第三話「敵、総司令登場!」


  「では、君達はもうモロダスVに乗りたくないと言うんだね?」  意外そうな声を出す荒縄に。 「当たり前じゃないですか!あんな恥ずかしい事をされるとわかっていたら、契約なんてしませんでしたよ!  これって、詐欺ですよね!?」  美雪が顔を真っ赤にして詰め寄る。モロダスの中でされたあれやらこれやらが脳裏に蘇って恥ずかしさが  こみ上げて来る。 「だって秘密の計画なんだよ、全部話して、断わられでもしたら、秘密がばれちゃうじゃないか」 「インターネットやCSのペイパービューで流しておいて、何が秘密なんですかぁ!?」 おそらくアルマーニ  だと思われる荒縄のスーツの胸倉をつかんで締め上げながら美雪は叫ぶ。最上級の生地がみちみちと音を  立てて裂けるほどの力がこもっていた。 「あ、あれは、秘密が解禁になったからだよ・・・建造費用も回収しないといけないし・・・あ、何だか花畑が・・・  おばあちゃん、また来てくれたんだね」 「美雪!ヤバい、またあっちへ逝きかけてるで!」  横から早紀が声をかけた。荒縄が死ぬのはかまわないが、美雪が殺人犯になるのは嫌だった。同じ羞恥に  泣かされた者同士、妙な連帯感が芽生えていた。 「はあ、はあ、さすがにK−遺伝子をもってしても長時間の窒息には耐えられないのか、いい勉強になったよ」 「弱点がわかった所で、話の続きや。うちらに対する契約違反、数々の猥褻行為。きっちり誠意を見せてもらうで」  まるで示談に介入するヤクザ屋さんのような凄みを見せて、早紀も荒縄に詰め寄った。「わ、わかったよ。  首相に掛け合って、特別ボーナスを出してもらうから・・・」 「お金の問題じゃないんです!!」  再び荒縄の胸倉をつかみ、美雪は叫ぶ。 「せめて、妹の恵美だけでも脱退させて下さい!そうしないと、あのコは壊れてしまいます」 「そ・・・その前に、ぼ、僕が壊れ・・・る・・・」 「あ、落ちてしもた・・・」  美雪に絞め落とされた荒縄がぐったりと床に伸びた。妙に気持ちよさそうな顔をして失神している。 「こら、おっさん、起きんかい!」  早紀が荒縄の脇腹を蹴って蘇生させる。 「うっ・・・ううう・・・今回はおばあちゃんに会えなかった・・・」  そうつぶやきながら蘇生した荒縄に、五人の冷たい視線が集中する。 「君達にはすまないと思っている。しかし、これしか方法は無いんだ、わかって欲しい」「他の人間には操縦  できないんですか?」 「君達の脳波を登録してしまったから、パイロットの変更は利かない。・・・それに、このメンツを替えるわけ  にはいかないんだよ」 「何でや?」  早紀の問いに。 「熱血系でボーイッシュなコ、関西弁のクールなコ、ダイナマイトボディの金髪少女、暗めでぼそぼそしゃべるは  かなげなコ、そしてロリ系のコ、このバランスが肝心なんだよ!夢とロマンとツボ系美少女キャラのフルセット  による恥辱プレイの嵐がモロダスの醍醐味じゃないか!」  拳を握り締め、炎をバックに背負って斜め上を見ながら荒縄は力説する。 「結局そういうことかぁ!脳波なんか登録せずに、リセットしろ!デリートしろ!初期化しろっ!」  再び美雪がつかみかかる。それとほぼ同時に警報が鳴り響いた。 「な、何や?まさかお約束破りの一日二回襲撃か?」  早紀がちょっとうろたえた声を出す。 「荒縄指令、敵が全周波数で、降伏勧告の放送を流しています」  壁のスピーカーから声がした。 「な、何っ!・・・美雪君、この続きは、敵の放送を見てからだ、司令室へ行くぞ!」  司令室のモニターには、金髪碧眼、しかもネコ耳の美女が大写しになっていた。  凄くごてごてした衣装を着ている。 「・・・繰り返す、私は、地球方面愛玩動物捕獲隊の総司令、プリンセス=ハイテルである。おまえ達、耳の  小さな下等種族に勝ち目は無い。直ちに無駄な抵抗を止め、我らの選別作業に協力せよ。  見事ペットに選ばれれば、三食昼寝付き、週に一回、ローションマッサージと緊縛プレイを楽しめる生活を  保障しよう。更に希望者には浣腸プレイ、その他のオプションが多数取り揃えてある。悪い事は言わん。  我らに降伏し、素直に愛玩動物への道を選択せよ・・・疲れたからもう繰り返さない。録画を見ろ!」  通信が切れた。 「・・・いやな奴、高飛車で、人を見下した態度、わたしの一番嫌いなタイプだな」  美雪がつぶやく。 「・・・うーむ、ローションマッサージに緊縛プレイを週一回か、しかも浣腸プレイもあり・・・降伏して  みようかな」  そうつぶやいた荒縄の後頭部に早紀の回し蹴りが炸裂する。 「司令官が真っ先に降伏してどないすんねん!」 