麻耶の黒い下着(修正版) 第7回

沼 隆

登場人物  坂下大樹 アマチュア写真家 浩平の父親
      坂下麻耶 大樹の妻
      坂下浩平 大樹の先妻の子
      野口明菜 麻耶の妹 大学生
      真壁宗男 大学講師
      浜部朱美 大樹の写真仲間
      沢渡良太 大樹の写真仲間
      篠田麻妃 大樹の写真仲間
      塩津美和 坂下家の隣人

     *   *   *

(1)

坂下大樹の家は、桜木にある。
冬は、博多湾から吹き付ける北風が厳しいのだが、
2階の部屋からは、見晴らしがいい。
日曜日の、午後。
大樹は、主宰する写真愛好会の撮影会で、出かけている。
大樹が、留守の間に、
年若い妻の麻耶と、先妻にできた息子の浩平が、
いかがわしい〈遊び〉をしている最中だった。
麻耶の妹の明菜が、突然訪ねてきた。
明菜が、浩平に詰め寄ると、
麻耶は、浩平をかばおうとさえした。
それだけではなかった。
浩平に、逆襲されたのだった。

明菜は、坂下の家を出た。
バス停に向かう。
たった今、姉と、ダンナの息子との関係を知って、
というより、ダンナの息子、浩平が突きつけた、明菜のいかがわしい写真、
明菜が、前と後ろからふたりの男にはさまれて、セックスしている写真、
に、不安になっていた。
どうして、あの写真が・・・
あの写真があるということは、あのとき写したほかの写真もあるはず・・・
浩平は、大樹のパソコンの中に見つけたと言った。
つまり、浩平は、大樹のパソコンを、こっそり覗いている。
それを、自分のパソコンに、コピーしている。
大樹が撮った写真すべてが、浩平の手元にある、ということ。
大樹は、パスワードを設定していないのだろうか。
大樹に話した方がいいのか、まだ、迷っている。
話したら、どうなるか。
大樹と、浩平の関係、
大樹と、麻耶の関係、
麻耶と、あたしの関係、
それに、「あたしたち」の関係が、きっと、めちゃくちゃになる。
浩平は、黙っているように、と言った。
そうするしかない。
明菜は、男と待ち合わせをしていた。
午後5時の約束なのだが、それまでの時間、
久しぶりに麻耶とおしゃべりしたくなって、
いきなり訪ねたのだ。
それが、こういうことになった。
鬱陶しい気分になって、坂道を下っていく。
黒い超ミニのビニールスカート。
それがはりついた尻が、ぷりぷり動く。

(2)

ラブホテル〈ココミル〉の一室。
朱美が、シャワーを使っている。
顔が、からだが、ふやけた感じがしている。
12時間以上、ベッドで過ごしたのだ。
火照った肌を、熱いシャワーで引き締めている。
これからお昼を食べる。
それからドライブをして。
ラブホに入るかも知れない。
また、したくなりそう。
もっと、したいんだもん。
で、夕方、うちの近くまで送ってもらう。
ダンナが帰ってくる前に、ウチについていなくちゃ。
ダンナの帰宅予定を、あとで確かめよう。
先にシャワーを浴びて、バスタオルを腰に巻いた姿の大樹が、
ベッドに座って、携帯をかけている。
時々、朱美に視線を向ける。
知り合いのカップルと、セックス写真を撮りっこする計画に、
朱美は、賛成した。
恥ずかしいし、
怖い気持ちもするけれど、
不安だけれど、
大樹が、絶対大丈夫と相手のことを保証するし、
結局、好奇心が勝ったのだ。
からだを拭きながら、バスルームを出る。
「OKだよ、今度の土曜日で」
お泊まり、なし、昼間だけ、ということなら、
今度の土曜日がいい、と朱美が言ったのだ。
「誰なの?相手のひと」
大樹は、朱美を見つめる。
「朱美がよく知ってる連中だ」
「だれなのよ」
「ふふ」
「教えてよ」
「当日の、お楽しみってことじゃあ、だめかな?」
「もう・・・」
心配だ、いやな相手だったら、どうしよう、と朱美は考える。
「ヘンな人だったら、いやだよ」
「スワッピング、するワケじゃ、ないよ、朱美」
「スワッピングって・・・それはそうだけどさ」
「写真の撮りっこをするんだよ」
「でも、見られるんでしょ?」
「そうさ、見せるんだ」
「なんだか・・・」
「朱美、今さら、それは、ないよ」
「ウン・・・だから、誰なのよぉ」
「しょうがないなあ」
「相手は、あたしたちのこと、知ってるんでしょ?」
「ああ」
「だったら、不公平だよ、あたしだけ、知らないなんて」
「沢渡だよ」
「えっ、良ちゃん?」
「ああ」
「なあんだ・・・で?」
「ん?」
「おんなのひと」
「麻妃ちゃん」
「えええっ!」
「ん? どうした?」
「なあんだ、麻妃ったら、ひとのこと、バカにして」
「なんだよ?」
「きのう、あたしを家まで送ってくれたでしょ?」
「うん」
「車の中でさ、良ちゃんと、寝てないって」
「ははははは」
「もう、麻妃のヤツ」
「出るぞ」
ふたりは、下着を着けはじめる。
朱美は、良ちゃんと麻妃がエッチするところを、見たいと思っている。

