肉欲の罠(修正版) 11

沼 隆

登場人物  瀬口美恵子 ビューティサロン〈グランス〉の女主人
      大田黒又造 〈大田黒工務店〉社長 美恵子の愛人
      権藤 軍治 〈大田黒工務店〉社員
        *   *   *
      瀬口  透 美恵子の別居中の夫
      レ   ナ ソープ嬢
        *   *   *
      牟田 拓也 AV男優
      倉橋 亜美 AV女優〈沢井みあ〉
        *   *   *
      残間 章吾 〈残間金融〉社長


(1) 美恵子

月曜日の朝。
瀬口美恵子は、軽い朝食を済ませて、シャワーを浴びた。
9時過ぎに来る、男を迎えるために、
肉のふくらみを、くびれを、くぼみを、
ていねいに洗った。
クリーミーに泡だったボディーソープを
両手にいっぱいにして、
張りだした乳房を、すくい上げるように、洗う。
男の節くれだった指が、手が、
乳房をつかみ、もみし抱く、
乳房が、その感覚を思い出して、
乳首が、ふくらむのだった。

男は、仕事が忙しいらしい。
仕事がたて込んでる、すまん、といって
もう1ヶ月、会っていない。
すっぽかされた日は、
うつうつとしたからだを、オナニーでなぐさめた。
けれど、美恵子の指先が、
自分の敏感な場所を知り尽くしていても、
男の指、腕、そして肉棒がかき立ててくれる快感には、
及ばないのだった。
「したいよ、ねぇ、したい」
男の携帯に電話する。
「ああ」
男が、返事を返す。
「おれも、したくて、たまらんよ」
「来てぇ、おねがい、しに来てぇ」
「ああ、美恵子、行きたいよ・・・・・・すまん・・・・・・」
「ああ、忙しいのね・・・・・・ホントに、忙しいのね・・・・・・」
「ああ、美恵子、次の月曜日、必ず行くから」
「待ってる」
そんな会話を、3度繰り返した。
で、今朝、男から、電話がない。
それは、来るっていう意味に違いない。
もうすぐ、来る。
美恵子は、先月買って、
まだ男に見せたことがない下着を着けた。
男が連れて行ってくれた、ランジェリーショップ、
〈わぎな〉で買った、
鮮やかな、青いキャミソール。
今日は、青いワンピースで出迎える。
安全日。
コンドーム、使わなくて、いいからね。
思いっきり、してね。
いっぱい、出してね、美恵子の中に。
なんだか、どきどきして・・・・・・
化粧をチェックする。
思いっきりセクシー。
鏡の中の自分に、ほほえみかけた。

いつもの時間、玄関先に車が止まった。
玄関に出迎えると、立っていたのは、
又造の会社の社員、権藤であった。
会社のほうにお連れするように、
という社長の命令でお迎えに来た、という。
何でだろう、と思いながら、
権藤を待たせて外出のしたくをし、
バッグを手に車に乗り込んだ。

権藤は、無口な男だった。
黙って車を走らせた。
まもなく、工業地域の一角に入った。
大田黒工務店の看板が、すぐに目にはいる。
去年新築したばかりのビルの裏口に車が止まった。
権藤の案内で、裏口から入る。
シーンと静まり返って、人のけはいがない。
2階に通じる階段を上がりながら、美恵子は、いぶかった。
どうしたんだろう…太田黒に何があったんだろう…
「きょうは、建設業界の大きな集まりがあって、
 選挙がらみのね、
 社員たちが動員されて、
 それで、みんな出払っているんですよ」
権藤の説明を聞いて、ほっと一安心する。
応接室に通された。
そこだけは、エアコンが効いて涼しい。
「しばらくお待ちください。
 社長はじき参ります。
 私が冷たい飲み物でも用意します」
「権藤さん、そんなこと、いいですから」
美恵子が遠慮して断るのを無視して
権藤はドアの向こうに消えた。
数分とたたないうちに、権藤が現れ、
アイスティが入ったグラスを2つテーブルに置くと、
再び部屋を出て行った。
冷たい紅茶を味わいながら又造を待つうち、
美恵子は眠気をもよおし、うとうとしてしまった。

