていた。
その私があんなことをするなんて。
彼の命令されるまま、様々な姿態になり、口にするのも憚れるような言葉を口にし、何度も登り詰め、肉欲に溺れた。
私を知る会社の人間には、想像もしない事だろう。そう思うと、背徳感が広がる。
身体に残る痛みが、肉欲に溺れた出来事を呼び覚ます。
思い出すだけで、身体が熱くなる・・・とても・・・・・

彼の声が聞きたいと思った。無性に・・・・・・・
ためらわれたが、酔いが受話器を手にする事を助けた。

トゥルルゥ……発信音が響く
「もしもし?」
  「・・・・あのぉ・・玲子です。」
「へぇ、珍しいじゃん。平日に電話してくるなんて。」
「しかも週末に会ったばかりだぜ?」
  「・・・・・・・・」
「まぁ、いいけど。」
  「ごめんなさい。。。。ちょっと、会社で嫌な事があって。」
  「気分が滅入ってしまってるんです。」
「へぇ、そうなの。まぁ、俺にはそんなことは関係ないからどうでもいいけど。」
「会社で何があろうと、お前がマゾだってことに変わりはないんだからさぁ。」

彼は冷たく言い放つ。

  「・・・・・・」
「なんだよ!違うのかよ?返事ぐらいしろよ。」
  「ぁっ・・・はい。そうです。」
「”そうです”じゃわかんねぇよ。」
「ちゃんとしゃべろよ。自分がなんであるかって事をさぁ。」
  「すっ、すいません。」
  「玲子はマゾです。」

電話をしているのは玲奈でなく、玲子。

「それだけじゃわかんねぇよ。」
「ちゃんと形容詞をつけて説明しろよ。」
  「はっはい。・・・・玲子は、玲子は・・いっ、厭らしいマゾです。」
「そうだよなぁ。どうしょうもない淫乱だよな?」
「ちん○を嵌めてもらう為には、なんでもするしな。」
「普通の女が出来ないようなことまで平気でする雌犬だよなぁ〜。」

そんな・・・・・・・貴方が無理矢理やらせているんじゃない。
好きでやっているわけじゃないわ。
心の中で反論する。

「おまえさぁ、自分では”私はそんな女じゃない!”って思ってるかもしんねぇけど、すげぇ、淫乱なマゾだよ。」
「気づいてねぇかもしんねぇけど。」

彼の言葉にドキリとしたものを感じる。自分の気持ちを見透かされたような・・・・

「食事は終わったのかよ。」
  「はい。今、終わりました。」
「ふぅ〜ん。終わったんだ。今、どんな格好をしてんだよ。」
  「部屋着です。Tシャツに短パンです。」
「脱げよ。」
  「えっ?」
「脱げよ。」

有無を言わせない言葉だった。

ためらう事なく、受話器を手から離し、慌てて裸になり、ベットに腰掛ける。
初夏とはいえ、服を脱ぎ去ると涼しく感じ、裸になったことでなんとなく不安な気持ち
になる。
再び受話器を手にし、脱ぎ終わったことを告げる。

  「いま、今脱ぎ終わりました。」
「お前さぁ、これから部屋で過ごす時は裸でいろ。」
  「えっ?」
「帰宅したら、直ぐに裸になるんだよ。」
「命令だ。俺の気が変わるまで、部屋にいるときは裸な。」
  「あっ・・・でも、でも、誰か来た時は・・・・」
「そん時だけ、着る事を許してやるよ。但し、ノーブラ、ノーパンのまま、服を着ろよ。」
「誰が来てもな。そうだ。食事を作る時は、エプロンだけは着けていいぜ。」
「裸にエプロンだぜ。それ以外は裸でいろ!」
「いいな!」
  「はっ・・はぃ・・・・。」

いつのまにか、会社で起こった出来事など忘れ去っていた。
忠実に彼の命令に従う奴隷になっていた。

「今、裸で立ったままか?」
  「いえ、ベットに腰を掛けてます。」
「床に座れよ。直接尻を床につけろ。」

命じられるまま、床にお尻をつけ、座る。
ひんやりとした床の感触が伝わり、背中にぞくぞくとするものが走る。

「背中をベットに預けるようにして、床にケツをつけろ。」
  「はぃ・・・・」
「足を思いっきり広げろ。」
  「えっ!そんな・・」
「さっさとやれよ。」
  「はぃ・・・・」

傍には誰もいない。けれど恥ずかしさが込み上げてくる。
身体が火照り始める。

「ちゃんと広げたのかよぉ?」
  「はぃ・・」
「はい。だけじゃわかんねぇよ。」
「自分が今、どんな格好なのかきちんと報告しろ。」
「言われなくても、それくらい言えよ。気がきかねぇなぁ。」

受話器越しに聞こえる彼の声に、身体は確実に反応していく。
彼の指示に従うことに、ある種の快感を感じ始めていた。
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