(3)

「浩平くん、入って、いい?」
麻耶が、ドアをノックする。
すけすけのベビードールから、着替えていた。
胸元がV字に開いたたまご色のシャツに、紺のミニスカート。
素足が、なまめかしい。
「あの・・・」
{なに?}
「聞いても、いい?」
「なにを?」
「きのうから・・・」
麻耶は、なかなか切り出せないでいる。
聞きたいのは、美和に関わることなのだ。
午前中、浩平がいない時間に、麻耶は美和と
愉悦の時間を過ごしたのだった。
女ふたりで、肉の快楽をつむぎ出し、
みだらな鳴き声を上げて、床を転げ回った、
その余韻が、麻耶の身体の奥にくすぶっていて、
後ろめたさからか、〈美和〉という名前が、口に出しにくい。
「なんなの?」
「気になってることが」
「だから、なんなの?」
「きのうの、美和さんの、ほら、浩平くんが、下着、返してたでしょ?」
「ああ」
「ホントに、風で飛んできたの?」
「麻耶、なにを考えてるの?」
「だって、美和さん、下着、外に干したりしないし」
「ふふ」
「浩平くんが、美和さんの下着に興味があるなんて、いやだよ」
「興味なんか、ないよ、麻耶。あんなおばさんパンツ」
「なら、いいけど」
麻耶は、本当はすっきりしないけれど、これ以上聞けなかった。
「あのさあ、麻耶、ここから、塩津のオバサンの部屋、丸見えなんだ」
それは、知っている。
もしかしたら、浩平くん、美和さんと、レインコートの男がしていることを、見たのか。
それは、聞けない。
でも、もしも、見ていたとしたら。
見ていたとしたら・・・
寝室の電話が鳴る。

「大樹さんからだった」
「そう、なんて?」
「今夜は、一緒に外で食べようって」
「ふうん」
「焼き肉屋に、行こう、って」
浩平は、妖しげなお泊まり撮影会の後ろめたさか、と思ったが、
焼き肉は、大好きなのだ。
「7時に、〈チャングム〉でまってるって」
〈チャングム〉は、お気に入りの焼き肉屋。
うれしいね。
キムチが、最高だし。
ははは、カルビが焼ける匂い、思い出したよ。
腹が、鳴る。
浩平は、ニヤニヤしてしまう。
でも、待ち合わせが7時なら、まだ午後の時間が、たっぷりある。
写真の整理は、後回しにして、
若桑のマンション、麻耶に見せよう。
このあいだ、杏奈といってから、もう2週間たつ。
「かびくさくなってると思うから」
麻耶は、見たくなった。
浩平が、母親の遺産として相続した、若桑のマンション。