(2) 受難

からだを締め上げられる感触に、
美恵子は、ぼんやりとした頭で、目を開けた。
権藤が、美恵子を見下ろしている。
蛇のようないやらしい目つき、
口もとに、薄笑いを浮かべて。
「な、なに?」
美恵子は、からだを縛り上げられていた。
「な、なんなのっ」
美恵子は、パンティ1枚にされた上、
両手首を後ろ手に縛り上げられた姿で
ソファに横たえられていた。
テーブルの上には、美恵子が着ていた青いワンピースに、キャミソールが、放り出してあった。
「権藤さん、どういうこと? 太田黒はどこにいるの?」
「美恵子さん、驚いたよ。
 あんた、えらく変わったパンティはくんだね。
 そんなものがあることは、知ってはいたけどね、
 じっさいはいているひとを見るのは、
 初めてなもんでね・・・・・・へへへ」
「い、いやらしい」
「いやらしいのは、美恵子さんのほうだよ。
 そんないやらしいパンティ、はいているんだからね」
「・・・・・・」
「きれいなブルーのビキニパンティだとばかり思っていたら、
 肝心なところに、ぱっくり穴が開けてあるんだもんなあ・・・・・・
 おめこ、むきだしだぁ
 脱がずに、ご用がたせるってわけだ・・・・・・イヒヒヒ。
 だから、ちょっと試してみたくなってね、
 脱がさずにおいたわけさ」
「なに言ってるのよっ
 こんなこと、やめなさいよ
 太田黒に言いつけるわよっ」
「美恵子さん、あんたわかってないねえ。
 太田黒は、ここにはいないんだよ。
 あいつ、夜逃げしちまってね」
「よ、夜逃げって!」
「ああ、そうだよ。
 この会社、倒産しちまってね。
 太田黒のやつ、女房も娘もおっぽり出して、
 逃げちまいやがったわけさ」
「そ、そんな…」
「おれも、どっかよそに行くしかなくなったからね、
 ま、最後に、太田黒の愛人を拝ませてもらおうと思ったわけさ。
 あんたは、えらくベッピンさんだからよ、
 太田黒がうらやましくってね…
 毎週あんたんところに送り届けるたびに、
 あいつが、あんたのおめこナメまくったり、
 ハメまくったりしているところが頭に浮かんでさ、
 センズリ、掻きまくってたのさ…
 思い出すだけでもムカツクぜ…」
「・・・・・・」
「そろそろ、いっぱつやらせてもらうよ」
「やめて、ふざけたこといわないでよ」
「べつに、ふざけてなんか、いないよ
 おれは、本気だよ、美恵子さんよぉ」
権藤は、そういいながら、服を脱ぎ捨てていった。
筋肉質の浅黒い肌が、
しっとりと汗で輝いている。
権藤は、ビキニショーツを脱ぎ捨てた。
股間に、肉棒がそそり立つ。
身体のどの部分よりも浅黒く、
血管が青黒くふくれあがって、
猛々しい。
「見ろよ、こいつ、やりたがってるだろ」
美恵子に近づくと、すぐ目の前でグイッとしごいて見せた。
「あんたの、おめこに、はいりたいってさ」
「いやよ、だれが、あんたなんかと…」
「美恵子、馬鹿じゃねえのか?
 この建物の中には、おれたちのほかは、だれもいねえんだぜ。
 おまえを煮て食おうが焼いて食おうが、
 だれも見てるやつはいねえ…
 おれを怒らせねえほうが、いいと思うよ」
美恵子に戦慄が走る。鳥肌が立つ。
「おとなしくしてりゃあいんだ」
権藤が美恵子の乳房にすわぶりついてきたとき、
美恵子はからだをねじって逃げようとしたが、
所詮無駄である。
張りのある乳房を権藤はさもうまそうにしゃぶりつづける。
舌の先で乳首を転がす。
美恵子は、いやだ、いやだ、と逃れたいが、
両手を後ろ手に縛り上げられていては、
身動きも満足にできない。
むしろ動けば動くほど腕にからだの重みがかかってきて、
痛みが強まるばかりである。
乳首が勃起する。
美恵子の頬が火照る。
敏感な乳房を刺激されて、からだの芯が熱くなり、
あそこが濡れてくるのがわかる。
ツ、と、淫水が一筋の糸をひくように、
淫門からあふれ出て肛門のほうに流れていく。
そのひんやりとした感触に、美恵子は思わず身震いする。
いやだ…と思う心とは裏腹に、からだは男の肉を求めている。
「おう、こりゃあ、こりゃあ… ずぶぬれのグショグショじゃないか…」
「や、やめて…」
「おいおい、何がやめて、だ。
 あんたのここは、して、して、って言ってるぜ」
「いやぁ」
「おめこ、ぶち抜いて、やるぜ」
美恵子の肉穴に、権藤の猛り狂った肉棒が、ずぶずぶ、埋め込まれていった。

