麻耶の黒い下着(修正版) 第13回

沼 隆

登場人物  坂下大樹 アマチュア写真家 浩平の父親
      坂下麻耶 大樹の妻
      坂下浩平 大樹の先妻の子
      真壁宗男 大学講師


(1)

浩平は、射精した。
麻耶の膣ではなく、口の中に。
麻耶の口を性器に見立てて。
麻耶の後頭部を抱きかかえて、玩具のようにあつかった。
青臭い精液を、麻耶の口腔にぶちまけた。
「呑め」と言われて、麻耶は飲み込んだ。
どろどろしたものが、喉を降っていった。
浩平のペニスは、すぐに回復した。
麻耶の身体は、正直だった。
肉穴が、サオを欲しがっていた。
  お口じゃなくて、ここで、して・・・・・・
からだが、そう言っている。
濡れているのが、その証拠だ。
触ってみなくても、濡れているのは、わかる。
  なんで、こんなに、濡れるの・・・・・・?
  浩平は、どうして、ここに、してくれないの・・・・・・?
子宮が、うめき声をだしている。
膣が、サオを欲しがって、うずいている。
  浩平は、したくないの?
  ここに、入れたくないの?
  あ!
麻耶は、ようやく思いついた。
  浩平くん、お父さんのことを・・・・・・
  お父さんを思って、ここにだけは、入れないのかも・・・・・・
麻耶は、ほっとした。
身体は、したがっている。
けれど、いくらしたくても、夫の息子なのだ。
ふっと、義理の母、という言葉が浮かぶ。
  義理の母・・・・・・
  いやっ!
  お母さんだなんて!
  いやよっ!
勃起したペニスを揺らしながら、浩平はベッドから降りた。
かがみ込んで、ベッドの下に締まってある箱を引き出す。
  あっ・・・・・・
  あの、箱・・・・・・
麻耶は知っている。
あの箱の中身、
でも、このあいだ届いた、「新しい箱」の中身は、知らないのだ。
麻耶は、一息つきたかった。
「おしっこ、行きたい」
「行けよ」
排尿のあと、ヌルヌルをビデで洗い、
口をすすいだ。
「まだかよ」
浩平が、せかす。
浩平の部屋に戻ると、床に道具が広げられていた。
「怖いよ」
「ふん」
浩平が、せせら笑う。
「痛めつけは、しないさ」
「そんな・・・・・・」
「安心しろよ、麻耶。おまえの身体を傷つけたりしない」
ベッドにうつぶせに寝かされる。
両手首を、腰で固定された。
浩平の手で、身体を転がされ、横向きになる。
後ろ手に縛られて、乳房が飛び出している。
浩平は、両手を大きく広げて、乳房をつかむと、
ぎゅうっ、ぎゅうっ、ぎゅうっ・・・・・・
絞るように揉み始める。
ぎゅうっ、ぎゅうっ、ぎゅうっ・・・・・・
「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・・・・」
  感じる・・・感じる・・・感じる・・・・・・
  ああ・・・もう、蜜が・・・流れでしてくる・・・・・・
「ふん、スケベ女が・・・・・・」
「いやあっ」
浩平の言葉に、麻耶のからだがこわばる。
「スケベ女!」
「いやっ、そんなこと、言っちゃ、いやっ!」
「ふん、マンコ、びしょびしょじゃないか!」
「いやぁ・・・・・・」
「ほら!」
浩平は、乱暴に指を肉穴に突き立てた。
「いたっ!」
そして、乱暴に引き抜いて、指のぬめりを麻耶のほほになすりつける。
「ああっ!」
「スケベ女!」
「いや、ひどいこと、言わないで・・・・・・」
「やって欲しいんだろ!」
麻耶は、違う、違う、そんなこと、というように、激しくいやいやをする。
「ふん、マンコ、びしょびしょにして!」
「違う、違う、違う・・・」
「ウソつけ、汚れマンコがっ!」
「そんなこと、言わないでよ・・・・・・」
浩平は、麻耶の股間を広げ、淫裂をむき出しにさせた。
ぱしっ
「いたいっ!」
淫裂を、平手打ちにする。
「いたい・・・・・・」
ぱしっ
「ああ・・・いたいよ・・・・・・」
ぱしっ
浩平は、打ち付けた指を、そのまま淫裂に滑り込ませ、中指を穴に突き立てた。
「痛いっ・・・ひどいこと・・・しないで・・・」
「うるせえなあ、腐れマンコがっ!」
「いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ」
麻耶が泣き叫ぶ。
浩平は、黒いサテン地の布を取り出して、
手早く目隠しをしたのだった。
こうべを振って逃れようとする麻耶を、浩平の力強い腕が許さなかった。
きつく縛られ、麻耶は視界を失い、恐怖に叫んでいたのだ。
