肉欲の罠(修正版) 14

沼 隆

おことわり この作品は、フィクションです。
      登場する人名、地名、団体名は、
      実在するものと一切関係がありません。

登場人物  二階堂千佳子 〈二階堂モダンバレエスタジオ〉主宰
      瀬口 梨奈  瀬口美恵子の長女
      鰍沢  亮  瀬口美恵子の家の下宿生
        *   *   *
      瀬口美恵子 ビューティサロン〈グランス〉の女主人
      瀬口 美奈 美恵子の次女
        *   *   *
      和久井 優香 〈犀星学園〉教諭
      香西  剛  〈犀星学園〉教諭


(1) 千佳子

相模栗原駅から、車で2,3分の場所にあるマンション。
〈スカイメゾン〉
数台の車が、次々に止まり、
華やいだ女性たちの話し声が、響く。
女性たちは、花束や、重そうな衣装ケースを運び入れる。
二階堂千佳子が、弟子たちに手伝ってもらって、帰宅したのだ。

「あとは、梨奈ちゃんにやってもらうから」
瀬口梨奈を残して、ほかの弟子たちは、帰って行った。
「先生、今日の発表会、大成功で、おめでとうございます」
「ありがとう、梨奈ちゃん。あなたが、がんばってくれたからよ」
「最後の先生の踊り、うっとりしてみていました」
「あなたも、来年はもっと難しいのを踊らなくちゃね」
衣装を片付けて、千佳子がシャワーを浴びている間に、
梨奈は、お茶の用意をする。
千佳子は、からだにバスタオルを巻いて、リビングにもどってきた。
「さっぱりした。梨奈ちゃん、あなたもシャワーを使いなさい」
梨奈も、さっと汗を流す。
熱めの湯が、全身を流れ落ちていく。
キモチがいい。

4歳の時に始めた、モダンバレエ。
中学生の時から、
体型が、女らしく変わり始めたころから、
発表会で目立つようになっていった。
二階堂千佳子にかわいがられ、
ほかの生徒には、ヤキモチをやかれながら、
誰もが認めるバレエダンサーに成長していった。

ここひと月あまり、短大の授業が終わると、
毎日、千佳子の稽古場に通った。
厳しく激しい練習の成果を見せる場であった。
〈二階堂千佳子モダンバレエスタジオ〉の恒例の発表会。
稽古に夢中になることで、家のごたごたを忘れることができた。
父親がもとで起こった出来事、
梨奈には、どうすることもできない。

バスタオルでからだを包んで、リビングに行く。
テーブルには、梨奈が用意したお茶と並べて、ワインが用意してあった。
「飲めるよね?」
「はい」
甘口の白ワインは、フルーティで、口当たりがよかった。
「美味しい」
「そう? よかった」
一日の疲れからか、ふたりともすぐに酔いがまわり、ほんのりと赤味がさす。
「梨奈ちゃん、途中の、かなしみを表現するところ、もうちょっとだったわね」
「はい、お稽古のときも、うまくできなくって」
「ちょっと、立ってみて」
千佳子は、梨奈の背後に回る。
「右足を、こうひいて・・・・・・
 そう、そんな具合・・・・・・
 それから、上体をこう、そらせて」
梨奈のからだを包んでいたバスタオルが、はらりと落ちる。
「邪魔ね」
と言いながら、千佳子も、自分を包んでいたバスタオルを取った。
「もう一度やってみて」
梨奈は、先ほど教えられたことを、一糸まとわぬ姿でやってみる。
不思議に恥ずかしさがない。
千佳子先生も全裸だからか、
それとも、ワインのせいか・・・・・・
千佳子は、梨奈の背後に寄り添い、
左手はこう、右足はこう、などと手取り足取り教えた。
梨奈の背中に、千佳子の乳房が、下腹部が触れる。
甘い、とろけるような気分がした。
千佳子の手が乳房をそっとつかむ。
ふたりの動きが止まる。
背後から、首筋に千佳子の柔らかな唇がそっと押し付けられた。
背中には、千佳子の乳房を感じた。
それから千佳子に抱きしめられ、唇を奪われた。
千佳子の舌が梨奈の舌にからみつく。
しびれるような甘美な酔いが梨奈の全身を包む。