(3) エアマット

シープランド〈姫御殿〉。
エアマットに横たわっている男のそばで、
女は、洗面器に湯をためて、ローションを溶かし込んだ。
女は、液体をすくい上げるようにして、液体にとろみをつける。
男は、女の仕草をじっと見ている。
肩、背中、乳房、脇腹、腰、尻、太もも、ふくらはぎ、足首、足の裏……
女がこちらに向き直って、
「うつぶせに、なって」
と言った。
「ああ」
男は、そう返事をすると、マットに寝そべる。
ペニスが、ひんやりとしたマットに触れる。

男の背中に、ヌルヌルした液体が注がれる。
女が、両手で、男の背中に広げていく。
肩、背中、腰、尻、太もも、ふくらはぎ・・・・・・
女が、男に覆い被さってきて、乳房と、下腹部と、
全身を使って、男の身体にローションを塗りたくる。
ヌメスメしたふたつの肉体が、こすれ会う。
ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅ・・・・・・
しゅぷ、しゅぷ、しゅぷ・・・・・・
乳房が、下腹部が、陰毛が、男のからだを這いまわる。
「キモチ、いいよ」
「そう?」
「ああ、すごく、いいキモチだ」
女の指が、男の尻のワレメに滑り降りていって、
アナルを丹念にさすりあげる。
「おおお」
「キモチ、いい?」
「ああ」
女の指先は、絶妙な動きで、玉袋をもみ上げる。
その場所に、女は顔を埋めていき、
音を立てて、男のアナルをなめる。
すちゅっ、すちゅっ、すちゅっ
男は、仰向けになった。
肉棒が、そそり立っている。
女は、男の胸、腹、下腹部、そして、両足に、ローションを注いだ。
乳房を見せつけるように、男に覆い被さっていく。
ローションに濡れた乳房が、
男の胸に、下腹部にこすりつけられる。
男は、女の動きを見つめている。
女は、男の肉棒を握る。
男をじっと見つめたままだ。
男の気を、そらさない。
乳房を、男の太ももにこすりつけながら、肉棒をしごく。
「ああ、キモチ、いいよ」
AV女優だという、ソープ嬢の、
巧みな動きは、男は期待を裏切らなかった。
ほしのあきに似た、AV女優、
予約しても、なかなかとれなかったのが、
よりのよって、今日・・・・・・
「最高だよ、レナちゃん」
「そう?」
「ああ」
「よかった」
「うん」
男は、女を抱き寄せ、唇を吸った。
女は、ねっとり舌をからませてきて、
甘い吐息を、男の口に吹き込んだ。
右手は、男の肉棒をしごきつづけている。
「いれる?」
「うん」
女は、コンドームの袋を手早く裂いた。
「ナマ、だめかな?」
「ごめんなさい」
「そか・・・・・・」