「いやっ、いやっ、いやっ、いやっ・・・いやぁぁぁぁぁぁぁ」
「大声、だすなよ、麻耶。隣のおばさんに聞こえるよ」
「いやだよぉ、怖いよぉ」
麻耶は、闇の中で、おびえていた。
これほど怖いとは。
浩平が、なにをしかけてくるか、まったく見えないのだ。
「いたいっ!」
右の乳首に、クリップのようなものが取り付けられた。
「ああっ!」
左の乳首にも。
電子音が、鳴る。
写真を撮っているのだ。
それから、ラバーボールを口に押し込まれ、首の後ろで固定された。
  いやだ・・・これ・・・いやだ・・・
鼻腔をラバーの匂いがおそう。
すぐに、唾液が出始めた。
そして、口からあふれ出し、頬を、あごをつたって、だらだら流れていく。
電子音・・・・・・
首輪、足かせ・・・
淫靡なコスチュームをつけられては、写真を撮られていく。
闇の中で、浩平にパンティをはかされる。
  Tバック
  この感触は・・・
  レザー・・・・・・?
いきなり目隠しをはずされて、目の前が一瞬真っ白になった。
しだいに目が慣れて、目の前に立っている浩平を見た。
全裸の浩平は、グロテスクな仮面をつけていた。
黒い仮面。
  こんなものが・・・・・・
  こんなものが、あるの・・・・・・?
バットマンの仮面のように、目元を隠すだけではない。
浩平の鼻にかぶさるように、仮面から男根が垂れ下がっているのだ。
顔の真ん中に、男根をぶら下げた男。
  こんな、いやらしいもの、どうして・・・・・・?
仮面の奥で、浩平の目が妖しく光っている。
麻耶は、おぞましい仮面に、おびえた。
麻耶がおびえた様子に、浩平はにやりとした。
「おごっ、おごっ。おごっ・・・・・・」
猿ぐつわで、麻耶の喉から出るのは、うめき声ばかり。
浩平が、にやりとした。
「げっ、げっ。げっ」
麻耶は、自分の唾液に、むせた。
浩平は、じっと見下ろしているだけである。
「げふっ、げふっ、げふっ、げふっ」
浩平は、麻耶の後頭部をつかむと、うつぶせにしてやる。
どろどろと、唾液が流れ出して、シーツを濡らした。
麻耶の咳き込みがおさまると、浩平は麻耶の後頭部を突き放す。
麻耶のからだが、ベッドに転がった。
浩平の指が、麻耶の肛門を広げた。
「ごっ、ごっ、ごっ」
浩平は、浣腸器をつかんでいた。
ノズルの先端が肛門に触れて、麻耶は冷たさにすぼめていた。
浩平は、ノズルを押し込んだ。
麻耶は、尻を振って逃げようとするが、もう、挿しこまれている。
「うぐっ!」
冷たい液が、流し込まれて、下腹に広がってゆく。
「うぐっ、うぐっ、うぐっ」
100ccのグリセリンが、麻耶の下腹部をみたす。
ノズルが、ゆっくりと引き抜かれていく。
  ああ・・・出そう・・・出そうだよ・・・・・・
何か言っても、うめき声になってしまうだけなのだ。
麻耶は、肛門をけんめいに閉じる。
  こぼれる・・・こぼれるよ・・・こぼれるよ・・・・・・
グルッ、グルグルグル・・・・・・
下腹部が、悲鳴を上げだす。
浩平は、あごをつかんで麻耶の顔を引き起こす。
「オレの部屋で、するんじゃないぞ」
麻耶の額に、冷や汗が吹き出る。
「ふふ、ガマンしろ、麻耶」
麻耶は、頭を振る。
「がまんしろ! まだ1分も、経ってないぞ!」
麻耶は、激しく頭を振った。
肛門から、液体が流れ出す。
「がまんしろって!」
浩平が、怒鳴った。
「この、クソ女!」
Tバックが、はぎ取られる。
浩平に、引き起こされる。
漏らさないように、必死の麻耶。
前屈みになって、下腹部が暴れ回るのを、何とか押さえ込もうとしながら、
廊下に引きずりだされ、
乱暴にドアを開けた浩平に突き飛ばされるようにして、トイレに転がり込んだ。
ふたを開ける浩平を押しのけるように便座に座り込む。
目の前に、浩平が立って、麻耶を見下ろしている。
  行って、あっちに、行って・・・・・・!
  おねがい・・・・・・!
  おね・・・・・・が・・・・・・いっ!
  ああっ、いやぁっ、浩平くんに、聞かれてしまう・・・・・・うううっ
  いやっ、聞いちゃ、いやっ・・・・・・
ガマンの限界を超えた。
いまわしい音をたてながら、大量に排泄したのだった。
どろどろと唾液を垂らし、ぼろぼろと涙をこぼしながら。
果てしない時間のようだった。
全身から力が抜けていくのだった。
なみだと、鼻水と、唾液でぐしょぐしょになった麻耶の顔を、浩平はカメラに納めていく。
浩平の手で排水栓が開かれて、ごぼごぼと流れていった。
「全部、だしたのか?」
麻耶は、こくりとうなずいた。

