インビージョーンズ 失われた性具」その1


  昼なお暗いジャングルの中を、一人でもくもくと歩き続ける男の姿があった。  彼の名はインビージョーンズ。  歴史の闇に埋もれたセックスアイテムを捜し求める性考古学者である。  彼は、ある古文書を解読した結果、このジャングルの奥にある洞窟に、とてつもない効果をもった精力剤が  隠されている事を知り、それを手に入れるべくやって来たのだった。 凶暴な原住民や、毒蛇、サソリ、  毒グモ、毒ガエル、毒カタツムリや毒ナマケモノの襲撃をかろうじてかわし、彼はようやく洞窟の入り口に  達していた。 「むう・・・意外と浅いな、って言うか浅すぎないか?」  洞窟は奥行き十メートル程で、その最奥部に祭壇があった。  そこに祭られている壺が、問題の精力剤だろう。  洞窟に入ろうとしたジョーンズは、その入り口に書かれた古代文字に気付いて足を止めた。 「何々・・・『この洞窟に入る者、一切の衣服を捨てよ』・・・よし!」  なにやら嬉しそうに頷いたジョーンズは、その場で服を脱ぎ捨てて全裸になっていた。 けっこう筋肉質の  マッチョな身体つきだったが、彼は筋金入りの露出狂であった。 「さあ、行くぞ!」  全裸になったジョーンズは、軽やかな足取りで洞窟に入ってゆく。  祭壇に置かれた壺を手にしてにんまりと微笑んだ彼は、ふと、自分の股間を見下ろし。「しまった!」  と、叫んでいた。  彼の股間、『男の武器』の根元に、昨日、おしゃれのつもりで巻いた赤いリボンが残っていた。 「こ、これって衣服に該当するのか・・・な?」  次の瞬間、大音響と共に洞窟が崩れ落ちていた。 「・・・それで、その怪我をなさったわけですね」  ちょっと呆れた口調で包帯まみれのジョーンズに言いながら、彼の看病をしているのは銀縁めがねをかけた  知的な美人だった。  輝くような金髪をショートカットにしており、胸と尻も見事に突き出している。  ちょっときつい目つきをしているが、知的な美貌にとてもよくマッチしていた。  ジョーンズの秘書であるケイトだった。 「うう、あまり慣れないお洒落はするものではないな・・・」  そう言いながら、ジョーンズの右手はケイトの豊かな尻を撫で回している。 「・・・」  ケイトは無言で、ジョーンズの頭頂部に鋭い肘打ちを叩き込んでいた。 「ぐひゅうっ!ケ、ケイト・・・しにゅかみょしれにゃいにょ・・・」  どうやら軽い脳震盪を起こしたらしいジョーンズが舌をもつれさせて抗議するのも聞かずに、彼女はさっさと  部屋を出て行った。  数日後、あの重傷が嘘のように回復したジョーンズは、非常勤講師をしている大学の研究室で、一人の紳士と  会っていた。 「悪魔の張り型ですか?」  ジョーンズの問いに。 「はい。いかなるディルドウでもなしえない究極の快感を与える事の出来る性具だそうです。かつて、それを  使って数百人の女性を虜にした伝説の暴君、カリダッカ三世が、砂漠のどこかに隠して、それっきり行方知れず  になっています」 「成る程、それを見つけ出し、複製して売りさばこうというのですね」  紳士は某有名バイブメーカーの社長だった。 「そうです。報酬はたっぷりはずみますよ」 「そ、それと、量産型を何本かわけて頂けませんか?」 「ええ、いいですとも!」  商談はあっさり成立していた。 「ああ、一つ言い忘れていましたが、他にも悪魔の張り型を狙っている組織があります。くれぐれもご注意下さい」 「組織?」 「ええ、那恥という恥辱グッズによる世界支配をもくろむ秘密結社です」 「げっ!」  ジョーンズはその名を聞いて絶句していた。  那恥は彼ら性考古学者の天敵とも言える組織だった。  ジョーンズも何度か彼らと渡り合った事がある。  ちょっと壊れた奴ばかりで構成された恐ろしい組織だった。 「ケイト、今回は君にも同行してもらうぞ!」  ジョーンズは大きなトランクに、ロープの束や、ろうそく等の探検グッズを詰め込みながら言った。 「それは構いませんが、セクハラしたら、問答無用でぶっ飛ばしますよ」  ケイトは知的な瞳に冷たい光をたたえて言う。 