おれは、今日、何人目の客なのだろうか、
ソープ嬢、レナの乳房を揉みながら、
ふと、思った。
ベッドに移った。
肉棒は、レナの舌と唇にしゃぶられて、回復した。
レナの尻は、ひんやりとしていて、
指を差し入れると、引き締まった肉穴があった。
「いれる?」
「ああ」
これから、夜行バスに乗って、田舎に帰る。
山陰の山奥の小さな町に、
女とこんな風に遊ぶ場所はない。
「延長できる?」

瀬口透は、松江行きの夜行長距離バスを予約してある。
片道チケットを残して、財布が空になった。
渋谷までの、電車賃も、なくなった。

(4) 〈男優〉と〈女優〉

AV俳優カップル、たっくんと沢井みあ、
本名、牟田拓也と倉橋亜美は、
相変わらずぼろアパートに住んでいる。
無駄遣いをしないで、金を貯めるつもりなのだが、
いつの間にか、ブランドものを身に着けるようになっていた。
だから、貯金など、ない。
「たっくん、聞いた?」
「なにを?」
「麗奈、ほしの麗奈のこと」
「麗奈が、どうかしたのか?」
「いま、ソープにいるんだって」
「ああ、そのことか」
「知ってた?」
「ああ、みんな知ってるよ」
「そか」
「堀之内のソープに出てる」
「ええっ、たっくん、そこまで知ってるの?」
「元AV女優を集めてるソープがあるんだよ」
「へえ」
「吉原にもあるってよ」
「よしわら」
「そ」
「たっくん、ソープ、行ったこと、ある?」
「ねえよ」
「麗奈に会いに行きたいんじゃない?」
「ばかか、おまえ」
「なによぉ」

「ねぇ。たっくん」
「なんだよ、うるせぇなあ」
「あたし、ソープ、いやだからね」
「なに、言ってんだよ」
「AVだめになっても、ソープ、行かないからね」
「あほか」

「なに? なに、するの?」
うつぶせになった亜美の裸の尻に、ひんやりとした液体が落ちた。
振り向くと、拓也は、チューブを握り、
右の指に、透明な粘りけのある液体を絞り出した。
「ローション?」
「ああ」
亜美は、安心したように、枕に顔を埋めた。
「キモチよく、してね」
「ああ」
拓也の手が、亜美の足を開き、
片方の手で尻をなでまわした。
「キモチ、いいよ、たっくん」
しかし、そのときだった。
拓也の、ねっとりとしたローションにまみれた指が、
亜美のアナルに、ねじ込まれたのだ。
ぶしゅっ
「ああ、いやぁっ」
ずちゅ
「そこ、いやぁ」
じゅぶっ
「いや、いや、いや、いや、抜いて、抜いて、抜いて」
ぶじゅっ
拓也は、指を抜いた。
「たっくん、そこ、いやだよぉ」
拓也は、亜美の半泣きの声に、答えなかった。
亜美は、拓也を振り返りながら、
「おねがい、やだよぉ、やめてよぉ」
と言った。
拓也は、ローションを指先に絞り出していた。
ヌメヌメした液体が、拓也の指先に、ぷっくりの盛り上がっている。
それを、再び、亜美にアナルに塗り込んだ。
「やだぁ。やだよぉ、たっくん、やだよぉ」
拓也は、無言のまま、背後から亜美に重なっていき、
いきり立った肉棒を、亜美のアナルに埋め込んでいった。
「ああああううううううううっ」

明日、拓也は、撮影がある。
《美咲せりな★喪失アナルバージン》
亜美を代役にたてた、リハーサルなのだった。

(5) 不安

瀬口美恵子は、男が差し出した名刺を見た。
〈残間金融 代表取締役 残間章吾〉
一見紳士風の男だが、視線は鋭かった。
笑顔の奥に、冷酷さが、かいま見える。
「ざんまきんゆう?」
「はい、そうです、瀬口さん」
店には、客がいた。
従業員もいた。
みんなが、聞き耳を立てている。
「金融関係には、縁がないんですけど」
「いえ、そういうことでは、ありません、
 ご相談させていただきたいことがありまして」
結局、美容室の営業が終わったあとに、出直してもらうことにしたのだった。
午後9時、従業員が帰ってしまって、店の照明を落としたころ、
残間が再びやってきた。

