第十一話「ゲームの条件」


 一度は奥へと引っ込んだヒロインが、再び表舞台へと戻ってきました。代わりに由利嬢がステ ージ後方へと下がっています。 「で、なにをするの? エロマジシャン」  勝気な少女が黒崎を威圧します。ステージを降りずにこの場に留まることを選択した少女。彼 女は真っ向から魔術師の挑戦を受けるつもりのようでした。 「そうですね。ゲームをするとは言いましても、何か特別な用意がある訳でもありませんので」 「今この場にあるもの……。そうですね、これを使いましょうか」  マジシャンはそう語ると、カードの束を取り出します。チェックの裏模様の描かれたそのカー ドは、どうやらトランプのようです。一見すればなんの変哲もないただのカードに見えますが、 トランプマジックといえば手品の十八番。何かしらの仕掛けのにおいを感じますね。 「このトランプを使ってゲームを行いましょう」 「お客様の中からもお二人ほどご参加頂き、4人対戦で楽しみましょうか?」  複数プレイとは意外です。勝負というからには、1対1の勝負をするのかと思ったのですが。 「ちょっと待って。それじゃ、客が勝ったらどうするの?」  少女の疑問はもっともですね。そもそも、彼女の進退を決めるためのゲームなのですから。 「その時には、勝利されたお客様に選んで頂きましょう」 「ここまでとするのか、ショーを続けるのかを」  黒崎のセリフを聞いて、少女が言葉を詰まらせます。当然ですね。勝利した客がショーの継続 を望むのは必至。二人の客が参加するとしたら、おそらく彼女の望み通りとなる確率は4分の1 となってしまうでしょう。 「どうせ、こんなことだと思ったわ。全く、あくどいやり方」  不満の表情を顕わにして、少女が毒づきます。まあ、当然の反応ですね。ですが、彼女にして は態度が少々穏やかのようにも思えます。先程の気性の荒さから考えると、マジシャンに詰め寄 り食ってかかってもおかしくないのですが、やはり友人の身が心配のようです。 「いえいえ、妙な計算はありませんよ。ただゲームを盛り上げたかっただけです」 「二人でプレイしてもつまらないゲームですので」  話しながら、マジシャンがカードの束を裏返しました。 「このトランプを使って、ババ抜きをしたいと思います」  ババ抜きですか。技術を伴わない分ゲームとしては面白いかもしれませんが、確かに二人で行っ てもあまり面白くないですね。ですが壇上の少女の関心はそんな所には無く、黒崎が取り出した トランプに向けられていました。 「なんなのよ。そのトランプ」  少女がカードを指差します。裏向きにしていたときには気がつきませんでしたが、そのトラン プはかなり変わったものでした。通常、スペードやダイヤといったマークが数字の数だけ印刷さ れているものですが、このカードにはそれがなく、代わりに一面が肌色に印刷されていました。 よく見るとカードの左上と右下には申し訳程度に数字とマークが印刷してあり、辛うじてこれが トランプであることを示しています。 「ああ、これですか」 「これは、マントに包まれている鈴野嬢の体を写し取ったものです」  魔術師の言葉にヒロインが凍りつきます。そう言われて見ると、全面肌色のものばかりではな く、何かのパーツが描かれたものも存在しますね。手の平や腋の下であろうものも存在します。 少女が固まったのは、その中に胸の先端を発見したからでしょう。しかし、これが本当に愛嬢の 体の一部なのでしょうか。 「その証拠に、こうしますと」  客席の疑問を察知したのか、魔術師が自身の言葉を裏付けようとします。黒崎の指がトランプ の肌をくすぐりました。 「や、くすぐったい」  すると、それに呼応して少女が身悶えます。 「ご覧の通り、このカードには少々魔術が施してあります」 「カードに描かれた肌は、ヒロインの体と連動するようになっているのです」  なるほど、思い出しました。このマジック、前回のショーで最後に用いた『大いなる複写』で すね。対象の姿と質感を忠実に写し取り、感覚さえもリンクさせるという黒崎とっておきの大マ ジックです。しかし、このマジックをこんな付け足し程度に用いるとは。随分と贅沢な使い方を しますね。 「この絵柄が、ヒロインの体であることを納得されましたでしょうか?」 「このカードを用いたゲームを、お楽しみ頂きたいと思います」  少女の悶える姿に感化された客席からは、大きな拍手が飛びます。ヒロインの肌とリンクした カードでのゲームに、卑猥な期待を抱いているのでしょう。 「ただ、先程のお嬢様のお言葉も確かです」 「公平を期するために、お客様お一人と、もう一方は由利嬢にお願い致しましょうか?」  魔術師が全裸の少女に声をかけます。かなり疲労してはいるようですが、トランプゲームくら いでしたら問題なさそうですね。 「待って。最初の条件でいいわよ」  美大生の答えよりも先に、壇上のヒロイン自身が否定しました。あえて不利な条件を承諾する とは。友人に少しでも危害が及ぶ可能性は避けたかったのでしょうか。 「鈴野嬢がそうおっしゃられるのでしたら、最初の条件で行きましょう」  そして、魔術師がトランプを広げながら言葉を続けます。 「このババ抜きはルールを少し変更しまして、最後までジョーカーを所持し続けていた方を勝者 としましょう」 「同じ数字が揃ったらカードを捨てていくルールはそのままとなります」 「途中で手札がなくなってしまったら、その時点で残念ながら敗北となってしまいます」 「決して破棄されることのない唯一のカードであるジョーカー」 「それを他人に奪われることなく最後まで守り通せれば勝利というわけです」  なるほど、通常のババ抜きとは勝敗が全く逆というわけですね。確かに今回のような場合ですと、 最後まで勝敗がわからないこのルールの方が盛り上がりますね。 「そして、そのジョーカーはこれになります!」  黒崎が取り出したカードを見てヒロインの表情が変わりました。無理も無いでしょう。そのカ ードには彼女の秘部が写し出されていたのですから。  かすかに口を開いた少女のプライベートな部分。それが白日に晒されています。先刻会場中に 晒しきった箇所とはいえ、改めて提示されるとやはり見入ってしまいますね。自らの秘所さえも カードにされたヒロインは、頬を赤面させています。その手は、マントの隙間を固く閉じ合わせ ていました。 「それでは、このジョーカーをめぐりまして、私と鈴野さん、そしてお客様お二人を招きまして ゲームを行いましょう!」  少女の陰部を奪い合う背徳的なトランプゲームが、これから始まろうとしていました。


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