ベッドの上に横たわった梨奈の乳首を、千佳子は舐める。
「はぁ・・・・・・」
梨奈は、甘い吐息を漏らす。
やわらかなマシュマロを、そっと摘むようにして千佳子が乳房を揉む。
「んっ・・・・・・」
千佳子の指先が、乳房から、腹へ、下腹部へ、
そして、草叢へ下っていって、淫裂に挿し込まれる。
クリトリスを探し当て、指先で包皮を剥き、突起を刷毛でなでるように擦る。
「あはぁ、先生、そこ、いやぁ・・・・・・」
「ここ、キモチいいのね」
「はぁ・・・・・・いやぁ・・・・・・んっ」
「梨奈のおまめ、膨らんだわ」
「い、いやぁ・・・ん、ん、んぐ」
「ああ、こんなに濡れて」
「ん、ん、ん・・・・・・」
くちゅ、くちゅ、くちゅ
「んはぁ」
ちゅぶ、ちゅぶ、ちゅぶ
「おつゆが、どんどん出てくるわ」
「いやぁ、先生、恥ずかしい」
「見せて」
「え?」
「おまんこ、見せて」
「そんな、先生・・・・・・いやぁ、梨奈、恥ずかしい」
千佳子は梨奈の両足をそっと開かせると、
両手で梨奈の淫裂を左右に広げた。
「わぁ。きれい、ピンク色よ」
と言うと、唇を近づけ、
梨奈の恥部に溢れる淫水をチュッ、と音を立ててすする。
「ああっ、そ、そんなっ」
「おいしい、梨奈、ここ、おいしいよ」
黒ずんだ陰唇に縁取られた淫裂の内側を、丹念に舐める。
「ああっ、先生、そんな、そんなところ・・・・・・」
そこは充血して赤味が増す。
梨奈の淫水と、千佳子の唾液が交じり合って、
溢れだし、肛門のほうへ流れていく。
秘穴は口を閉じている。
(あまり、使い込んでいないようね)
肉の襞に指を差し入れると、
梨奈のからだが、キュンとしなる。
指を挿しいれると、すぐに行く手をふさがれる。
(バージン?)
千佳子が陰門をさらに広げながらそこを覗き込むと、
確かに、さえぎるものがある。
(指で破るのは惜しいわ・・・・・・あれを使ってみよう)
〈あれ〉は、クローゼットに、しまってある。
「梨奈、わたしのも触って」
「え・・・・・・は、はい」
からだを入れ替えるようにして、
上体を起こし加減にした千佳子の腰のあたりに、
梨奈は顔を埋めるようにして近づけ、
それから、千佳子の淫裂に指を挿しいれた。
「ああ、こんなに」
「どうなってる?」
「どうって・・・・・・」
「言って、梨奈、言って」
「すごく」
「すごく?」
「濡れて」
「そう? そんなに、濡れてる?」
梨奈は、ウン、とうなずいた。
「すごい」
膨れ上がったクリトリスが、赤黒く充血している。
おまんこは、ぱっくり口を開いている。
そこに人差し指を挿し入れる。
するりと吸い込まれるように入り込む。
そこは蜜の壷だ。
「もう1本、入れて、」
千佳子にうながされて、梨奈は、中指も挿し入れる。
「あ、いい」
そこにキュッとちからが入り、
梨奈の2本の指が締め付けられる。
蜜が指を伝って溢れ、手のひらを濡らす。
「もっと、おくまで、入れて」
指の付け根まで挿し込む。
何か、突起のようなものが指先に触れる。
柔らかなざらざらした肉の壁に、
1箇所、まるで鍾乳石が下がっているかのように、
そこだけすべすべした肉の突起物がある。
「それを、いじって」
「・・・・・・」
「子宮の入り口よ」
「子宮の・・・・・・」
「そうよ、っ」
ワギナの奥、小指の先ほどの突起。
梨奈は、それを人さし指と中指でつまんだ。
「ああ、いい、いいわ、梨奈、
 もっと、もっとして」
千佳子の頬が紅潮している。
梨奈を抱き寄せると、激しく口付けをした。
「ああ、いい、いいっ」
千佳子は、梨奈の指をそこに挟んだまま、尻をわなわなさせた。
嗚咽をあげながら、ベッドに倒れこむ。
「ごめんなさい、梨奈、わたしだけ、イッてしまって」
「そんな、先生」
「梨奈も、いかせてあげる」
「先生」
うずうずした感覚が残っているのか、
千佳子は陰毛に覆われた恥丘を千佳子の恥丘にこすりつける。
千佳子の淫裂から溢れ出た淫水が、梨奈の太ももを濡らす。
千佳子は、もどかしいようにからだを梨奈に押し付ける。
ふたりの乳房が互いを押しつぶす。
「梨奈、好きよ」
「先生」
千佳子は、ベッドサイドテーブルに手を伸ばした。
飲みかけの、ワイングラスが置いてある。
おいしそうに、一口飲む。
それから、口移しで梨奈にのませる。
舌が、ねっとりと絡み合う。
酔いが興奮に火をつける。
「せ、先生」
梨奈は、千佳子の唇を求めていた。
「あっ」
千佳子は、梨奈の乳房を吸う。
「ほら、こうすると、もっとよくなる」
「ん、んぐっ、先生、梨奈、どうか、なりそう」
「いいのよ、梨奈、イッていいのよ」
「先生、ん、ん、んくっ、ん」
千佳子は、クリトリスから淫裂へと指を滑らせる。
チュプ、クチュ
先端部を、蜜壷に挿し込む。
狭くて、先に進めにくい。
力をくわえて、くいっ、と少しだけ進入させる。
穴はさしたる抵抗を示さずに、口を広げる。
蜜がこんこんと湧き出してくる。
「梨奈、感じやすいたちなのね」
「いやぁ、あ、いきそう、いく、イッてしまう」
「イッて、梨奈、イッて」
「ああ、いい、いい、んんっ!」
梨奈は、尻をぶるぶる痙攣させながら頂点に達した。

