第1章


その部屋にはふたりきりしかいない。未緒と美波だ。
ふたりとも黙りこくっている。静かな部屋だ。
「未緒ちゃん、立ってごらん」
美波の言葉に未緒は無言のまま立ち上がる。
「上着とブラウスを脱いで」
未緒は一瞬からだをこわばらせて美波をかえりみたが、ほんの少しのためらいを見せたのちにこくんと小さくうなずいた。
しかし、未緒はあらぬ方をぼんやりと眺めながら立ちつくしたままだ。
「どうしたの」
美波の語気はあくまでも柔らかかった。
しかし未緒の耳にはその言葉が天から下された命令であるかのように感じられた。
未緒は制服の上着のボタンに手をかけた。
指が小さく震えてうまくはずすことができない。
ひとつ、ふたつ。
制服の前が大きくはだけた。
ゆっくりと片腕ずつ抜いていった。
制服は足下にぱさりと落ちた。
白いブラウス姿だ。
学校でも暑いときは制服を脱ぐ。友だちだってそうしている。
ただし、ブラが透けないようにブラウスの下にはTシャツを着ていることが多いのだが。
しかし、今はブラウスの下はブラだけだ。
自分からもブラがうっすらと透けているのがわかる。
ブラの下で小さな変化が起きているのがわかった。
暖かい部屋なのに、からだがちょっと震えた。
それはこれから始まるパーティへの期待感なのかもしれない。
未緒と美波のふたりだけのパーティ。
誰にも邪魔されることのないこの部屋で、ふたりだけで楽しむパーティ。
この部屋で私は本当の自分をさらけだすんだ。
誰の前でもいい子を演じてきた今までの自分。
ここではそんな仮面は捨て去ってしまおう。
未緒は決心してブラウスのボタンをはずし始めた。
もう指は震えていない。
上からゆっくりとボタンをはずしていった。
スカートの中からブラウスの裾を引っ張り出した。
ブラだけの裸の胸があらわになった。
ブラウスに包まれていたときとは違う空気がそっと未緒の胸元をなでた。
それはベッドに座っている美波のため息が届いたのかもしれない。
未緒はブラウスから腕をゆっくりと抜いていった。
かさかさと小さな衣擦れの音が静かな部屋に響く。
「脱いだよ」
未緒はつまむように美波の方に示し、そっと指を離した。
ブラウスがふわりと風を含むように落下した。
美波の顔がわずかに微笑んでいる。
「すてきね。じゃあ、そのまま鏡の前に立って」
壁ぎわに大きなはめこみの鏡がある。バレエのレッスンで使えるほどの、全身が映る大きな鏡だ。
未緒は鏡の前に立った。
下はスカートで上はブラだけをした女の子がうつむき加減で立っている。
「鏡の中にいるのは誰?」
未緒は息をのんだ。
日常生活の中で鏡をのぞきこむ機会はいくらでもある。
登校前にブラシで髪を梳く、学校のトイレで手を洗いながら笑顔の練習をする、お風呂からあがってにきびができていないか確かめる、、、。
でも、今、鏡の中にいる私は日常生活の中で見かける未緒とは別人のようだった。
それはこれから起きる何かを、仮面を脱ぐことによって得られる何かを期待している女の子の顔だった。
大きな鏡は全身を映し出すので、本当にそこにもうひとりの女の子がいるかのようだった。
磨き込まれた鏡はブラだけの胸をくっきりと映し出す。
未緒は思わず両腕で胸を隠した。
「だめよ、気をつけの姿勢のままでいるのよ」
美波の声のトーンは先ほどまでとは違って少し高かった。
その声に未緒は両腕を下ろして気をつけの姿勢をとった。
「どうお、自分の姿をくまなく眺めるのは。まるで別人に見えるでしょ」
美波のその言葉は未緒の心の内を見透かすかのようであった。
未緒は胸を隠したいのをじっとこらえ、じっと鏡の中の自分を見つめていた。
ベッドの上に座っていた美波が立ち上がり、未緒の背後に近づいてきた。
手に何かを持っている。