残間の話は、恐ろしい内容だった。
別居中の夫、透が、美恵子の店《グランス》を担保に借金をしていた。
当初は、順調に返済していたが、
すぐに、返済がとどこおり、
とうとう、美恵子の店を手放す書類に、サインしたというのだ。
瀬口透の実印を押した借用証書、
何通かの内容証明。
「あの人、こんなに大きなお金、何に使ったんでしょう」
「それは、私には・・・・・・」
残間は、口を濁した。
美恵子の店は、そもそも、透の名義になっていた。
それを担保にするなんて・・・・・・
「どうすれば・・・・・・?」
「お店、明け渡し、お願いできませんか?」
「そ、そんな・・・・・・」
美恵子は、絶句した。

「毎月少しずつお返ししますから・・・・・・」
残間が、美恵子の目をじっと見据える。
美恵子は、パニック状態だ。
毎月、少しずつ、なんて、なんの意味もない。
少しずつ、って、いくら返せるというのか。
ああ、どうしよう・・・・・・
「瀬口さん、あなたの気持ち、よくわかります。
 ですが、利息だけでも、毎月30万ですよ。
 毎月、返済する、といわれても、
 実際のところは、大変ご苦労なことになるんじゃないかと・・・・・・」
「どうしろって言うんですか?」
「さっき、言いましたように、このお店を、手放すとか」
「そ、そんな」

「もう一つ、方法は、あるんですがね」
「ど、どんな?」
「ううん・・・・・・まことに言いにくいんですがね」
「お、教えてください、残間さん」
「こっちのほうが、瀬口さんには、いいとは、思うんですがね」
「だ、だから、教えて」
残間は、ちょっとためらっている様子を見せた。
「本当につらい提案なんですがね」
「何ですか。聞かせてください」
「自宅を手放されてはどうかな、と思うんですよ」
「そ、そんな」
「いや、気分を害されたら、申し訳ない。
 何か、ほかにもっとよい方法があると、いいんだけどね」
残間は、美恵子が気の毒でならない、という表情をしていた。
「考えさせてください」
「いいですよ。でもね」
残間は、美恵子の隣に座りなおすと、そっと手を握る。
「瀬口さん、あまり時間はないですよ。
 ぼんやりしていると、利息がどんどんふくらみますよ。
 思い切って、決心をなさい」
美恵子の顔をのぞきこむようにして、ソフトな語り口である。
「世間体もあるでしょう。
 ですが、家を処分すれば、
 ご返済いただいた後にも、
 だいぶお金が手元に残るでしょうしね」
途方にくれている美恵子に、残間は優しい口調で語りかける。
「お店、手放さなくて、すむし」
片方の手を、美恵子の肩にいたわるようにそっと乗せている。
「お任せいただければ、何なりとお力添えをいたします。
 あなたのようなお美しい方が、
 こんなに苦しんでおられるのを、放って置けません」
「一晩考えさせてください。
 娘たちに話さないといけませんし、
 それに、友だちからお預かりしているお子さんがいるんです」
「わかりました。決心がついたら、電話をください」

残間が出て行った後、美恵子はぼんやりと椅子に座ったままである。

(6) 決意

残間が美恵子の自宅をたずねてきたのは、数日後の月曜日の朝である。
「瀬口さん、決心したんですね」
美恵子はうなずいた。
「お店、うまくいっているんでしょ?
 必ず今の暮らしに戻れますよ。
 借金を背負い込みつづけるよりは、
 一時は、つらいかもしれないけれど、
 こうするのが、一番ですよ」
残間は、恵美子を正面からじっと見つめながら、優しく語りかけた。
「早く資金を作って、おうちを手に入れなさい、
 親身になってお世話させていただきますよ」
美恵子は、恐れていた。
金融業者の取立てにあって、怖い思いをさせられるのではないかと。
残間が、恐ろしい取り立て屋には、思えなくなっていた。
家を売却するにはどういうやり方があるか、何通りか教えてくれた。
「不動産鑑定士、不動産屋、信頼できる人をお探しなさい」
と、言ってくれたのだ。
「鑑定士の方なら、おくさんがうちのお客にいます」
「ほう、そりゃあいい」
残間が、ほほえんだ。
「そういう方にお願いすると、安心できますよ」
不安は、あった。
あんまり、世間体のいい話ではなかった。
けれど、お客も、従業員も、みんな知っている。
美恵子の夫が、若い美容師と浮気したこと、
そして、若い女のほうに行ってしまったことを。
「今さら、世間体を考えたって・・・・・・」
と、美恵子はつぶやいていた。