千佳子は、梨奈の唇を吸う。
「よかった?」
梨奈は恥ずかしそうにコクリとうなずく。
「梨奈、恥ずかしがらなくていいの。
 セックスのときは、思いっきり自分を解放するのよ。
 相手の前で、自由に振舞えることで、
 大きな悦びが得られるの。
 もっと大胆になって」
千佳子の言葉に、梨奈は
(そうかもしれない、)
と思った。
「梨奈、わたし、男が嫌いなの。大嫌いなの。
 何度も恋愛したけど、男ってとっても不潔。
 男がセックスしたがるのは、愛しているからじゃないの。
 ただ、出したいだけなのよ。
 溜まってるものを女の中に出したがってるだけ。
 汚い精液を。
 女のからだを、便器みたいに思ってるのよ。
 わたしの先生のディック和田は、女の弟子と片っ端寝てる。
 あいつ、ブスでもなんでもいいの。
 おまんこがついていればいいの。
 ひどい男よ。
 ふん、わたしも何度かやられた。
 やらせないと、舞台に立たせてもらえないのよ」
「今でも?」
「まさか」
「ごめんなさい」
梨奈は、母の愛人、大田黒又造を思い出していた。
(わたしも、男なんか、大嫌い
 あの、太田黒っていうママの愛人
 脂ぎってて、いやらしいだけなのに。
 でも、ママ、あの男と)
「どうしたの、梨奈?」
「ううん、なんでもないんです」
「梨奈、カレシ、いないの?」
「ええ」
梨奈の心に安倍晋のことが浮かぶ。
合コンで知り合った、5歳年上の男。
〈東峰薬品〉で薬の研究開発をやっている。
一度ホテルに行ったのだが、
はじめてだったらしくて、
梨奈に挿入しようとして、
入り口のヌルヌルに触っただけでイッてしまい、
すっかりしらけてしまった。
それから、毎日のように電話をかけてくるのだが、
いいかげんにあしらっている。
こんなのは、カレシとはいわない。

