「真夜中の図書室」短編

夏の嵐

沼 隆

(1)

感じる…
いい…
すごく…
「エリカ、いいぞ」
「うん、いい…エリカも…」
ぐん、ぐん、ぐん…って突き上げられる。
頭の中…もう…
ああ…いい…いいっ!
両手を、しっかり掴んでくれてる。
「おおっ…おおっ…」
いいのね、いいのね、気持ち、いいのね…
もっと、突いて…
突いて!
突いて!
ああ…
エリカ、どうにかなってしまう…
すごく感じる…
すごく…
だめ…
だめ…
もう…
もう、だめ…
我慢できない…
からだ、起こして…いられない…
「いきそう…いきそう、パパ…エリカ、いっちゃう!」

パパは、エリカに騎上位をさせるの、大好きなの。
どうしてなの?
……ん?
  エリカのおっぱいが、震えるからね。それを見ていると、嬉しくなるよ。
  それに、エリカがのけぞる時、背中をきゅうんとそらせた時
  エリカのおなかから胸の線
  のどから、あごの線
  ちょっぴり開いた唇
  ちょっと膨らんだ小鼻
  とろんとした目つき
  全部見える。
  それに、パパのムスコをくわえ込んだ、アガタも丸見えだ。
アガタというのは、パパがエリカのあそこにつけた名前。
もともとは、リモージュの町で買ってもらったビスクドールの女の子につけた名前なんだけど。
パパは、エリカのあそこに、おんなじ名前をつけてしまった。

エリカも、騎上位が好き。
まるでお馬さんに乗っているみたい。
くいっ、くいっ、ってあそこを動かすの、お馬の時と一緒なんだもん。
で、あんまり気持ちよくなると、じっと乗っていられなくなるけど
振り落とされないように、パパにしっかり手を握ってもらう。
でも、いくときは、もう、だめ…
からだを起こしていられない。
パパの胸に突っ伏してしまう。
そうなったら、パパ、エリカを抱きかかえるようにして
からだを入れ替えて
エリカを仰向けにして
両足を蛙のように開かされる。
で、腰の下に腕を入れて
抱き上げるようにして
ぐんぐん突いて
パパの動きが早くなっていって
エリカ、頭の中、真っ白になって
パパがうめく。
それから、パパ、エリカの中に、出すの。

パパ、エリカをうつぶせにして
背中やお尻を、そっと撫でてくれる。
そうして、いつの間にか、眠り込んで
夕食の時間になると、パパが起こしてくれる。
パパは正装している。
エリカは、パパの手で下着をつける。
それから、レディにふさわしいドレスを着るの。
パパと一緒に選んだドレス。
今夜は、お祝いの夜。
エリカとパパの記念日。
あの日から、ちょうど一年…

(2)