「じょ、冗談だよ、関東風の濃い口のボケがわからないのかなあ、君は?」  蹴りで吹っ飛んでモニターに突き刺さるように突っ込んでいた身体を引き抜きながら、荒縄は言う。K遺伝子  の効果は絶大だった。 「・・・さっきのは本気の目だった」  静香が小さな声でぽつりと言う。 「コーフクって、ハピネスの事ネ、あのプリンセス、いい人ネ」  まだ日本語を完全には覚えていないジェニファーは勘違いしている。 「いや、その幸福ではなく・・・え〜っと・・・」  どう言っていいのかわからずに悩む美雪の背後で、ランドセルから辞書を出した妹の恵美がぱらぱらとめくって、  単語を見つけ、姉のTシャツのすそをつんつん引っ張って注意を促した。 「サレンダー・・・で、いいんじゃないかな?」  自分の方を向いた姉にそう告げる。 「そう、その、ゴレンジャーだ!」 「一文字もあってないやんけ・・・」  早紀が呆れた口調でつぶやく。 「OH,そうですか、あのレディ、悪い人ネ!」 「そう、その通りだ。彼女らに気に入られなければ、ローションマッサージも緊縛プレイもしてもらえないんだぞ!  こんな不公平が許されてたまるかっ!」 「だから、そういう事じゃないでしょうがっ!」  叫んではなった美雪のアッパーで空中高く打ち上げられる荒縄。 「そ、そうだな、問題は、希望していないのにそういうプレイをされる羨ましい人がいるという事だ、これは断固  阻止しなければならん!」 「その話題から離れんかいっ、ボケェ!」  早紀の蹴りで再び荒縄は吹っ飛んだ。 「うつつっ!K遺伝子の効果が無かったら、今頃は原形をとどめぬ肉片になってる所だよ・・・」  服はボロボロだが、傷一つ無い顔で荒縄は身を起こす。 「ジェイソン真っ青の不死身ぶりだね・・・で、K遺伝子って何?」  何をしても起き上がってくる荒縄をちょっと引いた眼で見ながら、美雪は尋ねる。 「K遺伝子・・・僕のメル友である。鯉町博士の遺伝子から作り出した耐衝撃性を持った肉体を作る遺伝子の事だよ」 「メル友?」 「そう。・・・正確には、異次元、パラレルワールド通信で知り合って、すっかり意気投合しちゃってね、弟子に  してもらった」 「なんや、怪しい話になってきたな」 「君達は、発明王エジソンが、晩年に研究していた霊界通信機の事を知ってるかな?・・・知らないって顔を  してるな、まあいい。僕は偶然、その設計図を入手し、それをもとに組み上げてみたんだが、霊界じゃなく、  パラレルワールドにつながったらしくてね、それで鯉町博士と知り合ったんだよ」  ちょっとだけ遠い眼をして、回想シーンに突入する荒縄。 「何でそんな通信機なんかを?」  何だか答えが読めた気がしながらも、美雪は尋ねる。 「そ、それは・・・おばあちゃんと話したかったからに決まってるじゃないか」  ちょっと恥ずかしそうに荒縄は言った。どうやらおばあちゃん子だったらしい。 「荒縄一族は、先祖代々、責め師の家系だったんだ。その技術を受け継いでいたおばあちゃんの手で、僕は恥辱  の快楽に目覚めたんだ。ああ、あの甘美なる恥辱プレイの数々・・・」  半分イきかけの遠い目になった荒縄の後頭部に早紀は軽い延髄蹴りを叩き込み、現実に帰還させた。 「早紀、ナイスフォロー!・・・で、あのモロダスというロボットはもしかして・・・」「そう。鯉町博士の  協力で作り上げた究極のロボットだ。人口密集地を襲ってくる敵に対して、現行兵器はあまりにも無力。  核兵器など論外!白兵戦性能に優れたロボットで迎え撃つのが最も効率が良くてカッコいいんだよ」 「カッコよくないっ!あの恥ずかしい戦い方の何処にカッコよさがあるんですか!?」 「美雪君、君はまだ若い。あの戦い方に美しさや快感を感じられるようになるまでは、まだ修行が必要だ。  だからモロダスでもっと、もっと、恥辱プレイをげほおおおっ!」  荒縄の腹を突き破りそうなボディアッパーを打ち込んで、その身体を吹き飛ばした美雪は、黙ったまま恵美  の手を引いて部屋を出ていった。 「・・・お姉ちゃん、何処行くの?」  美雪に手を引かれるまま、足早に歩きながら恵美は尋ねた。 「ここにいたら、あなたがダメになっちゃうから、帰るの!」  ちょっと怖い声で、美雪は言う。 「でも・・・」 「いいの!契約の事とか、色々と問題は有るけど、いざとなったら、マスコミに洗いざらい、ある事無い事  話してやる!」  意外な事に、誰にも止められずに、基地の外に出ることが出来た。 「家に帰るよ!」  有無を言わせぬ口調でそう言うと、美雪は恵美を引っ張って駅への道を歩き始めた。  二人の家があるのは、基地のある街から電車で一時間ほどの所にある、これといって特徴の無いベッドタウンだった。 