第三話「壇上の着せ替えドール」


 ステージ上の少女の姿を、会場中が息を飲んで見つめます。少女が纏っていた新しい衣装、 それは純白のウェディングドレスでした。確かにこの花嫁衣裳は、男女共に一番人気のある答 えでしょうね。穢れなきその白いドレスは多くの女性が憧れ、多数の男性がパートナーに望む 姿でしょうから。少女自身にも感慨深いものがあるのでしょう。薄いヴェール越しに見えるそ の表情は、かすかに紅潮しています。将来を先取りした少女の花嫁姿は、会場中を魅了してい ました。 「ご覧の通り、一番の支持を集めましたのはこのウェディングドレスです」 「やはり、みなさま女性に一番憧れるのはこの姿ということなのでしょうか?」 「それでは一足早い鈴野嬢の晴れ姿、ゆっくりとご観賞下さい。では、鈴野さん、また先程の ようにお願いしますね」  一瞬呆けていた少女ですが、マジシャンの言葉に慌てて頷きます。そして、ゆっくりと一回 転し、客席に向かって礼をしました。 「お客様方、お楽しみ頂けているでしょうか? これよりこの黒崎特製ファッションショーを お送りします」 「我らがヒロインの織り成す艶姿、ゆっくりとご堪能下さいまし」 「お次はこの衣装です。ワン、ツー、どうぞ!」  魔術師はもったいつけるように、今度はゆっくりとカウントをとります。そして、最後の合 図と共に再び少女の衣装が変わりました。今度彼女を包んだ衣装、それは紺に彩られたの着物 でした。落ち着いた雰囲気のある和服姿、まさに大和撫子という言葉がぴったりの様相です。 「これもリクエストが多かった衣装です。やはり、みなさま日本人ですね」 「この美しき大和撫子に、どうか盛大な拍手をお贈り下さい」  馬子にも衣装というのは失礼ですが、このような姿だとあのはねっ返りの少女も淑やかに見 えるから不思議です。客席からの拍手をその身に浴び少々照れくさそうな表情を見せながらも、 少女は再びその体を回転させ客席に向かってゆっくりと礼をしました。美しい衣装を次々と着 られ、なかなか上機嫌のようです。先程の剣幕はどこへやら、しっかりとショーの協力をして いますね。 「それでは、次です!」  その後もマジシャンは次々とモデルの衣装を変えていきます。有名校のセーラー服や白衣の ナース姿、ミニスカートの婦警服、黄色いボンボンを持ったチアガール姿と、いくつもの衣装 が少女の体を包んでいきました。ヒロインの見せる七変化に、会場中が湧きます。最初は粗野 な印象を受けたこの少女ですが、こうして見るとなかなか可愛くも思えますね。  最初のうちは可愛らしい衣装が多かったのこの着せ替えショーも、終わりの方になってくる と、しだいによくわからない衣装へと変わっていきました。紅白の巫女装束や、架空のレスト ランのウェイトレス姿、エプロンの付いたメイドの作業服などはまだ良い方で、なぜか猫の耳 飾りが付いた衣装や、流行りの魔法少女のコスチューム、さらには何かの特撮ヒロインのスー ツなど、あきらかに質問の意図とは外れたような衣装も少女の体を覆っていきました。こうな るとファションショーというよりも、ただのコスプレショーですね。  少女は多少恥らいながらも、そういう衣装にも難色を見せず笑顔で挨拶をしていました。し かし、次に衣装が変わった時その表情が変化します。 「なによ、これ!」  少女が驚くのも無理はありません。彼女の体を包んでいたのは、布地の少ない黒のボンテー ジ服なのですから。胸の部分には大きな切れ込みが入り、それは臍にまで達しています。少女 の小さな乳房でさえ、その片鱗を覗かせていました。下腹の方の切れ込みも鋭く、すでにハイ レグというレベルを超えたものです。黒い皮が正面を辛うじて覆っているのみ。毛がはみ出し ていないのが不思議な位です。おそらく、少女のヘアは面積が小さく薄いのでしょう。ですが、 彼女は先程ブラジャーとショーツという2つの下着を身に着けていたはず。ところが、その衣 装から当然はみ出すべきピンクの布の姿は見られませんでした。どうやら、魔術師は少女に服 を着せていたのではなく、その下着ごと彼女の衣装を取り替えていたようです。この皮の衣服 は少女を覆っている唯一の物、その下には何も身に着けてはいないのでしょう。 「早く次のに変えて!」  さすがに、彼女もこのきわどい衣装は嫌ったようです。ここからでは見えませんが、このデ ザインだと臀部はほとんどまる出しでしょう。もちろん、今度は少女も回転はしません。そん な事をしたら剥き出しの尻をこちらに向けることになるのですから。急いで体の前を押さえよ うとしたみたいですが……。 「やだ、なにこれ。からだ、が……」  なんと少女は今までと同様に体を回転させ始めました。しかし、それは本人の意思ではない ようです。 「何回も同じ動きをするのは大変だと思いましてね。同じ動作を繰り返すように、私の方で仕 掛けをさせて頂きました」 「これぞ黒崎マジック、『自動人形の輪舞曲(ロンド)』。意識しなくとも、お嬢さんの体は 自動的に同じ動きを繰り返してくれますよ」  操り人形ならぬ自動人形ですか。少女が自身の意思で行っていたその行動は、いつの間にか 魔術師の支配のものに、すりかえられていたというわけですね。マジシャンの言葉通り、少女 の体はこれまでの動きをなぞるように回転していきました。  本人の意思に反して体が反転し、後ろ向きになります。予想通り、その尻の大部分が晒され ていました。正面から細くなった帯が食い込むように割れ目を隠しているだけで、ふくらみの 部分は何も覆ってはいません。引き締まった健康的な臀部が会場中に晒されました。