第十章「水賊」裏3


 ―――これは……なんだか物凄く嫌な予感がするんだけど……
 霊体状態のゴブハンマーが股間に手作り木製ディルドーを装着した直後、大量の魔力が宿屋の室内に吹き荒れる。頭からかぶっていたシーツも飛び、魔力を帯びた空気が台風のようにベッドの上で渦巻き、轟々と夜の近所迷惑も省みない風音を響かせていた。
 そんな風に守られながら、姿は見えないままのゴブハンマーに変化が生じ始める。
 ディルドーの柄側……そこにあるはずのゴブハンマーの下腹に向けて、ディルドーから生えた細い木の根が一斉に延びていく。
 それはまるでセーターが編まれていくかのような光景だった。バランスを崩して床にうずくまり、ゴブハンマーの変化を間近に見上げるあたしの目には、ゴブハンマーのいる空間を埋め尽くすように木の根が増殖する。細い根は絡み合い一本の根となり、縦横に組み合わさってはねじれて絡まり、そしてまた太い幹を作り上げていく。
 ―――ゴブハンマーの身体が作り上げられてる……?
 ディルドーは挿入するには太長いと言っても、実際には何の変哲もない短めの木の棒に過ぎない。それがゴブハンマーの魔力を吸って増殖を繰り返した結果、子供ぐらいの背丈の四肢を持つ人型の樹木へと姿を一変させてしまっていた。
 ―――まさか、こんなタイミングで姿を変えるなんて……
 あたしがモンスターと“契約”すると、契約後に姿を変えてまったく別のモンスターになってしまっうケースが多々ある。オーガは四本腕になって角が生え、コボルトはより炎獣への変身能力を持つ獣人に、瀕死だったミストスパイダーも身体を小さくして蜜蜘蛛へと姿を変えている。それは「成長」と言う言葉では正しく表現できないほどの劇的な「変化」なのだけれど、何処の誰が幽霊とディルドーの組み合わせで何かが起こると思うだろうか。
「………ゴブハンマー、あたしの声、聞こえる?」
 その形状からしてウッドマンかツリーマンとでも言うべきだろうか。
 手足はいまだ無数の木の根が絡まりあって一本になりきれていないので、完全な人型と言うわけでもない。けれど四肢の先端には五本に分かれた指も出来上がっており、頭部にいたってはヘルメットかシンプルな兜を目深にかぶったような造詣で、ゴブリンの時のような醜悪さはほとんど感じない。目や口、鼻といった顔を構成する部位はヘルメット部分に覆われていて存在しないものの、小柄さと相まって可愛くもあり格好よくもあり、精悍な印象さえ抱いてしまう。
 困った事に、股間のモノも大きさも太さも形も、オーガサイズとまではいかないけれどかなり“精悍”だったりする。意識してそれは視界に入れないようにしているけれど、やや上反りのソレは生身(?)ではないものの、つい嫉妬を覚えるような“名器”だった。
 ただ……先ほどからいくら呼びかけても反応がない。室内に吹き荒れていた風も収まったのに、ゴブハンマーはベッドの上で立ち尽くしたままで、あたしの声も耳に届いてないように思える。瞳のない顔をやや上に向け、小さな声でつぶやいている姿を見ていると、あたしの胸に言い様のない不安が込み上げてきてしまう。
『ミ……ズ………乾…ク………ノド…ガ………ミズ………ァ……ガ…ァ………』
 ………なるほど。これだけ一気に成長したら水分も足らなくなったわけか。
 考えてみれば分かることだった。樹木なら栄養(魔力)だけじゃなく、成長するには水も必要だったと言うわけだ。
 そうと分かるとあたしはスライムのジェルと蜜蜘蛛とを呼び出し、その二体を腕や肩に乗せて背負い袋から野宿の際に使う金属製のカップを取り出した。
「そう言うわけだから、二人ともお願いね」
 あたしが頼むと、ジェルは体内に貯えた水分を、蜜蜘蛛は透明な腹部に溜め込んだ蜜をカップへと注ぎ入れてくれる。
「はい、これ飲んで。魔力と体力も回復するから」
 黄色い蜜の水割りで満たしたカップを差し出すと、本当に樹木が動いているようなぎこちない動きでゴブハンマーは手を伸ばして受け取り、口をつけるかと思いきやカップの中に指を差し入れ、そこから吸い上げていった。
 ―――全身根っこって訳か。ははは……ディルドーが男根を真似て作ってあるからって、なんとも……
 そんなくだらない事を考えたせいで、あたしの視線はついつい下へ向いてしまう。
「ぁ………」