「お姉ちゃん・・・」  電車の中でうつむいて何か言いたそうにしている恵美に。 「恵美、家に帰ったら、絶対に外に出ちゃダメだよ。私はすぐにあそこに戻るから」 「あそこって、基地に?」 「うん。あの三人に、これ以上の迷惑はかけられないから・・・でも、あなたはダメ!あそこにいたら、また  あのロボットで恥ずかしい事されて、恵美の心が壊れちゃうかもしれないから・・・大丈夫!四人でも  あのメカは十分戦えるよ。だから、家にいて、お姉ちゃんたちを応援していて。そしたら、お姉ちゃんは戦えるから」 「亀甲兵だぁ!!」  いきなり声があがった。 「えええっ!うわ、ほんとにあいつらだ・・・まずいなあ、これじゃ、逃げられないよ。相手は女だから玉割り  崩拳はあまり効かないし・・・」  列車内にいきなり現れた数人の亀甲兵達は、相変わらずの全裸に赤い縄の亀甲縛りという恥ずかしい姿で、  両胸を揉み搾って衣服を溶かす白い液体を噴き出しながら、列車の乗客たちを追い詰めていく。 「恵美、後ろに逃げて!って、後ろからも!?」  後ろの車両からも亀甲兵が迫っていた。 「くそぉ、万事休すか・・・!そうだっ!」  美雪は乗車口脇にある緊急列車停止装置のカバーを叩き割って操作していた。  ガクン、と揺れた列車は、減速を始める。 「きゃああああっ!」  恵美の悲鳴と同時に、美雪の身体に脱衣液が降りかかっていた。 「いやあああっ、溶けちゃうっ!」  あっという間に服が溶け出し、十秒足らずで美雪は全裸になって座り込んでいた。  その横で、同じく全裸になった恵美が泣きじゃくっている。 「大丈夫、あなたは絶対お姉ちゃんが守ってあげるから・・・来いっ、亀甲兵ども!私が相手だっ!」  恥ずかしいのを必死で堪えて立ち上がった美雪は、迫り来る亀甲兵に向けて身構える。 美雪の間合いの外で  立ち止まった亀甲兵は、おもむろに自分の身体を縛り付けている赤い縄をほどき始めた。 「えっ!?何をするつもりだっ?あああっ!」  美雪の手足に赤い縄がまるで触手のように巻きつき、一瞬で縛り上げてしまう。  美雪は知らなかったが、SMでは結構オーソドックスな縛り方だった。  いやらしい縛り方をされて身動きできずに羞恥と屈辱に震える美雪を、亀甲兵達が取り囲んだ。 「何やてぇ!美雪が亀甲兵にさらわれたぁ!?」  基地でその報告を受けた早紀が声を裏返らせて叫ぶ。 「・・・そうだ。追跡調査班から緊急連絡があった。彼女らが乗った列車が敵に襲われたらしい。美雪君と、  恵美ちゃんは、ペットとして連れ去られた」  ちょっとだけ羨ましそうな表情で、荒縄は言う。 「くそっ!・・・助けに行くで、モロダスV発進や!」 「待てっ!三人ではエンジン出力が足りないかもしれない・・・出力アップの方法はあるが、君達にはかなり  恥ずかしい思いをしてもらうことになる」 「・・・具体的には?」  静香がぼそっ、と言う。 (このコ、例のあれのあのコに似てるな・・・)  早紀はそう思う。 「・・・耐えてもらう」 「・・・何を?」  再び静香。 「せ、生理現象だ・・・」 「も、もしかして!?」 「そう・・・ヒントは、これ」  ちょっと嬉しそうに、二リットル入りのミネラルウォーターのペットボトルを荒縄は持ち出して来た。 「うわああああっ!やっぱり・・・」  何を『耐える』のか理解した早紀は頭を抱えてしゃがみこむ。 「えーっと、ミーにはよくワカリマセン」  ジェニファーはまだ理解していなかった。 「ジェニファー、ちょっと耳貸せ」  横にしゃがみこんだ彼女の耳元で、早紀は二言、三言告げた。 「OH,ジーザス!NO!イヤです!」  白い肌を真っ赤に染めてジェニファーは恥ずかしがっている。  静香は無言で、荒縄の手にしたペットボトルを見つめていた。 「どうする?美雪君達を助ける為には、成層圏に待機している敵の母艦まで飛行しなければならない。そのためには  膨大なエネルギーが必要だ。そして、三人だけでそのエネルギーを生み出すためには、君達に思いっきり恥ずか  しい思いをしてもらわねばならない」  そう言った荒縄は、少女達を見回す。  その目は思いっきりスケベオヤジの物だった。 「逃げたらあかん、逃げたらあかん、逃げたらあかん、逃げたらあかん、逃げたらあかんっ!・・・やったる、  仲間を助ける為やったらやったるわいっ!一気に敵の母艦に突撃して、対象の首獲ったるわ!」  早紀は叫んでいた。 「よし、では、準備だ」  物凄く嬉しそうに荒縄は言った。 続く


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