その2「出現!二人目の仮面ファイター!」


  ちゅん、ちゅん、ちゅん♪・・・。  窓の外に聞こえるスズメのさえずりで、姫子は目覚めていた。  ベッドの上に、だらしない格好でうつ伏せになっていた。  パジャマ替りのスウェットは、ちゃんと着込んでいる。  姫子は、目覚めたばかりでぼーっとした表情のまま、閉じたカーテンの隙間から差し込む朝日のまぶしさに、  目をしょぼしょぼさせる。 「んぁ・・・あれっ?」  何だかすごくエッチな夢を見た記憶があった。 「・・・亀さんが出てきて、SMな縛り方されて・・・仮面をかぶったら変身しちゃって、クモ男が出てきて、  おっぱいに散々エッチな事されて・・・でも、すごく気持ち良かったなぁ・・・」  夢の中でされた行為の快感を思い出し、姫子は頬を染めてつぶやいていた。  乳首には、いまだにあの毛むくじゃらの指にくすぐられた感触や、ねっとりと舐め上げてきた舌の感触が残って  いるような気がする。 (一人エッチしてそのまま寝ちゃったせいかなぁ・・・やっぱり、一人エッチは控えた方がいいかなぁ・・・  でも、やればやるほど、どんどん気持ち良くなってくるからなぁ・・・これって、『開発されてきた』って事  なのかなぁ・・・でも、自己開発なんて、セミナーじゃあるまいし・・・空しいよねぇ・・・)  そんな事を考えつつ、姫子は朝のシャワーで寝ぼけた頭をすっきりするために、ユニットバスに入っていた。  トイレと一体化した狭いユニットバスで全裸になった姫子は、目の前の鏡に映った自分の姿を見て硬直していた。 「ええええっ!!・・・何でぇ!・・・何で縄の痕がぁ!!・・・」  健康的な裸身にうっすらと残る縄の痕を見ながら、姫子は昨日の出来事が、ただの夢ではなかった事を悟っていた。 『やあ、おはよう。仮面ファイター羞姫!』  どこかで聞いた記憶のある声が、パニック寸前の姫子の頭の中に響く。 「そっ!その声は亀さんですねぇ!何処に居るのっ!姿を見せて、昨日の晩の事をきっちり説明して下さいっ!!」  狭いバスルームに響き渡るような大声で、姫子は叫んでいた。  内心、ちょっと電波系になっちゃったかな・・・という不安を覚えていた。 『そんなに大声出さなくても、頭の中で考えれば会話できるよ。あ、ちなみに私は淫夢界に居るから、姿を見せる事  は出来ない・・・あしからず』 (ううう・・・夢じゃなかった・・・って、事は、クモ男に散々エッチな事されちゃったよぉ・・・お嫁に行けなく  なっちゃったよぉ・・・)  とてつもなく古風な事を頭の中でつぶやきながら、姫子はバスタブの中に座り込んで泣き始めた。 『そんなにふさぎ込まなくてもいいよ。肉体的には何のダメージも無いんだから・・・えーっと、どう説明すれば  いいかなぁ、淫夢界に召還された時点で、君の身体は精神体になっているから、直接身体を弄られた訳じゃないんだよ』 「じゃあ!この縄の痕はどう説明するんですかぁ!!」 『だから叫ばなくてもいいって!ご近所に迷惑じゃないか!』  淫魔のくせに、妙に常識的な事を言う亀だった。 『では、説明しよう。聖痕現象って知ってるかね?熱心なキリスト教信者の身体に、キリストが十字架にかけられた時  に受けたのと同じような傷ができる現象の事なんだが・・・これは強烈な暗示による物だといわれている。  それと同じで、羞姫に変身している時にその身体に纏った亀甲縛りのインパクトが、精神的に強烈だったせいで痕に  なって残ったんだよ』 (ううう・・・消えるよね?) 『もちろん!多分、昼頃には跡形もなく消えていると思うよ』 「はぁぁ・・・」  大きくため息をついた姫子は、気を取り直してシャワーを浴び始めた。 (で、昨日の晩の事の説明は?)  バスタブの中で、頭からシャワーを浴びながら姫子は問う。 『え?・・・ああ。そうそう。昨晩は、いきなり実戦させちゃったからねぇ・・・単刀直入に言うとだね、君達の居る  世界は、淫魔に狙われているんだ。・・・いや、そう言う私も淫魔なんだけどね・・・』  説明を聞きながら、姫子はシャワーソープを泡立てたスポンジで身体をごしごし洗っていた。  昨日の事が夢じゃないとわかった以上、その身体に残るクモ男の愛撫の余韻を消し去りたかった。  はっきり言って、一人エッチとは比べものにならない快感だったが、よりによってラテン系のスケベ親父の顔をした  タランチュラに嬲られてイかされてしまったのは、彼女にとってはかなりのショックだった。  姫子は非常に理想が高く、面食いなのである。  あまりにも理想が高過ぎて、いまだに男性経験ゼロという、一種の天然記念物みたいな少女だった。 『話を続けるよ。一部の過激派淫魔達が、淫夢の中で快楽を貪る事に満足できなくなって、現実世界に実体化して淫欲  に溺れたくなったらしいんだ。今までは、実体化に必要な淫欲データを収束させる事が出来なかったんだけど、  最近になって、大容量のデータ通信網を利用して、肉体を実体化する技術が開発されてね、それを使って、淫魔が  大規模な侵攻作戦を企てているらしいんだ』 (ふーん。で、亀さん達は何でそれを自力で阻止しないの?)  ダメージケアのシャンプーで、髪を洗いながら姫子は尋ねる。 『うーむ、実は法律的にはそういう行為は規制の対象じゃないんだよね・・・淫魔は快楽の波動を食べて生きている  から、その摂取手段についての規制も殆ど無いんだ・・・例えるなら、現実世界に実体化して快楽を貪るのは、  ちょっと危険な場所にある食べ物を自分で取りに行くような程度の事だからね』 (はぁ・・・結局、あたし達は餌なのね・・・)  なんだか物凄い事に巻き込まれてしまったような気がして、泡まみれの姿で姫子はうなだれる。 『そんなに落ち込まなくったっていいじゃないか。見事、淫魔を撃退したあかつきには、素晴らしい特別報酬が  与えられるんだぞ!』 (ほえ?報酬!?何何何?お金?名誉?家?海外旅行?超能力?・・・ペットフード一年分ってのはちょっとイヤ  だなぁ・・・)  立て続けにまくし立てる姫子の言葉に、亀はおごそかな声で。 『えー、では、発表します。特別報酬は、好きなだけ淫夢を見られる権利だぁぁ!』 「そんなもんいらんっちゅーのっ!!」  バスルームに姫子の絶叫が響き渡った。 「おはよーございま〜す♪」  姫子は元気に言いながら、彼女のバイト先である、グローバルビデオジャーナル社のオフィスのドアを開けた。  根がポジティブな性格なので、仮面ファイター絡みの事とか、淫魔と戦わねばならない事なんかは、記憶の片隅に  放り込んで、気にしない事に決めた。  ポジティブというよりは、大雑把なのかもしれない。 「姫ちゃんおはよ〜♪今日は、江楠田市中央公園で、お花見取材よろしく〜♪」  副社長の、綾丸 由美子(恐らく二十代半ば、年齢不詳)が、いつもどうりのホンワカした口調で言う。  丸めがねが似合う、親しみやすい顔立ちの美人だった。 「了解です!・・・カラオケ大会に飛び入りしちゃってもいいですか?」 「いいよ〜♪優勝してね〜♪で、優勝商品の携帯通信映像配信システムセットをゲットしてきてね〜♪そうしたら、  機材の必要経費が浮くから・・・」  経理も担当している由美子さんは、そう言うと、にゅうっ・・・という感じの、人懐っこい笑みを浮かべる。  