(2) 破瓜

「もう1度、楽しみましょう」
梨奈は、うなずく。
千佳子は、奇妙な形をした黒いパンティを取り出し、手早く装着する。
それは、ベルトでしっかり腰に固定する様式のものだ。
パンティの外側に、男根のような突起物、ディルドが生えている。
千佳子は、腰のベルトで、しっかりと固定する。
すると、千佳子の恥丘のあたりから、
まるで男でもあるかのように、
ニョッキリとペニスが屹立しているのである。
梨奈は、信じられないものを目の当たりにして、呆然としている。
乳房を持った男
男根を持った女
千佳子の表情が、心なしきりっと引き締まって、
ダンスを指導するときの顔つきになった。
千佳子は、再び梨奈を抱きしめる。
千佳子は梨奈の愛撫を再開した。
乳房をもみ、腹に口付けをし、
次第に下腹部へと下がっていって、
淫裂をなめまわし、十分潤っていることを確かめる。
それから、梨奈の両膝を立ててM字に開かせ、
淫裂に人造ペニスを挿しいれようとした。
「あ、いやぁ、先生、やめて、いやあ」
梨奈は、ようやく千佳子が何をしようとしているのかわかった。
「だめ、先生、やめて」
梨奈は、抵抗しようとする。
「あっ」
ブチュ
先端が、入る。
膣口を広げる。
「いやあ、先生、いやあ、やめて」
千佳子は、腰に力をこめると、グググッと思いきり突き出した。
「ギェッ」
梨奈は、悲鳴を上げた。
同時に、ディルドは侵入を阻んでいた膜を引き裂いて、
最深部へとはまりこむ。
「いたいっ、いた、いたいっ」
千佳子は、情け容赦なく、梨奈を犯す。
梨奈の両目から、涙が溢れる。苦痛と屈辱と、
「抜いて、抜いて、先生、お願い」
千佳子は、梨奈の尻をグイッと抱え上げた。
ディルドは、子宮を突き上げ、
梨奈は、あはぁ、あはぁ、あはぁ、と泣き出す。
千佳子の目には、サディスティックな悦びが妖しく光っている。
額には、うっすらと汗が浮かんでいる。
はぁ、はぁ、と息が荒くなっている。
腰の力を抜いたひょうしに、
梨奈のからだからディルドがするりと抜け落ちて、
鮮血を含んだ淫水が、滴ってシーツを赤く染めた。

男ならぬ、女に犯され、処女を奪われて、
梨奈は千佳子のマンションを出る。
行為のあと、千佳子は梨奈を抱擁し、口づけした。
しかし、痛みは去らなかった。
もう、肉穴には、なにも入っていないのに、
何か、はさまったままのような気持ちがするのだった。
千佳子とキスを交わし通路に出た。
エレベーターの扉が閉まろうとしていた。
梨奈は、はっと息をのんだ。
エレベーターの中に、若い男がいた。
それが、亮によく似ていたからである。
扉が閉まり、エレベーターが下りていった。
エレベーターが迎えに昇ってくるのを待つ。
亮は、梨奈に気づいたのではないか、
気づきながら、知らん振りをしたのではないか、
という疑念が浮かんだ。
梨奈がエレベーターに向かっているのに、
待とうとしなかった。
気がつかなかった、というのか。
しかし、こんな場所、こんな時間に、亮がいるはずはない、
淫裂から、生暖かいものが滲み出す。
出血は、続いている。
千佳子と過ごした数時間が、甘い悦びと、痛みとを伴ってよみがえる。