決心がつくと、話は、とんとん拍子に進んでいった。
美恵子は、残間を信頼していった。
夫が、この男から金を借り、
そのせいで家を失うというのに。
割り切るしかない。
そう思ったら、美恵子は、さばさばした。
残間は、魅力的だった。
月末までに、家を明け渡すことになった。
美恵子は、駅前の不動産屋で、家賃の安いアパートを見つけてきた。
ほんの少しの間だけ、辛抱すれば・・・
思いっきり家賃の安いアパート。
娘たちには、すまないけれど・・・・・・
それが、一番つらいところだ。
「残間さん、ありがとう、感謝してます」
「私こそ、美恵子さんの助けになれて、うれしいよ」

(7) 報告

土曜日の夜、美恵子は、ふたりの娘、梨奈と美奈、
それに亮をリビングに呼んだ。
鰍沢亮は、美恵子の友人のひとり息子である。
亮の父親が、バンコクに駐在することになった。
母親も、同行することになって、亮は、
高校を卒業するまでの間、美恵子の家が預かったのだ。

「そういう事情で、この家、出ることになったの」
美奈は、わあわあ、大声を上げて泣いた。
梨奈は、父親のふがいなさを呪い、
母親をののしった。
「ひどいところで暮らすことになったけど、
 ここよりも、ずっとひどいところだけれど、
 きっと、この家を取り戻してみせるから。
 お母さん、がんばるから。
 生活のほうは、美容院でやっていける」
と美恵子は説明した。
「亮ちゃん、ごめんなさいね。
 あなたにまで迷惑をかけて。
 大学受験まで、あと半年ってときなのに」
「おばさん、ぼくのことは自分でやりますから。
 心配しないでください。
 友だちなんかに相談します」
「それは、心配しないで。
 力を貸してくれる人がいるから」
「はい」
「お父さん、お母さんには、わたしからお話しておくから」

(8) なぐさめ

月曜日の午後、買い取り業者が、家具を引き取っていった。
必要最低限、というより、
あの、ぼろアパートに入るだけの家具だけが残った。
がらんとしたダイニングの椅子に座って、
タバコに火を付けた。
ふううっ
おいしい、と思う。
タバコ、吸うなんて、何年ぶりだろう。
家の前に車が止まった。
来客は、残間だった。
「片付け、ひとりでやってるの?」
「うん」
「手伝うのに」
「そんな、迷惑、かけられない」
「遠慮すること、ないよ」
残間は、亮の住まいが見つかったと、知らせに来たのだった。
「何から、何まで、すっかりお世話になって・・・・・・」
残間は、飾り棚にウィスキーのボトルがあるのに気がついた。
「あれ、美恵子さんが、飲むの?」
「うん、なんだか、飲みたくなって、買って来ちゃった」
「いっぱい、もらえる?」
美恵子は、立ち上がる。
「あたしも、いただこうかな」
「ああ、それ、いいね」
「ロックにする?」
「ああ」