新興都市の利点を生かして、ブロードバンド通信網が整備されているこの街では、市内ならどこに居ても、小型の  通信端末で大容量のデータのやり取りが可能なのである。  容量制限のある今までの記録メディアに替わって、映像をダイレクトに大容量サーバーに転送できるビデオカメラが、  ジャーナリスト達の基本装備になりつつあった。  しかし、姫子がバイトしているグローバル社は、ご大層な名前のわりに、社員数六人の小さな会社で、ブロードバンド  カメラも二台しか持っていない。  最近は随分安くなったブロードバンドカメラだが、それでも一般的な会社員の月収の二か月分ぐらいの値段がするので、  そう、ポンポンと買う訳にもいかないのだった。  優勝したら時給をアップしてもらう事を約束させ、従来方式の記録メディア型のビデオカメラ等、必要な機材を詰め  込んだバッグを肩に、姫子は中央公園へと向かった。  広大な敷地に、さまざまな遊具や、ボート遊びのできる池、図書館、市民ホール、球場やテニスコートなどを備えた  総合公園である。  既に所々では若葉も見え始めた桜の下では、お花見の宴会が繰り広げられていた。  絶好のお花見ポイントである中央広場には、既に特設ステージが設けられ、カラオケ大会の準備が整えられていた。  結構豪華な賞品が出るので、市民に人気のあるイベントだった。  お花見で酔っ払った人も結構飛び入りで入るので、笑えるハプニングも期待できる。 「みんな楽しそうだなぁ・・・どこかに乱入しちゃおうかなぁ・・・」  ひとしきり、どんちゃん騒ぎを撮影し終えた姫子はつぶやく。  宴会は大好きなのである。 (最近・・・っていうか、今の会社の新人歓迎会以来、宴会してないなぁ・・・)  意外と寂しがり屋の一面もある彼女は、そう思ってちょっとブルーになる。  いきなり聞こえた、キーンというハウリング音に顔をしかめながら、姫子は特設ステージの方を振り向いていた。 「お待たせいたしましたぁ!只今より、第3回、お花見歌合戦の開幕でーす!」  さりげなくかっこ悪いイベント名が叫ばれ、カラオケ大会が始まっていた。  一通り撮影を終えた姫子は、飛び入り参加者受け付けのコーナーにダッシュする。 「飛び入り希望でーす♪」  等と元気に言いながら、さっさと出場登録を済ませ、姫子は順番待ちをしていた。  去年のカラオケ大会で、泥酔して飛び入りした人が、ステージで吐いてしまったハプニングがあったため、今年から  は血中アルコール濃度の測定器にかかる事が義務付けられていた。  もちろん姫子は難なくパス。 「うわぁ・・・すごい美人が居るなぁ・・・」  順番待ちの人の中に、きりっとした顔立ちの二十代半ばの女性の姿を見つけ、姫子は思わずその美貌に見とれていた。  カジュアルな服装をしているのに、何となく高貴な印象が漂ってくる。  すらりと背が高く、抜群のプロポーションの持ち主だった。  どうやら飛び入りではなく、予選を勝ち抜いて来た人らしかった。  そうこうしているうちに、いよいよカラオケ大会が始まっていた。  ビデオカメラで客席の様子を撮影した姫子は、さっき見とれた美女がステージに上がったので、そっちにカメラを  向ける。  もしかしたら、そのうちに女優かタレントとしてデビューして、有名になるかもしれない。  そうしたら、お宝映像として高く売れるかもしれないのだ。  彼女が選んだ歌は、かなりの歌唱力を要求されるものだった。  アニメソングやポップス系が持ち歌である姫子にはとてもじゃないがキーが合わなくて歌えない。  