かびくさかった。
どこにも、ほこりがうっすらとのっている。
浩平は、時々来なくちゃ、と思った。
窓を開けて回る。
風が吹き抜けた。
浩平と母がふたり暮らしをしていたときのまま、
ダイニングも、リビングも、そのままである。
浩平が使っていた部屋だけが、がらんとしていた。
一番奥の、母親が寝室にしていた部屋。
浩平は、そうだ、ここをスタジオに使おうと、その時思い立った。
いまは、電気も、ガスも止まっている。
けれど、それも使えるようにして。
管理費は、いまでも毎月、浩平の口座から引き落とされている。
口座には、母から残された金額が、入っている。
浩平を信頼しているのか、父親の大樹に、口を出されたことは、ない。
慎重にしなくてはいけないけれど。
麻耶は、ベッドカバーの端をめくった。
細かなほこりが舞いあがる。
枕元に腰を下ろす。
母が使っていた枕をそっと撫でて、それから浩平を見上げる。
ベッドに誘っているのか。
ベッドわきのテーブルに、浩平と母親の写真。
「浩平くん、鼻が、お母さん似なんだね」
浩平は、返事をしないで、ベッドカバーをはずしてしまう。
麻耶が、身体をちょっと硬くした。
「布団、かびくさいや」
「こんど、一日、布団干しに来ようよ」
「ああ」

「オヤジ、あのさ」
「なんだ?」
〈チャングム〉のカルビや、ロースや、ミノや、
ジュウジュウ焼けるのを、片端片付けながら、
浩平は、大樹に切り出した。
「オレ、写真に興味があるんだ」
「ほう?」
麻耶は、浩平がなにを言い出すのか、不安になる。
「写真、勉強したいんだ」
「そうか、でも、受験勉強、大変だろう」
「まあ、そうなんだけど」
「いまは、趣味にのめり込むのは、どうだろう」
「いや・・・」
「大学に入ってからでも、いいんじゃないか?」
「写真の学校に行くのって、だめかなあ」
「おいおい、プロの道を考えているのか?」
「どうおもう?」
「日芸大学写真学科が、あるけど」
「専門学校とか」
「そうだなあ、でも、浩平、趣味で写真を楽しむだけじゃ、だめなのかな?」
「ウン・・・」
「父さんの写真は、趣味のレベルだ、
 仕事の余暇として、楽しんでる、
 そういうひとは、たくさんいるよ。
 それに、プロもたくさんいる。
 プロの写真家と一口に言っても、
 いろんな分野の仕事があるよ。
 父さんには、見当もつかないなあ」
「そうだね」
「いっぺん、父さんに、撮った写真を、見せろ」
「うん、そうするよ」
麻耶は、はっとする。
浩平くん、いったいどんな写真を、父親に見せるというのか。
父親に見せられるような写真を、撮っているのだろうか。
まさか、あの写真を・・・
拘束具をつけて、浩平のベッドで撮った写真。
あれじゃ、ないんでしょ?
大樹の視線に注意しながら、浩平に目配せをする。
けれど、浩平は、知らんぷりをしている。
「ウチに帰って、見せるよ」
「驚いたなあ、おまえが、写真に興味を持つとはなあ。血筋ってヤツかなあ」
浩平は、父親がうれしそうにビールを飲む様子を、にこにこしながら眺めているのだ。
(悪党!)
麻耶は、浩平に、呪いの言葉を呟いていた。
浩平が、ふふふ、と含み笑いをする。

(4)

麻耶の妹、野口明菜は、麻耶の家を出たあと、
夕方まで天神で時間をつぶし、男と待ち合わせをして、
もつ鍋を食って、男のマンションにいる。
男とは、明菜が通う大濠国際大学講師、真壁宗男である。
明菜と、真壁のいきさつを、書く。
   *   *
去年の7月のことである。
1学期の期末試験が終わった。
明菜は、講師の真壁宗男に呼び出された。
受講した「社会心理学」の担当講師である。
凄まじく暑い日だった。
菜摘とショッピングに行きたかったけど、しかたがない。
用件が終わったら、菜摘に電話してみよう。
天神に行くつもりだったのに。
もう、気分は、すっかり夏休みなのだ。
で、明菜は、思いっきり大胆な服装をしていた。