「判ってるよぉ、僕はこう見えても紳士だよ、ただ・・・この手がね、かってに美しいものを求めるんだよ」  ジョーンズは右手の指をいやらしく蠢かせながら言う。 「そのような手、切り落とした方がよろしいのではないですか?」  ケイトはそう言いながら、凄くよく切れそうな大型ナイフを取り出した。 「怖い冗談は止せよ・・・」 「あら、さっきのは本気ですよ」 「・・・」  ジョーンズはそれきり黙って探検の準備を終えた。 「先生」  ケイトに呼びかけられて、飛行機の中で爆睡していたジョーンズは妙に慌てたしぐさで目を覚ましていた。 「しっ、してないぞ!まだ挿入してないから、無実だっ!」  どんな夢を見ていたのか丸判りのセリフをはきながら、ジョーンズは目覚めていた。 「・・・大学を出てからずっと尾行されています。知ってましたか?」 「ん・・・ああ、頭の薄いチビデブの男だろう。捕まえて責めても萌えないからそのままにしておいたのだが・・・」  そう言うジョーンズを尊敬半分、冷淡半分の表情で見ながら。 「どうしますの?このままだと砂漠まで付いて来てしまいますよ」  ケイトは訊ねていた。 「だからと言って、飛行機から放り出すわけにも行くまい。市内のホテルに入ったら上手く撒いて逃げ出すさ」  そう言ってまた睡眠モードに入った。  ケイトは一つため息をつくと、自分も毛布をかぶって眠りについた。 「ケイト、まだついて来てるか?」  ホテルへ向かうタクシーの車内でエロ本を読みつつ、ジョーンズは訊ねる。 「ええ、しっかりと」  尾行者の事を言っているのである。 「どうせなら若い女に尾行されたいもんだな。そしたら速攻で捕まえて・・・ぐふふふっあんな事やこんな事・・・」  妄想の世界に浸るジョーンズを冷たい目でにらむケイト。 「運転手さん。この先の道を曲がって!」  ジョーンズが妄想の世界から戻ってこないので、ケイトは仕方無く尾行を撒く為の指示を運転手に出していた。  曲がったり、引き返したり、停車したり、一通を逆行したり、方輪走行をしたり、火の輪くぐりをしたりしたが、  相手は尾行のプロらしく、ぴったりとついて来る。 「先生・・・私、だんだんむかついてきました。一発ぶん殴ってやってもいいですか?」 しつこい尾行に業を  煮やしたケイトは半ば切れかけていた。  何処で学んだのか知らないが、ケイトは打撃系格闘技の達人だった。  スラム街で数人のホモの暴漢に囲まれた時も、アラスカで酔ったヒグマに絡まれた時も、彼女の鉄拳で事無きを  得ていた。  二回とも、元はといえばジョーンズが悪いのだが、そういう時のケイトは実に有能で頼りになるのだ。 「いいけど殺すなよ。ああいうタイプは化けて出るぞ」  学者らしからぬ事をジョーンズは言う。 「判りました。・・・運転手さん、この先の人気の少ない場所で停めて」  川沿いの倉庫街の真中で、タクシーは停まった。  しばらくして、尾行者の乗った車がやって来る。  車内には二つの人影があった。 「・・・お初にお目にかかります、ジョーンズ博士と・・・」 「美人秘書のケイトです」  車を降りてきた男にケイトは冷たい口調で答えていた。 「わたくしはクロムウェルといいます。とあるお方の部下をやっております。以後、お見知り置きを・・・」 「あんたみたいなタイプとはあまり知り合いたくないんだがな・・・」  ジョーンズも冷たい口調で話していた。 「やれやれ、友好的なムードでは有りませんな」  クロムウェルが車の中にいた誰かに合図した。  後部座席から降りて来たのは、ヘビー級のレスラーでさえ引いてしまうような巨漢だった。 「この男の名はゴリアテ。月並みな名前ですが、荒事専門でしてね、あなた方の態度が友好的にならないのなら、  彼がお相手する事になりますが・・・」 「那恥には悪魔の張り型は渡さない。今回は家でオナニーでもするんだな!」 「交渉決裂ですな?」 「可愛い女の子とベッドの中で愛の交渉をするなら上手くいくんだがな」 「それは性交渉というんです!」  ケイトがすかさずツッコミを入れる。 「ゴリアテ!」  クロムウェルの命令で、ゴリアテがのそのそとこちらに向かってきた。 「ケイト!」 「えらそうに言わないで下さいっ!」  