曲が始まった。 「うわぁ・・・上手だぁ・・・」  美女の歌声に、姫子は思わず感嘆の声を漏らす。  声の張り、伸び、表現力、全てがプロ級・・・いや、玄人はだしであった。 (でも、上手過ぎて反感買っちゃうかも・・・)  プロのオーディションなら文句無く合格だろうが、こういうイベントでは、あまり上手過ぎるとかえって反感を  かってしまう事もあるのだ。  イベントの特別審査員として招かれた歌手は、そこそこの人気はあるものの、歌唱力は決して高くない女性歌手  だった。  姫子が思ったとおり、複雑な表情をしている。  自分よりも明らかに歌唱力のある美女に、若干、嫉妬してしまっているようだった。  能天気なようでも、姫子も一応女性なので、その辺の気持ちは良くわかるのである。  そのうちに姫子の番が来た。  彼女が歌うのは、最近ヒットしたばかりの曲だった。  振り付け付きで、ノリノリで歌い始める。  結構軽いノリの曲なので、観客席からも手拍子が上がる。 (お!これはもしかして優勝いけるか!)  このイベントでは、観客のノリが良かった人が優勝する事が多かった。  曲が終わりに近付いた時、観客席の片隅にいた人が、コンパクトミラーを取り出していた。  それがきらりと陽光を反射し、一瞬、姫子の眼を射る。 「うっ!」  それでリズムが乱れ、歌詞が頭の中から吹っ飛んでいた。  あと数秒というところで、いきなりロレってしまった姫子に、観客席からブーイングが起きる。 (うはぁ!やっちまったぁ!)  姫子は苦笑いを浮かべて一礼しながら思っていた。  結局、姫子は二位、バーベキューセットをゲットした。  一位は例の美女だった。 「お姉さま〜、やりましたね!これでお店の宣伝ビデオが作れますねぇ♪」  優勝商品のビデオカメラを受け取った美女に、数名の女の子達が群がる。 (む?・・・なんだかケバい子も居るなぁ・・・)  その隣で、異様に大きくて重いバーベキューセットを受け取りながら、姫子は思う。 「うふふっ。そうね・・・」  美女はそう言って艶やかな笑みを浮かべる。 「お姉さま。わたしのミラー攻撃、効いたでしょ・・・」  取り巻きの女達の一人が、小さな声で美女にささやいた。  普通なら絶対に聞こえないような声だったが、何故か姫子にははっきりと聞き取れていた。 「ちょっと!ミラー攻撃って、あんた、まさか!?」  思わず語気を荒げて姫子は詰め寄っていた。 「あら、私の後で歌った元気なお嬢ちゃんね・・・ミラー攻撃って、何?」  例の美女が笑みを浮かべて言う。 「とぼけないで下さいっ!さっき、その子が言ってたじゃないですか!ミラー攻撃が効いたって!」 「あら、そんな事言ったかしら?私には聞こえなかったわ」 「むううう・・・」  それ以上食い下がっても無駄だと判断した姫子は、悔しさを押し殺しながらその場を足早に立ち去った。 「あの子・・・もしかしたら・・・」  姫子の後姿を見ながら、美女はつぶやく。  その口元には、妖艶と表現していい笑みが浮かんでいた。 「おかえり〜♪・・・何?その巨大な荷物は?」  由美子にそう問い掛けられた姫子は、溜まりに溜まった鬱憤を爆発させていた。 「由美子さ〜ん、悔しいよぉ!ホントは優勝だったのにぃ!ミラー攻撃されて二位になっちゃったよぉ!美人の  お姉さんの取り巻きに、やられちゃったよぉ!」  ちょっと涙目になって叫ぶ姫子を、由美子はそっと抱き寄せて慰めてやる。 「あらあら、そんなに怒っちゃダメですよ〜。バーべキューセットだっていいじゃないですか。来週辺りに、  河原で焼肉パーティーとかしましょうよ、ね?」  