教官室棟は、静かだ。
真壁の研究室は、5階にある。
明菜のサンダルの音が、ひたひたと響く。
教官室のドアをノックする。
「どうぞ」
教官室は、冷房が効いていて、キモチがいい。
「いらっしゃい、野口さん」
真壁は、コンピュータをスタンバイモードにしながら、立ち上がった。
真壁講師は、遠慮のない視線を、明菜に這わせる。
紫を基調にした、花柄のキャミソール。
肩ひものないブラジャーが、胸を包む。
胸がつき出しているので、腹のあたりはキャミソルが浮いている。
へそが丸出し、
超ミニのスカートからは、ムチムチした両足が、のびている。
「座って」
真壁は、椅子を指さした。
明菜は、両手でスカートのすそを軽く押さえている。
明菜を、うっかり丸椅子に座らせたことを、真壁は悔やむ。
ソファに座らせるんだった。
尻が沈んで、パンティが見えたのに。
くそっ!
「毎回、出席してくれて、うれしかったよ、野口さん」
「はい」
必修科目だし、出席はとるし、さぼると面倒なのだ。
「きみが居てくれるから、なんだか、張り切っちゃってさ」
「は、はい」
「でさあ、きみのおかげで、お仕事、愉しいんだけどね、野口さん」
ねちっとした喋り方、スケベったらしい目線に、明菜は、ムスッとしてしまう。
「ははは、そうなんだよ、野口さん、きみ、不合格!」
真壁は、変に明るかった。
バカにされている気がした。
「でさあ、野口さん、マカベの社会心理学、必修科目でしょう?
 このままだと、野口さん、困っちゃうわけですよ」
たしかに。
「ぼくも、困っちゃうんですけどね。不合格出しちゃうと、
 富田林教授に、叱られちゃいますしね。
 あのひと、怖いんです。ぼくの恩師ですからね。
 にらまれちゃうと、ここ、クビになっちゃうかも。
 ぼくさあ、今学期から、ここで教えはじめたでしょ?
 富田林先生、うるさくってさあ。
 おまえが授業、ちゃんとやってるか、調べるからね、
 なんて言われちゃってさ。
 ひどいんだよぉ、ぼくの試験、チェックするって、言うんだよぉ。
 それでもって、ぼくがまじめに授業したか、チェックするって言うんだからさ」
明菜に一言も言わせないで、真壁はしゃべり続ける。
「でさあ、野口さん、きみの答案、どうしても、不合格なワケなの」
「あの・・・」
「ごめんね、ホント、ごめん、合格させてあげたいんだけどさあ、そういう事情なの」
「せんせい、なんとか、できないんですか?」
「だからさあ、何ともしてあげようが、ないワケよ。
 富田林先生ったら、今日中に答案をもってこいって、せかすんだもん」
「じゃあ、どうしても、だめなんですか?」
「不合格、出しちゃうわけにいかないんだけど、
 合格点つけたりしたら、ね、ね、わかってね」
「わかりました」
明菜は、立ち上がって、一礼する。
真壁が、突然、ムッとした顔になった。
真壁が、椅子から立ち上がる。
「ごめんね、野口さん、また、来年、チャレンジしてよ」
真壁の声は、さっきまでのひょうきんな調子が消えて、この上なく冷たかった。
「先生」
明菜は、真壁の胸に抱きついた。
「おいおい」
「先生・・・」
「野口さん・・・」
「先生・・・」
「ま、まずいよ、野口さん、こんなこと、いけないよ・・・」
「先生・・・」
明菜は、真壁の片方の手が、背中に、片方の手が腰に、そっと触れるのを感じた。
「きみ、こ、これ、まずいよ、ね、ね、だめだよ、野口さん」
「ああん」
明菜の胸を味わうように、真壁は胸を押しつける。
「お、おい、だめだって」
自分から押しつけておいて、「だめだ」はないが、真壁は平気である。
明菜の乳房の弾力を、しっかりと味わう。
真壁が脱がせてはならない。