(2)

麻耶は、浩平のベッドに腰を下ろしている。
両手首は、後ろ手に縛られたままだ。
あごが、疲れてきた。
「はあっ、はあっ、はあっ」
息が、粗くなる。
「はずして欲しいか?」
麻耶は、うん、とうなずいた。
「そうか、はずして欲しいか」
「ああ」
「そうか、そうか、そうか・・・ふふふ」
浩平が、あのTバックを拾い上げて、麻耶に見せる。
「はくんだ」
「ああ」
浩平の手で、片足ずつ通す。
「立て」
スルスルと引き上げられて、股間におさまる。
「ふふ、麻耶、お似合いだよ」
「ああ」
似合っているのかどうなのか、麻耶には、見えない。
うつむけば、唾液がしたたり落ちる。
「はずしてやるよ、麻耶」
留め金がはずされて、口からボールが抜かれる。
「げふっ、げふっ、げふっ」
口いっぱいにたまった唾液を飲み込もうとして、むせかえる。
ベッドに倒れ込む。
浩平は、手かせもはずした。
ほっとして、からだから力が抜けていく。
「立て」
「お、おねがい・・・休ませて」
「立て」
「おねがい・・・・・・」
「立て!」
麻耶は、じっとしていたかった。
「そうか、刃向かうのか・・・麻耶」
浣腸のあと、下腹部から力が抜けてしまっているのだった。
起きたくても、起きられない、そういう気力さえ、なかった。
「そうか、麻耶・・・言うことが聞けないなら、お仕置きをしてやる」
「いや・・・・・・」
「もう一度、浣腸をしてやるよ」
「いやっ!」
浣腸という言葉に、麻耶は悲鳴を上げていた。
「いやっ・・・」
のろのろと起きあがる。
「そうだ、麻耶、素直にすれば、いいんだ」
「はい・・・・・・」
「でも、おまえは、オレに刃向かったから、あとできっちり、お仕置きをするからね」

(3)