姫子に負けず劣らず豊かな胸に抱き寄せて髪をなでてやりながら、由美子は言う。  最初は、『ちょっとレズなの?』とか思った姫子だったが、最近はふわふわ柔らかくて、いい匂いのする由美子  の胸に抱かれると、なんだか幸せな気分になる。  由美子は物凄く母性愛の強い人なのだ。  激情が少し落ち着いた姫子の愚痴をしっかり聞いてやり、取材したテープを受け取った由美子は、早速サーバーに  その画像を取り込んで編集し始めた。 「あら、この人、駅前の『ビーハイブ』って言うお店のナンバーワンね」  例の美人が歌っているシーンを見た由美子が言う。 「えっ!そこって、確か・・・」 「うん。最高のSM嬢をそろえてる事で有名な、SMクラブよ〜♪」 「うはぁ!」  姫子は絶句していた。 (なるほど・・・女王様だったのか・・・何となく納得・・・) 「ねえ、姫子ちゃん。あのお店、取材できないかなぁ?全国的に有名なのよね、あそこ」  由美子が意外な提案をしてきた。 「えっ!だって、アタシ、ちょっと喧嘩しちゃったし・・・」 「だからぁ〜、偶然取材に行ったら、知った顔だったという事で、ハプニング絡みで取材申し込みしちゃうのよ。  全く面識がないよりも、うまく行くと思うけどなぁ・・・」 「そうかなぁ・・・門前払いくわされそうだけど・・・」  あまり乗り気でない姫子は、結局、由美子に言いくるめられ、翌日の朝に取材申し込みに行く事になってしまった。  夜。 『 仮面ファイター羞姫!淫魔が活動を開始した。迎撃に向かってくれ!』  いきなり頭の中で響いた亀の声に、姫子は飛び起きていた。 「うわわわっ!何っ!?淫魔って・・・またなのぉ!」  思いっきり嫌そうな表情になった姫子の身体を、テレビの画面から湧き出した光る霧が包む。 「わっ!・・・ちょっとぉ!亀さん酷いよ!心の準備も出来ないうちにこんな所につれて来て・・・」  文句を言う姫子に。 「心の準備はこの際後からしてもらって、とりあえず身体の準備だね、脱衣!!」  いきなり宣言する。  前回の時と同じように、姫子は一瞬で全裸になっていた。 「きゃぁ!!」  前回のときは夢だと思っていたのでそんなに恥ずかしくなかったのだが、今回は思いっきり恥ずかしがってしまう  姫子だった。 「はい。仮面だよ・・・」  亀は、ヒレ状の前足で赤い仮面を差し出す。 「やだよぉ!それ被ったら、また変になっちゃう・・・」  胸と股間を隠してしゃがみ込みながら、姫子は言う。 「これを被らなきゃ変身できないよ。あっ!ヤバイ!来ちゃったよ!」  亀がちょっと焦った声で言う。 「早く変身して!でないと思いっきり犯されちゃうよ!」 「うひぃぃ・・・それも嫌だよぉ!」 「おほほほほ!これはなかなか美味そうな尻ではないか!まろがたっぷり味わってくれようぞ!」  なんとも古風な言い回しをしながら、闇の中から一つの影が迫ってきた。 「うぇ!?・・・変な奴」  思わず振り向いた姫子は、数メートル後方にたたずむ淫魔の姿を見て思わず叫ぶ。  それは、ヒトデの着ぐるみを着た平安貴族みたいな奴だった。  ヒトデ型の中心部に、バカ殿みたいな男の顔がはめ込まれている。 「ほーっほっほっ。これは見事な胸乳よ!なんとも良き身体よのぉ・・・」 「ううう・・・この、スケベヒトデ・・・えーい、こうなったらやってやるっ!亀さん!変身するよっ!・・・?  ・・・亀さん?」  亀の姿は無く、赤い仮面だけがそこにぽつんと置かれていた。 「逃げたのぉ!!意気地なしっ!!」  叫びながら姫子は仮面を取り上げ、被る。  