「よしなさい、野口さん、よしなさいって」
真壁の指が、超ミニのスカートの上から、明菜の尻をつかむ。
その指が、尻の双丘を左右に開く。
「だめだよ、だめだよ」
「ああっ」
膨れあがった男根が、明菜の下腹部に押しつけられる。
「おっ」
「あっ、あっ」
「野口さん、こんなこと、できないんだ、
 ぼく、セクハラで、クビになっちゃうよ」
「んん」
真壁は、名残惜しそうに、明菜のからだをひと撫ですると、身体を離す。
それから、ソファに寝ころぶように腰を下ろした。
明菜を見上げている。
ズボンの前が勃起した男根に突き上げられて、テント状に盛り上がっている。
それを見せつけるように、真壁は自分の指で撫でまわす。
「野口さん、あたしを、困らせちゃ、いけませんよ」
その目は、明菜を欲しがっている。
「せんせい」
明菜は、真壁の首に両腕をからませながら、ソファに倒れ込む。
「野口さん」
「せんせい」
真壁は、明菜と唇を重ね、それから舌を挿しこんだ。
明菜は、応えた。
ふたりは、舌を舐め合い、吸い合う。
ぺちょ、ぺちょ、ぺちょ・・・
明菜の太ももは、うっすらと湿っていた。
超ミニのスカートは、スソがほんの少しめくれただけで、
ショッキングピンクのビキニパンティが見えてしまう。
真壁は、明菜の太もものあいだに右手を挿しこむ。
汗ばんだ明菜の肌が、真壁の指先にネットリとはりつく。
明菜は、ひざをわずかに開いた。
真壁は、指を少し奥に侵入させる。
むにゅむにゅと、柔らかい明菜の太もも。
そして、その付け根に指をはい上がらせていく。
「あん」
ナイロンパンティが、明菜の股間にはりついている。
薄い生地越しに、
明菜の陰毛のざらつき、そして
割れ目の湿り気が、指先に伝わる。
溝を広げるように、指を押し込む。
パンティが、溝に押し込まれ、それから、探り当てた穴に、食い込む。
「ああん」
真壁は、指先で穴の入り口を撫でまわす。
真壁の指と穴を隔てるパンティはすぐにぐっしょり濡れてしまう。
「あう、あう、あう」
明菜は、目を閉じて、真壁の胸に抱かれている。
真壁は、明菜の熱い吐息を感じている。
パンティの指をかけ、脱がせようとする。
ソファに寝そべるようにしているせいで、腕が伸びない。
明菜は、それに気がついて、起きあがり、腰を浮かせてパンティを脱いだ。
後ろ向きの姿勢でパンティを脱ぐとき、真壁の視線をお尻に感じる。
あそこも、見られたかも。
真壁に抱き寄せられて、スカートをめくられる。
しっかりと生えた、陰毛が、黒いデルタを作っている。
「いいねえ、野口さん、いいよ、ホントに、いい」
「先生、恥ずかしいです、そんなに、見つめないで」
「おっとっと、わりぃ、わりぃ、つい・・・見とれちゃったよ」
つやつやとした、陰毛。
手入れをしているのか。
真壁の指は、キャミソールのすそから潜り込んできて、
ブラジャーごと明菜の乳房を手のひらで包み込む。
「ああ、思った通りだ、思った以上だよ、野口さん」
「ああぅ」
「この弾力、張り出しぐあい、すばらしいよ」
「あうっ」
真壁は、キャミソールを脱がせた。
ブラのホックをはずす。
「ああ、すごいね、なんて、いいカタチしてるんだ」
ジュパッ
真壁は、口を大きく開いて、明菜の乳房をすわぶった。
乳房を吸いながら、真壁はミニスカートをはぎ取る。
「おおっ、おおっ、ここ、びしょびしょ」
「いやっ、せんせい」
「おおお、おおお、おおお、中、ぶしゅぶしゅ」
それから、明菜をソファに寝かせ、素早くズボンを脱いだ。
ワイシャツのすそから、いきり立った肉棒が、突きだしている。
真壁は、明菜の尻を抱き上げるようにして、挿入した。
ソファが、ギシギシと、きしむ。