(3) 美奈

日曜日、美恵子は仕事に行った。
梨奈は、友だちと約束がある、と出かけてしまった。
家には亮(りょう)と美奈が残っている。
亮がベッドの中でうとうとしていると、
ピンクのパジャマ姿の美奈が入ってきた。
美奈は、目を真っ赤にしていた。
「どうしたんだよ」
「え?」
「目が、はれてるよ」
「いやじゃないの?」
「なにが?」
「この家、出て行くんだよ」
「ああ」
「いやじゃないの?」
「おれには、どうしようもないよ」
「だって、だって、」
「おばさんの話だと、今までどおり学校に行けるんだろ?」
「そうだけど」
「住むところが変わるだけだよ」
「亮ちゃんと、はなればなれになるんだよ、」
「なに、言ってるんだよ」
「亮ちゃんのそばにいたい、」
(うそだろ?)
2歳年下の美奈は、かわいらしい顔をしている。
母親の美恵子に似て、きりっとした顔立ちではあるが、
幼さを残しており、梨奈のようなとんがったところがない。
同居するようになって、年上の梨奈のほうに色気を感じ、
美奈は、ほとんど気にもとめなかった。
が、こうしてそばで見ると、
かわいらしいし、セクシーでもあるのだ。
亮のペニスが、硬くなっていく。

美奈は、亮の個室に、無防備にもパジャマ姿で入ってきた女である。
亮は、美奈を抱き寄せた。
美奈は、目を閉じて、亮に身を任せた。
パジャマの胸のボタンに指をかける。
美奈のからだが、かすかに硬くなった。
けれど、抵抗しなかった。
唇を吸い、乳首を吸い、乳房を揉み、
そして、パンツを脱がせた。
淫裂に指を挿し込むと、そこは十分に濡れていた。

亮の腰の動きに合わせて、
ベッドが、ぎしぎしと音を立てる。
美奈は、亮の腕の中で、目を閉じ、
頬を紅潮させて、
かすかにあえいでいる。
キモチいいのか、それほどでもないのか、
初体験?
どうだろう?
けれど、慣れてはいないようだ。
愛らしい美奈を見つめながら、
亮は、ずたずたに引き裂いてやりたくなっている。
発射直前にサオを抜くと、
手でしごきたてながら、
美奈の顔面から胸に精液をぶちまけた。
中出しは、しない。
面倒なことは、ごめんだ。
「美奈、処女じゃないんだね」
美奈は、目を大きく見開き、
愕然とした表情で、亮を見つめる。
「処女膜なかったぜ。
 おれが破りたかったな。
 よそのやつに先を越されたわけだ」
美奈は、大粒の涙を浮かべながら起き上がろうとする。
「おい、ベッド、汚れるよ」
亮は、これでからだを拭け、というように、
床に落ちていた美奈のパンティを拾いあげて、
美奈の腹のうえに放った。
美奈は、パンティをつかんだ。
胸と顔面にぶちまけられた精液を拭き取りながら
「こ、子供のとき、
 幼稚園のとき、
 シーソーで遊んでて、
 そのとき、
 破れた、」
「へえ、そんなことも、あるんだ、ふううん」
美奈がわっと泣き出す声を背に、亮はトイレにいった。

7月初旬の土曜日の朝、亮は瀬口の家を出た。
美恵子、梨奈、美奈、
瀬口家の女3人が、見送った。
〈スカイメゾン〉の部屋には、住めない。
どこか、下宿を取りつくろえる家が、必要だった。
残間が、知り合いの不動産屋、島袋鉄次郎の家の離れを見つけてくれた。
大学受験まで、あと半年だ。