去年の7月*日のこと。
忘れられない大切な一日。
パパと過ごした夏の休日。

いつものように、ナシュア号に乗って、ホテルの厩舎を出る。
モンジュー号に載ったパパの後ろについて。
林を抜けて、うるわし野の草地を駆け抜ける。
その向こうは、御嶽の森。
森の奥、鰍沢の岩棚の下で昼食にする。
ホテルに用意してもらった、ローストビーフのサンドイッチ。
赤ワインを抜いて。
いつもどおり。
パパとふたり、乗馬を楽しむ一泊二日の小旅行。
夏休みまで、あと2週間。
だから、まだ人気がない。
夏山の小鳥たちの声。
昼食がすんだら、お昼寝。
ワインのせいで、気持ちいい。
真っ青な夏空が広がって
心地いい風が吹いて。
パパが、遠雷に気がつく。
夏山のお天気は、変わりやすい。
帰り道を急ぐ。
御嶽の森に入ったあたりで、見る見る暗くなって、さーっと雨が降り出した。
生い茂る木々の枝葉を通り抜けて降り注ぐ軟らかい雨。
雷が、次第に近づいてくる。
パパとあたしを追いかけるみたいに。
帰り道についたばかり。
ホテルまで遠い道のり。
「まずいな」
パパは振り向いて、言った。
「ひき帰そう、エリカ。鰍沢の岩棚で、雨がやむのを待つことにしよう」
さっきランチボックスを広げた場所に戻る。
岩棚の下の地面は乾いているし。
雨は降りこまないし。
「夕立だ。すぐに通り過ぎるよ」
岩棚のそば、立ち木にナシュアたちを繋ぐ。
「おまえたちも、ここで、雨宿りだ」
ヘルメットを脱いで、ほっとしたところに、雨は激しくなった。
「一足違いだったね」
でも、服は濡れている。
「脱ぎなさい」
パパの指図どおり、シャツを脱ぐ。
ぽたぽたとしずくが落ちるシャツをパパに手渡す。
パパは絞った。
足元に、水滴が滴り落ちる。
「パンツも」
きっぱりしたパパの声に促されて、ブーツを脱ぎ、パンツを脱ぐ。
腰の部分から、すその部分まで、パパは何度か絞り上げる。
下着姿のあたし。
震えがくる。
「タオルで、からだ、拭きなさい」
汗拭きタオルで、からだをぬぐう。
パパも、自分のシャツとパンツを脱ぐと、ぎゅうぎゅう絞り上げた。

ブラジャーも、ぐしょ濡れだ。
パンティも。
気持ちが悪くなってくる。
パパは、後ろ向きになって、ブリーフを脱ぐと、水気を搾り出し、くしゃくしゃによじれたのを広げて、また
はいた。
パパは、あたしの濡れた髪を拭いてくれる。
「下着、ずぶ濡れじゃないか」
「うん」
「自分でやりなさい」
後ろ向きになって、ブラジャーとパンティを脱いで、絞った。
からだを拭いて、冷たい下着を着る。
パパは、岩棚の出っ張りを利用して、ふたりのシャツとパンツを広げている。
「ちょっとでも乾かそう」
パパは、地面に座り込んだ。
あたしもまねて、パパのそばに座る。
乾いた地面は、暖かさが伝わってくる。
「もうすぐ、やむさ」
「うん」
雷がなり、雨は激しく降り続いている。
でも、この岩棚の下は、無事だ。
パパとあたしを守ってくれている。
ナシュアとモンジューは、寄り添うようにじっとしている。
「寒くないか?」
「ちょっぴり」
「おいで」

パパの腕の中で、眠っていた。
暖かく、安らいだ気持ちで。
安心だもの。
パパが守ってくれる。
目を開ける。
パパの優しいまなざしがあった。
あたしは、上体を起こすと、パパに口付けをした。
パパは、あたしを抱きしめて、口付けを返してくれる。
パパに抱きついて、ぎゅーって、胸を押し付ける。
パパの腕に、力が入る。
もっと力強く、抱きしめてくれる。
パパ…
パパは、ためらっている。
ブラのホックに指を掛けたまま、ためらっている。
パパ…キスして…エリカの、胸に、キスして…
口に出していえない。
でも、心の中で、叫んでる。
パパ、して欲しい…
パパは、ホックから指を離す。
いや…
パパ、いや…
エリカ、パパに愛されたい…
この世で一番好きなパパに、愛されたい…
ずっと、ずっと、前から、パパに愛して欲しいって…
やめちゃ、いや…
パパの、あれが、固くなっている。
お尻に触ってる。
パパ、エリカ、抱いて欲しい…
パパにキスをする。
それから、パパの口に、舌を入れる。
パパ、だめだって、言わないで…お願い…
パパの舌が、エリカの舌に触れて。
それから、パパはエリカをしっかり抱いて、思いっきりキスをしてくれた。
「パパ」
「エリカ」
パパの指が、ブラをはずす。
パパ、乳首に、チユッて…
それから何度も、優しいキスを乳房にいっぱい…
うれしい…パパ、うれしい…
エリカ、パパに、ずっとこうして欲しかったの…
いつか、こうなるって…
わかってた…
パンティを脱がされる。
そして、パパが覆いかぶさってきて。