明菜は、ソファにぐったり座ったままだ。
胸に、キャミソールがかけられている。
真壁は、デスクに向かって、ワープロを打ち続ける。
10分ほどかかっただろうか、真壁はできあがった文書をプリントアウトした。
それを明菜に渡しながら言った。
「これを、答案用紙に、写しなさい。自分の言葉に直すんだよ」
明菜は、新しい答案用紙に、それを書き写す。

こうして、明菜と真壁の関係が始まった。
真壁は、明菜を一度味わえばいいと思っていたのだが、
研究室のソファでのファックで、一度で終わらせるのは惜しい、と思った。
「きみが教室にいてくれると、ぼくは、はりきっちゃんうんだけどね」
というのは、本当だった。
教室に明菜がいると、やる気が出てくるのだった。
明菜の表情が、そうさせた。
そして、明菜の肉体が、真壁のヤル気を、ふくらませた。
明菜の反応は、真壁の期待を超えていた。
明菜の肉サヤは、真壁の肉棒をしっかりくわえ込み、
クイクイと締めつけ、
蜜を垂れ流し、
明菜の腰は、くねくねとうごめいて、
肉棒をしゃぶり続けた。
うめくようなヨガリ声も、よがる顔も、真壁の好みにピッタリだった。
明菜の性器を、もっともっと味わいたいと思ったのである。
明菜も、真壁のセックスが、気に入った。

真壁は、明菜の受講科目のレポートを下書きしてやり、
明菜は、真壁のセックスのお相手をした。
ギブ・アンド・テイクで終わらせるはずが、
9か月も続いているのである。
   *   *
ちょっと長くなったが、明菜と真壁は、こういう関係である。

(5)

カットサロン〈らべんだあ〉
ウカジ左近くんは、塩津美和さんの髪をシャンプーしている。
ウカジくんのほっそりとした指が、美和の頭皮をマッサージする。
やわらかな物腰からも想像できるように、ウカジくんはゲイだ。
細身のパンツは、ウカジくんの腰にピッタリはりついている。
キュッとしまったお尻は、女性客の羨望のまなざしを受けて、
ぷりぷり動く。
股間のふくらみがないので、
タマもサオも、ついていないみたいだ。
ウカジくんは、ハードタイプのパンティガードルをはいている。
きれいなラベンダー色のパンティガードル。
ヒップアップが目的ではない。
そんな必要は、ない。
サオとタマを押しつぶすために、はいている。
普通のオトコなら、虐待されたタマが悲鳴を上げるところなのだが、
ウカジくんは、なんか、引き締められて、気持ちいいのだ。
ウカジくん、取ってしまいたいのだけれど、
踏ん切りがつかないでいる。
あちゃ・・・脱線してしまった。
ウカジくんなど、この話となんの関係もないのである。
ウカジくん、きょうの美和さんは、なんだか、いつもより、色っぽいな、と
思っている。

美和は、地味な会社で、地味な仕事をしてきた。
親戚がやっている、小さな会社の経理係だ。
いつの間にか、美和自身が、地味になっていた。
それに、気づいた。
思い知らされた。
麻耶のせい、麻耶のおかげ・・・かな?
今朝の出来事は、美和には強烈だった。
美和がしかけたのかもしれないけれど。
先に相手の身体を触ったのは、美和のほうなのだ。
オナニーするとき、自分の身体を味わい尽くす。
柔らかい場所、弾力がある場所、
熱い場所、ひんやりした場所、
撫でると感じる場所、押すと感じる場所、
つまむと感じる場所、握ると感じる場所、
ひっかくと感じる場所、いれると感じる場所。
自分の指で、手で、舌で、歯で、麻耶をいかせてあげた。
あのときの、麻耶のいやらしい声。
あふれ出る蜜。
蜜の味。
麻耶の匂い。
そして、麻耶が美和をいかせた。
女同士の、熱いセックス。
思い出して、熱くなる。
乳房が、うずく。
あそこも。
ああっ・・・パンティ、濡れて・・・ひんやり・・・
こんなにキモチいいのは・・・ウカジくんの指のせい・・・