仮面の後頭部で、ポニーテールみたいにまとまっていた赤い縄が一瞬で彼女の身体を亀甲縛りにしていた。 「はうぅぅぅ・・・」  股間に食い込む縄が送り込んできた鋭い快感に、思わず前かがみになってしまう姫子。「おや?・・・それは何で  おじゃるかな?新手の緊縛プレイでおじゃるか?まろはそういった飾りは好かぬのじゃ、女は全裸に限る!」  ヒトデ男はそう言いながら、滑るような足取りで近付いてくる。 「来たなっ!正義の拳を受けてみよ!羞姫パーンチっ!」  叫んで放ったパンチが、あっさりと受け止められていた。 「元気な女子よのぉ。さて、まずは尻から嬲ってやろう」 「やっ!ちょっとまてぇぇぇっ!あんっ!」  一瞬で抱きすくめられ、ヒトデ男の手が、ぷりぷりしたお尻に触れていた。  触られただけなのに、鳥肌立つような快感が姫子を襲う。  ヒトデ男の手のひらには無数の触手が生えていた。  その先端は小さな吸盤になっている。  それが羞姫の肌に密着し、吸引しながらさわさわと蠢いていた。 『羞姫!言い忘れたけど、仮面ファイターの戦いは、セックスバトルだからね。セックステクニックで相手を  攻めるんだ!』  亀の声がした。 「ちょっと!今更そんなこと言われても・・・ひゃぁぁ!」  ちゅぷっ、と、乳首が咥えられていた。 「ふほほほ。いい胸じゃ。淡い色の乳首も、短歌でも読みたくなるような美しさよ・・・かぷっ!」 「はぁぁぁぁんっ!」  甘噛みされた乳首から伝わる快感に、羞姫は思わず蕩けた声を漏らしてしまう。  さすがは淫魔と言うべきか、とてつもない快感が、羞姫を襲っていた。  ヒトデ男の身体中に生えた微細な触手が、羞姫の裸身をさわさわと這い始める。 「やっ!・・・ダメェェ・・・ああんっ!・・・あはぁぁぁんっ!」  ヒトデ男の腕の中で、羞姫はなす術も無くのけぞり、悶え泣く。 「ほほほほっ!いい反応じゃ。ほれほれ、ここが感じるのであろう。ここをほれ、こうすると・・・」 「ふわぁぁぁぁ!」  ヒトデ男の的確な攻めに、羞姫は陥落寸前だった。  最近一人エッチを覚えたばかりの彼女には、セックステクニックなど殆ど無かった。 「ふほほほ!まろの攻めは効くであろう?良いであろう?おお!もうホトも濡れてきおった。この縄が邪魔じゃのう・・・」  そう言いながら、ヒトデ男の触手は、縄の両脇にぷっくりとはみ出した敏感な柔肉をこね回すように愛撫している。  快感の波の周期にあわせて、羞姫の身体がビクン、ビクンと反応する。 (ああ・・・またイかされちゃう・・・淫魔にイかされちゃうよぉ・・・気持ちいい・・・気持ちいいよぉ・・・)  淫魔の攻めがもたらす人外の快楽に、羞姫は蕩けてゆく。 「そこまでよっ!!」  いきなり背後からかけられた声に、ヒトデ男は羞姫の身体を離して振り向いていた。  身体の構造上、そうしなければ後ろを見られないのだ。  間一髪で開放された羞姫は、ぐったりと弛緩して横たわっている。 「なんじゃ?お主は?・・・ほお!これまた美しい乳よのぉ!」  羞姫はまだぼんやりしている視線を、声のした方に送っていた。 (!・・・あの人も仮面ファイター?)  彼女の視線の先には、漆黒のボンテージに身を包んだ女性が立っていた。  剥き出しになった豊かなバストを強調するかのように、黒光りするビスチェが持ち上げている。  素晴らしいプロポーションの持ち主だった。  顔は黒い仮面に隠されている。 「あなたが淫魔ね?私の名は仮面ファイター麗裸!あなたを昇天させてあげるわ。いらっしゃい、坊や♪」  麗裸と名乗った仮面ファイターは、淫靡な仕草でヒトデ男を手招きしていた。  続く


その3へ