美波が背後から未緒の裸の肩に手をかけ、未緒の肩越しに顔を近づけて鏡の中の未緒に語りかけた。
緊張した面もちの未緒と、いたずらっぽく微笑む美波。
ふたりの顔が鏡の中に並んでいる。
美波は手にしていたものを未緒の顔の前にかざした。
「ほら、これ」
それは黒いスカーフと黒い皮の手錠だった。
かざしたスカーフと手錠越しに鏡の中の未緒の顔が一瞬ひきつる。
その反応に満足したかのように、美波の表情が満面の笑みを浮かべた。
「未緒ちゃん、こんなの、使ってみたかったんでしょ」
未緒の表情は凍ったままだ。
しかし、胸の内では心臓の高鳴りが大きく響いているのを感じていた。
「じゃあ、使ってみようか」
美波はかがんで足下にそっと手錠を置いた。
じゃらっと金属的な音がした。
「まずはこちらから」
美波は立ちつくしている未緒の背後から、スカーフで目隠しをした。
未緒は頭の後ろでスカーフがきつく結ばれているのを感じた。
「未緒ちゃん、何も見えないでしょ?でもね、私にはちゃんと見えてるからね。目隠しをして何かを期待している未緒ちゃんの姿が」
未緒は今、暗闇の中にいる。
ときおり美波の気配さえ感じられなくなることがある。
たぶん、美波は息を殺して未緒の姿を観察しているのだろう。
観察されている自分。そのことを意識すればするほど、からだの中に熱い何かが目覚めていくのを感じる。
それはとろりと溶解し血管を通って全身を駆けめぐるようだ。
するとからだの内側からじわじわと火照っていくのを感じてしまう。
行き着く先は、、、。
その場所は目隠しをしている未緒にもはっきりとわかった。
下腹部である。
とろけた熱い何かが自分のからだの中で一番敏感なあたりにじわじわとたまっていくのがわかった。
そしてそれがじわじわとにじみ出しているのがわかる。
未緒は思わず両脚のつけ根をこすりあわせるようにからだをよじった。
「熱い、あそこが熱いよ」
未緒が心の中で悲鳴をあげたときだった。
「どうしたの?感じてるの?」
突然、耳元で美波がささやきかけた。
自分のからだの変化に意識を集中していた未緒は、美波の存在を意識の中から失っていた。
美波の突然のささやきに未緒は小さく声をあげてその場にしゃがみこんでしまった。
腰をかがめると、下着のあの部分がぐっしょりと湿っているのがわかった。
あふれ出してしまっているのだ。
「驚いた?ほら、立ちなさい」
美波は未緒の手を取って立たせてくれた。
「未緒ちゃん、両手を後ろにまわして」
その言葉のあとに何をされるか、未緒にはわかっていた。
未緒は素直に両手を後ろにまわした。
左の手首に何かがまかれている。いえ、それが何であるかはわかっている。皮の感触が冷たい。
未緒の背後でじゃらじゃらと金属的な音が響いている。
右の手首にも皮の感触が巻き付いてきた。
「がちゃん」
鍵をかけた音。
未緒は背中ごしに両手を引っ張ってみた。
しかし、両手首はほんの少し離れるだけで、それ以上は動かすことができない。
手を動かすほどいましめはきつくなるような気がした。
「どうお、手錠をはめられた気分は?」
未緒は、美波の言葉に手錠をはめられた自分を実感した。
手錠を、それも後ろ手にはめられたにもかかわらず、屈辱的という感情はわいてこなかった。
からだの自由を失うことによって心の自由を獲得したような気さえする。
これが私の望んでいたこと、、、。
確信とは言わないが、そう思うことができるようになった自分に未緒はくすぐったいような快さを覚えていた。
突然、鎖骨のあたりに何かがうごめくのを感じ、からだがはねあがった。
しかし、すぐにそれが美波の指であることに気づいた。
美波は無言のまま、未緒の肌をなぞっている。