その日の午後、引越し業者のトラックにわずかな家財道具を積んで、
美恵子とふたりの娘は住み慣れた家を後にした。
2DKの賃貸アパートでは、狭かった。
家財道具のすべてを運び込むことはできなかった。
家具の大半は処分した。
美恵子の家は買い手がついたが、予想を下回る金額であった。
残間に借金を返済してしまうと、手元に残らなかった。
引越しまでの1週間は、準備に追われた。
梨奈には、二階堂モダンバレエスタジオの発表会、
美奈には、期末試験。
あわただしい1週間だった。
駅から近くて便利なアパート、ということしか知らされていなかった梨奈は、
その古ぼけた建物を見て、呆然とした。
美奈にとっては、中年の刑事に処女を奪われた、あのアパートであった。
これからの家族の住まいが、あの部屋のすぐ近くだと知ったとき、
美奈に恐怖がよみがえり、からだが震えた。

美恵子ガアパートを探している、と友人の鮫島雪絵に話すと、
雪絵は愛人のマンダに話をし、そこから島袋不動産に話がいって、
このアパートに決まったのであるが、
マンダの悪巧みが隠されていることを、
美恵子母娘は知る由もない。

(4) 露見

「ん、ん、あ、いやぁ」
「もう、こんなに濡らして」
「ああ、せんせい、だめぇ」
「梨奈、好きよ、ああ、だい好き!」
千佳子の指が、梨奈のパンティに進入し、
じっとりと湿った淫裂の中でうごめいている。
クチュ、クチュ、クチュ
エレベーターが上昇していく。
夜遅い時刻に、途中階から乗り込んでくるひとはまずいない。
引越しでしばらくレッスンを休んでいた梨奈を、
千佳子はマンションに誘った。
千佳子は、欲情していた。
待ちきれずに、エレベーターの中で、
梨奈のからだをまさぐり始めていた。
千佳子のパンティは、グショグショに濡れていた。
溢れ出した蜜は、太ももを濡らし始めている。
「ああ、梨奈、わたしも触ってほしい」
エレベーターが止まる。

優香が亮との情交を終えて、
熱いキスをかわし、玄関から通路に出たとき、
非常階段に隠れていた男が飛び掛ってきた。
悲鳴をあげようとしたが、口を押さえられ。
それから力任せに壁に押し付けられた。
「香西」
「そうだよ、
 さっきから。ずーっと待ってたよ。
 おまえが出てくるのをな」
香西剛は、押し殺すような声で話しかける。
目が血走り、目じりが吊りあがり、鼻腔を膨らませて、
ハァ、ハァと、ニンニク臭い息を優香の鼻先に吹きかけながら、
脅しつけるようにしゃべる。
「エッチ、楽しかったかい?」
「やめて」
香西は、パンティの上から優香の性器をなぞる。
優香の淫水で濡れた指を自分の鼻先に持っていく。
「く、くせえ、ザーメンくせえ」
「やめてよ」
「く、くそお」
香西は、優香の真っ赤なシャツブラウスを引き裂いた。
真っ赤なブラジャーに包まれた優香の胸がこぼれだす。
香西は、怒りで顔面を真っ赤にしている。
体育教師である香西は、真っ黒に日焼けしている。
それが顔を紅潮させると、なんとも不気味な赤黒い色になって、
優香を恐怖させ、震え上がらせた。
何をされるかわからない。
亮の助けを求めようにも声が出ない。
騒ぎを聞きつけて飛び出してきてくれるといいのに、
(助けて)
優香のからだが小刻みに震えている。
香西が優香のタイトスカートをちからいっぱい引っ張ったとき、
フックがはじけ飛び、ファスナーが引きちぎられて、
はずみで優香は通路に倒れこんだ。
這って逃げようとする優香のわき腹を、
香西はスニーカーを履いた足で蹴り上げた。
動きが止まった優香のスカートの腰の部分に指をかけると、
バリバリと引き剥がした。
真っ赤なパンティに包まれた、優香の尻がむきだしになる。
香西は、尻を踏みつけ、踏みにじった。
「ギャッ」
つい今しがた、愛する亮にいためつけられてできた傷が再び裂けて、
血が滲む。
激痛が走る。
「腐れマンコが!」
香西は、スニーカーのかかとで、優香の性器を踏みつけた。
「グェッ」
ドアが開き、亮が現れた。
香西と目があう。
「き、きさま、かじかざわ!」
香西は、優香の恋人が生徒のひとりである亮だと気がついた。
「き、きさまあああ、鰍沢じゃないかあああ1、
 きさま、生徒のぶんざいで、くそおおお、
 こんなことが、許されると、思ってるのかああああ!」
香西は怒りのあまり、大声を出していた。
香西のこぶしが顔面めがけて突き出されてくるのを、
亮はかろうじて避けることができたが、
腹部への攻撃は避けきれず、
まともに喰らってしまい、
グェッ、
といううめき声を上げながら、通路に倒れこんでしまう。
「き、きさまらあ、教師と、生徒で、おマンコ
 しくさってたのかあああ!
 ゆ、許さん! 許さんぞおおお!」
香西は亮の腰を思いっきり蹴り上げた。
亮のからだが通路を転がる。