ふたりは、階下のリビングにいる。
全裸の麻耶は、床にぺたりと座り込んだまま。
グロテスクな仮面を付けた全裸の浩平が、仁王立ちになっている。
ペニスが、ぞろりと垂れ下がっている。
ペットボトルの水をがぶがぶ飲んでいる。
「おまえも、飲め」
差し出されたペットボトルから、麻耶もごくごくごく、喉を鳴らして飲んだ。
カーテンを閉め切って、明かりを消したままの薄暗い部屋。
麻耶の腹が、ぐうう、と鳴った。
「ふふふ」
浩平が、笑う。
「麻耶、おなかが、すいたんだね」
麻耶は、手にしたペットボトルを見つめている。
「あんなに、クソをしたんだからな」
麻耶は、身震いした。
浩平の前で、ガマンできなくなって・・・・・・
「晩飯、早すぎるだろ?」
何か、食べたいわけではない。
ただ、空っぽになったおなかが、鳴っているのだ。
ぐううう
「あははははは」
浩平の顔がかぶさってきて、唇を吸おうとする。
麻耶は、間近に迫ってきた浩平の仮面に、ぞっとした。
ニョッキリとつき出した、黒光りする男根。
それが、邪魔になる。
浩平は、麻耶の頬を、べろり、べろりと舐めまわした。
「麻耶、化粧が、ぼろぼろだよ・・・ふふ」
浴室の洗面台に連れて行かれて、鏡の前に立たされる。
なみだと、唾液で、すっかり化粧が崩れてしまった、異様な顔が、あった。
「麻耶、化粧を、直せ」
「・・・・・・」
「うんとエッチに、するんだぞ、いいね」
「上に、行って、いい?」
ドレッサーは、寝室にある。
「ああ、そうしよう」
2階の洗面台で、化粧を落とす。
トイレで、浩平が小便をしている。
  浩平は、あたしを、どうしたいんだろう・・・・・・
  逃げ出す?
  逃げ出すって、どこに?
  逃げ出して、どうするの?
トイレのドアが開いて、浩平が、相変わらず仮面を付けたままの浩平が、
麻耶の後ろに立った。
いとおしむように、麻耶の片に口づけをする。
指が、麻耶の乳房をそっと揉む。
グロテスクな仮面がなかったら・・・・・・
「マスク・・・・・・」
「ん?」
「怖い・・・・・・」
「ふふ、そうか、そうか、ふふ」
「はずして・・・・・・」
浩平の表情が、こわばった。
「さしず、するなっ!」
怒声に、麻耶はおびえる。
「さっさと、化粧しろ」
ドレッサーの前に立って、麻耶はTバックに目をやった。
いまわしい黒のTバック。
表面が、加工してある。
は虫類の皮膚を思わせる手触り。
スツールに腰を下ろす。
鏡のはしに、裸の浩平が現われ、鏡に映った麻耶の目を見つめながら、
背後にある夫婦のベッドに横たわる。
片肘をついて、寝そべった姿勢で、麻耶をじっと見ている。
麻耶は、化粧をしていく。
「エッチな化粧をするんだよ」
浩平が、いった。
「うんと、エッチにね」
浩平の右手が、サオをゆっくりとしごいている。
エッチな化粧・・・・・・
アイシャドー、アイライン、マスカラ・・・・・・
思いっきり大胆に、仕上げていった。
不思議なキモチだった。
浩平を恐れながら、浩平のために化粧をしている。
浩平に、喜ばれようと、思っている。
鏡のなかに、淫らな女がいた。
「出かけるぞ」
「ええっ!」
「せっかく、きれいにお化粧したんだ、出かける」
「どこに?」
浩平は、返事をしなかった。
「いやよ」
「なんだ、おまえ、刃向かってばかりだねっ!」
「こんなお化粧して、外に出られないよ」
「別に、変なお化粧、してるワケじゃないだろ!」
  変じゃない、変じゃないけど、大胆すぎる・・・・・・
「いや、絶対、いやよっ、いやっ!」
「この野郎!」
「ああっ、やめてっ!」
浩平は、麻耶の髪を鷲づかみにして、床に引き倒した。
思い切って、淫らなメイクアップをした、
水商売の女がするような、
濃い、メーキャップ。
「浣腸してやる! もっとたっぷりね!」
「いやあっ!」
「こっちに、来い!」
「いやぁ、おねがい、おねがい、いやぁ、浣腸は、いやぁ」
泣き声にかわっていた。
「泣けっ! わめけっ!」
浩平のベッドに突き倒されて、両手首に腕かせがつけられた。
麻耶は、抗ったが、腕をねじ上げられて、痛い目にあっただけだった。