塩津美和は、短大生時代のことを思い出していた。
10年以上、昔の話。
合コンで知り合った男が、包茎だった。
フェラを求められて、顔を近づけると、臭った。
「ごめんなさい、フェラ、好きじゃない」
と、断ったのだが、
いちど入れさせたことが、悔やまれた。
とても、不潔なものを入れられた気がした。
それに、入れて、すぐに、射精した。
早漏、って、このことなのね、と、美和は納得した。
感じる間もなかった。
親切心から、むいてあげようと思って、
包皮をグイッと引っ張ると、
そいつは、あまりの痛さに、悲鳴を上げたのだった。
そのあと、さんざ毒づいた。
「クソ女!」
「バカ女!」
男の悲鳴のような罵声が、滑稽だった。
むけたところが、真っ赤になっていて、
痛々しくて、かわいそうな気がしたけれど、あほらしくなった。
突然、『いなばの白ウサギ』の話を思い出して、こみ上げてくる笑いを必死でこらえた。
ワニをだましたために、皮をむかれて赤裸にされた、あの白ウサギの話。
皮をむかれた亀頭は、生皮を剥がれたみたいに、赤かったのだ。
むいてあげたのに、
ありがとう、って、言ってくれても、いいんじゃない?
なんで、バカ女なんだよ。
で、けっきょく、そいつとつきあわなくなった。
浩平くん、包茎?
だから、かっこわるくて、知られたくなくて、
麻耶さんとしたがらなかったし・・・
あたしと、本気でしたかったんだろうか。
土曜日の夜、エッチさせろと言われて、待ち合わせ場所の〈ロースン〉まで行ったけど、
浩平くんは、来なかった。
美和は、女性週刊誌をぱらぱらめくりながら、セックス特集の見出しにつられて、
そんなことを考えている。

(6)

水曜日の夜、大樹は早く帰宅した。
浩平と一緒だった。
天神でまちあわせて、浩平に一眼レフのデジカメを買ってやったのだ。
最近、かなり値下がりした。
浩平は、夕食もそこそこに、梱包を解いた。
新しい道具を手に入れて、いかにも愉しそうにしている浩平を、
そばで眺めている大樹が言った。
「わからないことは、オレが教えるからな」
麻耶が、
「今度の土曜日、撮影会があるんでしょ?」
とたずねた。
「浩平くん、連れて行ってあげたら?」
「ウン、初心者は、ちょっと遠慮してもらわなくちゃなあ」
大樹は、何食わぬ顔で、応えた。
浩平は、夜遅くまで、マニュアルを丹念に読んだ。

麻耶は、ほっとした。
先週末の出来事があってから、麻耶は、ずっと不安だった。
浩平と、どう接したらいいのか、ぎこちなくなってしまう。
毎日の暮らしは、変わったところがあるわけではない。
それまでと変わらないように、麻耶は気を遣っていた。
大樹と浩平は、ふたりとも、出かける時刻も、帰宅時間も、それほど違わない。
デジカメを一緒に買いに行った日から、父と息子は、とってもたのしそうだ。
ゆうべも、リビングで、カメラを大事そうに抱えて、話に夢中になっていた。
珍しく、この一週間、大樹は麻耶のからだを求めなかった。
大樹は、息子にかまけて、麻耶をほったらかしにしてしまったのだが、
その時間、麻耶は浩平のことを考えて過ごしたのである。

先週、浩平が撮った写真を、全裸の麻耶が、拘束具だけをまとった写真を、
性器に、あのいやらしい道具をくわえ込んだ写真を、
見ていない。
浩平は、見せなかったし、麻耶も見せてと、言えない。
でも、見たい。
浩平に、はだかにされていくあいだ、
黒い拘束具を取り付けられていくとき、
からだを締め上げられたとき、
そして、写真を撮られているあいだ、
恥ずかしく、みじめだった。
浩平の激しい感情が、怖かった。
けれど、数日たって、気持ちが落ち着くと、
あの夜の写真を、見たいと思う。
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