 脈打つはずのない股間の木製ディルドーがビクビクと震え、より一層雄々しく反り返っている。手指から吸い上げた水分が全身を駆け巡っているのか、乾いて見えた表面も次第に湿り気を帯び、わずかな変化ではあるけれどより関節がくびれ、肩が張り出し、より“ヒト”に近い形へとその身を形作っていく。
『マダ…足リナイ……モット……水ヲ……魔力ヲ………』
 発音も滑らかになり聞き取りやすい言葉になっている。それでもまだ渇きが満たされていないらしく、顔を覆うヘルメット部分が上へと持ち上がり、耳元にまで届く大きな口をクパァ…と開いた。
 けれど初めて見せた生物らしい反応はそれだけで終わらなかった。薄めた蜜の入っていたカップが空になると、ゴブハンマーは乱れた呼気を吐き出しながら、瞳のない顔をあたしへと向ける。すると両腕を形作っていた木の根がねじりを解いて片腕三本両腕で六本に別れ、今にも襲い掛かりそうな雰囲気を漂わせてあたしを取り囲んでいく。
「ジェル、落ち着いて……ちょっと苦しんでるだけだから」
 ゴブハンマーの行動にあたしの肩の上で警戒心を強めるジェルを優しく撫でる。そしてかすかに濡れた指を腰へと滑らせたあたしは、そのまま下着を脱ぎ降ろしてしまう。
 ―――どうしよう……ものすごく、身体が疼いてる……
 気を緩めれば、だらし悪唇を開いて湿り気を帯びた吐息を漏らしながら喘いでしまいそうなほど、股間の奥で子宮が重たく震え続けている。足首から抜き取ったショーツは膣口から溢れた蜜で濡れそぼっていて、むき出しの恥丘には今もムワッと暖かい湿り気が纏わりついていて、ゴブハンマーの前に一糸まとわぬ姿をさらした事で肌にじっとりと汗がにじむほど、あたしの身体は快感を求めていた。
 ―――乾いてるのが……伝わってきてるから?
 あたしの中の“メス”が鎌首をもたげているような気分だ。相手が欲しい……男の体の時には一度として抱いたことのない感情に身体はおろか心まで炙られ、乳房がズクン…と切ない痺れを発しながら張り詰めていく。
「そんなに………欲しい?」
 周囲を取り囲む木の根……先端は丸みを帯び、女性を犯すための形状をしていて、既に触手と呼ぶのがふさわしいモノへと変化していた。けれど襲い掛かるのをためらうように動きを止めているその内の一本へ湿ったショーツを引っ掛けると、六本の触手は我を争うように群がって、たっぷりと染み込んだあたしの愛液をすすり上げていく。
「ふふっ、そんなに欲しいんだ……」
『タク…ヤ…様………』
「いいよ……ご褒美の夜はまだ終わってないもんね。そんな下着からじゃなくて、あたしの身体から直接愛液を………」
 そう口にした途端、あたしの全身に熱い視線がそそがれるのを感じてしまう。目のないゴブハンマーにとって、全身が“目”なのだろう。
 ………ああぁ……♪
 視線を意識した途端、ヴァギナの内側が大きくうねる。その拍子に膣口から押し出された濃厚な愛液が張り詰めている太股を伝い落ちて行き……あたしは半ば憂いし気に、触手の一本を手に取るとその先端を太ももへと滑らせた。
「はぁぁ………♪」
 力を込めて密着させた太股の境目を触手の先端が滑る。水分を吸い取られ、一瞬で乾いてしまう感触はどこかこそばゆく、太股から背筋へと駆け上る途中で子宮までも震わせ、どれだけ吸い取られても後から後から愛液をとめどなく滴らせてしまう。
「エッチな触手……ゴブハンマーったら、こんなにエッチな身体になっちゃって、そんなにあたしを楽しませたかったの?」
 言葉に反応はない。けれど残りの触手があたしとの距離を詰めてきたのを見れば、何を望んでいるのかは一目瞭然だ。―――だからと言って、このまま身を委ねるだけじゃあたしは満たされそうもなかった。
「………蜜蜘蛛、戻る前にお願いがあるんだけど……」
 なかなか警戒心を解かないジェルを魔封玉に戻し、次は蜜蜘蛛を封じればゴブハンマーと二人きりなのだけれど、その前にあたしは、肩の上にいる蜜蜘蛛に残っていた蜜をその場で滴らせるように命じる。
「こういうエッチ……あんまりしたことないんだけどな……」
 冷たい金色の蜜がゆっくりと胸元を伝い落ちて行く。心なしか、それとも気を利かせたのか、普段よりもとろみのある蜜があたしの身体から滴り落ちる前にベッドへと上がったあたしは、ゴブハンマーへ向けてMの字に脚を開いて仰向けになる。
「ローションプレーって言うんだよ……体験した事なんかないでしょ?」
『タクヤ……様ッ………』
 腹部が空になるまで蜜を出してくれた蜜蜘蛛に軽くキスをしてお礼をしてから魔封玉へ戻し、あたしは胸の谷間をと立って腹部にまで伝い落ちてきたネットリとした蜜を両手で塗り広げる。