「麻耶、おまえの化粧、気に入ってるんだ」
「でも、昼間だよ」
「昼間だから、どうなんだ?」
「恥ずかしいよぉ」
「麻耶が、エッチぃからって、悪口言われるのか?」
「エッチぃ化粧しろって言うから、したんだよ」
「だから、エッチくて、オレ、気に入ってるんだって」
浩平は、麻耶にブラジャーを差し出した。
「これ、着ろ」
Tバックと同じ素材の、黒いブラジャー。
は虫類の皮膚の手触り。
「さあ、早く」
麻耶は、ブラジャーを着けた。
「見ろよ」
浩平に引っ張られて、鏡に映った下着姿を見る。
「おまえには、黒い下着が似合うんだよ」
麻耶は、めまいがした。
浩平が、支える。

(4)

「おまえには、黒い下着が似合うんだよ」
浩平の言葉使いは、あの男とそっくりだった。
麻耶は、その男とのいまわしい関係を忘れることができないでいた。
   *  *  *
麻耶は、平尾学園大学の学生だった。
社会学を専攻して、研究室に出入りするようになって、
大学院生と知り合った。
優秀な学生として尊敬されていて、尊大なところもあったけれど、
女に優しいところもあった。
資産家の息子という評判で、鶯谷の高級マンションに住んでいるらしかった。
デートに誘われ、フランス料理の店に行った。
何度目かで、寝た。
シティホテルのダブルの部屋。
翌朝、ルームサービスの朝食を食べながら、麻耶の下着の趣味が悪いと言い、
クェンティンホテルのショッピングアーケードにある高級ランジェリーショップで、
下着を買ったのである。
ブラジャーも、パンティも、キャミソルも、ガーターベルトも、
どれもみな黒を選んだのだ。
ブラジャーを試着しているとき、店員といっしょに試着室に入り込んできて、
麻耶をびっくりさせた。
その時、鏡に映る麻耶を見て、男は言った。
「おまえには、黒い下着が似合うんだよ」
店員の手前、麻耶は恥ずかしくてたまらなかった。
男は、平気だった。
店員に、ガーターベルトのつけ方、教えてやってね、と指図さえしたのだった。
男は、毎日麻耶の下着をチェックした。
黒をつけていないと、不機嫌になった。
黒い下着が透けないように、自然に濃い色の服装をするようになった。
「麻耶、カレシできたんでしょ」
「服のセンス、全然変わったモンね」
しかし、麻耶の下着の色までは、知らない。
いつも、黒い下着を着けているとは。
妊娠し、中絶し、男と諍いするようになった。
夏休みが来て、麻耶は実家に帰った。
男と距離をおきたかった。
休みが明けて、しばらくぶりに大学に行った。
研究室の雰囲気は、まったく変わっていなかった。
しかし、男は、麻耶に距離をおいていた。
話しかけようとしないし、視線をそらせた。
まもなく、ある女子学生が、男と親しげなのに、気がついた。
ふとしたハズミで、その子が黒い下着を着けていることを知った。
麻耶は、男が買ってくれた黒い下着を一枚残らず捨てた。
男の名前は、真壁宗男。
どこかの大学で、教えているのだろうか。

(5)

浩平は、麻耶をベッドに抱え上げた。
「だいじょうぶ?」
「うん」
心配そうに、のぞき込む浩平の顔。
毛布が、かけられた。
浩平は、興奮が、醒めてしまったのか、
サオが、だらりと垂れ下がっている。
「貧血、起こしたみたい」
「そうか」
「だいじょうぶ」
浩平が、トイレから戻ると、麻耶は眠っていた。
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