美恵子の肉穴は、蜜をしたたらせていた。
残間の指を、締め付ける。
「すごい、しまり具合だ」
「んんんっ」
美恵子の頬が、朱に染まっているのは、
アルコールのせいだけではなかった。
欲情し、全身の性感帯が、敏感に反応して、
粘膜を充血させ、頬を火照らせていた。
残間は、美恵子を裸にすると、
抱き上げて、ベッドルームに移った。
残間が、裸になっていくのを、美恵子は、うっとり見つめている。
身体から、直角につきだした肉棒を、
美恵子は潤んだ目で見つめた。
「チンポ、欲しい?」
「うん、ちょうだい」
「ああ」
肉穴は、肉棒をぐいぐい締め付けてくる。
太さを味わい、
堅さを味わっている。
肉穴は、クニュリクニュリ、うごめいて、
肉棒をしゃぶる。
ぷしゅ
ぷしゅ
ぶちゅ
美恵子は、無意識に腰をうごめかせ、
肉棒をしゃぶり続ける。
「おおっ」
残間は、うめく。
「マンコ、すごいぞ」
美恵子は、うれしいのか、かすかにほほえんだ。
「チンポに、しゃぶりついてくる」
残間が、腰を退くと、美恵子も退き、
残間が腰を突きだすと、美恵子も突きだしてくる。
じゅぶうっ
ぬじゅぅぅっ
「おおおお」
美恵子の淫らな性器が、残間をこすりあげ、締め付け、追い上げていく。
(く、くそっ、イッてなるものかっ)
美恵子のとろんとした目が、残間を見上げている。
鼻腔が広がり、唇が開き、
はっ、はっ。はっ、はっ
美恵子は息を吐き続ける。
乳首が、ふくらんで、突きだしている。
残間は、それに吸い付いた。
「ああああああっ」
美恵子の肉穴が、思いっきりざんまの肉棒を締め上げる。
「うぐっ」
あまりの強さに、残間は息をのんだ。
「いいっ」
ぎゅうううううっ
美恵子は、絶頂に達していた。
全身を引きつらせながら、腰を激しく振るわせた。
残間は、耐えた。
美恵子は、両腕を残間に巻き付けて、激しくけいれんし、最初の絶頂を迎えた。
10秒か、20秒か、あるいは、30秒か、
美恵子は、両腕で、両足で、肉穴で、残間を締め付けるのだった。

(9) 兄弟

「瀬口のおくさん、お味はどうでしたか?」
「余計なことは聞くな、権藤」
「すみません、社長」
「おまえ、美恵子と寝たんだろ」
「え、いえ」
「わかってるよ、あんなベッピン、ほっとくやつがいるか」
「すみません、社長」
「おれとおまえは、マラ兄弟ってわけだ」
「え? 社長、そんな」
「これからは、手を出すんじゃないぞ」
「は、はい、わかっております」
ほんの数週間ほどの間に、
権藤軍治は、残間金融の社員におさまっていた。
権藤は、美恵子の《おめこ》を、思い出して、
肉棒を硬くしていた。
男をとりこにしてしまう、美恵子の《おめこ》。
今日から、残間のものか・・・
くそっ
「堀之内に、やってくれ」
「はい・・・・・・ソープですか?」
「ああ」
「どの店に?」
「〈姫御殿〉の支配人が、新人が入ったって、知らせてきた」
「はあ」
「美恵子・・・瀬口の奥さんでは、満足・・・・・・」
「ばかやろう、今日は、遠慮したんだよ」
「えんりょ?」
「ああ、ごくごく、控えめに、させていただいたのさ」
「控えめ、ですか・・・・・・」
「ああ、これから、たっぷり、味わう」
「ゆっくり、時間を、かけて、ですか?」
「そうだよ、権藤、美味しいものは、ゆっくり時間をかけて、味わう」
「な、なるほど」
「権藤、今夜、おまえに、ご褒美をやるよ」
「え? 褒美、ですか?」
「ああ、〈大田黒工務店〉、おまえの助けで、手に入ったわけだから」
「あ」
「〈姫御殿〉、おまえも、楽しんでいけ」
そういって、残間は権藤の胸ポケットに、10万円を押し込んだ。
「有り難うございます」
権藤は、礼を言う。
「じゃあ、大田黒の、女房も・・・・・・」
「いやだよ、あんなの、おれの趣味じゃ、ねぇよ」
「はぁ」
「チンポが、萎えちまうよ、あんなの」
「へへ」
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