第四話「裸の衣装」


「や、やめ……」  少女が抗議の声を上げます。しかし、それを遮るようにマジシャンはその指を鳴らしました。 彼の魔術は少女の体に忠実に再現されます。 「……」  会場中が沈黙します。壇上のヒロインの体を覆っている物は何もありませんでした。輝くよ うな裸身が、遮る物もなく露わになっています。凛としたジーンズ姿の少女が、美しいドレス 姿を披露したヒロインが、今は何も身に着けずにその全てを舞台上で晒していました。透けて いたとはいえ一応布に包まれていた乳房が、今は外気に晒されています。そして下の部分。ピ ンクのショーツや白いパンツ、ハイレグのボンテージなど、様々な羞恥の衣服を纏いつつも、 辛うじて隠し続けられていた少女の股の皮膚が露わになっていました。その股間を飾る陰毛は、 予想通りとても小さく薄いものでした。わずかな毛が恥丘を申し訳程度に覆っているのみ。か すかに確認できるその下の割れ目は、覆うものもなく剥き出しになっています。しかし、どう やらそれは元々のものではないようです。ヘアが綺麗な形に整っている所をみると、なんらか の理由で剃っているようですね。彼女が行っているスポーツに関係あるのかもしれません。も っとも、割れ目を透かすほどその毛が薄いのは、生来のもののようです。 「……」  あれほど口うるさかった少女が、今は何も言葉を発しませんでした。固く唇を噛み、苦しい 表情で必死に何かを堪えているようです。腕と脚を真っ直ぐに伸ばした直立不動の姿で、19の 女性の体を会場全ての人間に晒し続けていました。 「それでは鈴野さん。もう一度、挨拶をお願いしますね」  全裸のヒロインに、魔術師が声をかけます。彼女はその言葉にも反応しませんでした。しか し、彼女の体は再び与えられた動作を繰り返し始めます。純白の花嫁衣裳や、清楚な和服を纏 っていた時と寸分違わぬ動きを、全裸の女体がなぞっていきました。ゆっくりと後ろを向き、 引き締まった臀部が再び客前に晒されます。しかも、先刻は辛うじて割れ目を覆っていた布さ えも今回は存在しません。回転の為に脚を組み替える度にその排泄口までが覗き、脚の間から は陰になりながらとはいえ少女の生殖溝さえも覗う事ができました。  そして、再び少女の体が正面を向きます。小振りの乳房を、薄い陰毛を、そこから見える羞 恥の割れ目を、その体の全てを客席に見せつけるよう両腕を広げ、ゆっくりと体を前に倒しま す。その筋肉の動き全てを見せ、裸の体がゆっくりと客席に傾きました。 「鈴野さん、どうもありがとうございます」 「それでは、魅惑のファッションモデルに、今一度盛大な拍手をお贈り下さいませ」  客席から大きな拍手が巻き起こります。しかし、自らの裸身に贈られたそれを少女自身は歓 迎してはいないようです。ようやく魔術師の術から開放されたのでしょう。糸が切れた人形は、 がっくりと床に座り込みました。  あまりのことに動転しているのか、彼女はそのまま動きません。その瞳は焦点が定まらず、 ただ虚空を見つめています。露わな裸を覆う事もせず、呆けたようにその場に座り続けていま した。 「おいおい、大丈夫か?」 「お嬢ちゃん、そんなにショック受ける事ないって」 「そうですよ。とっても素敵でしたよ」  客席から少女を励ますような、卑猥に称えるような野次が飛びます。その言葉に反応してか、 彼女の虚ろな瞳に、ふっと光が宿りました。 「よくも、よくも……」  少女が呟きを洩らします。最初はこの最前列に辛うじて聞こえるような小さな声でしたが、 しだいにそれは大きくなっていきました。 「……くも、よくも!」  会場中に響き渡るような大声で叫ぶと、次の瞬間いきなり立ち上がりました。そのまま、魔 術師に殴りかかっていきます。今までの事が爆発したのでしょうか? 少女はためらいなく拳 を魔術師に向かって繰り出しました。腰の入った右ストレート。なかなかの動きです。しかし、 いとも簡単にそれをかわす所はさすが黒崎、と言う所ですね。 