そのときエレベーターの扉が開いた。
香西は、そちらを振り返ってしまった。
ふたりの女と目があった。
「くそっ!」
香西は、非常階段のほうへ駆け出した。
千佳子と梨奈は、エレベーターを降り、
通路に倒れているふたりに近づく。
服を剥ぎ取られて、真っ赤な下着だけの女が、
痛みをこらえるようにしてのろのろと上体を起こす。
「だいじょうぶ?」
千佳子が声をかける。
「え、ええ」
優香は、亮のほうを見た。
亮は、腹を抱えこむようにして、横たわっている。
優香は、なんとか立ち上がって、
亮のそばに行き、抱え起こそうとする。
通路の明かりが、亮の顔を照らす。
「亮ちゃん!」
梨奈は、男が亮であることに気づく。
「梨奈、このひと、知ってるの?」
「は、はい」
「警察、呼びましょうか」
「先生、それより、救急車、」
「そうね」
千佳子が携帯を取り出そうとバッグを開ける。
「すみません、それより、まずうちにいれないと」
優香は、ドアを開ける。
(この女の子は、亮を知っている、
 だれなんだろう、どういう関係なんだろう)
女3人がかりで亮をベッドに寝かせる。
梨奈は、それとなく部屋を観察している。
「警察呼ばなくていいの?」
「え、ええ、喧嘩、ただの喧嘩ですから」
優香は、そう言うのがやっとだった。
何とか、切り抜けたかった。
(香西のことは、あとで考えよう、)
千佳子はてきぱき行動した。
洗面所でタオルを濡らす。
亮の顔や手足の泥を、ぬぐい落とす。
「いたっ!」
「おなか、だいじょうぶ?」
「え、ええ、たぶん、」
「あら、あなたも血が出てる」
優香の真っ赤なパンティに、血の黒い染みが数箇所できている。
「わ、わたしは、大丈夫です、
 あとで、シャワーを浴びて、
 手当てをしますから」
梨奈は、優香の腰のあたりに、
赤いみみずばれが何本も走っているのに気がついた。
「とにかく、何か着たら?」
「え、ええ」
優香の衣服は、この部屋にはない。
梨奈は、この部屋の奇妙な印象に気がついた。
何より、生活臭がない。
「ありがとうございます。
 あとは私がやりますから、」
下着姿の優香に、千佳子と梨奈は追い出されるようにして、部屋を出た。
ドアを閉めて優香がほっとしたところにチャイムが鳴る。
梨奈が立っていた。
手には、優香が通路に残したバッグや、
引きちぎられてぼろくずになったブラウスやらをつかんでいた。
「わたし、亮ちゃんの知り合いなんだけど、あなたはどういうひと?」
「わたし、リョウ、鰍沢君の、か、家庭教師です」
「え?」
「ここで、鰍沢くんに、勉強を教えているんです」
「ここは?」
「す、すみません、こんな格好ですので、失礼します」
優香は、梨奈の手から奪い取るようにして、ドアを閉めた。
梨奈の胸に、いやな感じが残った。
進む

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