そう言いながらも、ケイトは指をボキボキ鳴らしながらすっかり臨戦体制になっている。  二人は二メートル足らずの間合いを置いて向かい合った。 「うがー!」  ゴリアテはとってもお約束な筋肉バカだった。  思い切り腕を広げ、ケイトを捕まえようとする。 「シッ!」  短い吐息と共に、ケイトの見事な脚線美の脚がゴリアテの股間を蹴り上げていた。  前かがみになった顔面に容赦ない肘が叩き込まれ、ぐらりと傾いた後頭部にハンマーの一撃のようなかかと落とし、  それでダウンしたゴリアテの背中に電光の速度でエルボーが突き刺さり、さらに岩をも砕く連続ストンピングが  五分間にわたって続いた。 「ケ、ケイト、もうそれぐらいで・・・」  さすがに見かねたジョーンズの声で、ケイトは我に返っていた。  ゴリアテはぼろぼろになっている。生きてはいるらしいが、再起不能だろう。 「あら、御免なさい。つい夢中になっちゃって・・・」  虎が敷物になるまで蹴り続けたという伝説を持つケイトは、一旦ぶち切れて攻撃し始めると止まらない、とても  危険な鉄拳美女だった。  ハイスクール時代のニックネームは『暴走原子炉のケイト』だったらしい。 「で、交渉を続けるのかな?」  あまりにも凄まじい暴力の嵐に足が竦んで動けなかったクロムウェルにジョーンズは呼びかけていた。 「くっ、覚えていろ、この借りは返すぞっ!」  捨て台詞を残して車に乗り込もうとしたクロムウェルの首に、ジョーンズが放った鞭が巻きついた。 「僕はケイト程の腕力は無いが、鞭やローソクは得意でね・・・」  ジョーンズの目を見たクロムウェルは、彼が本気なのを知った。 (普通の拷問ならいざ知らず、ホモのSMだけは嫌だ!)  そう思ったクロムウェルは、あっさり降参していた。  組織の構成員の数から自分の初恋の相手の名前まで、洗いざらい白状したクロムウェルをハゲデブ専のホモ売春宿  に売り飛ばしたジョーンズは、ラクダを借りて砂漠へと乗り出していた。 「ううむ・・・古代の河の跡をたどっていけば遺跡ぐらい楽勝だと思ったが、なかなか見つからないな・・・」  軍事衛星から撮られた赤外線写真を見ながらジョーンズはつぶやく。  スペースシャトルから撮られた写真を拡大したもので、砂の下に埋もれた古代の地形がかなり鮮明に写っている。  彼は砂漠の遊牧民が着るような全身をすっぽり覆う衣類を着ていたが、その下はもちろん全裸だった。  しかもリボン付きである。  何処に付いているのかは、言うまでも無いだろう。 「それには遺跡は写っていないのですか?」  同じような姿をしたケイトが言う。  彼女はちゃんと下着を身に付けていた。 「うむ、それらしいものは写っていない。高度が高すぎて、ただの岩場と遺跡の区別は難しいな、もう少し先に  かなり大きな影が写っているエリアがある。そこを掘ってみよう」 結構行き当たりばったりだが、これこそが  他のライバルや組織を出し抜いてきた彼の秘密だった。『即断即決、勘と運任せの出たとこ勝負主義』と、  いつでも自慢そうにジョーンズは言っていた。  性考古学者の数が少ない事もあって、結構鬼畜、露出狂でSM趣味があるロリコンの彼は、かなり問題のある人物  であるにもかかわらず、その分野の第一人者として知られていた。 「しかし熱いな、ケイト君、ボクも脱ぐから君も脱げ!って、何で銃を向けるんだっ!」「・・・この猛暑のさなか  に笑えない事を言うからです!」 「ちっ!今のは本気で言ったのに・・・ああ、ケイトの裸が見たいなぁ・・・」  そのつぶやきを聞きつけたケイトは、今度は銃の撃鉄を起こしていた。 「あ、危ないじゃないか!もし当たったら痛いぞ!」  すごく当たり前の事を言いながらジョーンズはうろたえていた。 「・・・」  ケイトは無言で引き金を引いていた。  ジョーンズを掠めた銃弾は、少し離れた岩陰から狙撃しようとしていた覆面姿の男の肩に命中していた。 「凄いぞ!ケイト君。よく狙われているのが判ったな!」  そう言うジョーンズに向かって苦笑いして見せながら。 「ちっ、外れちゃった・・・」  ケイトは小さくつぶやいていた。  続く


その2へ続く(作成中)