その16「悪魔の天才少女、その名は妖花」


  放課後。  姫子と一文字は、職員室脇にある談話室で天才童話作家、ようかとのインタビューに臨んでいた。  彼女は年齢に似合わぬ落ち着きを感じさせる美少女である。午前中のインタビュー映像で姫子が見た限りでは、  言葉遣いも丁寧で、表情も豊か、将来はとてつもない美人になりそうな予感を感じさせた。  お互いに自己紹介を終えた二人は早速取材を開始していた。 「えーっと、それじゃあ、午後のインタビューはアタシがするね。まず、最新作のことから話してくれるかな?」  事前の打ち合わせどおりにインタビューが開始され、ようかは話し始めた。 「最新作の『もうひとつのせかい』は、バーチャルリアリティ空間のお話なんです。この街、江楠田市が創り  出した巨大な仮想空間に住むちょっと変わった住人たちが主人公です」  少女の言葉を聞きながら、姫子は、 (なんだか淫夢界を思わせる舞台設定だなぁ……)  などと思ってしまう。羞姫のセコンド役である亀甲魔の話では、淫夢界も江楠田市の超大容量バーチャルネット  ワークの内部にゲートを開き、こちらの世界とコンタクトしているらしい。 「その世界では、食事をしなくてもお腹がすかないんです」  ようかはそう言うと一旦口を閉じ、意味ありげな視線を姫子に送ってきた。 「……へぇ、なんだかユニークな設定だね。でも、童話としてはちょっと難しいんじゃないかな?」  姫子の問いに。 「いいえ。この童話は、大人のためのお話ですから、難しいとは思いませんよ」  ようかはそう答えた。 「え? 大人の童話……なんだか意味深で面白そうですね」  さらに奇妙な予感を感じながら姫子はインタビューを続けている。 「ええ。……あ、ここから先はできればオフレコでお願いしたいんですけど、新作の一番の売りのシーンについて  お話したいので……」  ようかがいきなりそんなことを言い出した。  姫子の目配せに、一文字は渋々といった表情で頷き、ディスクレコーダーを停止させた。「あの……男の人には  ちょっと聞かせたくない話なんです……」  天才少女ははずかしげに頬を染め、上目づかいで一文字の方を見た。その表情と仕草からは大人の女性とはまた  違った妖しい色気が感じられた。 「うっ! そ、そうなの? じゃあ、外で待ってるから、お話が終わったら呼んでね」  しっかりその色香に惑わされたらしい一文字がいそいそと部屋を出て行く。その足音が遠ざかったのを確認した  ようかの態度が豹変していた。 「さて、お姉さん……仮面ファイター羞姫って呼んじゃおうかなぁ」  可愛い顔に妖しい笑みを浮かべたようかの言葉に、姫子は表情を引きつらせていた。 「なっ! 何を言ってるのかわからないあるよ、セニョリータ……」 「うふふっ、思いっきり動揺しちゃって。隠さなくてもいいのよ。わたしも仮面ファイターなんだから」  動揺しまくる姫子に、ようかは落ち着いた口調で告げる。 「え? そうなの?」 「うん。仮面ファイター妖花。それがわたしの名前。他のファイターたちの戦いはしっかり観察させてもらってるわ。  例の仮面ファイター情報、あれにつられて何人ぐらい来てくれるかなぁ……」 「やっぱりあれもあなただったのね!? 何のためにあんなことを?」  姫子の問いに、ようかはにっこりと微笑んで見せた。思わず微笑を返したくなりそうな無邪気な笑みである。 「それは……エクスタシーオーブを取るためよ」 「なんですとぉ! どうしてそんなことを?」 「あなた、セコンド役の淫魔に何も聞いてないの? エクスタシーオーブを十個集めたファイターは、不老不死の力  を手に入れて、淫夢界の頂点に君臨できるのよ」 「そいつは初耳……っていうか、アタシのセコンドは何にも教えてくれないのよぉ! 亀さんの馬鹿ああああああああっ!」  姫子の絶叫は校内に響き渡った。 「ちょっと! そんなに大声出さないでよっ! ここからが本題なんだから。……あ、何でもありません、童話の話  が盛り上がっちゃっただけですから……」  何事かと覗きに来た教師や一文字を軽くあしらって追い返し、ようかは話を再開する。 「で、相談事なんだけど、お姉さん、わたしとタッグ組まない? わたしが見た限りでは、お姉さんってほかの  ファイターと組む事で真価を発揮するタイプだと思うんだけど」  ようかの言葉は思いっきり核心を突いていた。 「うう。そう言えばアタシってちゃんと戦ったことって一度もないような気がするよぉ……いつもいつもエッチ  なことされてばかりで……」  過去の恥ずかしい「戦い」を思い出して思いっきり赤面しながらブルーモードに突入した姫子をしばらく観察  していたようかは、いつまでたっても彼女が立ち直らないので仕方無く声をかけていた。 「おーい、おねえさ〜ん、戻っておいでよぉ〜」 「はっ! いかん……ひょっとしてブルーモード突入しちゃってた?」 「ええ。思いっきり深々と……もう恥ずかしいことされたくないでしょ? 淫魔に散々いやらしいことされて  イっちゃったり、他の仮面ファイターに無理やりされちゃったりするのは嫌でしょ?」  少女の言葉は催眠術のように姫子の心に忍び込んでくる。 「そりゃ、アタシだって恥ずかしいことされるのは嫌だけど……」 「でも、気持ちいいことはして欲しいんだよね? わたしがお姉さんのこと気持ち良くしてあげようか? 現実  世界でも、淫夢界でも、どっちでも。うふふっ……」  妖しい笑みを浮かべて少女は近付いてきた。ふわりと甘い蜜のような香りが姫子の鼻腔に流れ込んでくる。  子供っぽさの中に、背筋がゾクリとするような淫猥なものを秘めた少女の美貌が接近し、姫子は抵抗する  間もなく唇を奪われていた。  続く


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