「あたしも……これしちゃうとゾクゾクッてして、すぐ気持ちよくなっちゃうの……ほら、乳首もお豆もこんなに……んふゥ………!」
 乳間に溜まった蜜を乳房に塗り広げると、二の腕で左右から膨らみを押し上げながら両手の指を股間へと滑らせる。ツンッと尖った乳首を震わせながら割れ目を蜜まみれの指でなぞると、愛撫を中断されていた粘膜は過敏な反応を示し、クリトリスの根元からジンジンと痺れが駆け上ってくる。
「あああァ……今日のあたし、なんか変。いつもはこんなにエッチじゃないのに、あぁ、んふッ、お…オナニーして、見られながらオナニーしてェ〜〜〜!!!」
 卑猥な蜜の音をたっぷりと鳴り響かせると、あたしはまだ動いてくれないゴブハンマーを涙で潤んだ瞳で見つめながら膣口へ中指の先端をあてがう。
「見ててね、あたしがオナニーするとこ。顔も、胸も、おマ○コも、全部……恥ずかしいところを全部見てて……」
 よだれの溢れる口で顔から火が出そうなほど恥ずかしい言葉を口にすると、あたしは両手の中指を蜜の滴る膣口へと押し込み、眉をしかめさせた。
「くぁあああああああああっ!!!」
 今のあたしには恥ずかしささえも快感の糧でしかない。左右に開いた太股の付け根で手指を動かす事に没頭し、淫裂の内側を二本の中指で揉みたてる。
「あ…あはああっ……いい…んッ……くうッ………!」
 ゴクッと喉を鳴らすと、空っぽになった口をだらしなく開く。そして空気を胸の奥にまで取り込むと、長い中指を根元まで押し込んで、感じるポイントをグッと力強く圧迫した。
 全身から立ち上る蜜の香りと示威する姿をさらす恥ずかしさとが混ざり合い、甘い快感がたわわな乳房を内側から打ち振るわせる。
「ねぇ……見ててね。いっぱい、いっぱい“蜜”を出してあげるから、全部、飲んでいいから、ああ、はぁあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!」
 ―――指が止まらない。
 行きそうになっているのに、まるで指が操られているみたいに勝手に動き、ざらつく膣天井を擦りたてる。体を仰け反らせて天井に向け突き上げた乳房が小刻みに震え、ゴブハンマーのいる場所を挟むように両膝をピンッと伸ばしてしまうと、艶かましい喘ぎを迸らせながら淫靡な言葉を紡いでしまう。
「イッくぅ……どんどん…いやらしくなってる……男だってこと忘れちゃいそうなぐらいに……あたし、もう、はぁあ、んぁあァ―――――――――ッ!!!」
 両手を折り重ねるように二本の中指でヴァギナの奥を抉るのと同時に、あたしの胸がビクンッと跳ね上がる。同時にあたしの股間からは絶頂に至った証がブシュッブシュッと音を立てて迸り、他人に痴態を見せる暗い悦びに胸を締め上げられながらオナニーアクメにむせび泣いてしまう。
「ハァ……ぁ…ハァァ……出ちゃった……いっぱい………ああぁ………」
 ベッドに身体を沈み込ませ、まだギチギチに収縮している膣口から指を引き抜く。―――するとたっぷりと甘い蜜と女の蜜をまとわせている指に絡みつくものがある。
「もう……いつからそんなに近くで見てたのよ………」
 目を開けると、ゴブハンマーはあたしの股間を覗きこむ位置で身を伏せ、あたしに秘所から噴き出た絶頂液を顔中に浴びていた。
 けれどその姿勢はうずくまっているのではない。最初は六本だった触手が両脚までもが興奮に耐え切れずに無数の触手に別れ、伏せた状態で胴体からもまた細い木の根を無数に延ばしている。さながら無数の首を持つヒドゥラのように、大小さまざまな触手が火照りと湿り気を帯びたあたしの肌のすぐ傍にまで迫り寄っていた。
「我慢しなくても……よかったのに……」
 あたしは手足から別たれた職種を選んで二本、両手でそれぞれ握り締めると、顔のそばに寄せてチロッと先端を舐め上げる。
「蜜が落ちちゃう前に……美味しく食べてよね………」
 その一言で、快感に身を委ねるのを必死に押し止めていたゴブハンマーの理性が弾け飛ぶ。
 蜜にまみれ、新まで快感にほてりきったあたしの身体へ一斉に無数の触手が絡み付いてくる。―――そしてより大量の蜜を求めた触手が口を、膣を、そしてアナルまでをも塞いできたとき、あたしは声にならない悲鳴を漏らし、視界を塞ぐ触手たちへ潤んだ瞳を向けていた………


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