「この、このっ!」  少女はしきりに拳を繰り出しました。激しい動きに合わせて小振りの胸が揺れ動きます。し かし、一発として黒崎にかすりもしません。マジシャンは少女の動きを先読みしているかのよ うに、危なげなくその攻撃をかわし続けました。 「えい!」  業を煮やしたのか、彼女はそのスラリとした脚を跳ね上げます。右脚を水平まで上げてのミ ドルキック。なかなか綺麗なフォームですが、全裸の女性がする動作としては少々はしたない もののようですね。わずかに開いた脚の間から、先程は見にくかった股間の器官が覗いてしま っていました。瞬きするほどの間ですが、少女の秘部が全ての観客の前に晒されます。客席か ら興奮の声が上がりますが、彼女の耳には届いていないようです。  渾身の中段蹴りもかわされた彼女は、今度は体を半転させ回し蹴りを放ちます。より大きく 広げられた両脚の間、その付け根の部分がさらに露わになりました。動体視力に優れる者なら ば、ピンクの割れ目がかすかに開いているのさえ確認できたでしょう。しかし、そんな大振り の攻撃が命中するはずもなく、少女の攻撃はまたも不発に終わりました。  興奮状態にあるせいでしょうか。それとも自分が裸であることを忘れているのか、少女は体 を隠す事も忘れ攻撃を続けました。彼女が拳を繰り出す度に小振りの胸が形を変え、脚を上げ る度にその秘部がちらちらと覗きます。少女の体は噴出す汗で濡れ光り、激しく動く度にそれ を飛び散らせました。予期せぬハプニングですが、これはこれでなかなかの見世物ですね。舞 台上で少女が見せる全裸の殺陣に、観客は引き込まれていました。  と、黒崎がバランスを崩します。少女にとっては絶好の機会でした。この機を逃さんと彼女 は大技を繰り出します。 「これで!!」  少女は右脚を大きく振り上げました。つま先を高く掲げ、頭の上まで持って来ます。その脚 を相手に叩き込む、いわゆるかかと落としの体勢でした。しかし、それは彼女の秘所をさらけ 出すポーズでもありました。限界近くまで広げられた脚の間で、性器が大きくその口を開いて しまっています。これまで辛うじて隠されていたその内部の器官までが観客の前に晒されてし まっていました。  しかし、その魅惑の姿も一瞬の事。次の瞬間には彼女の右脚はものすごい勢いで振り下ろさ れます。さすがにこれはかわせないかに思えました。しかし、魔術師は笑みを浮かべたまま、 すっと少女の脇をすり抜け彼女の後ろへと回り込みました。勢いを抑え切れずよろける少女。 目標を視界から失ってようやく我に返ったのか、その顔に理性の表情が戻ってきました。裸の 自分の姿にも、どうやら気付いたようです。 「きゃ!!」  少女の口から、似合わぬ可愛い悲鳴が洩れます。急いでその体を覆い隠すと思っていたので すが……。 「えっ、えっ?」  自らの裸体を隠す事もせずに、何故か彼女は再びあさっての方向に拳を突き出し始めました。 しかも先程とはうって変わり、かなりのスローテンポです。そのまま、虚空に連打を続ける少 女。しかし、この動きにはどこか見覚えがありますね。 「やだ、また」  鈴野嬢は明らかに嫌がっているようですが、その体が止まる事はありません。観客の中も、 彼女の現状に気付いた者がいるようです。 「さて、お気付きの方もおられるようですね」 「『自動人形の輪舞曲』、今度は鈴野さんがお見せ下さった殺陣を繰り返して頂いております」 「せっかく素晴らしい技を披露して頂いたのですから、もう一度ゆっくりとご覧頂きたいと思 いまして」  周囲から納得の声が上がります。どうやら、大方の推測の通りのようです。少女は再びその 動きをリピートさせられているようでした。 「速くてよくわからなかったという方のために、今度はスピードを落としております」 「我が愛しの自動人形の演舞、今度はスローでお楽しみ下さい」  その言葉の意味する事を知りながら、魔術師はことなげに言い放ちました。


第五話へ