「いや…いけない、エリカ…こんなことをしては、いけない」
「パパ…いや…いやよ、パパ」
「だめだ!」
「エリカ、パパが欲しい…パパに、して欲しい」
「エリカ…」
「エリカ、パパにして欲しいの」
「…」
「パパ、して…お願い、して…」

雨がやんで、遅い午後の青空が広がる。
あそこ、痛いけど。
帰り道、嬉しくて。
パパの背中、ずっと見つめてた。
出血が、下着を濡らし、パンツに染みている。
厩舎に届けてもらったバスタオルで下半身を包んで部屋に戻る。
「風邪をひかないようにしないとね」
パパが熱いお湯をバスタブに用意してくれた。
ルームサービスでホットワインを届けさせて。
それから、ベッドでもう一度愛し合った。
「今日だけだよ」
パパは、優しい声で、きっぱり言った。
今日だけで、いい…
その日は、そう思った。
夕食の後、部屋に帰って…
パパは優しかった。
あたしを女としてきちんと扱ってくれたと思う。
疲れて、パパの腕の中で、眠り込む。
裸で抱き合って…
あたしが目を覚ますと、パパも目を覚まして…

(3)

東京に帰って、毎日つらかった。
パパは、何事もなかったように、ママに優しい声を掛ける。
エリカには…
エリカは、子ども扱い。
ベッドの中で、泣いた。
水曜日が来た。
水曜日と木曜日は、ママが、大阪の学校に教えに行く日。
木曜日の授業がすんで、真夜中近くに帰ってくる。
今夜は、パパとふたりきり。
どんな顔をすればいいの?
夕方、携帯が鳴った。
パパだ。
「残業なんだ。宅配ピザでも食べてくれないか」
うそ!
うそよ!
パパ、エリカに嘘ついてる。
残業なんて、うそ。
ママがいない水曜の夜は、いつもふたりでお食事したのに。
宅配ピザなんか、いや!
でも、言えなかった。

11時ごろ、パパが帰ってきた。
廊下から、ドア越しに声を掛けてきた。
「エリカ、ただいま」
どうして!
どうしてなの!
何でキスしに入ってきてくれないの!
これまで、ずっとそうしてたのに!
返事をしないで、部屋の中でじっとしていた。
パパ、ほんのちょっとドアの向こうに立っていたけど、向こうに行ってしまった。
シャワー使ってる。
どうしよう…
いつものように、パパの着替えを用意してあげたい…
でも…
ああ…
エリカ、頭が変になりそう。
パパ、こんなことって、ないよ!
エリカ、パパのこと、こんなに愛してるのに。
何で、エリカに嘘をついて…
パパが、シャワー室から出てきた。
着替えがないのに気がついて…
パパ…
廊下に出た。
腰にバスタオルを巻いただけのパパが、こっちに来るところだった。
「パパ」
「エリカ」
「ごめんなさい…パパ」
パパの裸の胸に飛び込んだ。
涙が溢れてきて、わあわあ泣いてしまう。
パパは、エリカを抱き上げると、エリカのベッドに運んでくれた。
「パパも、つらいよ」
パパの首に抱きついて、キスをした。
いっぱい。
この日から、ママが留守の水曜日の夜、パパはエリカの寝室で寝るようになった。

あの日から一年たった。
パパとエリカの記念日。
表参道の《イザベル・シャシュ》で一緒に選んだドレス。
パパとママの願いどおりに、素敵なレディになったお祝いに
ママが買ってくれたネックレスとイアリング。
「いらっしゃいませ、小沼様。お嬢様」
「こんばんは、鴨居君」
ホテル内のフランスレストラン。
「今夜のお勧めは…」
パパと料理を選ぶ。
ソムリエの穂積さんが、とびきり美味しいワインを選んでくれる。
お酒は、二十歳を過ぎてから…
そんなしらけること、誰も言わない。
食事のあと、お散歩をして。
それから、パパと愛し合う。
パパとあたしの、秘密の記念日。
戻る