染み一つ なく、つるつると光るそれは、まさに若い果実という言葉がぴったりです。そして再び正面を こちらに向け、これまでと同じように深く礼をします。正面に位置するこの場所からだと、少 女の緩やかな胸の谷間さえ観察する事ができます。 「こ、こんなの……」  少女は少々不機嫌のようですね。このような露出過多な衣装は、やはり好みではなかったと いう事でしょう。 「おやおや、お気に召しませんでしたか? 女性らしい、なかなか魅力的な衣装だと思ったの ですが」 「まあ、それほどお気になさらずに。気を取り直して次に参りましょうか」  少女は、いかにも気にしているという風な表情ですが、黒崎はあえて気にせず次の紙を取り 出します。 「ほう、これは見事なデザインです。どうやら、この場にそちらの関係の方がおられるようで すね」 「それでは、どうぞ!」  十何度目かのコスチュームチェンジ。少女が新しい衣装へと変わったとき、会場中にどよめ きが走りました。  彼女の下半身を覆っているのは、白のパンツです。先程の衣装と比べれば股の角度も数段に 緩い、何の変哲もない普通のパンツです。しかし、少女が上半身に身に着けているベージュ色 のカーディガンは、極薄い布地で出来ていました。まるで淡い羽衣のような服で、その布地越 しに少女の全てを透かしてしまっています。白いパンツも、布地を通してその姿が完全に見え ます。そして、その極薄の衣服以外、少女は上半身に何も纏ってはいませんでした。小振りの 双球の形が、はっきりとわかります。それは透けているというよりも、まる見えと言った方が 正しいでしょう。その先端の突起さえ、しっかりと確認する事ができるほどですから。 「み、見るな……」  少女が震える声で叫びます。彼女は必死に剥き出しの胸を隠そうとしているようですが、与 えられたプログラム以外の動作はできないようです。先刻、興奮の為に紅潮していた少女の顔 が、今度は羞恥に赤く染まっています。壇上のモデルは、ほとんど全裸と言っていいその姿を 会場中に提供していました。 「あっ、それ私が描いたやつ」  すぐ後ろから声がします。その声の主は舞台上の少女の横に座っていた、彼女の友人のよう です。振り返ると、一人の少女の姿が目に飛び込んできました。流行りのスーツを着こなした、 社交的な感じの女性。軽くカールのかかった長髪に愛らしさを感じます。多くの装飾品を身に 着けていますが、不思議と着飾っているという印象がありません。同世代の多くの少女達と同 じように、顔にも化粧を施していますが、それもけしてケバケバしくはなく、少女本来の魅力 を十二分に引き立ててくれています。 「ゆり、あんた……」  今の言葉で、愛嬢は怒りの矛先を友人へと向けたようです。恐ろしい表情でこちらを睨んで いますね。 「そんな怖い顔しないでよ。私だってまさか、めぐみが着るとは思わなかったんだから。ほら、 それにすごく素敵よ。まるでファッションモデルみたい」  確かに本場ミラノのファッションショーにおいては、このような衣装も珍しくないものでし ょう。幻想的な衣装は、ヒロインを魅力的に見せてくれてもいます。しかし、普通の女子大生 が身に着けるものとしては、少々刺激が強すぎるようですね。それにしてもこの由利という少 女、自分の友人がこのような目に遭っているというのに随分とお気楽ですね。  鋭い眼光を残しながら、少女がプログラム通りに回転します。そして両腕を広げ、その胸を 強調するようにしながらゆっくりと礼をします。小さな胸の先端が動きにあわせてかすかに上 下し、観客達の目を楽しませました。本来なら大喝采が湧く所でしょうが、少女の表情に気圧 されたのか、ぱらぱらと小さな拍手が起こるのみです。 「おやおや少々引いてしまいましたね。ですが、次のはきっと気に入って頂けると思いますよ」  別に拍手が少なかったのは衣装に人気がなかった訳でもないのですが。もっとも、魔術師本 人もその事はわかっているみたいです。一種の社交辞令のようなものなのでしょう。そして、 その言葉を聞いて少女の体が震えます。 「まだ続ける気? もういいかげんにしてよ!」  舞台上のモデルはかなりご機嫌ななめのようですが、黒崎は関せずにショーを進めました。 「それでは最後の一枚です。最後はこの衣装に着替えて頂きましょう」  そう言ってマジシャンが取り出した最後のアンケート用紙、しかし、そこには何も書かれて はいません。表題の下にある答えを書くべき部分は、白紙のままになっています。 「この衣装って、何にも書いてないじゃないか」  客席から野次が飛びます。確かにそうでしょう。着替えようにもその変えるべき衣装が書い てないのですから。 「いえいえ。これとて、私がちゃんと客席から回収した物。お客様から頂いた解答の一つです」  なるほど。その紙は最初に黒崎が持っていった物のようですね。白紙で提出したのは時間が なかったからですが、どうやら彼はその白紙のアンケートも一つの答えとして扱うようです。 「解答の一つってたって、何にも書いてない物をどうすんだ?」 「待って。それって、もしかして……」 「え、まさか……」  一部の客が何かに気付いたようです。会場中にざわめきが広がっていきました。 「!」  舞台上の少女の顔が強ばります。何もない衣装を着る。その意味に彼女も気付いたようです。 しかし、無情にもショーは続けられていきます。魔術師は次の合図を鳴らそうとしていました。


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