鎖骨から、胸元へ、それから指はまっすぐ下に降りて未緒のすべすべのおなかのあたりをうろついている。
触れるか触れないかというぎりぎりの接触。
ときおり指がはねるように肌を離れたとき、心細さを感じるのはなぜだろう。
指がおへその周囲をなぞるようにゆっくりと旋回する。
美波の指が優雅なダンスを踊っている。
そのステップが未緒の下腹部の内部を刺激する。
内部にたまった熱いものがステップに合わせるかのようにあふれ、滴り落ちていった。
美波の指の動きが突然止まった。
「このまま一緒に踊っていたかったのに」
すると美波の手は未緒のスカートの脇に移動した。
美波の手が小動物が木の実をかじるような動きをしている、と思った。
腰のまわりが急に締め付けを失った。
スカートのホックがはずされたのだ。
ジーッ。
ジッパーの下りる音。
スカートは一瞬未緒の脚にすがりつく素振りを見せたようだったが、重力にはあらがいきれず、そのまますとんと足下に落下したようだった。
腰と太股を覆うものが失われてしまうと、待ちかねていたように部屋の空気がまとわりついてきた。
未緒は自分の今の姿を想像した。
目の前の鏡には私の下着姿がはっきりと映し出されているはず。
そう考えると、そのまましゃがみこんでしまいたい思いにかられた。
しかし、美波は未緒の心を見透かしているかのように、未緒の肩を抱くようにして未緒がしゃがみこめないように支えている。
そして、すぐさま未緒の背中に手をまわし、ブラの留め金を器用にはずした。
一瞬のことに思わず声が出てしまった。
間髪を入れず、美波は未緒のブラをはぎとってしまった。
さっきまでの美波のソフトな振る舞いに身をまかせることに慣れてきた未緒であったが、突然に野獣に身を変えたかのような美波の変わり様に、この部屋にはもうひとり別人がいるのではないかと思ったほどであった。
美波は未緒の前にかがみ、未緒がしゃがみこまないようにしっかりと未緒の両腕を押さえていた。
「きれいだよ。とってもすてきだよ、未緒ちゃん」
美波の声が未緒のおなかのあたりから聞こえる。
美波は下から見上げるように未緒の裸を眺めた。
熱い吐息が未緒のおなかにかかる。
さっきまでと違って、美波の息が荒くなっているのがはっきりとわかった。
「残すはあとひとつだけだね」
美波は未緒の左右の腰に引っかかっていたパンティに両手をかけた。
「未緒ちゃん、この下は今どうなってるの?」
未緒は答えることが出来ない。
わかっているに口に出すことができないのだ。
「じゃあ、私が確かめてあげる」
美波の手がゆっくりとした一定のスピードで未緒の大事なところを覆っている最後の布きれを引き下げていった。
未緒は美波の目の網膜に今、何が映し出されているのか、ありありと頭に思い描くことが出来た。
美波の手が突然止まった。
「かわいい毛だね、産毛みたいだよ」
美波の指がまるで生まれたての子猫を愛おしむかのように未緒の毛を優しくなでた。
未緒は自分が本当に子猫になったような気がしていた。
「さあ、もう少しだね」
美波の指は残った作業を完遂すべく、再びパンティを少しずつ引き下げていった。
未緒の湿ったあそこにひんやりとした外気が触れていった。
美波のすぐ目の前に現れているであろうものを想像し、未緒は思わずからだをすくませた。
「脚を少し開いて」
言われるままに未緒は脚を開いた。
最後の布きれはそれまでのゆっくりしたスピードではなく、すばやい速さで足首まで引き下げられた。
「ほら、片足ずつあげて」
未緒は美波に言われるままだった。
しばらくの沈黙。
「未緒ちゃん、裏側がぐしょぐしょだよ」
美波は未緒のはいていたものの裏側をじっと確かめていたのだ。
「さあ、これからが本番だよ。もっと脚を開いてみせてよ」


つづく